―ある夜の夕食後―

『今週、遂にオープン。シーズンオフでも、泳いで遊べる、プール!みなさんのご来場をお楽しみにしおります。』

「へー最近プールは、色々な設備があるんだな。」

CMに流れる設備の説明では波のプールや流れるプール、遊園地にでもありそうな大きな形をした、スライダーなんかもあり中々大きな設備のようだ。

TVを見て思わず呟くと、洗い物を終えたタマ姉とこのみが俺のソファーの隣にやって来て聞いてきた。

 

「タカ坊?何見てるの?」

「いや、今週に新しいプールが開くらしくて、楽しそうだなーと思ってね。」

「あ、それこのみも知ってる。隣町で、新しく出来るやつだよね。結構大きい施設みたいで色々と遊べるんだよ。」

このみは、自分の両手を目一杯広げて大きさを一生懸命表現している。

「ふーん、今週か・・・折角だし今度の日曜にでも行く?」

「えっ!良いのタマ姉ちゃん?」

「タマ姉?」

急な提案に驚く。プールの話題が出て速攻で行くことに決めるは流石タマ姉と言うかなんというか。

しかし俺の心中もなんのそので話は勝手に進んで行く。

「ええ、折角だし水着も新調していきましょうか。」

「わーい、やったー♪」

このみは嬉しそうに駆け回ってる。

タマ姉も、楽しみなのか頬笑んでる。

なーんかまた二人だけで、話が進んでる気がする。

何時もの事だが、俺の意思が全然反映されてない気がするのはどうなんだろう。

ま、確かに聞かれたとしてもこの二人が決めた事なら“行く”と言う選択肢以外はないし、何より二人が喜ぶ事なら嫌とは言えない。

しかもだ、タマ姉とこのみの水着だよ?期待するなと言う方が無理だろう。

「このみの水着は、私が選んであげるわ。とびっきりタカ坊が喜びそうなやつをね。」

「う、うん。お願い。」

顔を赤らめながらこちらをちらちら見るこのみ。

タマ姉・・・そうゆう事を本人の目の前で話さないでくれるかな?

色々と、期待してしまうからさ。

 

 

 

―そして日曜日―

「それじゃ行きましょうか。」

「うん♪」

今日は、約束のプールに行く日だ。

最近は、あんまり遠出はしてなかったので二人とも気分は上々だ。

「行くのは良いけどさ・・・・このままでいくわけ?」

「え、なにか問題ある?」

「え、なにか問題あるの?」

二人してハモって言う。

そ、二人とも俺の両脇で腕を組んでいるのだ。

地元なら散々やられてたので、慣れてしまったが流石に今日は言わずにはいられなかった。

なんせこれから隣町まで行くのだ。

普段足を運ばない所へ、こんな恰好で行くなんて・・・・恥ずかし過ぎるわ!!

このままで行ったら、確実に奇異の目で見られるだろう。

特に男達から。

二人とも、あんまり自覚ないみたいけどかなり可愛いからどうしても周りの目を引いてしまう。

そんな二人とこんな状態で行ったら俺はきっと、プールに着く頃には魂が抜けてるに間違いない。

俺に嫉妬する男どもの嫉妬と妬みのオーラで。

しかし俺の、不安はお構いなしなのか、タマ姉達はあっけらかんと言う。

「良いじゃない。私たち付き合ってるんだしこれぐらいは普通よ。ね、このみ?」

さらに強く引っ付きながら、このみに問う。

「そうでありますよ、隊長♪」

まるで、軍隊の敬礼の様に頭に手をビシッと掲げた。

「いやだけどさ・・・・・」

「それとも・・・タカ坊は私達と腕を組むのは嫌なのかしら?」

目を細めながら、少しトーンを落とした声で言われ押し黙ってしまう。

「タカくん、このみの事嫌いなの?」

このみも、潤んだ目で悲しそうにこちらを睨んでる始末。

悪魔と天使の両方の視線を左右から浴びて俺の意志は激しく揺らぐ。

だが、これは耐えなきゃ俺が・・・

「ふふふ・・」

「う〜〜・・」

耐えな・・・

「ふふ・・」

「う〜・・」

耐・・・

ダメだ。この攻撃には俺は耐えられそうにもなく抗えるだけの意志は湧いてこなかった。

渋々俺は挫折をし心の中で白旗を上げた。

「もう、好きにしてください。」

「やった〜〜〜☆」

「流石、私達のタカ坊ね♪」

許し(?)が出たからか、先ほどよりも強く抱き締めてくる二人に俺は笑うしか出来なかった。

こうなったら、この状況はあきらめて楽しんだ方が賢明かな?と思い始めていた。

プールに着くまでに、魂が極楽浄土に召されてない事を祈る事しか俺には残されてなかった。

 

 

 

そして、目的のプールになんとか到着した。

電車の中でも二人は何かとひっついて来て、周りの人の注目を集める事幾度。

何度も意識が飛びそうになったがどうにか俺の魂はまだ現界していた。

ここまで持った、俺の精神力を褒め称えたい。

良くやった俺・・・・だが、本番はこれからなんだよな。

はぁー・・・・・・・

 

「それじゃ着替えてから、入口の所で集合ね。」

「うん、わかったよ。」

「先に行ったらダメだよ。タカくん。」

「行かないって。」

さすがにこれだけ人が多いと、迷う可能性もあるし先に行こうものなら合流出来るか分かったもんじゃない。

俺とタマ姉達はそれぞれの更衣室のゲートを潜った。

「それにしてもプールか・・・」

しかし、プールなんかに来るのは、本当にどれぐらいぶりだろうな。記憶にある限りだと、このみが小学生の頃だから数年前か・・・懐かしいもんだね。

なんて事を考えながら着替えていたが、男の着替えなんて早いもんで直ぐに済んでしまった。

着替えが終えてプールへと続くゲートを潜り待ち合わせの場所に足を運んだが案の定二人はまで来ていない。

俺はしばらくその場に留まりゲートを出る人たちを横目で見ながらタマ姉とこのみを待った。

 

それにしても、こうやって良く見ると結構カップルの利用客が多いな。もちろん家族連れや、友達と言った感じの人もいるがそれよりも多く感じる。

そういえば俺たちもカップル・・・なんだよな。

そう考えると、妙に気恥しさが湧いてきて顔が赤くなってきた。

あんま意識しないようにしとかんと、やばいよなー。

なんせ今回は“水着姿”で遊ぶのだ。

このみもタマ姉もかなり容姿が良い。

学校で人気がある云々はなしにしても、そんな彼女達の水着が拝められるのだ。

いくら俺でも期待するなと言う方が無理な話だろう。

そういえば、タマ姉は俺が喜ぶ水着をこのみに、着せるとか言ってたな。いったい何を着せるつもりなのか・・・・些か不安である。

 

それにしても・・・・

「タマ姉達遅いなー・・・」

もう結構な時間が、経っている。

女性の着替えは時間がかかると言うが、こんなにもかかるもんなのか?それともなんか問題でもあったのか?

などと考えていると、ゲートの奥から何か「おおー・・・」と言う男の歓声が聞こえた気がした。

少し気になり振り向こうとしたその瞬間。

 

「お待たせタカ坊♪」

「うひゃっ!?」

後ろからタマ姉に抱き締められてしまった。

胸が背中に直にあたってるんですけど!?

何時もは服を着ている時は明らかに違うダイレクトに伝わる感触に俺は素っ頓狂な声を上げた。

普段服に来ている時に抱きつかれるのとは破壊力が段違いだった。

「ちょっ、タマ姉はなれ・・」

「むー、タマ姉ちゃんずるい!私も!!」

と、今度はこのみが前から俺に抱きついてきた。

このみの場合だと身長的に低く色々とまずい所に体が当たり後ろのタマ姉とか別の意味で焦った。

流石にこんな所で、おったつ訳にもいかないので早急に二人には離れてもらうべく慌てて申し出をした。

「あ、あのさ、二人とも離れてくれない?」

「えーいいじゃない。来る時も腕くんで来たんだしこれくらい。」

「そうでありますよ。隊長」

くーやっぱ二人とも素直に、離れてくれないか・・・なら仕方がない。奥の手を使うか。

「だってこのままじゃ、二人の水着がちゃんと見れないしさ。ね?」

これには、二人は耳をぴくっと反応してくれた。

「タカ坊、私達の水着見たいの?」

「タカくん、私の水着見たいの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、見たい。」

「しょうがないな〜」と、言いながら二人は離れてくれた。

 

作戦成功。

そして二人はよく見える様に、俺の前に並んで立ってくれた。

タマ姉は、リボンやフリルが付いたブラウン柄のビキニだ。

少しパンツの股上が短い気がするが・・・・

うん、やっぱりタマ姉にはビキニが似合うな。

このみはと、言うとなぜかタマ姉と同じビキニ姿だ。てっきり、かわいいワンピースなのかと思っただけに結構驚いている。

 

「どうタカ坊?このみのビキニ姿・・・結構、似合うでしょう?」

「・・・・・」

このみはじっと見られるのが、恥ずかしいのか顔を赤くして俯いてる。なんか言った方が良いよな・・・

「うん。似合ってるよ・・・」

「えっ」

ぽつりと言う。俺も恥ずかしかったので、小声で言ったのでちゃんとこのみには聞こえてなかったみたいだ。

「似合ってるよ、このみ。」

今度はちゃんと、顔を見ながら言った。こうゆう時はちゃんと言うのが男ってもんだよな。

「タカくん・・・・」

このみは嬉しそうな顔をする。

「よかったわね、このみ。」

「うん」

自分が選んだ水着が褒められたが嬉しいのか、タマ姉もこのみに抱きつきながら喜んでいる。が、このみだけ褒めたのが、癪にさわったのか今度は俺をジト目で睨んできた。

「ところで・・・タカ坊は私にはなーにも感想はないのかしら?」

「ご、ごめん。た、タマ姉ももちろん似合ってるよ。」

「ふん。今更遅いわよ」

取って付けたように、言われたのがあまり嬉しくなかったのか、そっぽを向いてしまった。でも、その顔の口元は微笑んでいた。

なんだかんだで、俺に褒められるのは嬉しいらしい。

「ほら二人とも、せっかくプールに来たんだから遊ぼうよ。」

俺は、恥ずかしさを隠しながら二人に手を差し出した。

「あははははは」

「それっ!!」

水をかけ合って遊んで、

「行くわよ、タカ坊」

「うわっ!?タマ姉少しは手加減して!!」

ピーチバレーで遊んで、

「負けないでありますよ。」

「俺だってまけねーぞ。」

競泳プールで泳ぎを競ったりなんだかんだ言いながらも俺も時間を忘れて楽しく遊んでいた。

 

 

 

「ふう〜。」

「結構遊んだわね。」

「うん。」

いろんな事をして遊んだ分時間は結構経っており、館内にある時計を見てみたら針はお昼を過ぎたあたりを指していた。

「そろそろお昼にしましょうか」

「うん、俺もおなか減ったし。」

「このみも賛成であります♪」

流石に、お腹も減ってきたのでタマ姉の提案にこのみと俺は揃って賛同をした。

「それじゃ、お弁当を持ってくるわね。少し待っててくれるかしら」

「ああ、気をつけてね。タマ姉」

「大丈夫よ。タカ坊はこのみをお願いね」

弁当を取りに更衣室まで戻るタマ姉を見送った。

「ねぇねぇ、タカ君。」

「なんだよ。このみ」

「お昼、食べ終わったらあれに行かない?」

「あれ?」

このみの指さす先には、どでかいポスター。

それには『特大スライダー!ドラゴンスクリュウ新登場!!!』と出てた。

・・・なんか、どっかの宇宙人が必殺技で使いそうな名前である。

「ねねっ?良いでしょう。」

よほどこれが気になるのかやたらと行きたがるこのみは俺の腕を掴みながらぶんぶん振っていた。

こうなったこのみは簡単には止めらないのを知っている。

「分ったから、そんな腕を振るなって。タマ姉が来たら、一緒に誘おう。」

「やった〜〜〜〜♪」

嬉しそうにぴよんぴよん飛び跳ねる。

ま、タマ姉に聞かずに勝手に決めてしまったが、タマ姉もこうゆうのは嫌いじゃないだろう。

俺もあんまり絶叫系は得意ではないけど、これぐらいなら大丈夫だろう。・・・しかし、この後まさか俺のこの浅はかな考えが“俺自身”がこんなにも後悔するなんて、予想もしてなかったのだ。

 

 

 

 

 

お昼も食べ終えタマ姉にこの後の事を話したら潔くOKしてくれた。タマ姉もどうやらこのスライダーには興味はあったらしい。

二人とも、行きたいなら俺は断る理由もなく一緒に行く事となったのだが・・・そして、スライダーの前まで来た。

・・

・・・・

「いや、これ無理だって・・・・」

俺は、生まれてこれほどまで後悔した事があるだろうか。

だって・・・・このスライダーマジ高いっすよ?

 

「うわ〜〜〜〜楽しそう♪」

のん気に歓声を上げるこのみに俺は上手く笑う事も出来ない。

「結構スリルありそうね・・・・楽しみだわ。」

タマ姉も、目の前の“化け物”を相手に強気な発言だ。

「はは、はははは。」

俺は引きつった顔で空笑を浮かべていた。

「どうしたのよ、タカ坊?」

「顔色悪いよ」

二人とも俺の反応に不思議な顔をして、訪ねてくる。

今更ながら俺としては辞退したい事この上ないのだが、しかし一度“行く”といった手前、“行かない”などと情けない事は言える筈もない。

男として。

「な、なんでもないデス。」

そうは良き込んでいても、体は正直なもので言葉すらまともに言えないぐらい緊張していた。

そんな、俺の反応にこのみはより一層不思議な顔をするが、タマ姉は何か気付いたようでにやりと笑みを浮かべていた。

「はっは〜ん。まさかタカ坊・・・・あなた。」

 

ギクッ

 

タマ姉の言葉に、俺の体が強張り恐る恐る顔を向けると何時ものあの“悪戯”をする時に見せるタマ姉の顔がそこにはあった。

うわっ〜〜〜〜、絶対ばれてるよ。

俺は心の中で泣いた。

そんな俺の葛藤も、分っているのかいないのかタマ姉はとんでもない提案をした。

 

「ね、せっかくだから、あれに乗らない?」

タマ姉が指さしたのは、今から乗るスライダーより更に上級者向けのスライダー『絶スリルドラゴンコース』だった。

むやみに絶の字が大きいのが憎たらしく感じるのは俺だけか。

「なになに?」

さっきから、興味津々なこのみは楽しそうに上級者のスライダーの説明の乗った看板を見ている。

心の片隅で、「普通のスライダーにしよう」とこのみが言ってくれ事を切に願っていたのが、楽しそうにはしゃいでる状態のこのみを見てあり得ない事を俺は悟っていた。

更に付け加えるならこの手のものは、このみの好きな部類に入るだろうから始めっから断る事などあり得ないだろう。

はは、俺マジ死ぬかも。

「うん、おもしそうだね。これにしようよ、タマお姉ちゃん。」

「うんうん、このみなら絶対そう言うと思ったわ。ね、タカ坊もそれで良いわよね。」

ぽんと俺の肩に手を置き、そう聞いてくる。

「あ、ああー。」

あーくそ、タマ姉絶対気づいてて言ってるだろう!そう悪態を付くが、俺には首を縦に振るしかなかった。

二人に腕を掴まれて一緒に階段を上がっていく俺は、端からみたら死刑台に上がる死刑囚に見えたに違いない。

そして・・・・

 

 

「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「きゃはははははははははははははははははははははは♪♪」

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪」

 

楽しそうに滑る二人とは、裏腹に俺は断末魔の叫びを上げ下に降りる頃には天に召された気がしてた。

いや、マジで。

 

 

 

 

 

帰り道、結局何回もスライダーに付き合わされた俺は完全に力尽き真っ白に燃え尽きていた。

「タカくん、大丈夫?」

「あ、ああ。ありがとうこのみ」

このみとタマ姉の方を借りながらどうにか歩く事が出来る情けない有様だ。

心配そうに気遣ってくれるこのみとは裏腹にタマ姉の方は笑いを堪えていた。

「全く・・・だらしないわよ、タカ坊。」

「あ、あんなのあれだけ滑れば、誰でもこうなるって・・・」

そう、あの後も最初滑った急降下のスライダー以外に、パイプの中を蛇行・回転しながら滑るものや、切り盛り状のパイプを右に左に滑るものまで体験させられた。

本気で死ぬかと思ったぞ。

う〜〜、気持ち悪い。

並行感覚が上手く掴めなくて未だ揺れる視界を必死に我慢しながら少し恨めし気にタマ姉を見てしまう俺がいた。

 

「ごめんなさい。だって、必死に我慢するタカ坊が可愛くてつい・・・・・・調子に乗りすぎたわ」

流石に俺の惨状に多少の罪悪感ができたのか素直に謝ってきた。

ま、別にいいけどさ・・・

「でも、どうして絶叫系が苦手って、言わなかったの?」

「そうだよ。あんなにも、タカくんが苦手ならもっと普通のにしたのに。」

「それは・・・・」

これは流石に、面とは良いつらい。

「だって・・・二人に情けない姿を見せたくなかっただよ。」

二人と顔を合わせないように、そっぽを向きながら言った。

こんな状態になっておいて、情けない姿もくそもないけど、あの時はそう思ったんだから仕方がない。

好きな人の前では男は格好付けたいものだ。

二人の顔がまともに見れずに、俯いて歩いているとふいに、

 

ちゅっ

 

両頬にやわらかい感触が感じた。

突然の事で、顔を上げると二人は頬を染め嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

「タカくん、格好付け過ぎだよ。」

「でも、嬉しいわ。ちょっと情けなかったけどね。ありがとう、タカ坊」

 

色々と大変な一日だったけど嬉しそうにしている二人を見てると、たまにはこんな休日も良いかと思えた。


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