夏休みも終わり、段々と風が心地よく感じ始める季節になってきた。
そんな頃俺は放課後の帰りに、カレハ先輩の部屋に来ていた。
新作のケーキが出来たとの事で、是非に俺に試食して欲しいと頼まれてお邪魔しているのだ。
料理部の双壁の一人の手作りケーキが食べれる俺はかなり幸せ者なのかもしれないな。
しかも、俺の彼女というのだから何か俺の中で変な優越感が出てくる。
そして、暫く経してからケーキを用意しに出て行ったカレハ先輩が部屋に戻ってきた。
「お待たせしましたわ。」
「いえ全然待ってないですよ。」
その手元にはお盆に乗ったケーキが俺の分のケーキと湯気を立てる紅茶のポットがあった。
甘い良い匂いだな・・・・・・・
俺自体そんなに食い意地は無いのに、この匂いはつい笑みが零れてしまう。
その俺の顔を見たカレハ先輩はとても嬉しそうに微笑んだ。
そして、俺の隣に座りお盆からケーキを机の上に乗せてポットからコップへ紅茶を淹れてくれる。
「もう少しお待ちくださいね。・・・あ、稟さんは紅茶にお砂糖は要りますの?」
「いや、俺はストレートで大丈夫ですよ。」
「分りましたわ。」
俺の横で準備をするカレハ先輩を横目で眺めていると、俺は本当に毎日を幸せな日常を送っていると実感出来る。
こんな美人な彼女がいるなんて思うと自然に踊りだしそうだ。人間って好きな人が出来るとこんなにも世界が変わるんだなーっと感心してしまう程だった。
今はとても幸せなのだが・・・・・・・・・一つ問題があるんだよな・・・・・・
付き合ってみて分った事なんだが、カレハ先輩は極度の甘え症なのだ。学校に居ても事ある毎に俺に引っ付いてきて他の生徒の注目を浴びている状況は少なくない。その様は、バーベナのバカップル代表と言われているほどだ。
正直ほっとけと言いたくなる。
でもま、カレハ先輩の周りを気にしない行動は嬉しい反面、恥ずかしくもあり毎回居た堪れなくなるのも事実だ。カレハ先輩は持ち前の天然のせいなのか、全く周りを気にしてないようだが・・・・・流石亜砂先輩の友人だよな。
しかし、その度に楓達がショックを受けて毎回固まるのは見るに堪えない。周りの生徒も、号泣しながら去っていくのも印象的だし・・・・・
そう言えば、一番の極めつけは、学校での昼休みだよな。今ではカレハ先輩、亜砂先輩も混ざって屋上で一緒に食事をしているのだが、今日も・・・・・・

― 今日のお昼時・・・・・ ―

「稟さんあーんですわ。」
「あ、あーん・・・・」
「美味しいですか?」
「は、はい。とっても美味しいです。」
「それは良かったですわ♪」

俺の感想にカレハ先輩はとても嬉しそうに笑う。
その天使を思わせる笑顔に俺も釣られて笑みが浮かぶが・・・・

「はぅ・・・・・」
「あぅ・・・・・」
「えぅ・・・・・」

そんな俺達のラブラブぷりを目の当たりにして、楓達の笑顔が凍るのを感じるとどうしても俺の笑顔は中途半端になってしまい口元が引きつってしまう。
「いやー流石にこれだけ毎日バカップルぶりを見せられるのと呆れるのですよ・・・・」
「全くね・・・・・」
麻弓や、亜砂先輩も何所か引き攣った顔でそう話す。
樹や、他の生徒は悔しさや妬みを通り越して、殺意を籠った瞳で俺を睨んでいた。
正直かなり怖いです。
だが、周りの状況が知ってか知らずかカレハ先輩は構わずに、一層俺に擦り寄ってきて笑顔で弁当のおかずを俺に差し出していた。
流石にこのままじゃ俺自身が危険を感じて、大体このタイミングでこの状態を回避しようと試みるのだが。
「いや、カレハ先輩自分で食べれますから・・・その・・・・・良いですよ、無理に食べさせようとしなくても。」
「あら、無理じゃありませんわ。私がしたいからさせてもらってるんですわ・・・・・・・・・・・・もしかして御迷惑でしたか?」
「うっ!?」
さっきまでの笑顔が消えて、急に悲しそうに表情を曇らせる。
そして、そんな顔をされたら俺は黙ってられる訳もなく・・・・
「ぜ、全然迷惑じゃないです!むしろ嬉しいですよ!!」
と、断言してしまう。そしてその言葉を聞いたカレハ先輩は、さっきまでの沈んだ表情が嘘のように消えて、にっこりと微笑む。
「なら、大丈夫ですわね。」
「あれ?」
「さ、次は唐揚ですわ。あーん・・・・・」
と、何時もこんな感じで交わされてカレハ先輩に手駒にされるんだよな・・・・・・・・なんか最近カレハ先輩はどこまでが天然で何処までが素なのか分らなくなる。
案外カレハ先輩って黒い?
だけど、カレハ先輩の笑顔を見るとそれも別に良いかなーっと思えてしまう自分がとてつもなく悲しいです。
横目で亜砂先輩の方を見ると、肩を竦めて『稟ちゃん、甘過ぎ』と非難しているような目で俺を見ていた。
そうですよね。分ってますけど、断れないんです。

「さ、稟さん。あーんですわ♪」
「あ、あーん・・・・」

俺の馬鹿・・・・・・・・

そして、結局カレハ先輩の手作り弁当を俺は全て『あ~ん』で平たげ先輩は満足そうに微笑んでいた。
だが、その間は周りの男子生徒達の怒りが鰻上りだったのは言うまでもない。
今なら、イデ○ンガンも打てそうゲージ量だな。
このままじゃ何時爆発するか分ったもんじゃないので、俺は早々に獣の怒りを鎮めようと立ち上がる。
「あら、稟さん。どちらへ行かれますの?」
「あ、ちょっとトイレに・・・・・」
流石に彼女に心配はかけたくないので、俺は適当な事を言って答える。
俺の言葉を、疑わないカレハ先輩は信じて少し残念そうに俯く。
「そうですの・・・・・・流石に学校のトイレまでは付いて行けませんわね。」
え、それって学校じゃなかったら付いてくるって意味ですか?
「・・・・・・・あ、そうですわ。忘れる前にこれを聞いておきますわね。」
「な、何がです。」
何かを思い出してポンと手を合わせるカレハ先輩に、俺は思わず聞き返す。
「今日、稟さん放課後は明いてますの?」
「今日ですか。もちろん、明いてますけど・・・・何かあるんですか?」
「ええ。丁度昨日新しいケーキを挑戦してみましたの。良かったら稟さんに一番初めに食べて欲しくて・・・・・・今日家にいらっしゃいませんか?」
なるほど、カレハ先輩の新作のケーキか・・・・・それは行かないと永遠に後悔しそうだ。
「それは行かないと勿体ないですね。もちろん行きます。」
「そうですか。良かったですわ♪」
そう言って嬉しそうに微笑むカレハ先輩に、俺も笑みが零れ楽しみで胸が躍った。
だけど、この会話で更に現状が悪化したのは周りの冷えてゆく殺気で俺の感覚は感じていた。
「楓、悪いけど今日の夕飯・・・・」
「あ、はい。分ってます。ちょっと遅らせますね。それよりも・・・・・・・」
「ああ、頼む。・・・・・じゃ、健闘を祈ってくれ!!」
周りの状況を理解している楓は、心配そうに何か言おうとするが俺はそれを最後まで聞かずに脱兎の如く走り出す。
「骨ぐらいは親友のよしみで拾ってあげるから、素直に逝ってもいいよ稟!!」
「縁起でもない事言うなーー樹!!!」
さらっと聞こえた悪友に軽く突っ込みながら出て行く俺をカレハ先輩だけは微妙に分らない顔をしていた。
「あらあら、あんなに急いで・・・・・稟さん、そんなにトイレに行きたかったのでしょうか?」
「・・・・・・カレハ。本気で言ってる?」
何も言わずに、クスッと笑うカレハ先輩に全員首を傾げた。
「そうですわ、楓さん一つお願いがありますの。よろしいかしら?」
「お願いですか?・・・・・」
何やら、楓の耳元で囁くカレハ先輩。
そして、あれだけ屋上に居た男子生徒は樹を残し誰一人として居なくなっていた。
もちろんこの後俺はトイレなどには行かずに、男共の嫉妬という名の鬼ごっこが始っていたのは言うまでもなかった。

そうして、艱難辛苦を乗り越え今に至る訳だが・・・・・・毎回命からがらに逃げ切っている割に、よく生きてるなと自分を褒めたくなる。
「はい、準備できましたわ。」
「あ、ありがとうございます。」
でもこうしてカレハ先輩の、この天使とも思える笑顔を独り占めしていると思えば安いもんだと思える。
そう納得出来る俺は、骨の髄まで彼女にハマっているんだと痛感していた。
「美味しそうですね・・・・・カレハ先輩は食べないんですか?」
「私は、良いですわ。遠慮なさらず稟さんが、全部召しあがって貰って結構ですわ。」
「そうですか?それじゃ、お言葉に甘えて頂きます。」
手を合わせて、ケーキにフォークを刺しゆっくり一口、口に入れる。
「・・・・・・美味い。」
「ありがとうございますわ♪」
自然に口から漏れる感想にカレハ先輩はとても嬉しそうに微笑む。
口の中に広がる程よい甘さとそれを、引き立てるように後から感じるほろ苦い風味。
これ・・・・・店で食べるより遙かに美味しいぞ。
俺は、そんなに甘い物は好きなほうじゃないけど、これなら全然いける。
それから俺はカレハ先輩に話しかける事もなく、夢中にケーキを食べていた。
そんな俺を幸せそうに、微笑みながらカレハ先輩は見つめていた。
そして、ケーキは呆気なく無くなり俺は最後に残った紅茶で喉を潤し一息つく。
「ふー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」
そこで重大な事に気がついた。俺は食べるのに夢中で、最初の一言以外何もカレハ先輩に感想を言ってなかった気がする。
せっかく作ってくれたのに、こんながむしゃらに食ったら失礼じゃないか?
そう思ったが、食い終わってから後悔しても遅かった。俺は恐る恐る隣に居るカレハ先輩の方に顔を向けると、カレハ先輩の顔は何時もの、いや何時もより幸せそうに俺を見つめていた。
怒ってないよな?・・・・
「その・・・・カレハ先輩。ご免なさい。」
俺の言葉にカレハ先輩は、目をパチパチして驚いていた。
「何で謝るんですの?」
「いや、だって折角作ってくれたのに、俺食うのに夢中で最初以外何も言ってないし・・・・・・・・」
折角ご馳走になったと言うのに碌な感想も言わず見っともなくバクバクと食ってるだけだった情けない自分に、申し訳なくなって俺は項垂れていた。それでもカレハ先輩の返事は優しくて向けられたのは何時ものような優しい笑顔のままだった。
「いいえ、そんな事ありませんわ。料理は言葉よりも、美味しそうに食べてくださるその仕草が一番の返事ですのよ。むしろ、話すのを忘れ夢中になってくださってくださるなんて私にとってこの上ない賛辞ですわ。」
「そんなもんですか?」
「もちろんですわ。だって私の一番の愛しい人に喜んでもらえてるんですもの。それが一番の幸せでなくてなんだというんです。」
自分の告げた言葉にカレハ先輩は恥ずかしそうに頬を染めるけど、それでも幸せそうに微笑む笑顔に俺の心臓は高鳴った。
カレハ先輩の言葉がとても嬉しく胸の奥から段々と愛しさがこみ上げる。
俺は先輩の手を掴み自分の胸に引き寄せそのまま綺麗なピンクの唇を奪った。
「ん・・・・はぁ・・・」
「んっ・・ふっ・・・・・」
触れ合う唇から洩れる吐息。
先輩は嫌がる事無く俺の行為を受けとめてくれる。
カレハ先輩の唇って柔らかいんだな・・・・・・
そして、抱きしめるカレハ先輩から漂う女性特有の甘い香り。
段々と甘い感覚に俺は酔いしれてきて、俺の奥底から劣情が湧いてきた。
いけないと思いつつも俺の体は、止めれずカレハ先輩を求めるように唇を先ほどよりも強く押しつけて舌までも入れてしまう。
「ふっ・・・・んっ!?・・・」
カレハ先輩も、急な事に体が強張り無意識に体が引いてしまうが俺が彼女を抱きしめているのでそれは叶わなかった。
だけど、少しづつカレハ先輩も酔いしれてきたのか直ぐに力が抜けて俺に体を預けてきた。
俺はそれが彼女の、返事と考え俺はさらに強く貪る。
暫く彼女の唇を感じていて、ゆっくりと離れる。
「はふぅ・・・・・・・稟さん、急に酷いですわ。」
「ご、ごめんなさい。」
するとちょっぴり剥れたカレハ先輩が俺の鼻を指で刺しながら非難の目で見ていた。
「だって、カレハ先輩があまりにも、良い匂いだったからさ。」
「クラッと来たんですの?」
「・・・・・・はい。来ました。」
「そうですの・・・私で稟さまがそう感じてくださるなら嬉しいですわ」
素直に頷くとカレハ先輩は何時ものように頬に手をそっと触れて嬉しそうに微笑む。
その可愛さにもう俺の理性はぐらぐらと揺れる。
彼女の美しい金色の髪も唇も汚れをしらない物全てを俺だけの物にしたい。
強い衝動にかられ我慢が出来ない。
そのまま少し強引に床に押し倒して俺は彼女の綺麗な淡いエメラルドの瞳を見つめながら告げる。
「カレハ先輩。その・・・良いですか俺。我慢が・・・・・・カレハ先輩と一つになりたい」
「はい。稟さんでしたら喜んで」
少し興奮気味に話す俺の気持ちにカレハ先輩はこれから起こるであろう行為に羞恥で頬を染めながらも優しく微笑みキスをして答えてくれた。
「初めてですから、優しくお願いしますわ。稟さん」
「もちろんですよ…カレハせ、カレハ」
愛しい人の名前を、より近しいく呼び俺達の体は重ねた・・・

「ん・・・・・ここは・・・・・」
目を開けると薄暗くて分らなかったが、俺の視界には白い肌と二つの柔らかい感触が飛び込んできた。
「お目覚めですか稟さん。」
「カレハ・・・・先輩?」
声のした方に顔を向けると、そこには優しく頬笑みながら俺の頭を撫でるカレハ先輩がいた。
「もう、先輩が入ってますわよ。稟さん。」
「あ、そうですね・・・・でも、普段から言うのはちょっと恥ずかしいです。」
先程、名前を呼び捨てで呼ばれた事が相当嬉しかったのかカレハ先輩は名残惜しそうにそう話した。
流石に素で呼ぶのはちょっと照れる。
そっか・・・・あの後したまま寝ちゃったんだっけ・・・・・
「ふふっ、あれだけ激しく愛し合ったのに稟さんは純情ですのね。それに稟さんがあんなケダモノだとは知りませんでしたわ・・・」
「うっ!?それは・・・・・・俺も一緒ですよ、カレハ先輩だって結構なものでしたよ。」
「そ、そうですか?なら、今日は二人の初めての顔を知った日でもありますわね。」
「そう・・・・ですね。俺とカレハ先輩だけしか知らない事です。」
そう考えると嬉しくなり二人して幸せそうに笑いあう。
うん、恥ずかしいけど一番大事な人が知ってるのも悪くはない。

「・・・あ!そう言えば今、何時ですか!?」
そうだ、これだけ部屋が薄暗いという事は結構な時間が経っている。と言う事は家にいる楓は俺の夕飯を作って待ちぼうけを食ってる可能性があるんじゃないか。
焦る俺を見て、カレハ先輩は、大丈夫ですよと微笑む。
「心配しなくても楓さんには、今日のお昼に伝えてありますわ。今日は、稟さんは家に泊まりますって。」
「・・・・へ?」
何時の間に、って俺がいない時か・・・・・・・もしかして、こうなるのを予測していたって事っすか。
「もしかして、カレハ先輩・・・・こうなるの分って今日誘いました?」
「ほほ、何の事なのか分りませんわ♪」
口に手を当てて意味深に笑うカレハ先輩に俺はちょっと呆然としていた。
なんか今日一日でカレハ先輩のイメージがガラリと変わったな。
カレハ先輩も結構凄いよな・・・・・・・・
そう思うけれども、俺の顔には自然に笑みが零れてくる。
だって、そんな彼女の全てが愛おしかったから。
普段の天然なカレハ先輩も、直ぐに妄想に入るカレハ先輩もそして、今日初めて知ったカレハ先輩も俺はすべてが愛おしい。
「それなら、もう時間を気にする必要はもうないですよね。」
「え・・・きゃ!?」
そう言って、カレハ先輩を抱きしめる。
「り、稟さん?・・・・・・」
「もう一度、カレハ先・・・・カレハと繋がりたいんだけど、良いかな?」
「あ・・・・・はい。喜んでですわ。」
うん。俺の隣で笑うこんな彼女と、これからもずっと一緒に居るのも悪くはないな。
もう一度俺は世界で一番大切な人。美しい天使の旋律を奏で始めた・・・・・

そして、部屋の扉の隙間覗く影が一つ。
「す、すごい・・・・お姉ちゃんと稟お兄さんあんなに激しく・・・・・・・・きゃあきゃあ♪凄い・・・良いなお姉ちゃん・・・・・・・・・・・」
何時の間に帰ってきてたのか俺達の行為を顔を真っ赤に染めながらも羨ましそうに見つめるツボミ。
「私も稟お兄さんと一つになりたいな・・・・・・・」
そう呟く小さな金色の天使の願いが叶うのはもう少し後の話だ。
美しい姉妹の天使に愛されてる少年は・・・・・間違いなく世界で一番幸せ者だろう。

~End~






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