トリステイン王国。
その首都であるトリスタニア王宮の中に限られた者しか入れない一室がある。
臣下の者でもよほどの事がない限り立ち入る事を許されない王族のみが扱うプレイベートルーム。
年代物のアンティークも、暖炉の上と机に数個位しか置かれおらず、王族のプライベートルームにしては少し質素な雰囲気の部屋模様だが、それでも部屋の先のバルコニーに居る二人の男女は仲睦まじく色とりどりの花の花に囲まれながら楽しそうに紅茶を飲んでいる姿が見えた。
双方とも歳は30代前後だろうか。周りに咲く花に等しいぐらい優美の姿をし穏やかな笑みを浮かべながら話す女性と、顎髭を生やし何処となく険しい感じを思わせる端整な顔をしながらも女性を見つめるその瞳は優しさに溢れている男性がいた。
会話が一区切りしたのか、突然彼が可笑しそうに笑みを浮かべた。
すると目の前の席に座っていた彼女がカップを置き首を傾げる。


「急に笑って、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと昔の事を思い出してね。他の皆は元気にやってるのかなっと思ってな」
空を見上げ話す口調は王とは思えないぐらい雑な口調だが見つめる瞳は、何処か遠くにある懐かしい風景をみているようだった。
男性にならう様に女性も顔を上げ空を見つめる。
「そうですね…きっと元気にやっていますよ」
「ああ、そうだな。あいつらなら、元気にやっているよな」
「会いたいですか?」
「そうだな。前にあったのは確か5年ぐらい前だったかな……ギーシュは相変わらずモンモランシーの尻にひかれていたが…あいつも元気にやってると良いけど」
残り少なくなった紅茶を飲みながら懐かしむように話す彼の言葉には何処か特別な親しみが混じっている風に感じた。
その言葉の思いを感じた彼女は顔に一瞬寂しそうに浮かべ黙って自分の紅茶をすすった。
「そんな顔をするな。もうあいつとは友人なだけだ」
「分かってますけど……浮気は駄目ですよ」
「しないって!!お前も相変わらず心配性だなー」
その言葉にちょっと不貞腐れたように返す。
「…そう思うのは、貴方が今でもあの子には特別優しいから」
「ん?何か言ったか」
「何でもないです」
「しかし、今思うとこの生活は本当に夢の様な毎日だよなー。俺なんかが、国を治めて王になってるなんて………なぁ、俺さ時々思う事があるんだ。まるでお前と一緒にここに事がここであった事がその全てが俺の夢なんじゃないかって不思議に思う時があるんだ」
男性の言葉に彼女は戸惑いの表情を浮かべ笑ってみせた。
「ふふっ、可笑しな事を仰りますね。わたくしはちゃんと此処にいますよ」
「はは、そうだな。だけど当時は本当に思ってもみなかった事だったからな。それだけ、ここの日常は俺にとって雲の上の話だった」
「あら?もしかして、わたくしと一緒になった事に後悔でも御有りですの?」
少し鋭い視線を向けられ彼は慌てて否定をする。
「そ、そんな事無い!むしろその逆だよ。君の方こそ本当に俺なんかで良かったのかと思うぐらいだ……あの時は一生懸命だったから疑いもしなかったけど、平民なんかの俺で本当に良かったのか?」
なんと彼は、元平民だったらしい。それならばこのちょっと雑な話し方も納得は行く。しかしいくら平民と貴族の隔たりが緩いトリステインと言っても仮にも王族に入るなど平民がどう逆立ちしても立ち入る事など出来ようはない事なのだ。
しかし、彼はそれを成した。その憂いを帯びた笑みには当時相当の苦労を背負ったのを思わせるには十分の雰囲気があった。
苦笑する彼に彼女は最上級の笑みを浮かべながら立ちあがり無骨な手をそっと握った。
「そんな事考えてたんですか?これはわたくしが選んだ未来でもありますから後悔なんて絶対しないです。。それに……ほら、わたくしをこんなにも、高鳴らせるのは貴方以外に居ないのですから」
優しく包むように右手を持ち上げ自分の胸にそっと置く。放漫な胸の感触と共に感じる鼓動に彼の不安は徐々に和らいでいき表情が緩む。
「…さんこそ、本当にわたくしで良かったんですか?やっぱりあの子と一緒の方がもっと自由に生きて入られた筈です。それなら……」
「それ以上は言うなって。俺だって気持ちは同じだ。俺は君を守る為にここにいる。その為にこの世界に残ったんだから……」
「はい」

そう。今の俺は、彼女の為にある。
この世界に来て戦争が終わるまで必死に守ってきた彼女を選ばずその気持ちすらも俺は断り、俺の本当に守りたい人のそばに居たいと強く願った思いを叶えここに居る。。

そうだよな……ルイズ。

優しく握る彼女の胸にある俺の手には未だ蒼く輝くルーンが今も彼女との契約の証であり約束の証なのだ。

俺がこの世界に召喚されてから既に数年経ち、これまで色んな事があった。
ゴーレムと戦い、戦争に身を委ね単身で七万のアルビオン軍を止め、終いにはタバサの父親を殺し母親を狂わしたガリア王ジョゼフ、世界最大の軍事力を誇るロマリアの王、聖エイジス31世と戦い世界を救うなどと言う大それた戦いにまで発展した。
我ながらとんでもない事に首を突っ込んでると思うが俺のご主人様は無謀な上に恐れを知らないからな。放っておいたら直ぐにおっ死んでしまうからしょうがない事だった。
それに…ルイズが死ねば悲しむ人がいる。
俺が最も守りたい人の大切な友人なのだ。
何時も気丈に得る舞う彼女は、何時だって俺達に笑顔と勇気をくれた存在だった。
自分も愛しい人が死に絶望しているにも関わらず健気な彼女の願いを理想を叶えたくて俺は、必死で戦場を駆けた。
死にそうな事は何度もあり守る為に人を斬った、あの人が悲しむ顔だけはもう二度と見たくなかったから……
戦争も全て終わり、ハルケギニア内での紛争も収まりつつある。
まだ色々と問題は残ってはいるが、これからがあの人の理想が実現するチャンスだろう。その一歩が見えて来ているのだ。
本当に良かった。だが…

それは俺の役目も終わりを告げるものでもあるった。
ロマリアに死蔵されていた書物にやっと求めていた世界と世界を繋ぐ虚無の魔法が記してあったからだ。
それを使えば俺は念願だった日本に帰れる。
そう帰れるんだ……だけど俺の胸の内は、喜びよりも他の感情が渦巻いている様に思えた。
寝付けない俺は、ベットから起き上がり周りを見渡すと、ギーシュやマルコニがニヤニヤとしながらも嬉しそうに眠っていた。
他の皆も今頃は疲れを癒す様にぐっすりと眠っているだろう。飛空挺がトリステインに付くのを夢見心地ちに待っているのだ。
結局、寝つけない俺は起こさない様に部屋から出て一人デッキの手すり部分に捕まりながら体を吹きつける風を感じながら流れる風景をぼーと見つめていた。


「この景色を見るのは最後になるな……」
元の世界に帰るとハルケギニアに来る事はもう二度とないだろう。
そう思うと余計に寂しく感じる……いや、それだけじゃないよな。
これまで仲良くなった友と呼べる人達ともう会えなくなるのが………辛いんだ。
それにあの人に会えなくなるのが一番………
「何してるのよ、こんな所で。風邪ひくわよ」
後ろから聞きなれた声が聞こえ、振り向くと何時もの薄いピンクのネグリジェを着てカーディガンを羽織ったルイズが靡く髪を抑えながら立っていた。
「ん?……あー、何だか眠れなくてな」
「そう」
ルイズは特に何も聞かずに黙って俺の隣に寄ってきて俺と同じ様に眼下に広がる世界を見つめる。
暫く同じ風景を見つめていると、ルイズが口を開いた。
「……良かったわね、サイト。これであなたは“ニホン”に帰れるわ」
「……ああ」
「何よ、あまり嬉しくなさそうね。……あんなに“ニホン”に帰りたがってたじゃない?」
「そうだな…そうだったんだよな」
「……帰りたくないの?」
「……」
最後の言葉に俺は返事が出来なかった。
言ってしまったらもう、戻れない気がしたから。
俺は未だ迷う気持ちを抑えながら、感情を込めずひとり言のように呟く。
「なぁ、ルイズ……」
「何よ」
「…平民と貴族が付き合う事って出来ると思うか?」
「な、何言ってるの?サイト……まさか貴方、あの人の事を言ってるんじゃないでしょうね?」
流石ルイズ気づいていたか…何だかんだ言って俺の事を何時も見ていたお前だから知っているのんだろうな。
俺は誤魔化す事無く肯定する。
「……そうだと言ったら」
「ばっ、ばっかじゃないの。サイトとは身分が違い過ぎる。いくらシュバリエの称号を貰ったと言っても元は平民の貴方なんかとじゃ絶対に釣り合わないわ!」
はは、気も良いぐらいにはっきり否定してくれるな。
「だが、恋愛は自由だろう?」
「貴方の世界ではそうかもね。でもここは、貴族と平民では大きな隔たりがあるわ。確かにこの戦争の影響で平民と貴族の考えを改める人も多いでしょうけどそれでも相手が高貴過ぎるわ。諦めなさい」
「だが、俺は…」
ルイズの言い分が分かるけど諦めきれない俺は素直に頷く事なんて出来なかった。
こんな事したって無駄なのは分かってる。
でも、諦める事が出来ないんだ。
そんな俺にルイズの感情が爆発したのか苛立ちを露わにして大声で叫んできた。
「っ!?いい加減にしなさい!諦めなさいよ!!貴方なんかじゃ、あの方と一緒になるなんて絶対無理なんだから!!!」
「ルイズ…」
あまりの大きな声を上げるルイズに俺の口は噤み、絞りだす様に声を出してきた。
「わ、私じゃ駄目なの?私なら、貴方と一緒にいる事が出来るわ。今までだって一緒だったんだもの…サイトが望むならもっと素直になるから私を選んで……お願い」
何時でも素直じゃない、強がるルイズから初めて聞く本心に俺は少なからず動揺していた。だけど俺の気持ちは始めっから決まっていた。後は俺の覚悟だけだ。だから、今まで苦楽を常に共に歩み俺を一番見つめてくれていたルイズだからこそ俺は本当の気持ちで答えなければいけない。
「ごめん、俺は……」





大戦終焉から、更に月日が流れ俺達はトリステイン魔法学院の卒業の日を無事に迎えていた。
俺はトリステインに戻っても元に世界に帰らず皆と共に過ごした学院を卒業するまでいる事を望んだ。
戦争も終り今では、戦争以外でメイジの在り方が求められるようになるだろう。
ここを卒業する者たちには特にこれからの未来を背負う重要な役割があるだろう。
戦争が終わったと言っても、各国の隔たりや平民と貴族の絶対なる差別は未だ無数にあるのだから。
そして俺は、今日この世界から自らの本当の世界へ戻る事となるのだ。
この世界で出会った友が仲間が俺を見送る為に中庭に集まってきてくれていた。

「うぐっ…サイト元気で暮らすんだよ。例え君がこの世界からいなくなっても僕たちは永遠に友達だ」
「おいおいギューシュ。男がそんなに泣くって、それとくっ付くな!キモイって!?」
「今日くらいは良いじゃないの。本当に気を付けて帰りなさいよ」
「そうだけどな、俺には男に抱きつかれる趣味はないぞモンモン」
「貴方ね…最後までその名前で、私の名前は!!………はぁーもう良いわ。これっきりだもの許してあげる」
諦め気味に溜息を吐くモンモンの目にも俺との別れを惜しんでいるのか薄らと目元が潤んでいた。
そんなモンモンの後ろから、胸に手を組み今にも零れ落ちそうな目を向けるシエスタが現れた。
「サイトさん……本当に帰ってしまうんですか?」
「……ああ」
「……わ、私……」
「シエスタ…今まで有難う。君と出会えて良かった」
「うっ……私も……サイトさんと……ぇぅ」
最後の方は流れる涙と嗚咽で言葉にならなかった。
俺はそんなシエスタの頭を優しく撫でる。
キュルケや、テファ、マリコルやオールドマン校長、コルベール先生、アニエスそして、自分の国を立て直すのに忙しいのに来てくれたタバサも……あ、今はもうシャルロットだっけ。
皆俺との別れを心から惜しんでくれていた。
その気持ちが凄く有り難い。
「さ、サイト始めるわよ」
「ああ、頼む」
目をつむり詠唱を始めるルイズを皆見つめていたが俺だけは違う人物を見つめていた。
結局最後まで、俺と一言も話をしなかった彼女と眼が合う。
何時もの気丈さは何処へやら交わる視線を外そうともせずに何処か懇願するような瞳を向ける彼女は、綺麗なドレスを身に纏っているのに普通の女の子に見えていた。
そして、詠唱が完了したのかルイズは俺に向かって口を開いた。
「準備は出来たわよ。後はこの門をくぐれば貴方は自分の世界に帰れる筈」
「ああ、有難うルイズ。ルイズにも色々と面倒になったな。最初はなんて傲慢な奴だろうって思ったけど本当は心優しい子だって分かったから、今はルイズが俺のご主人様で本当に良かったって思うよ」
「な、なによ。珍しく素直に褒めるわね。べ、別に使い魔を気遣うのはご主人様として当然な事だから、褒められる事じゃないわ」
「分かってるよ。…じゃ、デルフの事も頼むぞ」
「分かってるわよ。責任もって屋敷の蔵で飼って上げるわ」
「……たまには出してやってくれよ」
「たまにね」
意地悪そうに微笑むルイズに俺は苦笑するしかなかった。
湿っぽい感じが嫌なデルフのお別れは部屋を出る時にもうすましてある。
デルフも元気でやれよ。
ルイズの部屋の方を見つめそう心の中で呟く。
そして、視線を戻そうとした時再び彼女と目があった。
俺の事を必死に何かを堪えて耐えている姿は何ともいじらしい。思わず抱きしめたくなる、本当の気持ちを伝えたくなる。けど、約束がある俺は心をぐっと堪え視線を逸らして門に向かって歩を進めた。
やっぱり彼女からは何もないか……ルイズの言った通り身分が違う過ぎるよな。
強引に気持ちを抑えながら、一歩一歩進む。そして、後一歩足を出せば門を潜れるその瞬間、大きな声が俺の耳に響いた。

「待って、サイトさん!!」

振り向かなくても分かる。
俺を呼ぶ声。その声は俺が求めていた声だった。
足を止めてゆっくり振り返ると、皆の注目を受けながらも必死に耐えてでも何かを絞り出すように口が震えている姫様の姿があった。
「姫様………」
「わ、わたくしは……わたくしは……」
国を統べる者としてその先の言葉は言ってはいけないと分かっているのだ。
だから、その気持ちを伝えられない。
でも、言いたい。
王としての自分と女の子としての自分。
その二つがせめぎ合い今の姫様の言葉を留めているんだ。
だけど、俺にはそれだけで十分だった。この先は、男である俺が背負うべくそして踏み出すべき事なのだ。
「姫様……いや、アンリエッタ様。俺みたいな異国の平民がこんな事口にするのはおこがましいと十重承知してます。ですが、無礼を承知でこれだけを言わせてください」
俺は、姫様に歩を進めながらあの日ルイズと話した飛空挺での出来事を思い出す。

『ごめん…ルイズ。俺は……』
『分かってるわよ。貴方本当に好きな人が誰かは……本当に姫さまと添い遂げるつもりなの?』
『俺はそうしたいと思っているけど……駄目か?』
『さっきも言ったけど平民と貴族、ううん王族となんて身分に差があり過ぎよ。二人が愛し合っても不幸になるだけだわ』
『そうだよな……でも本当に諦めたくないんだ。姫様の為なら俺はこの世界に残っても良い。何だってする覚悟もある』
『サイト……はぁー、一度言いだすと聞かないんだから……全くとんでもない人を選んだわね。貴方』
『良いだろう。恋愛は自由じゃないか』
『だからそれはサイトの価値観なの!!ここでは違うのよ!!!…本当に馬鹿犬なんだから』
『馬鹿って言うなよ』
『良いわ。どうしても何とかしたいって言うなら案が無い訳ではないけど……』
『ほ、本当かルイズ!』
『あーもー、そんなに力一杯手を握らないで!!』
『あ、ああ。ご、ごめん』
『もう…でも教えるのは良いけど一つだけ、ううん二つ条件があるわ。絶対に守りなさいよ…』

そう、ルイズの出した条件は『門を潜る前に姫様自らの意思で俺を求める行動』があるかどうかだった。
それは、一種の賭けで俺は姫様の事を大切に思っていたが、姫様の気持ちは分からなかった。
だから、凄く不安だったが姫様は俺を求めてくれた。
俺がここに居て欲しい事を、望んでくれたのだ。
後は俺が先に進むだけだ。
もう迷いはない。
俺はルイズに教わった通りの方法、右手を左肩に触れるように置き姫様の目の前で片膝をついた。
「サイト…さん?」
俺を呼ぶ声に導かれるように俺は顔を上げて残った、左手を姫様の差し出し言葉を紡ぐ。
「アンリエッタ・ド・トリステイン様。私、平賀サイトは貴方の事を心からお慕い申してます。どうか、この気持ちを受け取ってくださるのならばこの手をお取りください」
俺の心からの告白劇に周りの人からはどよめきが上がるが、ルイズだけは何処か納得していた顔をしていた。
「さ、サイトさん……」
「アンリエッタ様の気持ちをお聞かせください」
「わ、わたくしも…サイトさんの事を心からお慕いもうしております」
嬉し涙を流しながら、静かに俺の手を取る姫様にこの学院が始まって以来の大規模な衝撃が襲った。



そして、トリステインに残る事を決めた俺は姫様と一緒にトリスタニアに帰る事にした。
そこに待っていたのは学院での一部始終を聞いていた臣下からの怒涛と言える言葉の荒らしを受け今でもここ応接間に連れられ今でも姫様と激しい口論を繰り広げていた。
十数人居る臣下達を相手に姫様は、必死に説得をしていた。
「姫殿下!一体これはどういう事ですかな!!」
「どうと申されても、彼がわたくしの、夫となる方です」
「そんな、何処ぞともしれないシュバリエ程度の平民を我ら王族の血脈に取り入れるつもりですか!?」
「言葉を慎んでください!彼は今まで、トリステインに多大の貢献をされてます。わたくし達貴族が束になってもなしえなかった事を何度もしています。王宮に迎え入れるほどの偉業を成し遂げた彼の何処が不満なんですか?」
「それとこれとは話が別です。彼は平民ですぞ!そんな…」
やっぱりこうなるよな。
こうなった原因はもちろんあの告白だった。
王族が平民いや、厳密に言うとたかがシュバリエ程度の成り立て貴族の求愛を受けたのだ。
そらもう、ものすごい反感を食らっている。
なんか国家権力で俺そのものが消されるんじゃねぇ?って思える位の剣幕で俺は臣下達に睨まれている。
もとより、隠すつもりが無い俺は結果的にこれで良かったがアンリエッタにとっては本当にこれで良かったのか少し不安に思ってしまう。
停戦後これからは、自国だけでなく他国との交流も深め新たに国同士の繋がりを作る必要があるというのに俺自身が重荷になってしまうのでないかと。
いや、それだけならいいが俺と言う異分子を取り入れる事で王宮に反感を持つ人間や、未だ隠れている他国の反乱分子が出て来らたらそれこそまた戦争の再来になってしまいかねない。
それだけは絶対にしてはならない。
ルイズに教えてもらった通りに俺が変わるしかないのだ。

『仮にアンリエッタ様がサイトの求愛を受けたとしてもその先に待つのは貴族としての柵よ。絶対平民と、貴族の差は埋まらない。だけどサイトならトリステインでも多大な貢献をした貴方ならもしかしたらその先に行けるかもしれないわ。だからこれからは、姫様を守る為に剣を握りサイトの力を使いなさい。……姫様を泣かしたら絶対殺すわよ』

ああ。そんな事分かってるさ。
俺の背中を最後まで押してくれがルイズの為にどんなこんなんだって超えてみせるさ。
俺は、七万の兵を止めアルビオンの英雄と言われそして今も尚俺の左手には伝説の神の称号を持つ男だ。
気持ちだけなら決して負けない。
認められないなら、どんな事をしても認めさせてみるさ。
生憎俺は意地汚いく諦めが悪い平民だからな。
今も尚、応接間に鳴り響く位言い争う姫様と臣下の間に俺は割って入った。
「サイトさん?」
「小僧?」
突然の乱入に益々顔を険しくする臣下の視線を、受け流し俺は相手の顔を真っ直ぐ見つめて言い放つ。
「お願いします。どうにか俺と姫様の結婚を認めてくれませんか?」
「何…じゃと。お付きから離れ結婚じゃと……無礼にも程があるわ!この平民が!!」
俺の言葉に臣下の一人の怒りが頂点に達し、手に持つ杖で勢いよく俺の頬を叩いた。
「さ、サイトさん!?」
いくら臣下の者がご老体と言えども木で出来た杖で思いっきり殴られれば衝撃はかなりある。
あまりに大きく響いた音に周りの臣下の連中も少しどよめいていた。
俺を心配そうに見るめるアンリエッタに腫れた頬に必死に耐えながら微笑み俺は、物怖気つかずそのまま相手を一心に見つめた。
数々の死線を越えてきた俺は知らずに、相手を傷つかずに黙られるぐらいの眼力は持ちあわしている。
有無を言わさない俺の強い視線に、臣下達は黙ってしまう。
先程より幾分かは落ち着いた雰囲気の中で俺はもう一度口を開く。
「お願いします、俺と姫様との仲認めてください。俺に出来る事なら何でもします、お願いします!!」
頭を下げる俺に臣下達の困惑は益々広まるばかりだった。
皆何か言い合ってる声は聞こえるがどれも、肯定的なものでは無く曖昧な言葉ばかりだった。
そんな時、稟とした声が室内に響いた。
「何か騒がしいと思ったら一体ここで何をしているのかしら?」
「お、お母様!!」
「お、お妃さま」
え?お母様…じゃあれが姫様の母親?
姫様が即位した後は隠居したと聞いていたが…その立ち振る舞いを見ているだけで異様な雰囲気を感じてまさに王族の貫録そのものだった。
「それで、何をしてるのかしら。誰か説明してくださらないかしら?」
「そ、それは…」
「ぅ……」
臣下の方に目を向けると誰もが目を背けた。
そして、俺の方に目が行くと思わず体が強張るのを感じた。
体に走る旋律は、死地とは別の重圧感を俺に与える。
姫様も、王妃様の雰囲気に何も言えないようだった。
どうした、サイト!迷いはない筈だろう!!
「何ですか?何も無いならば、早く政に戻りなさい。これからやる事は山ほどあるのですから」
踵を返そうとする王妃様を俺は慌てて呼び止めた。
「ま、待ってください!!その…話があるんです」
「話?」
俺に振り返る王妃様の視線を一身に受け思わず口が噤んでしまいそうになるが気力を振り絞りなんとか口を動かし言葉を続ける。
「お、俺と姫様のお付き合いを認めて欲しいんです!」
はっきりと言った。
俺の直球の言葉に臣下達の間からどよめきが走る。
表情を変えず俺をまるで獲物を見る狩人の様な目を向ける王妃様に俺の体は固まっていた。
だけど俺は、決してその目から一時も逸らさずまっすぐに見つめ返す。
「……貴方、お名前は?」
「サイトです。サイト・シュバリエ・ド・ヒラガ・オルニエールです」
平賀サイトでは無く、この世界で授かった名前で答える。
「そう…貴方がサイト殿ですか」
「……」
うっ、一体何時までこの状態なんだ。
強がっては見たが結構、限界でキツイ。
姫様も何処か怯えたるように俺の後ろに隠れている。
暫く俺を見つめていた王妃様は何も言わず俺から視線を逸らし踵を返し部屋を出て行こうとしていた。諦めかけた俺だが、部屋を出る直前に王妃様は言葉をかけてきた。
「この話は、わたくしが受け持ちます。臣下の皆さんこの件には、口を挟まない様に…それとサイト殿、アンリエッタ」

「「は、はい!!」」

「二人は後で私の部屋に来なさい。話があります」
俺達は胡桃人形の様に機械的に揃って首を振った。


そうして、俺達は応接間を出て王妃様の自室に二人向かっていた。
臣下達も俺達よりも早くまるで逃げる用に去っていった。
「ふう……怖かったわ。お母様ったらあんな目をするんですから」
「本当だ。俺だってマジで気絶しそうだった」
「え?でもサイトさんは毅然と反応してましたよ。……凄く素敵でした」
「そ、そうでもないけどさ。これでも、それなりの修羅……痛っ!?」
照れ隠しで頬を掻いた時口の中に走った痛みで思わず顔を顰めた。
「さ、サイトさん!?あ、そうだわ。さっきの…傷が痛むんですか?」
王妃様の登場で忘れていたのか口の中斬ったんだよな。
俺を気遣う姫様に俺は苦笑交じりに答える。
「ちょっと、口の中を切ったかな。ま、ルイズの魔法よりは痛くないから」
「もう、サイトさんたら……ちょっと待ってください。直ぐに治療しますから」
おどけて見せる俺に、姫様は少しだけ笑いながら痛くない様に俺の頬を優しく触れて呪文を唱える。
淡い蒼い光が俺に頬を包み、痛みが和らぐ。
「はい、終わりました。どうです、まだ痛みますか?」
「いいや、全然大丈夫さ。有難う姫様」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。私の為にあそこまで体を張ってくださったのですから……それと、もうお姫様って言わないでください。私の、夫となるのですから……名前で読んでください」
「あ、いや、でも…まだなれるかも分からないし」
「大丈夫です。私は、絶対諦めません……サイトさんは、私と一緒になるのは嫌なんですか?」
「そんな事無いよ……俺も、あ、アンリエッタと一緒になりたい」
「はい。きっと私達の気持ちを伝えればお母様も納得してくれます」
「ああ」


そして、数分後やっと王妃様の部屋前に辿りついた。
着いたのだが、俺達はまるで金縛りを掛けられたように動けないでいた。
それは、先程の光景を体験しているからだ。
微妙に怯えた顔を向ける姫様に俺も引きつった顔しか出来ない。
静かにノックをする。
「入っていらっしゃい」
返事を聞いて俺達は、深呼吸をしゆっくり中に入る。
甘い花の香りがする部屋は何処か優しい感じがし、少しだけ落ち着く。
視線を動かすと窓辺に置かれている椅子に座る王妃様が見えた。
風で揺れるカーテンで上手く顔が見えなかった。
雰囲気からしたら先程よりは、良いようだけどそれでも体はまだ緊張していた。
「どうしたのかしら?そんな所に立っていないでこちらまでいらっしゃい」
王妃様の言葉に誘われるように俺達は窓辺に歩を進める。
それでも、俺達の体は緊張していてブリキの玩具の様にギクシャクしていた。
そして、王妃様の顔が見える位置まで行くと未だ、揺れているカーテンのせいで表情までは分からなかったが口元は笑っているのが見えた。
「もっと近くへ」
何処か優しい声色に更に近寄る。
緊張した面持ちで少し引きつりながらも王妃様と目を合わせると、その顔は笑顔だった。
あれ?さっきと雰囲気が全然違う…
意表を突かれ唖然とした俺はもろに顔に出てしまい、王妃様はアンリエッタを思わせる可愛い笑みを浮かべていた。
「ふふっ、面白い顔ですね。サイト殿」
何が可笑しくて笑ってるかが分からない俺は情けなく呆気にとられている。
後ろにいるアンリエッタも何処か戸惑っているようだった。
ひとしきり笑った後、一呼吸置いて口を開く。
「ごめんなさい。先程は臣下の者たちが居る手前、あのような態度をとっていました。不快な気分にさせてしまい申し訳ないです」
「い、いえ。その事はあまり気にしてないですから……」
「あ、あのお母様?怒って……らっしゃらないのですか?」
「怒るとは何故です。貴方はわたくしが怒る様な事をしたのですか」
「そ、そんな事はないですが……そのサイトさんの事を」
先程の臣下の者の反応を見た性なのか、いざ自分の母親の間で気持ちを告げるのを怖気づいてるようだった。
王妃様はそんな姫様を見つめ、俺に視線を移す。
「サイト殿。先程申した事は本心と思ってよろしいのですね」
「は、はい」
「……アンリエッタと契りを交わすと言う事はこの国の王に立つと言う事です。人の上に立つと言う事の意味、サイト殿はご存じなのですか?」
「それは……分からないです」
「サイト殿では理解できないのは無理もないのですが、人の上に立つ者と言うのは決して容易な道ではないのですよ。王はいるだけで良い存在じゃありません。時には自らが立ちあがり民を知り民を導く存在。それが王である者の務め、それが出来なければ先の大戦の様に邪な心を持つ輩に利用される事があるかもしれません」
「…はい」
それは重々承知している。
大戦で死んだ者は敵味方数えても決して少なくない。
一人の欲望によって何百人と言う関係のない人が死んだ。
戦争になれば真っ先に犠牲になるのは力を持たない平民なのだ。
「アンリエッタを大切に思う気持ちは先の態度で分かりました。ですがそれだけでは、国を支える事は出来ません。……それでも、貴方は私達と同じ道を歩むと言うのですか?」
王妃様の目は射る様な視線では無くまるで子供の行く末を見守るような優しい見守る様なそんな目をしていた。
俺の選ぼうとしてる道がこの先どれ程の苦悩が待ちわびているかを啓示しているのだ。
俺を思って言ってくれた事を真摯に受け止め自分自ら問答する。
俺は、アンリエッタと離れたくなくてこの世界にいる事を望んだ。
自分の本来の世界と決別した事には後悔はない。
だけど、俺が本当にこの国にとって良き王となれるのか……そんなものは頭の悪い一平民な俺には分からない。
だけど、俺には守りたい人たちはいる。
アンリエッタだけじゃない。
ルイズや、シエスタや、学院の皆がこれからは笑って暮らせるようなそんな世界にしたい。
戦争のない、剣を握る必要が無い。
そんな世界に……

「今の俺には、難しい事なんて分かりません。国を背負うとか、人を導くとか俺には縁が無い事でいたから。でも…俺はこの世界が好きなんです。色んな大切な人たちがいるこの世界が本当に大切なんです。だから、俺になんか何が出来るか分からないですけど、今度は平民も貴族もない。皆が皆楽しく笑いあえるそんな世界を目指したいんです」
顔を上げてはっきりと告げる。
この理想は姫様が描く思いの形。
平民と貴族が手を取り合うなど正にただの空想な世界かもしれない。
けど、俺は魔法学院で貴族の皆と親友と呼べる間柄になれた。
きっと、平民も貴族もそしてエルフとも皆何時かは分かりあえる筈なんだ。
はっきりとした意志を持って王妃様を見つめる。
「後悔……しませんね」
「はい!」
「アンリエッタも、本当に良いのね?貴方にも矛先が向くかもしれないのですよ」
「私は……はい、ウェールズ様が無き今わたくしの思い人はサイトさん只一人ですから、彼と友ならどんな道でもわたくしは行けます」
「そう……分かりました。貴方達の仲を認めましょう」
呆れ気味に告げる王妃様だが、何処か嬉しそうに聞こえていた。
「本当ですか、お母様!!」
「ええ、臣下の者たちには私から言っておきましょう」
「サイトさん!」
嬉しそうに抱きつく姫様同様俺も、嬉しくなり思わず飛び上がりそうになった。
だけど、そんな気持ちを打ち砕くように王妃様は意地悪い顔を見せて笑っていた。
あ、なんか。すっげー嫌な予感。
「まだ喜ぶのは早いですよ。サイト殿は、王族に入れるにはまだまだ役不足。特に、この国の歴史と作法が皆無です。まずは今日から毎日8時間の帝王学、4時間の作法を一から学んで貰いますので覚悟して下さいね」
「うへぇー……」

その日から、俺は慣れない豪華な服を着飾り毎日勉強の日々を暮らし心休まる時が一切無かった。
来る日も来る日も勉強、勉強、勉強。
高校受験にだってここまで、時間を費やした事はなかった。
夢にまで本に潰されるのを見た。
あれは正直七万の敵と戦った時よりも数倍恐ろしい地獄だった。
勉強ってある意味凶器何だとマジで思ったなー。
それでも、俺が諦めず頑張って来れたのは一日の終わりで部屋に帰ると姫様が何時でも笑顔で迎えてくれたからだったからだろう。
目まぐるしい日々が過ぎそれから、数年が経とうとしていた………

この日トリステイン王国は、国を挙げて大きな催しを首都トリステインで行っていた。
街に至る所に華やかな装飾がされており、建物の壁には今回の主役たちのお祝の言葉が並べられていた。
まるで一世一代のお祝い事の様な華やかさだ。それもその筈トリステインだけではないハルケギニアでも初となる平民を王族に婿に迎える結婚式が行われると言うのだ。
前代未到の事に他の国からも多くの平民、貴族が街に訪れ、道と言う道は人でごった返していた。
その中で数人の男女が人波を避けて裏路地に集まっていた。

「全くなんて人なの!まるで先に進めないじゃない!!」
「本当よ…もう足が痛くてしょうがないわ」
綺麗な装飾とドレスを着飾っているルイズと、昔より更にロールさがましたモンモランシーが揃って愚痴る。
その声を聞いていた薔薇を持つキザな男が挟む。
「そうだね、人波が嫌いな僕としては辛い限りだよ。誰だい、一時間も遅刻したのは」

「「ギーシュのせいよ!!」」

「ぐへっ!?」
二人の息のあったパンチが薔薇を片手にキザに決めるギーシュの顔面にヒットする。
ゆっくり倒れる、ギージュを支ようともう一人の少女が慌てて駆け寄る。
肩にかかるかどうかぐらいの短い黒髪をした少女シエスタだ。
先の三人と比べると質素な服装をしているが精一杯のドレスを着ているのが分かる。
「ミスターグラモン、大丈夫ですか!?ああーしっかりしてください!!」
懸命に支える黒髪の少女に悲しいかな気絶したギーシュは微動だにしなかった。
「別に放っておいても構わないわよ。シエスタ、自業自得なんだから」
「そうよ。まったくこの男は何時まで経っても変わらないんだから。何時まで寝てるのギーシュさっさと起きなさい!!」
叩き起そうとするモンモランシーの容赦がない平手打ちに見る見るギーシュの顔は膨れていく。
「あ、あの。ミス、ヴァリエールこのままにして宜しいのでしょうか?」
「良いのよ。この二人はこれはこれで上手く行ってる様だし」
呆れたように呟くルイズの言葉にシエスタはなんとなく納得する事にした。
「そ、そうです。テファさんはどうしたんですか?今日はいらしてないんですか」
「テファね…あの子は人波が苦手だって言って今日は来てないわ」
「そうですか……残念です」
「しょうがないわよ。あの子の人見知りも前よりは慣れてきたけど、今日は流石に人が多いしね。それよりもどうしようかしら、もう式の会場まで時間が無いしこのままじゃ本気で間に合わないわ」
「そうね。……こうなれば、奥の手しか無いじゃない」
「ほふぉふおふおぉふぉ」
計100発近い平手を噛ました、モンモランシーが何事も無かったかのように会話に参加するが哀れ頬がお多福の様に腫れたギージュの言葉だけは何を言ってるのかさっぱりだった。
自分が付けた傷で喋れない、ギーシュをスルーしつつモンモランシーは会話を続けた。
「空から行きましょう」
「え?でも今日は、国内での魔法の使用は禁止されてなかった?」
「大丈夫よ。ばれなきゃ良いんだから宜しくね、虚無のルイズ」
「は?私がするの!」
「貴方の魔法なら他のメイジにばれる事もないでしょう。それとも何?折角のアンリエッタ姫の結婚式、見れなくても良いの?」
「うー…わ、分かったよ。すれば良いでしょう」
仕方なくルイズは虚無の魔法を使い始める。
まるで霧の様にルイズたちの体が消え、気配が無くなる。
ルイズはシエスタを連れて其々空を飛び、王宮へと向かった。
そう、この日に集まった人たちはアンリエッタ姫の結婚式を見に訪れにやってきていたのだった。

王宮内も街同様に綺麗に彩られていた。
その一室で、今では元が平民と思えない貴族としての貫録を見せるサイトを侍女が着付けをしていた。
無事終わり鏡で自分の姿を見てみると普段着よりも更に豪華になった服装が、どうにもこそばゆかった。
「サイト様。何処かきつい所とかはございますか?」
「…大丈夫だ」
王は王らしく堂々と振る舞えっと教えられているサイトは、文句も言わず答えた。
「それでは、式はあと一時間程で開きますので暫くお待ちください」
仕事が終わった侍女は頭を垂れ静かに下がるがサイトはそれを呼び止めた。
「えっと…ごほん。アンリエッタは、今何処へ居るのか知っているか?」
「アンリエッタ姫も、着付けの最中で御座います。おおよそ10分程度でこちらにお戻りになられると思います」
「そうか。分かった」
侍女が出て行くのを見届け、やっと一人になったサイトは軽くため息を吐き部屋の窓から見える城下町を見下ろす。
眼下に広がる町並みには、今まで見た事がないぐらいの人が集まっているのが分かる。
その光景が、自分がアンリエッタと契りを結ぶのだと再認識させられ嬉しい様な恥ずかしい様な感覚に陥っていた。
それでも、自然ににやけてくる口元を一生懸命に抑え暫く眺めていると扉がトントンと叩かれた。
「入れ」
「失礼します」
先程とは別の侍女が現れ頭を垂れる。
「アンリエッタ姫の着付けが終わりましたのでお連れ致しました」
頷くと、扉から横にずれ先を足すとその先からゆっくりとした足取りで中に入ってはいってきた。
王女であるアンリエッタは何時も清楚なドレスを装っていたが今回は、清楚でありながらも所々トリステインの紋章である白ユリを刺繍されたドレスに優雅さを醸し出す様に造花の花が胸元に飾り付けてあった。
白銀のティアラを乗せヴェールを被るその姿はこの世の何よりも美しかった。
「あの…サイトさん。どう…でしょうか?似合ってますか」
「あ、ああ。凄い似合ってるよ。なんて言うか…その…すっげー綺麗だ………あ」
威厳を出す様に今ではズボラな口調を一度使えば、目にも恐ろしいお仕置きが待っているのだが今回ばかりは地が出てしまった。
サイトもしまったと思い口を慌てて噤むが、侍女がいつの間にか居なくなっていた。
今日ぐらいは気をかせてくれたのだろう。
「嬉しいです…サイトさんが気に行ってもらって」
「ああ。凄く気に行った。何時もより綺麗になってる」
アンリエッタの着付けを崩さない様に頬を撫でると、少し悲しそうに瞳を曇らす。
「そうですか…サイトさんはわたくしが何時もは綺麗じゃないって思ってたんですね」
「へ?い、いや。そんな事は断じてないぞ。何時もアンリエッタは綺麗だし、可愛いよ。うん。最高に可愛い!世界一だ!!だからな、そう言う意味じゃなくて…その……あれ?」
慌てて、言い繕うサイトの反応にアンリエッタの表情が段々変わり口に手を押さえ笑っていた。
「ふふっ、冗談ですよ。サイトさん必死になって可愛いです」
「え、あ、な。おい、まさかまたからかったのか?」
未だ楽しそうに笑っているのを見るとどうやら当たりの様だった。
アンリエッタと親密になった事で知ったのだが、以外にこの子は茶目っ気が高いのが分かり良くこうしてからかわれる。
意外に演技力があるのか、どうもサイトは良くだまされている。
罠だと分かっていても、どうしても引っかかってしまう。
これも惚れた弱みと言う奴だろう。
「たくっ……いい加減、からかうのは止めてくれないか」
「だって、そうやって慌てた様子を見せるのが今ではわたくしの前だけですもの。そう思うと嬉しくてどうしても見たくなって……ごめんなさい」
「うっ」
可愛く惚けるアンリエッタに嫌とは言えず、サイトは照れ臭そうに頭を掻きながら答える。
「べ、別に良いよ。俺も…そういうアンリエッタのお茶目な一面を見れるのが俺だけに見せてくれてるのも嬉しいからな」
「サイトさん…」
「アンリエッタ…」
お互いの言葉に完全に陶酔した二人は、自然に手を取り合いそのまま引き合うように抱き合った。
徐々に近づく、唇。
あと少しといった所でサイトは違和感を感じた。
まるで誰かに見られている様な…度重なる死線と王宮の地獄の習い事を超えたサイトの神経は最早は超人の域に達している。
絶対に誰かに見られていると確信したサイトはそのままの体勢で周りに意識を巡らせ窓に一つに4つ薄らと見える何かが居た。
普通なら、斬り落とす所だがサイトは原因が誰か分かっている故に、ゆっくりとアンリエッタを離しなるべく騒ぎ立てずにその窓に近づき勢いよくあけ間髪いれずに一つの頭を殴った。
「痛ぁ!?」
悲鳴を上げた直後、衝撃で術が解けたのか見えなかった者が段々と見えるようになってきた。
その姿を見たアンリエッタは目を見開き驚いていた。
「ルイズ!?」
「と、モンモンとギーシュとシエスタか。お前らな……」
自分の恥ずかしいシーンを見られたアンリエッタは顔を真っ赤にしていた。
「覗きとは最近の貴族は良い趣味してるな」
「あ、あははは。ご、ごめんなさい。別に覗くつもりはなかったんだけどつい見つけてふらふらと……」
「そ、そうだ!僕も久しぶりに会えた旧友に挨拶でもと…」
「嘘付け!」
下手な良い訳をする、モンモンとギーシュの頭も殴っておく。
痛みで魔法が弱まったのか高度が落ちて墜落しそうになる二人。
「ルイズ…お前もこんな事すんな。見つかったらただじゃ済まないぞ」
「分かってるわよ。悪かったって思ってるわ……でも、今日過ぎるともうサイトと何時もみたいに話できなくなるでしょう。だから、そうなる前にちゃんと言っておきたい事があって………結婚おめでとうサイト」
何処か寂しい顔をするルイズの言葉に俺は素直に頷いた。
「姫様も、おめでとうございます。わたくしも姫様とサイトとの結婚を心からお祝いいたします」
「ルイズ…有難う」
「さ、貴方達戻るわよ。何時までここに居たら見つかっちゃう」
「ちょっと、ルイズ。僕はまだサイトに話が、あー!!」
「ぐぇ、ルイズ!?そこ持ったら首がしまるわ!!」
ルイズは、二人の服を掴みそのまま飛んでいく。
飛び去る瞬間、零れ落ちる滴が見えた気がした。
それはどんな意味の涙なのかサイトは何も言えずその背中を見送るしかなかった。
二人で飛び去る旧友を見送ると、アンリエッタがサイトの顔を覗き込んできた。
その顔は旧友をみつめる者では無くもっと尊いものにそして、少しだけ寂しい風に見えた気がした。
「サイトさん……やっぱり」
小さな声で呟くアンリエッタの声はサイトには答えない。
アンリエッタもこの先を聞く事を恐れて言えなかった。言ってしまったら今手にした大切な人が消えてしまうのではないかと感じていたからだ。
口に出して開けないアンリエッタに、サイトはゆっくりと振り返り何時もの優しい笑みを浮かべていた。
「大丈夫、俺はアンリエッタの事を世界で一番愛しているから。この気持ちに偽りはない。俺の全ては君の為に捧げるその為にこの世界に残った……だから信じてくれ」
「はい。サイトさん……わたくしも、同じ気持ちです。絶対にこの手を離さないでください」
サイトの言葉を胸に刻み、アンリエッタは恐る恐る手を差し出す。
震えるアンリエッタの手を握り自分の気持ちを表す様に引き寄せて優しく口づけを交わした。

平民で居ながら王となったサイトはその後も、自ら先陣を切って民を支え導き平民、貴族共に大きく称えられるようになりその名は歴史に大きく残す。
“偉大なる騎士王 サイト”と名のもとに。

~End~



***後書き***
久々の更新です。
何と言うか、アンリエッタの話と分からない様に頭は書いてるのにタイトルとかで出てるからもろ分かりだよね。
オチも書いてるーし。

それはそうと、今回は後日談っぽく仕上げてみました。
後日談と言うよりは、最終回っぽいですね。(;^^)
色々やっちゃった感がありますが……
離して的には戦争が終わり世界が平和になった後の、二人は…と言う架空の設定で考えています。
いくらか元の設定を使ってますが、私はゼロ魔をアニメでしか知らないのでちょっと曖昧な所があるかもしれません。
と言うか最後どうなるかなんてしらねーwwww
そこら辺は私の勝手な想像でやってますので曖昧な部分は読み手の想像力で適当に補ってくださ。(ぇー

取りあえず、アンリエッタとサイトがゼロ魔の最後で一緒になるならこうだよなーって思って書きました。
王族になるならそれなりのリスクと覚悟が入りますし、相手が好きだけじゃ成り立たないですからね。
サイトが男気があってちょっと格好良くなってます。
そんなサイトの覚悟が少しでも伝われば良いなっと思います。
一応設定で違うのは、サイトはルイズを好きと言ってない。
サイトの好きな人はアンリエッタ。
だけを踏まえてくれれば良いと思ってます。
やっぱアンリエッタは可愛いですから☆

機会があれば、タバサとかシエスタとかのメインのイフエンドも考えてみたいなっーと思います。
ま、やるかは分かりませんが出来れば書きたいです。







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