「ん~~~!良い天気。久々の休日だし今日は何しようかなー」

早朝。
何時より遅く起きた私はベットから降りてカーテンを勢いよく開け清々しい朝日を肌に感じながら腕を上げ大きく伸びをした。
私の名前は天海春香。
一見普通の女の子なのだけど実は私、アイドルをやってます。
ファンの人達も増えて仕事の忙しさは日々鰻登り…結構多忙な毎日を送ってます。
凄く大変でくじけそうな時もあるけどそれでも、毎日が楽しくて楽しくてしょうがない。
仕事が好きなのもあるけど、やっぱり一緒に居れるらかな~。えへへ。
数週間ぶりの休みなのは嬉しいけどちょっと寂しい……だって、休みの日はプロデューサーさんに会えないもんね。

朝食を食べた私は、最近まで出来なかった部屋の掃除をしたり買っておいた本を読んだりと休みを満喫していたけどやっぱり一人だとあまり楽しくない。
「プロデューサーさんは今、どうしてるかな」
やる事も無くなり適当にTVを付けてるとふと考えてしまう。
メール送っても迷惑かな……って、いけない。プロデューサーさんは仕事中だもの。
邪魔したら駄目。
じっとしてると余計な事を考えてしまう私は気分を一転させる為に町に出かる事にした。
電車を乗り継ぎ都心へと向かった。
アイドルをやる前は地元しか行かなかったけど、事務所がある都心では地元より店や品ぞろえが多くウインドーショッピングだけでも楽しい。
ただ難点があるとすれば、休みの日に行くにはちょっとだけ遠く時間がかなるのがネックなんだけど。

「あ、これ可愛いかも。値段は……えっ!?」
新しく出来たショッピングモールを見つけそこにある一つのファッションショップに目が引き入店した私は手に取った服の値段を見て思わず声を上げた。
デザインは凄く好みなんだけど値段が今まで買った事が無いぐらい高い。
ちょっと五ケタの服は躊躇ちゃうな……
今の自分の給料では手が出せない値段じゃないけど、今までこんな高価な物を買った事がなくてどうしても気のが引ける。
貧乏性だな……あ、でもこれ凄く可愛いしこの服を着てプロデューサーさんに見せたら喜んでくれるかも。

『お、春香。見慣れない服着てるな』
『あ、はい新しく買ったんですよ。どうですか?似合ってますか』
『おう、もちろん似合ってる。可愛いよ、春香』

なんて私に見惚れたプロデューサーさんがデートに誘ってくれたりそれで手を繋いだりして、その先も、もしかして………いやん♪
思わず妄想に耽り、だらしなく笑みを浮かべてしまう。
暫くそのまま自分の世界に浸ってると、周りの奇怪な視線を気づき慌てて意識を正気に戻した。
いけないいけない、人目では自重しないと……でもどうしようかなこれ。

結局、服を買いその後は特に買い物をする訳でもなくウィンドーショッピングを楽しんだ。
久々に過ごす時間に浸り、そして空腹を感じて少し早い昼食をモール内の喫茶店で済ませた。
来たのが早いお陰でまだ客数も多くなく早く席に着けたのはラッキーだった。
紅茶を飲みながら改めてメニューを見てると、デザートの部分に目が止まった。
「あ、ケーキがあるんだ…期間限定のショートケーキか」
見本の写真でフルーツやクリームが盛り合わせてあり見るからに美味しそうだった。
何かわざとらしいぐらい人気とか売り切れ必須とか書かれているのが気になるけどそこまで勧めるなら凄く気になるな…よし。
「すみませーん、注文良いですか」
それから数分後、見た目通りの甘そうなケーキを頬張った。
「はむ………あ、これ凄く美味しい」
あまり期待はしてなかったけど、甘さも控えめでそれでいて甘みはほんのりと舌に残り思わず笑みが浮かぶ。
確かに、フルーツの甘みはするけど全然くどくないわ。
メニューにはお勧めとか書いてあったけど、こんなになんて……お父さん達に買って行こうかな。

ある程度時間が過ぎてくると昼のピークに入ったのか来客数が増えてきた。
流石に、これ以上長居するのは駄目ね…伝票を持ちレジまで向う。
「すみません。このケーキなんですけど三つ持ち帰りで包んで貰って良いですか?」
「畏まりました。合計、1480円になります」
「えっと、財布は…」
ケーキを家族分まで購入し会計を済ませ包んで貰ったケーキを受け取り店を出る時、入店してきたスーツ姿の男性とぶつかりそうになってしまった。
「あ!?済みません」
「いえ、こちらこそ」
あれ?この声何処かで……
一瞬不思議に思ったけど男性は奥に行ってしまい顔は分からなかった。
ま、いっか。多分気のせいだよね。
そう思い歩を進めるが後ろから聞こえた大きな声で私の足は再び止まった。
「え!?売り切れですか!!」
「はい…申し訳ありませんが、先程売り切れてしまって」
「そ、そうですか……」
声だけで分かるぐらい落胆した様子に興味が出て振り返る。
そこには先程の男性がレジから踵を返しこちらに向かってくる悔しそうに項垂れる姿が見えた。
あ、やっぱり。
「あの…プロデューサーさん?」
「え?………は、春香!?お前なんでここに」
「私はちょっと買物に……プロデューサーさんこそ何でここに?」
「えっと、それは……」
言い辛そうに渋るプロデューサーさんに不思議に思ったけど、何時までも店の入り口で立ち往生しているわけもいかない。
「とりあえず、ここでは邪魔になりますから場所を移しましょう」
「あ、ああ。そうだな」

噴水がある中央広場の休憩所まで来た私達は並んでベンチに座わった。
流石に昼時なだけあって休憩所でも食事をとっている人が多く見てとれた。
今まで見た事が無いぐらい動揺した様子のプロデューサーさんは何処か落ち着きが無く私に視線を合わせてこなかった。
暫く待ってたけど何も口にしなくて、気まずい雰囲気に耐えきれず恐る恐る私から聞く事にした。
「あの………プロデューサーさんは何であそこに居たんですか?」
「そ、それは……」
やっぱり口籠る。
別に隠す事は無いような気もするけど、何か言いたくない理由でもあるのかな?
私には言えない事なのかな?
隠し事がされてる事に、少しだけ寂しかった。
「ケーキ…買いに来たんですよね?」
「あ、うん。そうだが……」
「まだ昼食時ですよ?まさか、ケーキを昼食に…なんて考えてないですよね」
「あ、あたりまえだろう」
「小鳥さんに頼まれたんですか?」
「む……ん」
「私には言えない事なんですか?でしたら無理には聞きませんけど……」
「そんな事は無いが………そのな…春香は甘いもの好きか?」
「え?もちろん、好きですよ」
「そっか、女の子だもんな………実は俺も好きなんだよ」
苦笑を浮かべ口元が引きつりながら話し始めるプロデューサーさんは何時も見ている、しっかりとしている印象とは違い何処となく情けなく見えた。
「昔から甘い物が好きで目が無くてな。大きくなってからは自重しようとしてんだけどな、疲れた時や新作の物があるとつい欲しくなって……」
「それで、あそこの喫茶店に?」
「ああ、ここは最近オープンしてばかりだろう?特にあそこの喫茶店のケーキがネットでも美味しいって噂されてどうしても食べたかったんだよ。それで、仕事の都合が付いたんで合間に買いに来たんだけどな」
「そうだったんですか……」
そこまでして、買いに来て売り切れじゃ確かに項垂れもするか。
仕方が無いよね……
だけど、理由を話し終えたプロデューサーさんの表情は優れず深い溜息を吐いていた。
「どうしたんですか?」
「い、いや、まさか自分の担当アイドルに見られるなんて思いもよらなかったから…出来る事ならこの事は事務所の皆には内緒にしてくれないか?」
「別に良いですけど…そこまで気にする事ないと思いますよ」
「いや、だって男がケーキとか好きなんて女の子からしたらあまり良い印象ないだろう。仕事柄あまり変な印象を持たせる訳にもいかないし、それに……春香だって、男の俺が甘い物が好きなんて幻滅したろ?」
空笑いを浮かべそう告げるプロデューサーさんに私は少しだけ憤りを感じて慌てて反論する。
「そんな事無いですよ!」
確かに普段のプロデューサーさんからは想像も出来ないけどそんな事で嫌いなるなんて思われていた事の方が心外だ。
「ち、ちょっと春香…声が大きい」
「あ、すみません…でも、確かにちょっと意外でしたけどただそれだけですよ。こんな事でプロデューサーさんの印象が変わるなんて事、無いですから安心して下さい」
出来るかぎり不安を感じさせないように笑顔で答えると少しだけプロデューサーさんの顔が晴れた気がした。
その証拠に今まで何度も見てきた笑顔を私に向けてきていたのだから。
「ありがとう……春香って結構良い奴だな」
「な、なんですか急に」
「いや、学生の頃に甘党って知られたら女子から“軟弱~”とか言われてな。それが原因で知り合いの前では自重しようと思って……ありがとう。春香のそういう大らかな性格は好きだよ」
「っ!?な、何を言ってるんですか」
そんな、好きってどう言う意味なんだろう?
本当に……い、いや絶対言う意味じゃないよ、きっと。うん。
で、でも……うっ~~~。
「あぅ……えっと、そ、そうだプロデューサーが欲しかったケーキってなんだったんですか?」
まさか好きとか言われるとは思ってなかった照れ臭くなり、我慢が出来なくなった私は強引に話を逸らした。
「ん?ああ、…って言うケーキなんだけど」
え?それって……
「あそこで一番のお勧めで昼には売り切れてしまう事が多くて俺の仕事の時間では買えないんだよ。休みも何時取れるか知らないしな、期間内に食えるとは思えないし今回は諦めるしかないかな」
残念そうに溜息を吐くプロデューサーさんに私は恐る恐る手を上げた。
「あの…プロデューサーさん。それ、私持ってますよ?」
「何だって?」
意外な顔をするプロデューサーさんに持ち帰り用に梱包された包みを開け中を見せた。
「あ、本当だ」
「美味しかったので親にも上げようかなって思って買ったんですけど……良かったら差し上げますよ」
私の言葉に一瞬目の色が変わったのが分かったけど、直ぐに何時もの調子に戻った。
「い、いや、それは悪い。春香だって親の為に買ったんだろう?それを貰う事なんて出来ないって」
「でもそれだと今度は何時買えるか分からないんですよ?」
「それもそうだけど……ごめんやっぱり貰えない。これは俺の我儘だから、春香に無理強いさせる訳にはいかない」
そうは言うけど、顔を見れば本当は凄く食べたいのが分かる。
プロデューサーさんも変な所で頑固だから……だけど、私はプロデューサーに何かをしてあげたかった。
「だったら…私が、今度ケーキ作りますからそれなら食べてくれますよね?」
「な、何だって?」
「私、昔からお菓子を作ってて結構得意なんですよ。こんなに美味しいケーキは作れないかもしれないけど、だけどプロデューサーさんの為に一生懸命美味しいケーキ作りますから………それでも駄目ですか?」
プロデューサーさんには何時もお世話になってるし、私からもたまにはお礼をしたかった。
凡才でドジっ子な私では出来る事は少ないけど、お菓子作りなら自信はあるから。
受け入れてくれるか不安だったけど、プロデューサーさんは少しだけ戸惑いの態度をしそして私の頭を優しく撫でてくれた。
「春香がそこまで言うならな………お願いして良いか」
「あ……はい!もちろんです」
「楽しみにしてるよ。じゃ、俺は仕事に戻るな」
「ええ。また明日ですね」
「ああ、またな」

仕事に戻るプロデューサーさんと分かれ自宅へと帰宅し私は買ってきたケーキを冷蔵庫に入れて自室に戻る。
椅子に腰掛け机に仕舞っていた手鏡を出すと、鏡に写る私の口元は目に見えて分かるぐらい嬉しそうに笑っていた。
偶然会ったけど、まさかあの厳しいプロデューサーさんが甘い物が好きなんて意外な一面を知ってしまった。
私の想像では、もっと大人な物とか好きそうだったけど実際はそんなもんだよね。
しかもあの口ぶりだと事務所でも知っているのは他に居ないと思うから。
そう、私以外は………
「ふふっ、私とプロデューサーさんだけの秘密だよね。照れた顔も結構可愛かったな……」
自分の秘密が知られて恥ずかしがる言動が可笑しくて、そしてなんだかプロデューサーさんの特別な関係に自分がなれた気がして嬉しかった。
それに私の事好きって言ってくれた……どう言う意味なんだろう?
本当に私の事がそう言う意味で好きって事なのかな?
だったら嬉しいけど、確かめる勇気は私にはない。
だって、ただのアイドルとしてしか見てなかったらそれで終わりだし、今はまだ聞くのが怖いから……だから、今は。

「プロデューサーさんが目一杯喜ぶような美味しいケーキを作らなきゃ」

でも何時かは、言いたいな……私の本当の気持ちを世界で一番大切な人に。
その時は、どうか私の思いを受け止めてくださいね。

~End~







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