季節は冬。
月は12月の24日。
俗に言うクリスマス・イブと呼ばれている日だ。
町が様々なイルミネーションに彩られ、何気なく見慣れている風景さえも特別に映る。
彼女と出会った今年のクリスマスは俺にとって最高一日になるだろう。

「ご主人さま、朝れすよ。起きてくらさい」
カーテンの隙間から洩れる光と共に聞こえる俺を呼ぶ声。
揺れ起こされてゆっくりと瞼を開けるとお下げに縛った綺麗な金色の髪を腰まで下げた彼女と目があった。
「ん・・・・・おはよう。シルファ」
布団から体を起こし挨拶を返すと、冷たい風が体に当たり俺は身震いをした。
「何か今日はすっごく冷えるね」
「冬らからあたり前れすよ」
「それもそうなんだけどね」
「昨日・・・少し雪が降ったみたいれすから、そのせいかもれすよ。エアコンを点けたのれ直ぐに温まるはずれす。男何らからそれぐらいは我慢するれすよ」
投げやりな会話の中に何気ない気遣いが何とも彼女らしくて俺は笑みが浮かぶ。
「何・・・笑ってるれすか?」
「くくっ、何でもない」
更にこの後にある出来事を考えてしまい、頬笑みが止まらなかった。
俺の今考えている事が予想が付くのかシルファもこれ以上何も聞いてはこなかった。
視線を逸らし照れ臭そうにお下げに触れる仕草をするシルファもきっと楽しみにしてるんだと思いたい。
「何時まれもふざけてないれ、お寝坊なご主人様は早く着替えて降りてきてくらさい。朝食の準備はとっくにれきてるんれすから」
「うん分かってる」
「じゃ、シルファは下にもろりますね」
起こし終えて用事が終わったシルファは長いお下げを揺らしながら部屋を出て行こうとする。
そんな彼女を呼びとめるとゆっくりとこちらに振り向いてきた。
「今日・・・・・・楽しみだな」
「な、なにがれす」
「何って・・・デートだろう?」
誤魔化すシルファに対し俺は率直に聞くと、デートと言う言葉に火がついたようにみたいにボッと顔が赤くなった。
「べ、べべべべ別にシルファは楽しみれはないれすよ。ご、ご主人さまが行きたいらけなんじゃないれすか?」
「あれ、そうだっけな?誘った時、すっごく嬉しそうにしてたのは俺の気のせいだったか」
「そ、そうれすよ。それは気のせいれす・・・・・全くあーぱーなご主人さまを持つとシルファは苦労するれすよ」
そんな顔を真っ赤にして言っても全然説得力が無いと思う。バレバレな照れ隠しに俺は可笑しくてつい笑ってしまう。
「つっ!?わ、笑ってないれとっとと着替えて降りてくるれすよ!!ご飯冷めても知らないれすよ!!!」
居た堪れなくなったシルファはドスドスと荒い足音をたてながら勢いよく扉を閉めて部屋を出て行ってしまった。
廊下に出てからも重い足音がこちらまで聞こえていた。
「全く素直じゃないんだから・・・・・ま、そこが可愛いんだけど」
最初出会った頃ならば、怒らせてしまったのだと思ってしまう所だが、実の所シルファなりの照れ隠しなのが今では十分に分かっている。
今では必死に照れ隠しをするシルファを見るが楽しくて仕方が無かった。
嬉しさで緩みっぱなしの口を止めようともせずにパジャマを脱ぎ俺は着替えを始めた。
今日はクリスマス・イブ・・・シルファとのデートだ。
それに、今日のデートは何時もと少し違うシルファが見れる・・・・・そう思うととても心が躍った。
本当、今日は楽しい一日になりそうだな。

「水族館に行くなんて随分久々だな」
「そ、そうなんれすか」
「うん、遊園地とかならこのみと行く事はあったけどな」
朝食を済ませた俺達は隣町にある大型の水族館に行くために電車を乗り継ぎ現地へと向かっていた。
クリスマスのせいか電車の中はいつもより混んでる感じがする。
こうして見るとカップルが多く皆楽しそうに笑っていた。
だけど、さっきからシルファは恥ずかしいのかもじもじとスカートの裾を握って俯いてばかりなのがなんとも残念過ぎる。
電車に乗ってるんだから吊革ぐらい掴まないと危ないんだけどな、と思ってしまう。
やっぱり、あんなお願いしたのが無茶だったか?
そう考えていると、急に電車がガタッ!!と大きく揺れてシルファはバランスを崩してしまう。

「ぴゃ!?」
「危ない!」

傾くシルファの腕を掴み俺の方へ強く引っ張り抱きとめる。
小柄なシルファでは丁度良い具合に俺の胸にすっぽりと収まると、ふわりと鼻腔に彼女の良い匂いが漂った。
「あ、ありがとう。ご主人さま」
「電車は揺れるんだから、吊革ぐらい持ってないと危ないぞ」
「ら、らって・・・・こんな恰好恥ずかしいれす。それにさっきから人に見られている気がして、やっぱりめいろろぼのシルファがこんな恰好をしてるのが変らから皆見てるんじゃないんれすか?」
確かにここに来るまでシルファに視線を移した人の数は少なくはなかった。
だけど、それは決して彼女が変だからとかそんな理由じゃない。
シルファ自身自覚はないようだけど、彼女の見た目はかなり可愛い。
決して惚気でもなく、シルファは本気で可愛いのだ。
普段は支給のメイド服で着ていないシルファが普通の女の子が着るような可愛らしい服装で装っていればそれは人の目を集める事は必須だろう。
シルファが何故このような恰好をしているかは数日前に遡る・・・・

二人でクリスマスに何所に出かけようかと誘った時、照れ臭そうにしながらも了承してくれたシルファに対し歓喜で浮かれた俺が思わず“たまには違ったシルファの格好見てみたいな・・・・・”と呟いたのが始まりだった。
それが聞こえたシルファは“・・・・・・見てみたいんれすか?”と伏せ目がちに聞いてきた。
一瞬“しまった”と口を噤むj俺だったが、シルファは怒ってはおらず何所か期待した眼でこちらを見つめてきていた。
はっきり言ってしまえば俺もメイド服以外のシルファを見てみたかったし好きな女の子の違う一面も見ていたいと思うのは男としては当然だろう。
だから悩んだ末に俺は、“・・・・見たい”とはっきり頷いた。
それをシルファがどう受け取ったのか分からなかったが静かに“そうれすか”と頷き淡い期待を抱きながら約束の日を待っていた。
そして、デート前日の夜シルファが恥ずかしそうに私服を着て見せに来た事からどうやらあの時の言葉を本気にしてくれたみたいで、今のこの恰好に至るわけだ。
だけど、内気で恥ずかしがり屋なシルファは周りの視線を気にし過ぎて家を出てからずっと俯いたままになってしまった。
全くシルファらしいと言えばらしいけど、このままだと折角のデートがお互い楽しくないだろう。
どうにか出来ないものか。

「そんな事はないと思うぞ」
「らって・・・・・・シルファは、めいろろぼなんれすよ。それがこんな人間みたいな格好やっぱり変らったのれすよ」
俺はそんな事微塵も気にしてないのだが、シルファにとってメイドロボと言う柵は重いと言う事なのだろう。
不安で揺れているシルファを落ちくかせるように頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「シルファは確かにメイドロボだけどさ、俺はシルファが大好きなんだ」
「ご、ご主人さま・・・・・?」
「その気持ちが変わる事は絶対にないし、シルファさえ望んでくれれば俺は何だって出来るつもりだ。だから、回りなんて気にしないで俺だけを見てくれれば良いんだよ。シルファは俺よりも周りの人の方が大切なのか?」
我ながら良くこんな臭いセリフを吐けると思う。
シルファだってこんなに顔が真っ赤に驚いているし・・・だけど、俺は本気でそう思っているしシルファが俺にとって大切な女性の、その気持ちの前ではメイドロボなんて肩書き微々たる問題だ。
そんな事を何時までも気にしないで良いと言う事を分かって欲しいかった。
「こら、シルファ。そんな顔するなよ。折角のデートなんだし、今日は楽しく笑って行こうぜ、な?」
「そ、そうれすね。シルファもご主人さまと一緒に居る事が、喜こんれくれる事が一番の幸せれすから周りにろう思われてもシルファはご主人様のそばにいます」
「ああ、そうしてくれ」
「れも・・・・ご主人さまも恥ずかしくないんれすか?そんな歯の浮くろうろうとセリフ吐いて」
「うっ、それは・・・・・・・シルファだって同じようなものじゃないか」
「そ、そうれすか?」
恥ずかしくてまともに顔を見れなくなり、視線を外すとシルファも恥ずかしそうに俯いてしまっていたけど横目で顔を覗いてみるとシルファの唇は嬉しそうに笑っているのが見えた。
やっと笑顔になった彼女に俺も嬉しくなり釣られるよに笑った。
幸せを噛みしめていると、妙に周りの視線を感じ辺りを見渡すと視界に映る人達が俺とシルファに視線を集中させていた。

「クスクスクス、何あれ」
「微笑ましいわね・・・・」
「羨ましいなー。彼氏にあんな事言ってもらえるなんて」
「あれってメイドロボよね・・・・あの人まさかそっちの趣味が?」
「あれだけ可愛い子なら俺でも全然OKだけどな。羨ましいぜ」

ヒソヒソ声と共に感じる十人十色の眼差し。
・・・・・し、しまった!!ここは、電車の中だったんだ!!!!
こんな大衆の集まる場所であんな歯の浮くセリフを堂々と吐けばそりゃ、注目を集めるだろう。
今更ながら自分が告げた言葉を思い返して恥ずかしさとむず痒さに逃げ出したい気持ちで一杯だった。
その事に気づいてしまった別の意味で落ち着きが無くなり今度は俺が挙動不審になっていた。
「ろうしたんれすか?ご主人さま」
「へ!?あーいや、な、何でもないぞ、うん」
幸せを噛みしめる今のシルファは気づいてないようだったけど、彼女にあんな事を言った手前今度は自分が恥ずかしいとは言えなくて適当に誤魔化すしかなかった。
しかし、何所に顔を向けても視線が気になり焦った俺は何を思ったのかシルファをギュっと抱きしめて赤くなった顔を隠す様に首筋に顔を埋めてしまっていた。
こんな事をすれば余計に恥ずかしさを増す行為だと気づかず。
「ご、ご主人さま・・・・・さ、流石にこれは恥ずかしいれす」
「え、あ。いや、ごめん!」
シルファに言われて慌てて離れる。
益々周りから更に冷やかすような声が増え俺の中の恥ずかしさが鰻上りだった。
俺は、出来るだけ平静を装うようにシルファと話しながら立っていたが、どうにも落ち着かない。
そして、目的地に電車が到着したと同時にシルファの手を取り逃げるように駅のオームへと駆け抜けていった。

そんな事がありつつも目的地である大型の水族館へと到着。
受け付けでチケットを買い入場すると、始めてみる水族館にシルファは目を輝かせていた。
中に入ると最初は珊瑚礁など、小さな生き物が見れるルームがありガラスに手を付き水槽の中にいる海の生き物を食いるようにじーっと見つめていた。
「ご主人様。これは何れすかこれ星の形してます」
「あ、これはヒトデって言うんだ。こんな形だけどヒトデは、肉食なんだぜ。シルファだって不用意に触ればそのままパクって食われて梳されるかも・・・・って、冗談だよ。貝や魚の死骸を主に食べるんだけだからそんな怖がるなって」
からかうつもりが、本気で怯えた顔をするものだから慌てて弁解をした。
「ううっ。ご主人様、意地悪れす」
「ごめんごめん。もうしないから・・・他に何か興味がある奴とかいるか」
まだ疑いの目を向けらえれるつつもシルファはゆっくりと別の生物を指した。
「なんか針が一杯で痛そうれす」
「確かに、ウニは痛いよ。でも身を食べると凄く美味しいけどな」
「これがウニ・・・れすか?確かスーパーれ見た事あるのれす。それがこれなんれすか」
「うん。身を採った物がスーパーとかに売ってるやつだよ」
「へー・・・・・元はこんな形してるなんて初めて見ました。れも詳しいんれすね、ご主人さま」
俺の方を感嘆した眼で見つめるシルファに少しだけ得意げに胸を張る。
万が一シルファに聞かれても答えられるように密かにネットで下調べをしておいたお陰だな。
試験勉強でもあそこまで調べた記憶はないのだが、その努力は無駄ではなかったらしい。
「ほら、先もまだまだあるし奥に行ってみよう」
「はいなのれす」

珊瑚を見たり、熱帯魚を見たり、流石に巨大なジンベイザメを見た時はあまりの恐怖に腕にしがみ付きぶるぶると震えてもいた。
人食いサメじゃないから、怖がる必要も無いけどこんなにも楽しんでいるシルファを見ていると誘って良かったと心の底から思えた。
笑ったり、怒ったり、驚いたり、普段見る事がない彼女の意外な一面が見れて俺はとても楽しかった。
そして、ここの水族館の大目玉の大水槽にまで来ると今までで一番驚嘆の声を上げて感動をしていた。
「うわぁ~~綺麗れす。まるで水中にいるみたいれす」
四方が曲線のガラス張りになっておりまるで水の中を歩いているような錯覚に陥る事が出来る夢のような空間だ。
俺もシルファと同じ感想だった。
歩く道も円形に出来ているお陰か結構な距離があり色々な種類の魚が一同に見ていて飽きない。
「シルファって今日で魚好きになったんじゃないか」
「そう・・・れすね。確かに好きになったかもしれないれす。らってこんなに綺麗れ可愛い生物初めて見ましたから」
そう言ってまた水槽の中を覗いた。
本当に楽しそうに水槽の中を見ているシルファを俺はつい目がいってしまう。
確かに魚も綺麗だと思うけど、俺には水槽を見ながらコロコロと表情を変えるシルファの方がずっと見ていて楽しくて、ずっとずっと綺麗だったから。
・・・なんて、恥ずかしいから流石に口にはしないけどな。
そうしてその後に他の所も散々行きつくした俺達は、水族館の出口の方角へ向かっていた。
「で、どうだったシルファ。始めての水族館は」
「あ、はい。とっても楽しかったです」
「それは良かった。シルファにしてみれば一番気にいったのはイルカじゃなかった?」
「な、何れ分るんれすか!!」
「だってイルカのショーの時、来ていた子供よりもはしゃいでただろう?」
「そ、それは・・・・・あうー」
はしゃいでいた自覚もあるのか、思い返すと途端に頬を染め恥ずかしそうに俯いてしまった。
シルファも浮かれていたって言う事かな。うん。
そんな彼女の喜ぶ顔がもっと見たくて俺はすぐ近くにあったお土産屋のテナント部分を指さした。
「折角だし、お土産でも買っていくか?」
「お土産・・・・・れすか?」
「うん。流石に本物はないけどイルカのぬぐるみぐらいはあると思うぜ」
イルカと言う単語にシルファの目の色が変わった気がした。
でもそれも一瞬の事で、直ぐに戻り慌てて首を左右に振り断ってきた。
「い、いえシルファはこのれーとらけれ十分れすよ。それに、ここの入場料らって安くないんれすよ。それなのに・・・・」
「良いってこれぐらい。クリスマスプレゼントと言う事で贈らせてくれないかな?」
「うー・・・・れ、れもシルファばっかり貰ってばかりれなにも返してないれす。そんなの不公平れすよ」
渋るシルファに、俺はしょうがないなって苦笑を浮かべた。
口は悪いのに変に真面目なのがシルファの良い所でもある。
俺はそんなシルファの腕を取って人の目に使いない柱の陰に移動した。
「なら、シルファから俺にお返し貰ってもいいかな?」
「何がれ・・・・・・・ん!」
良い終わるよりも先に俺はシルファの唇を塞ぐ。
急な事にシルファの目が見開くのが分かった。
何時もより強い口づけにその眼には戸惑いや、驚きが見て取れた。
幾ら陰に隠れているからと言っても、人に見えない訳じゃない。
もしかしたらバレるかもしれない。
シルファの瞳からそう語りかけてくるようだった。
だけど、そんな緊張感すらも俺は気持ち良くなってきていた。
ぶっちゃけ、シルファと俺の関係を周りに見せびらかしたい気持ちで一杯だった。
と、思う俺は既にバカップル候補だろうか?と思わず心の中で苦笑してしまう。
暫くシルファから感じる唇からの吐息に、酔いしれてゆっくりと唇を離すとシルファは恥ずかしそうに俺から瞳を逸らした。
「こ、これがシルファのお返しれすか?」
「ああ、そうだけど駄目か?」
「ら、らめじゃないれすけど、これじゃご主人さまがシルファへお返ししてるみたいな感じになってるのれす」
「ははは、それはそうかもな。なら、今度はシルファからしてくれないか」
「え!?それは・・・・・・・・・・・られかに見られちゃいますよ」
「大丈夫だって、ここは死角になってるし周りには見えないって。それに俺はシルファからしてもらえてたら嬉しいけど」
「ご主人さまがそう言うなら・・・・・しょうがないれすね」
シルファは頬を染めながらも少し背伸びをして俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
俺のキスとは違って優しいちょこんと重ねるだけのキスだけどそれだけでもとてもドキドキした。
「ん・・・・・これでいいれすか」
「うん、最高・・・・俺としてはもっと先のご褒美くれても嬉しいんだけどね」
流石に度の過ぎるお願いに恥ずかしさが頂点に達したシルファは、顔を真っ赤っか染めながら俺を頭を叩いてきた。
「っ~~~!ちょ、調子に乗るなれす!!」
「痛て、痛いって。冗談だよシルファ」
「もう、本当にエロエロ何れすから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは家に帰ってからなのれす」
「え、今なんて?」
消え入りそうな小さな声だったけどばっちり聞こえていた俺なのだがここはあえて聞こえないふりをして聞き返した。
「な、何れもないれす!!!ほら、お土産買ってくれるんれすよね。行くれすよ!!!!」
すると、シルファは案の定恥ずかしさを誤魔化すようにお土産屋のテナントに駆けだしてしまった。
本当にシルファって可愛いな・・・・・・・
俺は嬉しくなって頬を掻きながらシルファの後を追った。

ミシッ!!

「きゃあ!何してるですか!?」
「だってムカつくから」

「ん?」
だけど、不意に後ろから聞きなれた声と鈍い音が聞こえて足を止めた。
声が聞こえた方に顔を向けると俺の視線から慌てて逃げるように隠れる影が二つが微かに見えた。
ピンクの髪と青い髪。
あれは・・・・・・・まさか?
見慣れた姿に、何故二人がここに居るのか疑問に思っていると、俺の耳にシルファの呼ぶ声が聞こえてきた。
「何をぼーとしてるれすか!早く来ないととびっきり高いの選ぶれすよ!!」
「あ、ああ。分った直ぐ行くよ!」

夕日に染まる帰り道。
見慣れた地元の街路樹を歩きながら帰路へと着く、シルファの手には水族館で大きいイルカのぬいぐるみを買った袋を嬉しそうに抱えていた。
流石にこの季節は日が傾くと一段と一寒さを感じ、俺達二人は仲良く手を繋ぎながら歩いていた。
電車の中からもそうだがシルファから漏れる話題は今日の水族館の話ばかりだった。
これだけ喜んでくれれば誘った甲斐はあったと言うものだ。
「ご主人さま、今日は楽しかったれすよ」
「そう言ってくれるなら、俺も嬉しいよ。今度もまた二人でどっか行こうか。もう少しで冬休みに入るしね」
「そうれすね・・・・シルファは良いれすよ」
「その時は、また私服で出かけようか」
俺の言葉にシルファは言葉を濁した。
「うっ・・・やっぱり私服じゃないとらめ何れすか。」
「うん駄目だね」
「そ、即答れすか?」
「だって、そっちの方が可愛いだろう?一緒に見に行ってやるからこれからのデートは私服で行こう」
親指を立てて断言する俺にシルファは恥ずかしそうの俯いた。
「うっ・・・・そんな事言われたら嫌って言えないじゃないれすか。ずるいれすご主人さま」
「く~~~~、やっぱり可愛いなシルファは!」
「き、急に何れすか!ご主人さま!!」
「だって、シルファがあまりにも可愛い事言うからだって・・・そうだ!今度デートへ行く時、俺の事名前で呼んでくれよ」
「なっ!?そ、そんな恥ずかしい事言える訳ないれす!」
「なんでだよ。そっちの方が恋人っぽいだろう?」
「それはそうれすけろ・・・・シルファは絶対いやれす!!!」
そんなに嫌のか?なんだかそう否定されると悲しくなるけどな・・・・・・ちょっと意地悪したくなってきた。
「だったらまたご褒美でチューしてあげるからさ。呼んでよ。」
「な、なななななな。そんなのされても嬉しくないれす!!」
「あれ?、そうだったかな~。嘘は良くないぞ。水族館では満更でもなかったじゃないか」
「はぅ・・・・そ、それは・・・・」
「ま、俺としてはお願いされれば何時でもして・・・・・・・・」
俺は視界の先に今度こそはっきり見えたある物体を発見して口を止めた。
「・・・・・・・・・・・ろうしたんれすかご主人さま?」
「あれって何だと思う」
「え?・・・・」
そう言われて俺の視線の先をシルファも追うと、柱の間から微妙にイヤーバイザーらしき白い物体と蒼い髪とピンクの髪が見えていた。
あれってやっぱりあの二人だよね。
何で電柱柱なんかに?って言うか見えてるって。
シルファもそれを確認出来たのか俺から離れてゆっくり電住柱に近寄りそして・・・・・・・・・・・・・・無言で思いっきり電柱柱を蹴った。

ゲシッ!!

「「きゃぁ!?」」

蹴られた衝撃で驚いて出てくる謎の物体・・・もといイルファさんとミルファ。
一体いつから付けていたのか。
「何してるれすか!!イルイル、ミルミル!!!」
そんな二人をかなり怒りを露わにした表情でシルファは睨んでいた。
イルファさんは、気まずいそうに視線を泳がせてそして一言。
「あ、いや・・・その・・・・・ぐ、偶然ですね。シルファちゃん」
「そう偶然だよ。偶然」
イルファさんの苦しい言い訳に賛同するようにミルファも相槌をしていた。
こんな偶然ある訳ないだろうと心の中で激しく突っ込む。
「こんな・・・・・・・・・偶然あるかれす!!」
「あ、蹴らないでください、シルファちゃん!本当は奥手なシルファちゃんがちゃんと貴明さんとデートできてるか心配で見に来てただけなんですよ~」
「そうだよ、あわよくばダーリンと一緒にデート出来ないかななんて思ってないから」
え、ミルファ今なんて?
「余計なお世話れす!!それにミルミルその言葉ろういう意味れすか・・・・・・・・・・・・・」
「それは、もちろん・・・痛い」
さらに余計な事を言おうとするミルファにイルファさんは肘で小突いて黙らせる。
俺も二人に近寄り、声をかけた。
「もしかしてさ、二人とも水族館から付けてなかった。お土産の所で二人を見た気がしたんだけどさ」
「え!?それは、えっと・・・・・・・・・・・・・もう!ミルファちゃんが柱を壊すからばれてるじゃないですか!」
「そんな事言って姉さんだって、乗り出してジーって見てたじゃない!!・・・・それに、腹が立ったんだもんしょうがないじゃん!!!」
「柱?壊した??」
何か危険なワードに俺は微妙な表情になるが、二人は慌てて誤魔化し笑いを浮かべていた。
「えっと・・・な、何でもないですよ。貴明さん」
「う、うん。ダーリンは気にしないで良いよ」
どうやら深くは聞かない方が身の為かも知れない。
しかし・・・・・・・・・・・・・やっぱりこの二人は後を付けていたのか。何時からか知らないが流石に趣味悪いって。
俺は困ったように苦笑するだけだっただけど、シルファの方は覗かれてたのが感に触ったのか顔を伏せてぶるぶる震えていた。
シルファの背後から揺らめいて見える怒りのオーラが浮かび只ならぬ雰囲気を感じて二人はごくりと息を飲んだ。
「あ、あのシルファちゃん。悪気はなかったんです。だから怒らないでくださいね」
「そ、そうだよ。姉としてのその・・・・心遣いだから。下心はちょっこっとだけだったからね」
「み、ミルファちゃん!何でさっきから余計な事を言うんですか!!」
「だって羨ましいんだからしょうがないじゃん!それに、姉さんだってシルファとダーリンのちゅー見て“羨ましいです・・・・”とか呟いてたじゃない!!私だけ悪者みたいに言わないでよ!!」
「ちょっとそれは内緒って言ったじゃないですか!!」
何やら変な事で口喧嘩を始める二人の言葉にシルファの怒りは徐々に上がって行きそして遂に頂点に達して爆発した。

「この・・・・・・・・アホアホめいろろぼろも!!!!」

「きゃ!?危ないです!!」
「ちょっとシルファ!危ないじゃない!!」
本気で蹴りを放つシルファに本能的に危険を察知して避ける二人。
「うっさいれす!!こんな恥知らずなめいろろぼ粛清してやるれす!!!」
必死に逃げるイルファさんとミルファを怒り狂ったシルファは本気で追いかけまわしていた。
「ごめんなさいシルファちゃん!!」
「ご免れすんらら警察は要らないれすよ!!」
「何よ、ちょっとぐらいダーリン貸してくれても良いじゃない!!シルファのケチ!!」
いや貸すって俺は物ですか。
「られがケチれすか!ご主人さまはシルファの物れす!!おぽんちミルミルなんかには絶対貸さないれす!!!」
「誰がおぽんちよ!シルファ!!」
ドタバタと走り回る三人に俺は呆気にとられていたけど、その光景が可笑しく思えてつい笑ってしまう。
全く・・・・相変わらずだなこの三人は。折角シルファと良い雰囲気だったのに・・・・・
でも、俺とシルファの時間はこの先ずっとずっとずーとあるだろうしこの続きはまたの機会の楽しみにとっておこう。
それに、こんな騒々しいオチのクリスマスも楽しくて良いかもしれない。
何時の間にやら振っていたのか、チラチラと堕ちてくる雪を視界に移しながら喧噪し合う三人を俺は楽しそうに眺めていた。

~End~





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