― 放課後 ―

夕日が差し込み生徒会室を赤く染めあげる。
生徒会の仕事も滞りなく進み各自帰り支度を始めていた。

「皆さん、お疲れ様です」
労いの言葉を伝えるささらに環が笑顔で返す。
「久寿川さんもお疲れ様。悪いけど先に上がらせて貰うわね」
「な、久寿川先輩もこれで上がりでしょう。この後一緒にお茶でも行きませんか?」
二人に割って入り、誘うもののささらは罰が悪そうに苦笑を浮かべていた。
「ごめんなさい。まだ私は少しだけ残ってるから…」
「え?そうなんすか。最近、残ってるけどそんなに仕事が多いんですか」
「そ、そう言う訳じゃないですけど……」
雄二にささらとの会話の邪魔をされた環は軽く溜息を吐き今度は貴明の方に顔を向けた。
「全くしょうがないわね…タカ坊はどうするの?帰るの」
「え?俺は…」
環の言葉に微妙な表情になり視線を動かすとささら視線が合った。
僅かの間、見つめ合い頬を徐々に赤く染まり照れ臭そうにどちらともなく視線を逸らす。
「…まだ自分の分があるし俺も少しだけ残って行くよ」
そんなあらかさまな反応に環は可笑しそうに笑った。
「ふふっ」
「な、何で笑うんだよ」
「なんでもないわよ。お熱い二人の邪魔者はしないから安心なさい」
「じ、邪魔者ってそんな……」
「ほら、このみも帰りましょう」
「うん。じゃーね。タカ君~」
「ほら。雄二も帰るわよ」
「ちょっ!?姉貴何をするんだ。俺は先輩を………」
「良いから来なさい!」
「あたたたた」
何時ものように騒がしく立ち去る皆を苦笑交じりに見送った。
「それじゃ俺達は……残りの作業を済ませようか」
「うん」

生徒会室に残った二人。
無言で作業をする風景は傍から見たら没頭しているかのように見える。
しかし、二人きりになった途端何処となく落ち着きが無く視線を動かし何故か時計を気にしていた。
そして、15分が過ぎた時…ささらの方から何処か遠慮がちに貴明を呼び傍らまで来るように誘う。
「どうした」
「あのね……そろそろ、良いと思うんだけど」
恥ずかしそうにお願いするささらにわざとらしく咳をし考える仕草をする。
「そうだな……他の皆も帰っただろうし。うん、おいで」
床に胡坐をかき手招きで誘うとまるで小動物のように駆け寄り貴明の膝の上に座った。

「ふふっ。貴明さんの体…温かくて気持ちが良い」
「そうかな?自分ではよく分からないけど」
「うん…凄く、落ちつくの」
胸に背中を預けてくるささらの体を、愛でるように貴明は優しく撫でた。

本当は、残っている生徒会の仕事はどうでも良い雑用なものばかりだ。
しかし、あえて理由を付け生徒会室に残りこうして二人っきりになる為の工作。
そう人目を憚らず甘える為なのだった。
放課後のこの瞬間は間違いなく、人目を気にしずに二人っきりになれる場所の一つなのだから…

「だけど、ささらの体も良い匂いがして気持ちが良いよ。髪もこんなにサラサラだし」
「ん…ちょっとくすぐったい」
「あ、嫌だった?」
「ううん、全然。むしろもっと貴明さんに触れて欲しい」
見つめ合うささらの甘い言葉に手を触れあいながら笑いあう。
「それは嬉しい申し出だけど、今はこれぐらいにしておくよ」
「…遠慮しなくて良いのに」
物足りないのか何処かむくれるささらに、貴明は言い辛そうに苦笑を浮かべていた。
「遠慮じゃ無くて……そんな事したら我慢が出来なくなるからね。家に来た時の楽しみに取っておくよ」
「……あ、うん。そう…ね」
貴明の真意が伝わったささらは納得したのか頬を赤く染め上げ頷いた。
でも、やっぱり物足りないのか複雑な顔をしていた。
「そんな顔しない。次の休みまでだから」
「分かってるけど、私はもっと………それなら、一つだけお願い聞いてくれる?」
「何を?」
「………キスして」
間違いなくその行為も貴明のリミットを外しかねない事だったが、直向きな瞳で見つめてくるささらのお願いを断る事は出来そうになかった。
「一回だけだよ」
「うん、分かってるから…お願い」

そんな遠巻きでも分かるぐらい、バカップル全開の貴明達を扉の隙間から覗く影が三つ。
先に帰った筈の環、雄二、このみの三人だった。
「全く……最近妙に残ってるから何をしてるかと思えば……何よ、あれ?」
少し呆れ顔の環に雄二の本音がポロリと漏れた。
「なんだ。羨ましいのか姉貴?」
「ち、違うわよ!」
貴明達に聞こえないように口元を抑えられながら雄二に必殺のアイアンクローを食らわされくぐもった声を上げていた。
「でも、二人とも凄い幸せそう。ささら先輩、良いな……」
このみの率直な呟きに環も心の中で相槌を打った。
(そうよ。私だってタカ坊とあんな事やこんな事をしたかったのに………まさか久寿川さんに負けるなんて)
幼少の頃から思いを馳せていた大切な少年を取られ複雑な心境。
幸せそうな二人を見てると励ましたくなる半面、どうしようもなく悲しくなる。
あとほんのちょっぴりだけ羨ましい環であった。
そう、あくまでちょっぴりだけ。

~End~



~お礼の言葉~
今回初めてのイラストを入れてみました。
イラストからの想像を入れる為に話はあえて短めです。
イラストの筆記者は私ではなく、とあるサイトの絵師さんにお願いして許可を貰い貸して貰ってますのでイラストの無断転載等は止めてくださいね。
許可をしてくれた絵師さんには感謝です。(^^)








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