「それじゃ、私は先に上がりますね」
日が暮れて社内に夕陽が射しこむ頃、仕事を終えた小鳥さんが帰り仕度を済ませ最後の挨拶をしてきた。
「あ、はい。お疲れ様です」
「プロデューサーさん今日も残るんですか?」
「もう少しだけですけど、そのつもりです」
「そうですか・・・あまり無理はしないでくださいね」
「分ってますよ、小鳥さん」
元気に返事すると、小鳥さんは少し複雑そうな眼で俺を見つめた。
「本当かしら・・・あの娘が寂しそうにしてるのを知ってるのかしら・・・」
「え?」
「いいえ、何でもないですよ。それじゃ、お疲れ様です」
意味深な事を言って小鳥さんは帰っていった。
事務所に残っている俺は首を傾げるだけだ。
「どういう意味なんだろう・・・・・ま、いっか。俺も仕事を始めないと」

「ふう・・・終わった、終わった。もうこんな時間か・・・・」
あれから数時間が経ちやっと仕事を終え、パソコンに表示されている時計を見て思わず呟く。
「もう9時か・・・結構かかったな」
ディスプレイを覗くとそこにはこれからの千早のスケジュールがびっしり詰め込まれていた。
デビューから早くしてAランクになった千早の存在感は今は世間の一番注目のアイドルだ。
それを生かすが殺すかは、プロデューサーの俺次第。
後は、頂点に上がれるかどうかだよな……

「んー!体がギシギシ言ってるよ」
一息ついた俺は腕を伸ばしたり自分で肩を揉んだりとこった体をほぐしていると、ふと後ろから声が聞こえてきた。
「お疲れ様です。珈琲はどうですか」

「ああ、ありがと・・・・・・って千早!?

急に声をかけられてびっくりした俺は慌てて後ろを振り返ると、そこには数時間前に帰った筈の千早が何故か立っていた。
「ち、千早!?お前なんでここに!」
「何でって、私はこの事務所に所属しているのですから居るのは当たり前ですよ」
「いや、俺が聞いてるのはそっちじゃなくてだな。・・・第一こんな時間に一人で来るなんて何かあったらどうするんだよ」
「大丈夫ですよ。私、ずっと事務所に居ましたから」
「なんだって!?」
ずっとて、俺全然気がつかなかったぞ・・・・
「いや、そもそも何で仕事もないのに残ってるんだ?家に帰らないのか」
俺がそう聞くと千早は頬を染めながら恥ずかしそうに話す。
「そ、それは、何時もプロデューサーだけが遅くまで残ってるのが気になって。私だけ先に帰るのが悪い気がしてましたので・・・」
「俺は良いんだよ。これが仕事なんだからさ、千早はアイドルが仕事じゃないか。こんな時間まで残って帰りはどうするつもりなんだ」
口調を少しきつくして注意すると、千早は悲しそうに表情を曇らす。
「それは・・・・・・別に、私は子供じゃないですから一人で歩いて帰れますよ」
軽率なその言葉に俺は少し苛立ったように頭を掻く。
全く人気アイドルとしての自覚はないのだろうか…今千早が路上を歩いていたらそれこそ人だかりが出来るぞ。

「馬鹿。少しは人気アイドルとしての自覚を持てって。こんな暗い夜道を一人で帰ったら何があるか分らんぞ」
「そんな・・・私なんて、好き好んで襲う人なんて居ないですよ。胸も小さいですし、そう言う人はもっと綺麗な・・・・」
自分の胸を触りそんな事を言う千早にちょっと頭に来た俺は声を荒げてとんでもない事を口走る。
「だー!!そんな訳あるか!!千早は十分美人なんだよ、こんな夜道歩いて襲われないか俺が心配なんだ!!!」
あれ?俺何を言った。
ムキなって口走った俺の言葉を聴いた千早はボッと火が付いた様に顔を真っ赤になっていた。
「え・・・・・・プロデュー・・・サー・・・?」
そんな千早を見て俺は冷静に今言った事を思い出ししまったと口を噤む。
俺・・・・感情に任してかなり恥ずかしい事を。
だけど、一度言ってしまった以上訂正は出来ない。
恥ずかしさで真っ赤になりながらも俺は会話を締めくくる。
「と、とにかく一人で帰るのはプロデューサーとして許可できないからな!俺も今日の仕事は終わったし車で送っていってやるから」
「え、、あ・・・・・はい。ありがとう・・・ございます」
照れ隠しのつもりで投げつけるように話す俺の言葉に、千早は恥ずかしそうに俯いていた。
あーくそ、可愛いじゃないか。
その反応に益々照れが湧いてくる俺はまともに千早を見る事が出来ずにちらりと横目で見つめると、目が合った千早は頬を赤く染めながらも嬉しそうに微笑んだ。
思わずその笑顔に俺はドキリとした。
無意識で千早を“抱きしめたい”衝動が湧き上がり腕が動く。
けど・・・
「プロデューサー?」
「あ、え、いや何でもないぞ。何でも!」
呼びかけられた声に俺は我に返り慌てて手を引っ込めた。
「はははっ・・・」
「?」
取りつく様に笑う俺に千早は訝しげな眼で見ていた。
何か気まずいな・・・・なんとか空気を変えないと。
そう思っているとふと千早の指に目が行きある物に止まった。
「ち、千早、その指輪付けてくれてるのか?」
「え、あ、はい・・・何時もは人がいない時にこっそりはめてるだけなんですけど、今日は事務所に人もいませんし付けてみたんです・・・・駄目でしたか?」
千早は細い綺麗な指に白銀に輝く指輪を幸せそうに優しく触れながら聞いてきた。
Aランクに上がった千早に俺がプレゼントした指輪。
そんなに嬉しそうにされると嬉しい反面、恥ずかしくもあった。
「い、良いんじゃないか。今日は俺達しかいないしな」
忙しなく視線を動かし間が持たずに結局千早の淹れてくれた湯気が立ち上る珈琲に口を運ぶ。

「熱っ!?」

「ぷ、プロデューサー大丈夫です・・・くっ、ふふっ」
お約束の様に熱さにやられむせかえる俺の反応を見て千早は心配しながらも口元を押さえながら笑っていた。
「おい…笑うなよ」
情けない姿を見られ笑われた俺は凹みそうになり不貞腐れた顔を向ける。
「ご、ごめんなさい。プロデューサーが可笑しくて、ふふっ・・・・・でも」
笑いを堪えながら謝る千早は、ゆっくりと俺の背後に回る。
そして俺の背中に柔らかい感触が伝わる。
「・・・千早?」
「私はそんなプロデューサーも可愛いくて好きですよ」
うっ・・・そんなはっきり言われると、照れるぞ。
背後から伝わる彼女の温もりと鼓動を感じ俺の心臓は早鐘のように鳴っていた。
「その・・・ご免なさい。笑ってしまって・・・・まだ怒ってますか?」
「別に怒ってないよ。しかしな・・・・・・千早、そんなに強く抱きつかれると俺も色々と我慢が出来なくなるぞ」
俺の肩口に乗せらている小さな手を触れて話す言葉に千早は一瞬体をピクッと震わせて反応をした。
だけど、一層に抱きしめる力を強めて答えてくれた。
「・・・良いですよ。プロデューサーなら私、受け入れますから」
その発言にガツンと頭を殴られた気がした。
ここまで言われて何もしないのも男として情けなさすぎる。
俺は抱きしめられている千早の腕をゆっくりと解き彼女の方へ向き直り抱き寄せる。
「それじゃ遠慮なく・・・」
「ん・・・・」
そのまま千早の頬に手を添えて俺は唇を重ねた。
顔を真っ赤にしながらも千早は拒む事なく体を俺に預けたままにしていた。
時折漏れる互いの吐息を耳にしながらゆっくりと離れる。

「プロデューサー・・・」
「・・・何だ」
「・・・一人であまり無茶しないでくださいね」
「無理はしてないぞ」
「ずっと遅くまで残って、頑張って・・・・体が壊さないか心配なんです」
「大丈夫だって自分の体ぐらいは理解してるつもりだよ」
「ジャンクフードを食ってた人に言われても説得力無いですよ」
「そ、それは・・・」
ごもっともな意見です。
はい、以後気をつけます。
「一人でなんでもしようとしないでください。何か手伝えることがあるなら遠慮なく行ってくださいね」
「ああ、分かったよ…有難う千早」

~End~



***後書き***
随分前に書いたアイマスSSです。
ちょっといまいちだったので色々と修正して再アップ。
SSとしては短すぎるので小ネタ集としてアップします。
千早の可愛さは異常っすね。w
アイマスで一番好きなキャラです。






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