ある日の学校帰りの時、俺は木漏れ日通りにある商店街に足を運んでいた。
「確か家になくなりかけてた物はこれとこれか。後は・・・・」
家になくなりそうな物をうろ覚えながらも、色々と放り込んでいく。
いつもは、楓が買い物をしてるのだが流石に居候の身でなんでも楓だけにやらせておくのは男としてかなり情けない。
だが、俺が何か手伝おうとすると、

「稟くんは、何もしなくても良いんですよ。全部私がやりますから♪」

と、やんわり断られてしまう。
それでも無理に手伝おうとすると、

「私、稟くんにとって必要ないんですか・・・・・」

と、今度は泣き顔になってしまうのでこれ以上は手伝いはできなくなってしまう。
俺としては、もう少し位は俺に対して雑になってもいいと思ってはいるのだが、俺の世話を生甲斐としている楓にとってそれは無理な話なんだよな。

そんな楓の為に、俺なりに考えた数少ない楓への手伝いがこの買い物なのだ。
流石に購入した物を返すとは言いだせないようで、買って来たものは渋々受け取ってはくれる。
もっとも、良妻賢母な楓の事だから家に物が無くなりかけると言うのはあんまり起きないのが難点だ。
学校の行事や他の色々な事が重なり、たまたま起きるぐらいだ。
それで、そのたまにを利用して俺が“楓に内緒”で買い物をやってると言うわけだ。
ここ最近は毎度の騒動の元凶である魔王と神王のおじさんのお陰で、このたまにが前よりは起きやすくなっている。
お陰で俺も楓の手伝いができるので嬉しい限りなんだが。
何時もは面倒な騒動しか起こさないおじさん達もたまには、役に立つ時もあるもんだからこの事については感謝している。





「あれ?稟くんじゃないですか。こんな所で、どうしたんです?」
生肉売り場で、お肉を物色してると不意に俺を呼ぶ声がした。
声のした方へ振り向くと、そこには小柄な体系で綺麗なロングの黒髪をなびかせているどう見ても20代すら怪しいメイド服を着た若い女性が立っていた。
その手には、俺と同じ買い物籠を持っている。
「セージさん。こんばんわです。」
「はい。こんばんわ。」
「俺はただの買い物ですよ。」
籠を少し持ち上げ中身を見せる。
「稟くんが・・ですか?何時もは楓さんがしているのに珍しいですね。」
どこか釈然としないような顔をするセージさん。
あ、やっぱり俺ってそう見られてるんですね。
確かに普段の俺は完璧楓の紐ですからね。
否定できないのが悲しいです。
「いつも、楓にばかりに苦労をかけてますからね。たまには俺もなにか手伝わないと罰があたりますよ。」
「そうなんですか。稟くんは偉いですね〜。」
そう言いながら、少し背伸びをし俺の事を褒める様に頭を撫でるセージさん。
「だけど、楓さんはまた落ち込むんじゃないんですか?稟くんの手をわずわらせたーって。」
楓の俺へのつくしっぷりを知ってるセージさんは意地悪気味に最後にそう付け加えた。
あまりにも予想出来過ぎる事なので、俺は苦笑いで返しておいた。






「それで、セージさんは夕飯の買い物ですか?」
「はい、そうですよ。特に今日は特売の日ですからね。頑張って買い物をしちゃいます♪」
そう宣言して小さくガッツポーズを取る。
この仕草はシアに似てなくもないな。妙に人間の主婦じみてるのがなんともね。
しかし、どこかその可愛さに、微笑んでしまう。
「あー、稟くんたら何笑ってるんですかー!」
「いえ、セージさんも結構可愛いところあるなーっと思っただけですよ。」
「な、なななな何言ってるんですか!!こんなおばさんに言う言葉じゃないですよ!?」
俺の言葉に本気で顔を真っ赤にするセージさん。
しかし、おばさんって・・・・この人は、自分がどれだけ若々しく見えてるのか分ってないんだろうな。
とても一児の母には見えないというのに。
「いや俺は、本気で可愛いと思ってますよ。何事も一生懸命なところとかが、とてもセージさんらしいですし。」
「あうあうあう〜・・・・」
顔が真っ赤になり過ぎて、もはや湯でタコの様な感じだ。
口もパクパクと動かしてるし。
「・・・・・・稟くんにそう言われると嬉しいですけど、それだと私も色々と・・・・・・」
「え、何か言いました?」
「い、いいえ!なんでもありませんよ!!さ、それよりも買い物の続きしましょう。」
「?そうですね。」
小声で喋ったセージさんの言葉は聞き取れなかったが、先に小走りに行くセージさんに追いつく為に俺も歩く速度を少しだけ上げた。


「そういえば、買い物は何時もセージさんがしてるんですか。」
「ええ、そうですよ。スーパーのバーゲン時間、目玉商品すべてチラシでチェック済みですよ。ご近所の奥様方とも色々話もしてますし、妥協はなしです!」
「は、ははははは」
なんかその、光景が想像出来すぎて乾いた笑いしかでない。
しかし、魔界の王妃がチラシでバーゲンをチェックって、嫌な真実聞いたな。
「でも、魔王のおじさんは、何も言わないんですか?おじさんなら喜んで行きそうな気がしますけど。」
「流石稟くん。パパの事も良く分かってますよね☆もちろん、行きたいと駄々をこねるんですけど世間体もありますからね。土日だけの家事だけで妥協はしてもらってます。」
「それでも、行こうとしたら?」
「サンダーキックで眠ってもらってます♪」
怖い事をにっこり笑顔でさらりと言う。
こえ〜〜〜〜〜〜〜・・・・
おじさんそれでも、無理に行こうとしそうだからな。いずれセージさんによって殺されるんじゃないかと、思ってしまう。


そのまま二人で、世間話をしながら楽しく買い物を続けた。
お会計を済ませ、デパートを出ると結構な時間が経っていて、日は沈みかけている。
「すみません。荷物持ってもらってしまって。」
「いえいえ、こうゆう力仕事は男の仕事ですから任せて下さい。」
俺の両手には自分の買い物の分とセージさんの買い物の分と二つ分持っている。力こぶを作り、力強く表現するが実の所荷物は結構重い。だがここは重くても意地で持つのが男ってもんだろう。
日ごろから親衛隊に追い回されて鍛えた根性は伊達じゃないぜ。
「ふふふ、それじゃ頼もしい〜未来の息子さんにお任せしちゃおうかしら。」
「な、なんですかその未来の息子って・・・・」
変な表現に戸惑うが、セージさんはそんな俺はお構いなしで顔を覗き込みながらはっきり答える。
「だって、ネリネちゃんと稟くんが結婚したら私達と親子になるのですから、私とも家族になれるじゃないですか。良いんですよ私の事をママと呼んでも♪」
そう言いながら腕を広げる。その顔は冗談なんかではなく、『言ってくれないかな?』と本気で期待している顔だ。
なんかこうゆう行動パターンは魔王のおじさんに似てると思うよ、うん。二人は似た者夫婦と思います。
「謹んで遠慮させていただきます。」
「ええー。」
俺は、今後の為に丁重にお断りした。
その結果にどこかセージさんは頬を膨らませてかなりの不満顔だ。
剥れた頬には相当の不満が溜まってそうだな。






木漏れ日通りを出て住宅街に入った所で何所からもなく、小さな子供の泣き声が聞こえてきた。
その声に俺達は足を止める。
「この声は、公園からですね。・・・・・・って、稟くん?」
どうやら声の発信源は、少し先の公園の中からなようだ。
俺はそのままその泣き声に誘われるままに、公園の中に入る。
セージさんも慌てて俺についてきた。
中に入ると一人だけぽつんと立ち、泣き叫んでる子供が一人居た。
周りを見ると、他の子供や親の姿は見えない。多分、迷子にでもなったのだろう。
俺は、その子供の傍に行き優しく笑いかける。
「どうしたんだい?お母さんは?」
俺の言葉に今までの不安をぶつけるぐらいの大音量で泣き喚く。
そんな泣き声にも、俺は嫌な顔を一つせず子供が落ち着くように頭を撫でる。
「大丈夫だよ。お母さんが見つかるまで一緒にいてあげるから。」
泣き声は相変わらずだが、しっかりと俺の言葉が伝わったのか小さくコクッと頷く。
「稟くん・・」
後ろで何所か惚けた感じで居るセージさんに言う。
「セージさんすみません。この子の親が見つかるまで、一緒に居たいと思ってますので先に帰ってもらっても良いですよ?ついでに楓にも言づけお願いします。」
セージさんはこれから、夕飯の支度とか色々あるだろうから俺に付き合わせる訳にはいかない。先にセージさんだけでも帰らせようと気を使ったのだが、セージさんは首を縦には振らなかった。
「なに言ってるんですか、泣いてる子を放って置いて帰れるわけないじゃないですか。」
「でも、それだと夕飯の支度とかはどうするんですか?」
「大丈夫ですよ。家にはパパが居ますしね。」
「セージさん・・・・・ありがとうございます。」
少し申し訳なく思ったが、セージさんも付き合ってくれるのは素直に嬉しかった。
お礼を言う俺に、セージさんは優しく微笑み返してくれる。

「じゃ、ぼく。ママが見つかるまでおばさん達と一緒に遊ぼっか。」
しゃがんで子どもと同じ目の高さに合わせながら言うセージさんの言葉に小さく頷く。
先ほどよりも落ち着いたのか子供ももう泣いてはいない。
「君の、お名前は?」
「・・・・・」
最初は見知らぬ人が不安なのか、だんまりとしているが優しい笑顔を浮かべるセージさんに段々安心してきて口が開く。
「・・・・たけし。」
まだ不安な顔をしていたが、しっかりと名前を答える。
「たけし君か。良い名前だね。何して遊びたい?」
「・・・ブランコ。」
「それじゃ、一緒に乗ろうっか。」
「うん。」
セージさんの、誘いに少しだけ顔が綻ぶ。
手を繋ぎブランコの傍まで歩いて行く二人。
「ほら、稟くんも一緒にやりましょう〜。」
男の子の方も、俺の事をじっと見ていて俺が来てくるのを待ってるみたいだ。
「ええ、今行きますよ。」
俺はそそくさと二人の元へ行き一緒にブランコを乗り遊んだ。

ブランコに乗るなんて子供の時以来だ。
セージさんも、童心にかえってるのか勢いよくブンブン揺れている。
「私ってブランコって乗るの初めてなんですよ。魔界にはこうゆう娯楽設備はあまり有りませんからね。」
「そうなんですか。・・・・・・って、セージさんあんまり激しく揺らすと!」
「え!なんですかー?」
何も気づいてない、純粋にただ楽しんでる屈託無い笑顔で返されて俺は続きの言葉を飲み込んでしまった。
『あんまり揺らすとスカートが揺れて下着が見えるよ』と言いたかったんだけど・・・・・ま、ここには俺達しかいないし無理に雰囲気を壊さなくても良いか。
スカートが揺れる度に、微かに白い何かが見えるのが落ち着かなくはあるけど。






それからしばらく三人で遊んでいると、男の子の母親らしき人が公園に現れた。
「たけし!」
「お母さん!」
かなりの時間探していたのか、母親の顔は不安と疲労で疲れ果てていた。
子供の安否を確かめる様に、何度も体を優しく撫でる。
「どこもなんともない。」
「うん、大丈夫だよ。あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒に居てくれたから。」
そう俺たちを指さすと、母親は俺達の方に向きお礼を言った。
「本当にすみません。ほら、たけしもちゃんとお礼言いなさい。」
「うん!ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
「いえ、気にしないでください。」
「たけしくん。もう迷子になっちゃダメだよ。」
「うん、分った。お姉ちゃん。」
セージさんに頭を撫でられながら元気にそう返事をする。
親子は何度も俺達にお礼をしながら、家路について行った。



「無事に母親が見つかって良かったですね。」
「そうですね・・・・」
迷子の親子を見送った後に、セージさんの呟きに相槌を打つ。
それにしても、母親・・・・か。
そっと俺はセージさんの方を見る。
見た目はかなり幼く見えるが、やはりセージさんも一児の母なんだなーと思ってしまった。
子供のあやす仕草や、表情は母親の顔だった。
その光景を思い出すとどこか懐かしく感じる。
昔の記憶、まだ母親が俺に傍に居た時の記憶が朧な感じでは残っている。
俺も、あんな感じで母親に抱き締められていた時もあったのだろうか。
もう何年も前の出来事だから、記憶はあやふやだから答えは分らない。

「どうしたんですか?私の顔をじっと見て。」
流石にずっと見てたのでセージさんもその視線に気づいたみたいだ。
「いえ・・・ただセージさんも母親なんだなーと思っただけですよ。」
「なんですか、それ?私もネリネちゃんのママなんですから当たり前ですよ。」
「そう・・・・ですよね。」
どこか悲しげな顔をする俺にセージさんは、労わりの表情を向けてくる。
「どうしてんですか稟くん?少し悲しい顔をしてます。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・母親の事を、少し思い出してたんですよ。」
「稟くんのお母さんですか?」
「はい。」
俺の答えに複雑な顔をする。
俺からは何も教えてないが、多分セージさんは俺の過去は知っているだろう。資料としてはある程度、俺の過去や経歴は分るだろうからな。
俺の母親が小さい頃に他界している事、その事故が起きた理由も。
何所か気まずい雰囲気が流れるが、セージさんは恐る恐る俺に聞いてきた。

「一つ聞いても良いですか?」
「はい。」
「・・・・・稟くんのお母さんって、どんな人だったんですか。」
「優しい人でしたよ。曲がった事が嫌いでしたし、よく人に迷惑になる事はしない様にと教えられました。」
「誠実な人だったんですね。・・・稟くんは母親似じゃなかったですか?」
「あー・・・そうかもしれないですね。親父はよく仕事で家を空けてましたから、俺は母さんを見て育ったみたいなもんですし。」
「そうなんですか。」
「はい。・・・・なんかしんみりな話してしまいましたね。俺たちも帰りましょうか。」
今の暗い雰囲気を変えようと、俺はこの話を打ち切り公園を出ようとするがセージさんが俺を呼びとめた。
「稟くんは・・・・・お母さんが居なくて寂いんですか?」
「そうですね・・・・寂しくないっていったら嘘になりますけど、今は寂しくないですよ。」
「本当ですか。」
「ええ、今は楓もいますしシアやネリネ、それに神王や魔王のおじさんとか特に賑わしい人に囲まれてますからね。寂しさなんて感じる暇なんてないですよ。」
そう力いっぱい俺は笑ってみせる。

スッ

だけど、セージさんは俺を顔を優しく掴み自分の胸に抱き締めてきた。
俺の今の言葉は嘘偽りはないのだが、それでもセージさんには俺がまだ悲しい顔をしてる風に見えたのだろう。
「稟くんは強いんですね。」
「そう・・・でもないですよ。ただ我慢強いだけです。」
「稟くんらしいですね。・・・・・子供が母親の温もりを恋しく思うのは、幾つになっても恥ずかしい事じゃないですよ。それだけ大切に思ってる証ですから。」
「そう・・・でしょうか。」
「そうですよ。」
俺の頭を優しく撫でながら抱き締める力を少し強める。
「私じゃ稟くんの本当の母親にはなれません。けど、母親の温もりが恋しくなったらいつでも言ってくださいね。これでも一児の母ですから、母親としての温もりなら与える事は出来ますよ。」
そう優しく微笑んでくれる。
その言葉の表現はセージさんらしいと言うかなんというか・・・・でも、俺は抱き締められた腕を振りはらわずその温もりをただ感じていた。セージさんは俺の母親とは似てもにつかないが、その優しい温もりだけは母さんと同じ気がしてきた。
ああー・・・母さんの温もりもこんな感じだったのかな・・・・・

『どうしたの、稟?』
『かけっこで負けた・・・・』
『そう。でも稟は一生懸命頑張ったんでしょう?』
『うん・・』
『なら胸を張りなさい、稟。悔しいなら次は負けないようにもっと頑張れば良いのよ。』
『うん。』
『ほら、そんな泣きそうな顔をしない。男の子でしょう。』
『うん、うん。』

朧な記憶の中で、一つの思い出が浮かんできた。
昔、かけっこで負けて悔しくて悲しくてどうしようもなかったけど母さんの言葉で俺は次も頑張ろうという気になれた。
俺の記憶の中で一番最後に母さんの温もりを感じた日だ。
今まで忘れてたけど、そういえば母さんの温もりもこんな優しい感じだったけ・・・・
自然に俺の頬には一滴の涙が流れていた。
悲しくて泣いているのか嬉しくて泣いているのか俺には分からないけど、この温もりはとても穏やかにしてくれる。そんな気がする。

ありがとう、セージさん。

面と向かって言うのは恥ずかしかったので俺は心の中でお礼を言った。






しばらくあのままでいたせいで、結局俺達が家に着く頃には完全に日が暮れてしまっていた。
「すみません。俺のせいで家に着くのが遅くなっちゃって。」
「気にしないで良いんですよ、稟くん。」
そう笑顔で返すセージさんだが、あんな事をした後だと、まともにセージさんの顔を見るのが恥ずかしくて出来なかった。
恥しさを誤魔化すために頭を掻くが、セージさんは微笑んだままじっとこっちを見ているので全然落ち着かない。
「そ、それじゃ俺は家に入りますね。今日はありがとうございましたセージさん。」
俺は恥しさに我慢が出来なくなりそそくさと家の門をくぐった。
「はい、おやすみなさい稟くん。」
「おやすみなさい、セージさん。」
こっちに手を振るセージさんに、手を振り返す。
その時に最後に見たセージさんの顔は、とても嬉しそうな顔だった。



「ただいま・・・・」
「あ!稟くん、無事だったんですか!!」
「か、楓!?」
玄関に入って来た俺を、勢いよく抱きついてきて、ぎゅっと力強く俺を抱き締めてくる。
「良かったです・・・・無事だったんですね・・・帰りが遅いので心配しました・・・」
「あー・・・ごめん。帰るの遅くなりすぎたな。」
「えぐっ、良いんです無事だったなら・・・・・・・でも、どうしてこんなに遅くなったんですか?」
俺の胸に抱きつきながら、顔を上げて聞いてくる。
「いや、買い物をしようとしてたらセージさんと会ってな。一緒に買い物してた。」
俺の両手に持っているデパートの袋を見せる。
「それで遅くなったんですか・・・・・あ、すみません!!私が、だらしないばっかりに稟くんにまたご迷惑を・・・・」
「いや、俺が好きでやってる事だから気にするなって。」
「はい・・・・」
相変わらず俺に関する事だけは過剰に感じる節がある楓に半分呆れながらも、楓の頭を撫でながらあやす。が、突然楓の背後から声がした。
「楓、お腹すいた。」

「プリムラ!?」
「リムちゃん!?」

いきなりで二人ともびっくりする。
「プリムラ何時からそこに居たんだ?」
「さっきから居た。」
あ・・・・楓の状態にばかり目が行ってて全然気が付かなかった。
「楓」
「あ、はい。すぐに夕飯の準備しますね。」
慌ててダイニングに戻る楓だが、俺の持ってる荷物を持って行くのを忘れないあたり流石だ。
「まだ夕飯の準備はされてないのか?」
「うん。稟の帰りが遅いせい。」
「う!?ごめんなさい・・・」
「いい。無事だったなら、そっちの方が良いから。」
「あ、もしかしてプリムラも俺の事心配してくれてたのか?」
そうプリムラの顔を覗くと、何処となく顔が真っ赤だ。
「ありがとうな、プリムラ。」
ポンと頭に手を載せると恥ずかしそうに眼を細める。
「次からは、遅くなるなら連絡して。」
「ああ、そうする事にするよ。」
そう言い残し着替える為に自室に戻ろうとするが、プリムラに呼び止められた。
「稟」
「なんだ、プリムラ?」
階段を数段上がった所で足を止める。
「なにか良い事でもあった?」
「・・・なんでそう思うんだ?」
「別に・・・何か嬉しそうな顔をしてる様な気がしただけ。」
「何にもないよ。それよりも先にリビングに行って楓の手伝いをしてくれないか?俺も直ぐに行くから。」
「・・・うん。分った。」
そう言い残し、プリムラは居間に消えて行った。
プリムラにも悟られるなんて、そんなに俺は顔に出てたのか?
確かに良い事はあったけどな。
でも、あの事を人に話すのは流石に恥ずかしいし。

「母さんか・・・・」

今まではその響きにはどこか触れたくない部分ではあったが、今はどこかむずむずするとする変な感じだ。
自室に戻って、今日の出来事を振り返り悶えてる自分が滑稽で仕方が無かった。
でも、心の中では喜んでる自分が居るのは確かだった。




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