※このSSは絶対可憐チルドレン16巻、反抗作戦第一号を葵完全メインにしたパロディストーリーです※

「何でうちだけ別々やねん!」
大音量の怒声が局長室に響き渡った。
声を発したのは野上葵…B.A.B.E.L.へ所属するザ・チルドレンメンバーの一人だ。
腰まで長い髪とすらっとした綺麗な足が特徴的なメガネっ子。
意志が強そうなつり目は更につり上り完全にお怒りモード全開だった。
彼女が不機嫌な理由はだた一つ。
今まで同居していた筈の皆本の家を出て実家である京都へ暮らせとB.A.B.E.L.に報告を受けたからだった。

「あ、葵君。少し落ち着いてくれたまえ、君だってもう中学生なんだよ。何時までも皆本君の家に住む訳にはいかないのだよ」
「そうよ。紫穂ちゃんや薫ちゃんも同様なんだから分かって、ね」
桐壺と柏木が葵を宥めようと試みるが全く聞く耳は持たなかった。
今頃、小学校の卒業に伴い久々に自宅へと帰宅した薫と紫穂も親御から直接今回の報告を受けている事だろう。
桐壺と柏木もご機嫌斜めのお姫様をどうにかしてくれとザ・チルドレンの担当指揮官である皆本に目で訴えかけてきた。
「頼む聞き分けてくれ。政府からも色々と言われてるんだよ。これからも一緒ってわけにはいかないだろう」
「そんなん、関係あらへん!うちは絶対出てかへんで!!どうしてもって言うなら……家出したるわ!!」
「もう中学生になるんだからそんな、子供みたいな我儘言うんじゃない」
「ううっ……何時も子供子供言う癖にこんな時だけ大人扱いするんか!皆本はんの馬鹿、アホ、変態!!」
「あ、待て葵!?変態ってどういう意味だ!!」
勢いよく局長室から出ていく葵の後を皆本は慌てて追った。
「葵君!?」
皆本同様に桐壺も出て行こうとする…しかし、柏木が行く手を阻み止めた。
「局長、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかね!?」
チルドレンに過保護な桐壺の何時もの過剰な反応に呆れた柏木は軽く溜息を吐く。
「局長。あの子だってもう中学生なんですよ。少しは子離れして下さい」
「し、しかし……」
「良いですから、皆本さんがきっと説得してくれる筈です。二人はずっと一緒に組んできたチームなんですから、局長は何もしなくて良いんです。少しはあの子達を信用して下さい」
「うむっ…そうだがわしは……」
「局長!」
「う…む。分かったよ」
有無を言わさない雰囲気を醸し出す柏木に桐壺は首を縦に振るしかなった。

その頃の皆本は廊下を小走りに走る葵の後を必死に追いかけていた。
「何やねん!何時まで付いてくるんや!!」
「葵が納得してくれるまでだよ」
「そんなん無理や!」
聞く耳を持たない葵に皆本は溜息を吐いた。
(全く少しは大きくなってきたと思ったのにこれじゃまだ子供だな…)
そう思うと寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになる。
何時までも子供で居られる訳ではなく、まだ彼女の駄々を見れる事に嬉しく思えるなんて。
だけど、このままにする訳にもいかない。
このままだと最悪な事になりかねないから……
「葵、聞いてくれ。このまま一緒に住んでいると僕たちが解散になるかもしれないんだぞ」
「……それ、どう言う事なん」
予想外の言葉に葵の足は止まり、ゆっくりと振り返ってきた。
「国の方から色々と言われてるんだよ。幾ら上司と部下と言う関係だと言っても僕たちは血の繋がりもないただの他人同然なんだ。結成当時は色々とあったから黙認されてきたけど流石に中学生までになると色々と問題が出てきてるんだよ」
「問題って……何?」
「そ、それは………」
言い辛そうに皆本は口籠った。
理由は色々とあるが、そのどれもが墓穴を掘りそうでならない気がしたからだ。
しかし、何も言わない事へも葵からしたら問題があった。
チルドレンの中では比較的常識人な葵なのだが唯一欠点は感情が高ぶってる時に過度な妄想が湧く節があるのだ。
昔もそれで何度かごたごたがあった……気の利いた事一つでも言えれば良いのだが如何せん、そんな器用な芸当が出来ないのが皆本と言う男なのだ。
結局、口を濁す皆本に葵の怒りのボルテージは臨界点を突破してしまった。
「もうええわ!そんないうんやったら大人しゅー出てったる!!皆本はんはうちが邪魔なんやろう!!!」
投げ捨てるような言葉と流す涙。
悲しそうに頬を濡らす葵に皆本の心の中では罪悪感でズキズキと胸が痛んだ。
本当は彼女を悲しませる事なんてしたくはなかった。
皆本自身も彼女達と気持ちは一緒だから。

「葵、僕は……」
手を伸ばすと、ふと違和感を感じた。
葵の姿がぶれ始めいまにも消えそうだった…まるでテレポートするかのような現象だ。
「え、あれ?何でや」
「リミッターがかけられているのに……まさか暴走!?」
理由は分からないが葵の意志関係なくテレポートしようとしてるのは確かだった。
その影響は葵のみならず皆本自身にも表れていた。
彼女の超度はレベル7。
感情が高まると例えリミッターがかけられていたとしてもどのような力が突発的に出るかのは分からない。
一度、号泣した三人の暴走でB.A.B.E.L.本塔をを半壊させた事もあった。
「い、いかんとまらへん!」
「葵!」
皆本の声も空しく響き二人の姿はそのままその場から跡形もなく消えてしまった。

暫くした、局長室では……
「何ー!!二人が消えただと!!!」
「は、はい。偶然廊下を通っていた職員から報告がありまして……どうやら葵ちゃんのテレポートで消えたみたいで。反応も近くに無いみたいんなんです」
何時もと様子が可笑しく不審に思った職員からの報告で調べた結果がこれだ。
葵のテレポートならばそこまでの長距離の移動は瞬時に出来ない筈なのに数キロ圏内には二人の反応は一切なかった。
「やっぱり皆本君に任せて置くのは危険だった……私も行くべきだった」
「き、局長」
自分が止めた手前の結果故に、柏木は何も言えなかった。
きっと二人は無事であると信じているのだが……本当に何処へ行ったのだろうか。
緊迫した空気が部屋に流れる中、B.A.B.E.L.内が振動を起こし警報が鳴り響いた。
「な、何事だね」
「わ、分かりません。至急確認を……」
慌てて状況確認の連絡を取る柏木。
しかし、誰かしらの叫び声が徐々に近づいてくるのが分かった。
そして、局長室の厳格な大扉が勢いよく吹っ飛んだのだった。
煙がたちこみ、神妙な面持ちでじっと睨む桐壺と柏木。
また半エスパーの過激派のテロか、それともまたパンドラが……その徐々に晴れる白煙の中には二つの小さい人影が見えてきた。
「皆本はここか!!!」
「え…な、か、薫君。それに紫穂君も」
「局長聞きたい事がありますわ。皆本さんは何処です」
「そ、それは……」
言葉を詰まらす桐壺に今度は薫が聞いた。
「隠すと為にならないよ。皆本にはちょっと聞きたい事があるんだ」
完全にプッツンしてる様子の二人の形相はまるで般若のように恐ろしくおぞましかった。
徐々に桐壺に詰め寄る二人を遮るように柏木が慌てて割って入った。
「ふ、二人とも待って!皆本さんは今はいないの。葵ちゃんと一緒に消えてしまって……」
「え?どう言う事」
「それは……」

「ん……うち何で……」
ゆっくりと開く瞼に映る景色は先程までの光景とまるで違っていた。
囁くように吹く風と揺れる木の葉の音。
視界には木々の間に見える星空が見えていた。
現状を理解しようと頭を働かそうとするがまるで鉛を漬け込んだような重みと激しい頭痛が走りそれも叶わなかった。
「痛っ……だめや。頭が痛くてまともに考えられんわ」
諦めて大人しく横になっていると、葵を呼ぶ声が聞こえてきた。
「起きたか。葵」
「あ、皆本はん……うちどないしたん。頭がごっつ痛いねん」
「しょうがないさ。超能力の暴走でここまで飛ばされてきたんだからな」
「暴走……あ」
皆本の言葉にここに来る直前の出来事を葵は思いだした。
はっきりとしない皆本の態度に怒りと悲しみでついカッとなって力が溢れてそして……
「それでここは何処なん」
「さぁな。少し辺りを見てきたけど暗くて良く分からないし道も舗装されてない獣道ばっかだったから。無理に動くのはむしろ危険だ。このまま夜が明けるまでじっとしてる方が安全だな」
「携帯はダメなんか。B.A.B.E.L.に連絡は?」
そう言われ携帯を葵に見せると受信部分の表示が完全に消えており電波がここまで届いてない事を示していた。
となるとよっぽどの田舎の山に飛ばされたかもしくは日本国外に飛ばされたか……兎に角今はこれ以上何も知る事が出来ないのが現状だった。
「しゃーないな……このまま居るしかないんやね」
「そう言う事だな。それよりも……」
皆本の手が額に触れ突然の行為に驚きで葵はびくりと震えた。
「な、なんや。どないしたん」
「んー、やっぱり少し熱っぽいな。リミッターの状態での無理矢理長距離のテレポートをしたんだ。体はなんともないか」
「あ…うん。ちょっと頭が痛い」
「そうか……すまん葵。僕のせいで君に無理をさせてしまった」
素直に謝られ逆に葵の方が申し訳なく感じてしまう。
「そ、そんな事あらへんよ。うちが勝手に暴走しただけやし、皆本はんは悪くないで」
「いや、これは僕の責任だ。とりあえず、今は無理に体は動かさず休んでいた方が良い。僕も傍にいるから」
「う、うん」
そうしてそのまま草むらに二人で夜が明けるまでじっとしている事になった。
しかし、郁ら春先と言えども深夜のこのような時間では風も冷たく体には答える。
スーツとB.A.B.E.L.用制服だけでは尚更だ。
「くしゅん!」
体が冷え込んできたのか大きくくしゃみをし葵は微かに体を震わしていた。
「寒いのか?」
「う、うん。ちょっと……流石にこの時間は冷えるわ」
(そうだよな。防寒具なんて持ってきてないし毛布もない……本音を言うと僕も体が芯から冷えてきてる。このままじゃ、朝になる頃には二人とも体を壊してしまうかもしれない)
何か打開策を考えようと思考を巡らすが良い案が浮かばない。
暫く考えてると一つだけ浮かんだ。
だが、これは色々と問題が………でもこのままと言う訳にも行かない。
皆本は覚悟を決めた。
「葵、ごめん。少しだけ我慢してくれ」
「え?な、み、皆本はん」
スーツのボタンを外しはだかせ、葵を包み混むようにスーツの中に入れるように抱き締めた。
突然の行為に驚いているのか葵は頬を赤く染め上げしどろもどろの反応をしていた。
「こうした方が、少しは温かいだろう。僕なんかとじゃ嫌だろうが朝までの辛抱だから我慢してくれ」
出来る限り優しく告げられ、それでもぎゅっと力強く抱きしめらた葵は嬉しさと恥ずかしさで頭一杯だった。
(え?な、なんやのこの展開。まさかあの皆本はんがこんな事してくれるなんて夢やないの……あ、痛い。頬が痛い。ゆ、夢やないんや!!)
「どうした、ちょっと力が強かったか」
「え?あ、その、大丈夫。温かくて丁度ええ」
「そうか、それなら良かった……な、葵」
抱きしめられている現状と真剣な皆本の目に見つめられ葵は正常心を保つ事が出来ずにしどろもどろに答えた。
「な、なんやの」
「さっきの話なんだけど…」
「さっき?」
「ほら、B.A.B.E.L.で言った事だよ。本当は僕だって君たちと離れたくないだ……だけど、年頃の女の子と男が一緒に住むには色々と世間体がまずい。政府からは担当を変えるように言われたけどそれだけは絶対にしたくなかったから妥協案で別居すると言う事になったんだ。だから、分かってくれないか」
先程はあまりにも急な事で聞きいれることなど出来なかった葵だったが今のこんな極限な状態で…しかも抱きしめられている恰好では怒る事も出来なかった。
「皆本はん……今の状況でそないな事言うのずるいわ。こんな恰好じゃうち怒れへんやん」
「ごめん…でも、僕は決して君が迷惑でも嫌いでもない。大切だから、失いたくないから言ってるんだ。これだけは分かって欲しい」
「もう、ええよ。うちだって、何時までも子供ちゃうし、頭に血が上って言い過ぎたし……それぐらいは我慢したるわ」
「ありがとう葵」
葵の言葉に安堵の表情を浮かべ月の光でキラキラと輝く黒髪を優しく撫でた。
梳かすように優しく優しく。
(本当にずるいわ。こんな優しくされたら駄々こねてる自分が馬鹿みたいやもん……それに、皆本はんのこの言葉だけで十分や)
別にチームが解散する訳でもない。
いざとなればテレポーターである葵ならば自由に会いに行く事も可能だろう。
ただ、何時もより会える日数が減るだけ。
別々になるのは寂しくて泣きそうだけど、皆本も同じ気持ちだと思うとそれも少しは和らぐような気がした。
「なぁ、皆本はん。もう我儘言わへん…せやから一つだけお願い聞いてくれへん」
「何をだい」
「キス……して欲しいねん」
「え?」
突然の葵からのお願いに皆本は意味が良く分からず直ぐに反応が出来なかった。
(キスだと…あれかあの鱚か?鱚が食べたいと言う意味か……いやいやいや絶対違うだろう)
思考を巡らせ別の意味を模索するが、頬を朱に染め潤んだ瞳で見つめる葵からにはふざけている様子もなく純粋に真っ直ぐに皆本を見つめていた。
「ほ、本気で言ってるのか?」
「冗談でこないな事言わへんよ。してくれたら、うち我慢するから……せやからお願い皆本はん。今だけ」
まだ幼さが残る面影とは裏腹に今の葵には年不相応の色気を感じていた。
数年前までは子供、子供と怒鳴っていたのに………年甲斐もなく皆本の鼓動が徐々に速くなってきた。
戸惑いながらも葵の肩に触れると小さく震えていた。
まるで何かを怯えるように。
「葵、震えてるぞ。無理してないか」
「ううん。無理はしてへんよ……ただ」
「ただ?」
「皆本はんが答えてくれへん……それが怖いだけや」
哀愁を帯びた瞳に皆本の心はズキリと痛んだ。
チームを組んでからずっと一緒だった。
最初は本人の意志関係なくの結成だったけど、今思えばあの日出会えた事はとてもうれしい事だったと言える。
それに皆本も葵が、チルドレンが嫌いなわけではない。
少しづつ成長する彼女達に対して、部下、妹以外の感情を感じる事は少なくはない。
ただ、まだ未成熟なこの子たちと一定以上の関係を結ぶ事は戸惑いとそして恐怖がある。
大人に近づくにつれてあの悪夢に近づくような気がして……だけど、こんなにも真摯に思いを伝えて来られたら迷ってしまう。
「本当に良いのか」
「してくれへん方が嫌や」
「分かった……キスだけぞ」
「うん、して」
天に輝く星空の下に触れる唇。
ただ重ねるだけの優しいキスだったが二人の鼓動ははち切れないほどに高鳴っていた。
「キスってすごいんやね。うちまだドキドキしてる」
「そ、そうか。薫と紫穂には内緒だぞ」
「分かってる。せやからもうぐらい一回してもええよね」
「お、おい。葵!?」
未だ確かなものはなく、この先に待つのはより険しいものになる事は容易に想像出来るだろう。
だが、二人の思いに揺らぎはなく何処までも果てしない。
未来は人の意志で掴むものだから……最も今はそれよりも超えるべきものがあるのだがそれはすぐ傍にある。
そう、こいつらの事だ。

「あ~お~い~……」
「あ~お~い~ちゃ~ん……」
突然空から聞こえた声に慌てて二人が見上げると空に浮かぶ人が二つあった。
逆光で顔は見えなかったが二人の服は葵と同じ制服だった。
「か、薫」
「し、紫穂もなんでここにいるんや」
「何でって局長から、貴方達二人が居なくなったって聞いたから探してたんだよ」
「そうよ。全く人がどれだけ心配したかと思ってるのよ……なのに抜け駆けしてるとはね」
「え?あ、こ、これはちゃうねん」
必死に良い訳をする葵に冷たく睨まれそれ以上は何も言えず縮こまってしまった。
皆本も皆本で雰囲気に押され反論も出来ないでいた。
「とりあえず、皆本」
「とりあえず、皆本さん」
「な、なんだ」
「色々と聞きたい事はあるけど、今はまず葵にした事を私達にもしてもらわないと」
「そうね。葵ちゃんだけなんて不公平だわ。話はそれからね」
「な、ちょっと待て二人とも!?目が怖いぞ」
身の危険を感じ逃げようと試みるが何故か体が動かない。
良く見ると薫の手が赤く光り、皆本を捕えていた。
もはや逃げ道なし。
「とりあえず葵ちゃんと深夜に二人っきり。何があったか包み隠さず全部話して貰うわよ」
「う、嘘つけ。サイコメトラーで見ようとしてるじゃないか!!」
「だってこうしないと都合の悪い事は隠しちゃうでしょう」
「じ、人権侵害だ!!」
「皆本!!」
「大人しく覚悟しなさい!!」
「いや~~~~~~!!!」
深夜の山奥で大きな悲鳴が響いたのだった。
後日、無事B.A.B.E.L.に帰還した二人……なのだが特に皆本の顔が酷く疲労しており、今回の件での報告の時彼はあの日の夜、何があったのか決して口にしなかったと言う。

余談だが、薫と紫穂の暴走により破壊したB.A.B.E.L.内の施設は数十億円にあたり、その性で三人を別々にするのが危険と政府が判断。そのお陰で別居の話は無しになったらしいのだがそれは真か否か定かではない。

~End~









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