アーハンラブラ城からタバサを助け出して数日が経ったある日。
俺達は何時もの日常を取り戻しトリステインで過ごしていた。
ただ少し前より変わった事があるそれは・・・
「よ、タバサ待ったか」
「全然・・・」
少し恥ずかしそうにだけど嬉しそうに微笑むタバサと仲良くなれた事だった。



俺は、この世界の言葉に興味が湧きトリステインに戻ってからもタバサに教えて貰っていた。
別にタバサに教えて貰わなくても良い気もしたけど、どうせ字を覚えるなら面白い本も読みたい為に結局タバサがいるであろう図書室に俺はほぼ毎日入り浸っていた。
ルイズに話すと色々面倒になりそうだから何となく内緒で来ていたりするのだがな。
「これは、相手を指す言葉こっちが付くと目上の人を指す言葉になる」
「そうか。それでこっちは、これは親しい相手に指す言葉」
タバサの教え方は淡々と簡潔な方法でしか教えられなかったがそのどれも明確に的を射ていて俺にとってはとても分り易くみるみると覚えていった。
「ふーん・・・ちょっと字が着くだけで色々と意味があるんだな。俺の世界の言葉みたいだよ」
「貴方の世界もこの文字なの?」
「ん?いや、俺の住んでた国は違うな。他の国の言葉の方が近いぜ」
「そう・・・」
返事だけをして俺をじっと見つめるタバサ。
何だかその瞳が何かを訴えかけるようで俺は少しだけ動揺していた。
何が言いたいんだタバサは。
「どうした、タバサ」
「・・・これが終わったら貴方の事、貴方の住んでた世界の事教えて」
「え?俺の」
俺の問いにコクッと小さく頷く。
「良いけど、あまり面白い事なんてないぜ」
「良い。私が知りたいだけ。ただ・・・貴方が嫌なら強制はしない」
ってそう言いながらすっごく期待した目を向けてるんですけど・・・しょーがねーな。
「分ったよ。これが終わったらな」
「うん」
嬉しそうに口元に笑みを浮かべるタバサに俺は一瞬だけドキリとした。
「・・・何?」
「い、いや何でもねーよ。ほら早く続き教えてくれよ」
びっくりした・・・タバサって笑うとあんなに可愛いのかよ。
今までも相変わらずの無表情だがたまに魅せるこの笑顔のギャップはちょっと反則じゃないっすか?
変に意識しながら更に数時間。
先程の事もあってか俺は落ち着かず何時もより遅くなってしまった。
なんとか読み終わる事が出来たけど時間は結構過ぎていて図書室の窓からは夕日が指しこんでいて部屋を赤く染めていた。
こんな時間じゃあと少しでここも鍵がかけられてしまうだろう。
「・・・ごめん。タバサ、何か俺変に緊張してこんなに遅くなってさ」
「・・・良い。気にしないで」
何時もの淡々とした言葉の中にちょっと陰りを感じるのは俺の気のせいだろうか。
そう思うと申し訳ない気持ちになってきてしまう。
暫し無言でいるとタバサはゆっくり立ち上がった。
「タバサ?」
「・・・夕食が終わったら私の部屋に来て」
「おい。それって・・・」
「待ってるから」
意外な申し出に驚き口をパクパクする俺を尻目に言いたい事だけ言ったタバサは振り返ることなくさっさと出て行ってしまった。
どうやらタバサは是が非でも話を聞きたいらしい。
呆然としていると、誰も居ない筈の後ろから聞きなれた声が聞こえた。
『全くガリアのお姫さんも、相棒にお熱みたいだな。今時は平民がもてるのかね』
カチカチと音を立てながら話す俺の剣。デルフリンガーだ。
「んだよデルフ。馬鹿にしてんのかよ」
『んにゃ。そんな事ないぜ。ただ、何時まで嬢ちゃんに黙ってる気だ。いい加減言った方が身の為だと思うぜ』
「うっ。だって何も疚しい事してないぜ。わざわざ言う事でもないだろう」
『そうか。相棒がそう言うなら良いけどよ。お姫さんの部屋に行く時の良い訳ぐらいは考えおいた方が良いぜ』
「分ってるよ・・・」

図書室を出た俺はルイズになんて言い訳をして部屋を出ようと考えながら夕飯をとる為に一旦ルイズの部屋に戻っていたのたが・・・何故か扉を開けるなり般若の如しと言っても良い位の凄い形相のルイズが佇んでいた。
「うぉ!?な、何だよルイズ。そんな怖い形相して」
「私に内緒で・・・こんな時間まで何処に行ってたのよ」
この眼・・・もしかしてばれてらっしゃる?
「何処って・・・図書室だよ。お前には関係ないだろう」
この雰囲気じゃ下手な良い訳も出来ずに素気ない言葉で答えるとルイズのこめかみに一瞬青筋が浮かんだ気がした。
「関係ないですって・・・あんたは私の使い魔なのよ。私には使い魔の行動を知る権利があるの。いい加減自覚を持ちなさい」
うっ・・・少し煽り過ぎたが、すっげー顔が怖くなってる。
「ちっ、分ったよ。・・・タバサに、字を教えてもらってたんだ」
さらにピクピクとこめかみが動く。
「ふ、ふーん字ね・・・・ここの所毎日じゃない。」
「それは、その、楽しいからだよ。それに俺だってこの世界に住んでるんだ何時までも字も読めないんじゃ話にならないだろう?」
「・・・そうね。その為に勉強してるなんて殊勝な心がけは感心してあげるわ」
「は、はは。そうでもないぜ」
どうにか納得してくれたかと少し安心した俺は愛想笑いで返すと逆にルイズは不敵に笑って返してきた。
「ふふふ。でもね・・・」
「でも?」
「そんな事ならわざわざタバサに教えて貰わなくても言ってくれれば私が教えるわよ」
いつの間にか手に持っていたのか鞭をきつく握ってピチピチと空いてる掌に叩く。
「そ、それは何となく成り行きでそうなったと言うかなんと言うか・・・」
「成り行き成り行きって前の仮装舞踏会で姫様とキスした時もそんな事言ってなかったかしら」
恐ろしいほど冷たい顔で微笑みながら近寄ってくるルイズに俺は腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「あ、あのですね。ルイズさん。決して疚しい事は何もなくてですね。その・・・・」
目の前のルイズが怖くて無意識のうちに敬語になってしまう俺。
ルイズは俺の言い分など全く聞かずに鞭を握る手を大きく振り上げた。

「この・・・ご主人さま以外に尻尾を振るなと何べん言ったら分るってのよ!!」

バチィン!!


「ぐはぁっ!?ちょっと待てルイズ!本当俺は何もしてないって!!」
「お黙りなさい犬!!所構わず尻尾振るなんてあんたは飼い犬以下よ!ただの野犬よ!!野犬なら野犬らしく路頭に迷ってなさい!!!」

バチィン!!!

最後に渾身の一撃で叩かれた後、俺はぼろ雑巾みたいにぼろぼろになり果てて部屋から追い出された。
「おい、ルイズ!!本当に何にも無いんだって!!せめて飯ぐらい食わしてくれ!!」
「うっさい馬鹿犬!!あんたは少し反省してなさい!ごはんも今日は抜き!もしメイドなんかに頼んだりなんかしたら許さないんだからね!!」
「ルイズ!・・・はぁー」
情けないぐらい重いため息を吐くと、予想通りなのが面白いのか可笑しそうに笑いながら話しかけてきた。
『くくっ、結局何時もの展開になったな相棒』
「俺何もして何だぜ」
『それでもだよ。他の女とベタベタしてたら良いもんでもないだろう』
「そんなもんか?俺とルイズ何でもないぜ」
俺の言葉にデルフは心底可笑しそうに笑った。
『はははは、相棒は相変わらず色恋沙汰は鈍いね~。ま、時間も経てばほとぼりも冷めるだろうさ。んでこれからどうすんだ』
まるで他人事みたいに軽く話すデルフに苦笑しながらも俺はゆっくりと腰を上げた。
「そうだな・・・・シエスタに飯を頼みたいけど後が怖いしな。適当にブラブラしてタバサの部屋にでも行くさ」
『なんだ結局お姫さんの部屋に行くのか?』
「ま、約束しちまったからな」
『はぁー律儀なもんだね。・・・相棒は将来絶対女を泣かすぜ』
「ん?何か言ったか」
『なんでもねぇーよ。』



それからは本当にブラブラと出歩き時間を潰してタバサの部屋の前までやって来ていた。
しかし・・・・

ぐぅ~~~

如何せん歩いてたせいか腹が余計に減ってきてさっきから鳴りっぱなしだった。
これは迂闊としか言いようがない。
「くっ・・・駄目だ。腹が減ってマジ動けない」
『相棒は本当に爪が甘ぇーな』
「五月蠅いぞデルフ!」
『くくっ、まぁここまで来たんだ。どうせなら姫さんに飯でも要求してみるんだな。何かは出してくれるじゃねーか』
「それってかなり、情けなくないか」
『それこそ今更だろうよ』
辛口しか言わないデルフにいい加減ムカついてきた俺は語気を荒げる。
「っ!文句しか言わないならもう寝ろデルフ!!」
『ああ、そうする事にするぜ。お休み相棒』
俺がそう言うと呆気なくデルフは静かになり何も喋らなくなった。本当に眠ったみたいだ。
たくっ・・・俺の身の回りには文句しか言う奴しかいないのかよ。
「・・・何騒いでるの?」
「うぉ!?タバサ聞いてたのか?」
急に後ろから聞こえた声に俺は驚き部屋の住人は訝しげの眼で見つめてきた。
「聞いてたんじゃない聞こえてた。部屋の前であれだけ騒げば誰でも聞こえる」
「そ、そうか・・・ごめん」
謝るとまた俺の腹が『ぐぅ~』と鳴った。
あ、マジやばい・・・倒れそうだ。
「・・・腹が減ってるの?」
「あ、ああ。ちょっと色々あって御飯が食えなくてな」
頭を掻きながら苦笑するとタバサは何があったのか大体予想がついたのか小さく笑って部屋に通してれた。
「そう・・・入って待ってて、何か用意するから」
「お、おう。悪いなタバサ」
「貴方には色々助けられているからこれぐらいは気しないで良い。」
それだけ言ってタバサは部屋から出て行った。
そのまま待つ事数分タバサの手には夕飯にしては少し足らないけどパンとシチューを乗せたお盆があった。
「これだけしかなかった」
「いや、十分だよ。ありがとうタバサ」
お礼とばかり俺はタバサの頭を軽く撫でてやった。
「あ・・・・」
少しだけ驚いた表情をするけど直ぐに、心地よさそうに目を細めていた。
こうしてみるとなんかタバサって動物みたいで可愛いよな。
全くルイズもこれぐらい可愛げがあれば俺も嬉しんだけど・・・
そして俺は、少しだけとはいえタバサのお陰でやっと食事あり付ける事に俺は喜んで食べていた。
うぉ~~~冷えてるけどやっぱおやっさんの飯はうめーな。胃が喜んでるぜ。
「じー・・・」
全くルイズも少しは人の話を少しでも聞いてくれれば良いのに何時もいっつも俺の言葉には耳を貸さずに直ぐに鞭を振るうんだからな。
「じー・・・・・・」
あんな態度ばっかだといい加減鬱に入りそうだな。毎回毎回犬犬犬だもんな・・・俺って実はすごく損してないか?
たまには他の子の・・・・・・・って。
「タバサ、何を見てるんだ?」
さっきから気になっていたが、何故かタバサはテーブルの上で食べる俺をベットに座ってじっーと見つめていた。
「あなたを見てる」
「いやそれは分るけど・・・なんで?」
「顔・・・凄い傷があるから」
「顔・・・・あ」
ルイズに叩かれた時のか。
結構強く叩かれたからな・・・まだ跡が残ってるのか。
「これはその・・・何時もの事だって」
「またルイズと喧嘩したの」
「まぁ・・・喧嘩と言うかなんと言うかな・・・些細な事だって俺のご主人さまはちょっとした事でご立腹になるからな」
肩を竦めて呆れた風に話すとタバサは真剣な眼で口を開いた。
「私なら絶対貴方を傷つけない・・・」
「え?タバサ、何か言ったか?」
上手く言葉が聞き取れなくて聞き返すとタバサは無言でゆっくりと立ち上がって俺に近づいてきて頬に軽く触れてきた。
「痛っ!?」
「・・・ごめん。治癒系の呪文はあまり得意ではないから私では貴方の傷は直せない」
労わるように撫でるタバサに手から優しさが伝わるようで俺は嬉しくなった。
「そんな事ないよ。タバサに触れられてるだけで痛み無くなったから・・・タバサって優しんだな」
「そんな事ない。優しいのは貴方、あの時も身を呈して私を守ってくれた」
「当り前だろう。タバサは大切な友達なんだから助けるのは当然だろう」
「うん。それでも私は貴方に感謝している」
うっ・・・そんな熱っぽい視線を向けられると変に意識しちまうじゃないか。
「ご、ごほん。あーあ・・・俺のご主人さまがルイズじゃなくてタバサなら良かったな」
何だか落ち着かなくなった俺は、今までのルイズの不満からかついポロリと口から本音が漏れてしまった。
ちょっと軽率な発言に俺は一瞬しまったと口を押さえ、恐る恐るタバサの顔を覗き込むとその顔はほんのり赤く染まっていた。
「・・・タバサ?」
俺の言葉に答えない代わりに、力弱く俺の服の袖を摘んでいた。
「・・・・それは本当」
「うっ」
潤んだ瞳で俺を見つめながら話すタバサに無性に愛おしさが胸の奥から湧き出ていた。
思わず視線を逸らすが、一度意識してしまった以上ヒシヒシとタバサの視線を肌に感じてちっとも落ち着かなかった。
やばくないかこの状況・・・・駄目だ変に意識してしまう。
ちらりと横目でタバサを見つめると未だに俺をじーっと見つめていた。
その眼には先ほどの言葉の返答を心待ちにしているように見えるのはきっと俺の気のせいではないだろう。
「ほ、本当だよ。タバサと居ると楽しいし、色々助けてもらってるからな」
「うん」
恥ずかしさで少しだけぶっきら棒に話す俺の言葉にも嬉しそうに健気に微笑むタバサを見て俺の鼓動は益々激しさを増す。
やべぇ・・・こいつマジで可愛い・・・・・・・
思わずニヤけてくる俺の口元。
それと同時に心の内から湧き出てくる衝動。
もっと感じたい。
もっと触れ合いたいと。
無意識に俺はタバサの腕を掴みそのまま胸に引き寄せた。
幾らタバサでもきっとここまでされれば拒絶されると俺は思っていた。
そうなれば俺は大人しく離れるつもりだった。
だけど、予想を反してタバサは離れる事なく逆に力を抜いて俺に体を預けてきたのだった。
「・・・タバサ意味分かってるのか」
「うん。分ってる」
「このままでいると俺我慢できなくなるぞ」
「それでも良い。貴方が求めるなら私は答えるだけ」
「タバサ・・・・っ、後悔したって遅いからな。止めるなら今のうちだぞ」
最後の境界線を敷いても、タバサは胸の中から俺を見つめてはっきりと宣言する。
「後悔なんてしない。私の全ては貴方に捧げたから・・・・私の勇者さま」
ここまで言われたら男として何も出来ない筈はないだろう。
タバサも一歩踏み出したんだ俺もその気持ちに応えるべきだ。
俺はタバサを軽々と腕に抱えてゆっくりとベットへ向かっていった。



それから数刻後、俺達は一糸まとわぬ姿でベットの中で抱き合ったまま眠っていた。
ゆっくりと目を開けると、目の前で安からに眠るタバサの寝顔があった。
タバサの顔を見つめるだけでトクトクと鳴る。
『とうとう越えちまったな相棒』
何所からか声が聞こえた。
どうやら壁にかけてあった剣、デルフが何時の間にか起きていたようだった。
「デルフ・・・起きてたのか」
『まぁ・・・程々にな。それで、本当に姫さんの使い魔になる気なのか?』
「まさか・・・このルーンがある限り俺はルイズの使い魔だよ。だから・・・」
隣で寝ているタバサのサラサラとした髪をとかす様に優しく撫でる。
「俺は俺の意志で、一人の男としてタバサを守る。それだけだよ」
俺の言葉に何処となく楽しそうに笑うデルフの声を聞きながしながら俺は心の中で誓う。
自惚れでも良い。この笑顔をこれから絶やす事なく俺の手で守ってみせると。

『それはそうと、嬢ちゃんになんて言うつもりだこの事』
「うっ。やな事言うなって・・・」
『くくっ・・・結局相棒の言った事とは、違う方になっちまったからな。生半可な折檻じゃすまねーんじゃねーか」
「だよな・・・」
後々の事を考えると少しだけ気が重くなってくる俺だった。
だけど、眠りながらも健気に俺の手を握るタバサを見てるとどんな困難すら越えられそうなそんな気すら湧いてくる気がした。










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