「ああもう退屈!!」
ギルドで残されたった一人で、小牧郁乃は苛立をそのまま声に上げていた。
憤る理由は郁乃自身重々承知している。
(そうよ、あいつが悪いんだわ。姉ぇは誘う癖に毎回毎回人を置いてきぼりにして……彼氏なら少しは私の事を構えーーーー!!)
ぶすっとふくれっ面で心の叫びをあげる不機嫌な郁乃だった。

そして、ダンジョンへ行った貴明達が戻り夕食後……
不満が爆発した郁乃は貴明の部屋に訪れて……と言うより殴り込みに行っていた。
「ちょっと入るわよ!!」
扉を勢いよく開けて入ってきた小さな来訪者に貴明は戸惑っていた。
「い、郁乃ちゃん。どうしたの血相変えて」
「どうしたもこうしたもない!あんた、なんで私を連れて行かないのよ!」
「え、そ、それは………」
目を逸らす、貴明に郁乃は胸ぐらを掴み強引に向かせる。
「私の目を見てはっきり言いなさいよ。男でしょう」
「べ、別に深い理由は無いよ?」
明らかに目が泳ぎ、挙動不審な態度に郁乃の怒りのボルテージは益々上がり目元がつり上がっていく。
「じゃ、何?私はあんたのパーティーには必要ないって言いたいの?」
「そ、そんな事思ってないって!?」
「じゃ言いなさいよ………その、一人で待ってるのは寂しいのよ」
真っ直ぐに伝えてくる思い。
怒ってるような印象を受ける表情の裏には何時も彼女を見ていて誰よりも近くにいた貴明には本当の心が見えていた。
貴明は郁乃の体を優しく包み込むように胸に抱いた。
「ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ」
「ごめんね。郁乃ちゃん」
「あ、謝るな馬鹿」
抱きしめられる事が恥ずかしいのか頬を染め離れようと抵抗をする。
だけど、貴明は逃がさないようにしっかりと抱きしめた。
「いい加減離しな……」
「…郁乃ちゃんを連れて行かないのは、本当は怖いからなんだよ」
「怖い……?」
貴明の言葉に暴れるのを止め首を傾げていた。
「うん。ダンジョンを進むにつれてモンスターが段々と強くなってきてるだろう?それで、郁乃ちゃんが傷つくの見るのが凄く嫌で怖いんだよ……それに、郁乃ちゃんは他の人と比べると体も弱いだろう?それで何かあったら俺……痛たぁ!?」
胸に内を語る貴明の言葉に郁乃のチョップが頭にヒットした。
病弱とは思えないほどの力で額がヒリヒリしてくる。
あまりにも痛くて貴明は思わず抱きしめる手を離して額を擦る。
「な、何するんだ」
「……馬鹿よ。あんた馬鹿。すっごい馬鹿。救いようのない馬鹿」
「そ、そんなに馬鹿馬鹿言うな。流石に凹むだろう」
矢次早に吐かれる暴言に貴明は苦笑を浮かべる。
しかし、郁乃の顔はさっきと違い少しだけ笑っていた。
「馬鹿だけど……私は、そんなあんたが好きだから。だから少しは私を信用しなさいよ」
「郁乃ちゃん……」
「ダンジョンは確かに危ないけど、あんたもそこに行ってるのに私だけ安全な場所で待ってるだけなんて私は全然嬉しくない。私も……貴明が傷つくのを見るのは嫌。だから、負けないように強くなってみせるからちゃんと見てなさいよ」
「でも、体は大丈夫なの…?」
まだ若干躊躇がある貴明は恐る恐る聞いてきた。
「この世界に居る限りは大丈夫よ。なんだったらあんたとガチにやっても良いのよ?今の私なら負ける気がしないから」
余裕の笑みを浮かべる郁乃に貴明は脂汗をかき顔を左右に振った。
「じゃ、今度はちゃんと連れて行きなさいよ。貴明」
「う、うん。分かったよ」
「じゃ、私の話はそれだけだから帰るわ」
「あ、待って!」
踵を返す郁乃の手を握り止める。
「何よ?まだ用があるの」
「用って言うか……もう少し、一緒に居ない」
「え?ちょっとそれって……まさか」
「言葉のままの意味だけど」
言葉の意味を汲み取ったのか頬を真っ赤に赤らめた。
純な反応をする郁乃に貴明は気持ちが高鳴りもう一度自分の胸に抱きしめる。
そのまま首筋にキスをして優しく未成熟な体を弄る。
「ば、馬鹿。ん!…そんな…所キスするな。変な所触るな」
「今まで、一人ぼっちにしていたお詫び……のつもりだけど、郁乃ちゃんは俺と居たくは無いのかな?」
「そんな事は無いけど、これとそれとは別じゃない……良いから直ぐに止め……ん!」
体を刺激する感覚に郁乃の抵抗は弱々しい。
「悪くは無いと思うけど。ここはこんなに素直だし」
「ちょっと、あんた!?何処触って……あん!」
「さぁ、何処かな?……言ってくれないと分からないよ」
意地悪な笑みを浮かべる貴明に、郁乃の中で何かが火が付いた。
(こ、こいつ。絶対楽しんでるわね……そっちがそう言うつもりならこっちだって負けないわよ)
今度は、郁乃の方からキスを迫り貴明の唇を奪った。
「ん!」
「ん……ちゅ……調子のるな、ヘタ明……きゃ!ちょっと、待ちなさいってば」
「ごめん。俺もう止まらないかも」
「え…な、こ、こら!?離……」
郁乃の抵抗で完全に理性がとんだ貴明は郁乃を抱き上げそのままベットへ直行し郁乃の甘い声が深夜まで続いた……

そして、次の日。
「うう、まだ違和感がある………中に入ってる感じ」
久々のダンジョンでの冒険。
しかし、昨日の行為が緒を引き郁乃は上手く動けないでいた。
「郁乃ちゃん大丈夫」
他の皆がいる為貴明が小声で話しをかけた。
「大丈夫な訳ない。出し過ぎよ馬鹿……少しは自重しろ」
「ご、ごめんなさい……郁乃ちゃんが可愛かったから我慢がね」
「………馬鹿。そんな事一々言わなくていい」
照れてそっぽを向く郁乃。
だが、なんかさっきから妙な視線を感じて他のメンバーを見ると皆、顔を真っ赤にして目を逸らす。
(……何?)
理由が分からない、郁乃は首を傾げるだけだった。
そして、パーティーを組んだ一人愛佳が手招きで郁乃を呼んだ。
「何、お姉ちゃん」
「あのね、郁乃その、凄く言いにくいんだけど…………昨日の声…漏れてたよ」
「………え」
一瞬何を言われているのか分からなかった。
だけど、顔を真っ赤に染め恥ずかしがる姉と他のメンバーの様子を見れば一目瞭然……直ぐにその原因が思い立った。
その一言で全てを知った郁乃は、他のメンバー以上に顔を真っ赤に染め上げぶるぶると小刻みに震え俯く。
「…郁乃ちゃん?どうしたの顔真っ赤だよ」
知らぬは貴明のみ。
呑気に聞いて来る貴明に沸々と湧き上がる感情が爆発し郁乃は目を吊り上げ睨み返した。
「え…ちょっ!?なんでそんなに怒ってるの!!」
「煩い煩い煩さーーーーーい!!!」
「おわっ!?郁乃ちゃん、ナイフを投げたら危ないって!!」
「あんたのせいだ。一回、死ね!!」
「ぎゃ~~~~~!!」
真っ赤な顔をして鬼気迫る顔で追いかける郁乃と必死に逃げる貴明。
暫くの間ダンジョン内には、郁乃の怒声と貴明の悲鳴が木霊していた。
南無……

~End~



***後書き***
かなり短いですが、郁乃のドラクロSSです。
既に恋人同士な貴明な設定ですが、いじける郁乃に萌えてくれたら嬉しい限りです。www




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