「高城、このあと時間あるか。久々に飲みに行くぞ」
仕事が終わり鞄に私物を仕舞う僕に入社以来何時も世話になっている先輩から誘いを受けた。
しかし、何とも申し訳ないが今日は用事がある。
「ごめんなさい。ちょっと今日は先約がありまして…」
「先約?なんだ彼女とデートか」
「え?あ、いや、そう言う訳でもないんですけど…」
「偉く歯切れ悪いな。これ何だろう」
何とも古いジェスチャー、僕に向かって小指を立てる先輩に思わず苦笑する。
「違いますよ。その…妹が来るんです」
「妹?」
「はい、普段会えないですからたまに会ってご飯でもと…だから今日はすみません」
「なんだそれなら仕方が無いな」
事情を聞いた先輩は潔く納得してくれた。
「それじゃ、お先に失礼します。また今度誘ってください」
「おう、気にするな。お疲れさん」

僕の名前は高城祐樹、半年前高校を卒業したばかりの新米社員だ。
半年も経てば仕事も幾分と慣れてはくるけどやはりまだ順調と呼ぶには程遠い。
だけど毎日は凄く充実してる。
働くって大変だけど結構楽しいものだな。
あ、そうだ。一言付け加えると高城と言うのは父方の名前で実は数年前までは違う名前だったりする。
この街もその頃に住み始めんだけど…簡単に言うと僕の両親が離婚をした時期だったからだ。
前々からお互いのすれ違いが多く女性問題も出てきていずれはと思っていたが決まれば随分その後はあっさりしていた。
トントン拍子で進み数週間後には別居する事になり、その性で僕は父さんに妹は母さんに引き取らる事となる。
母さんは僕と妹を一緒に養うつもりがあったが、専業主婦していた母さんでは3人分の生活費を賄う事も出来ないと言われ結局僕は父さんと一緒に出て行く事となった。
離れ離れになる妹はその事に随分癇癪を起してしまって別れる間際まで会話らしい会話はしていない。
僕も仕方が無いと諦めていたけど実際数カ月後、別の女性と父さんとが同棲する事になると僕は何だか家に居ても空しく感じるだけだった。
この年にまでなって見ず知らずの人と“家族”と言われてもあまりピンとこなかった。
再婚相手の女性も良い人で嫌いではなかったけど、どうしても僕は馴染めなかった。
家に居ても何処となく居心地が悪く感じていた僕は高校を卒業し進学を諦め就職をし家を出て、今は少し離れた所のアパートの一室を借りて一人暮らしをしながら毎日汗水働いている。

「ん?」
駅に向かう途中に携帯が鳴ってるのを気づき手に取ると液晶に着信在りと映し出されてる名前を見ると僕の見知った人物からの名前だった。
家族からの電話だけど家を出てから会ってないから話をするのは随分久々だと思う。
「はい、もしもし。ああ、うん」
電話の相手は感慨深い声を上げるが、僕の反応が薄いのが気に入らないのか少し怒っている様子だった。
「ごめんごめん、そんな事無いよ。嬉しいさ、うんうん。それは…悪かったよ。仕事で忙しかったんだ。え?今からか…えっと」
全然連絡が取れない事に散々文句を言われ、そしてこの後会いたいと言い出してきたのだった。
用事が無いなら別に良いのだけど今日は約束があるからちょっと都合が悪い。
それに、家に呼ばれるなら出来るなら行きたくないのが本音だ。
「ごめん、今日は先約があるから…え、ちょっと、馬鹿ってそんな怒るなって。おい!かぐっ…」
ツーツー。
…切れてしまった。
馬鹿と大声で叫ばれキンキン痛む耳を耐えながらこちらから電話をしてみるが呼び出し音がなるだけで全く繋がらない。
どうやら相当機嫌を損ねてしまったらしい。
「困ったな…どうしよう」
あいつの事だし結構根に持ちそうだよな…何とかしないと後々が怖い。
…しょうがないよな。
後でまた電話してみるか。
しかし、この行為がまさか後に最悪の展開を呼ぶ事になる布石になろうとは僕は思いも知らなかった……

先程の電話で若干気を重くしながらも僕は電車を乗り継ぎ見慣れた街並みを歩きながら我が家に向かった。
少し古びたアパートの着き薄汚れた鉄の階段を鳴らしながら登り205号室と書かれたドアを開けると、みそ汁の良い匂いが鼻孔に漂ってきた。
匂いに誘われるまま顔を動かすと台所には美少女と呼ぶに相応しいツインテールの女の子が制服にエプロンと言う何とも萌えるシチュエーションで鼻歌交じりに楽しそうに料理をしていた。

「ただいま、咲耶」
「あ、お帰りなさい。お兄様」
キッチンから離れ嬉しそうに僕の傍に寄ってくるこの子。彼女が僕の妹の咲耶だ。
こんな狭く汚い部屋に女の子を呼ぶなんて気が引けるけど、当の本人は大して気にしてないようなので良しとしよう。
自然の流れで俺の鞄とジャケットを脱がし部屋の奥に向かい皺にならない様に壁にある溝にハンガーをかけた。
なんせ4畳半の部屋でタンスすらまともに置くスペースが無いから仕方が無い。
「今日は早かったのね。何時もはもう少し遅くなってたのに」
「ん?ああ、今日はそんなに仕事も多くなかったし。それに折角咲耶の手料理が食べれる日なんだし余り遅くなるのは勿体ないだろう」
そう言うと咲耶の顔がぼっと赤くなり俯いてしまった。
「も、もう。お兄様ったらそんな事言われると私嬉しくてもう……」
「もう……何だ?」
「分かってる癖に聞かないで、本当お兄様は意地悪なんだから~」
だから何を言ってるんだ。
頬を染めて恥ずかしそうに僕の胸をつつく我が妹の考えがまるっきり分からなかった。
「お風呂も入ってるから入ってきて良いわよ」
「あ、ああ」
「どうせなら、一緒に入る?子供の頃以来だけど折角だし背中を流しましょうか、お・兄・様♪」
何故そこで色っぽい声を上げる?
しかし、咲耶と一緒にお風呂か。子供頃以来だし確かにあの頃からはな…………………はっ!?
勝ち誇った様な顔をする咲耶の視線に気づき慌てて緩んだ顔を戻す。
「ば、馬鹿な事言うなって、一人で入るから!」
「え~、残念。成長した私の姿お兄様になら見ても良いのに……私、スタイルには自信があるのよ」
「ぶっ!?ふ、風呂に入って来るから!!」
エプロンの上からでも分かる胸を寄せてさら強調され行けない想像が出始めた僕の頭はもうオーバーヒート寸前だった。
慌てて逃げる様に駆け足で風呂場に駆けこんだ。
お風呂で雑念を疲れと共に雑念を払いさっぱりした僕は私服に着替え出てくるとテーブルの上には見るからに美味しそうな食事が並んでいた。
食欲を注ぐ匂いに僕の腹の虫はさっきから鳴きっぱなしだった。

「お兄様、準備出来たわ。さ、食べましょ」
「ああ、そうだな」
ご飯を茶碗によそう咲耶を見ながら僕は自分の定位置に座る。
「そう言えば、母さんはどう?」
「変わらないわ。毎日遅くまで働いてる」
「そっか。…か」
と、続きの言葉を言おうとしたが僕は口を噤んだ。
“再婚をしないのか?”と聞きたかった。
だけど、僕の家の状態を思うと聞きたくなくなってくる。
母さんの居る家が僕が生まれた家であり僕の本当の家。
あそこまで僕の知らない家に変わるのは見たくなかった。
「どうしたのお兄様?」
「いや……何でも無い」
「そう…はい、お兄様ご飯よ」
「ああ、ありがとう。じゃ、冷める前に食べるか」

「ええ、いただきます」
「いただきます」

先程の会話を忘れ僕たちは手を合わせ箸を取りおかずに手を付ける。
口の中に広がる味は素直に美味しいと言えた。
モグモグと口を動かすと、咲耶がじーっと僕の方を見ていた。
あ、いつものか。
「うん、美味しいよ。咲耶の料理はもう完璧だな」
「そう、良かったわ。お兄様のお口に合って…」
何時も手料理を食べる時咲耶は僕の意見を聞いてからしか食事に手を付けない。
おおよその原因は予想出来るけど、まだあれの事根に持ってるのかな。
「な、咲耶。まだあの事気にしてるのか?」
「あの事って何かしら?」
「ほら、料理の感想を聞いてからしか食べないだろう…だから、昔僕の誕生日に作ってくれたあの」
あの時の咲耶の落胆ぶりを見ている物としてははっきりとは言えないけど、それとなく聞くほど僕の頭は紳士的に出来てなかった。
結局何ともいい加減な聞き方になってしまい逆に咲耶の機嫌を損ねてしまうかもしれない。
…聞かなきゃよかったかな。
「もちろんそれもあるわ」
あれ?あまり気にしてない。
「だって、折角お兄様に食べてもらうんですもの。とびっきり美味しい料理を作ってあげたかったから、あの時の料理をお兄様に出してしまった私自身絶対許せないわ」
「いや、そこまで言わなくても…」
「ううん。お兄様に喜んでもらう事が私の最大の喜びだから…だけどね。今は、私の一番大切な人に美味しいって言って貰える事がとても嬉しいの」
「なっ!?」
嬉しそうに頬を染めて見つめる妹の可愛さに思わずドキリと胸がなった。
咲耶と離れる前はどスレートに気持ちをぶつけてきたのに、最近の咲耶はまたに見せる“女性”の顔に僕は何処か落ち着かなくなってしまう。
「どうしたのお兄様。顔が赤いわ」
「え、あ、何でも無いよ。さっきお風呂入ったからじゃないか」
鼻の頭を掻きそっぽを向きながら誤魔化す僕を、咲耶は目を細め訝しげに見つめてきた。
「本当かしら」
「ほ、本当だって」
「う・そ・ね。だってお兄様嘘つく時絶対相手の顔見ないもの。それに恥ずかい時、鼻を掻くでしょう」
ごもっともです。
「何で誤魔化すの?それに母様の時の話だって何か言いたい事あるんでしょう。それとも私に言えない事なのかしら」
思わずたじろぎ後す去る僕を逃がさない様に咲耶は肩を掴んで押し倒してきた。
「い、いや。そんな事はないけど」
「だったら教えて、私に隠し事なんて水臭いわ」
さ、咲耶?お、お前絶対分かって聞いてるだろう。
僕を見つめる何処か期待に満ちた目を見れば分かる。
「ど、どうしても言わないとダメか」
「だ~め。言ってくれないともうご飯作ってあげないから」
ちょっと、それは困る。
咲耶の料理は今では僕の楽しみの一つだ。
だけど、どう言うんだ。
“咲耶に思わず胸が高鳴るんだ”
アホか僕は。その選択は地雷にしか思えない。
“咲耶綺麗になったね”
以前から言ってる台詞だよなこれ。新しい服着た時とか…絶対これじゃ咲耶は納得しない気が。
だったら…
“咲耶今夜は寝かさないぜ”
よしこれだ!!って、待て僕!?だから何を考えてる!?
これは地雷どころの騒ぎじゃないだろう!!
下手な妄想にふける事、おおよそ30秒弱。
妄想し過ぎて頭がボーとして思わず呟いた僕の台詞は…
「さ、咲耶も女になったなって思ったんだよ」
「女…?」
「前までは、自分の気持ちをストレートに伝えてくる少女の感じがしたのに今はたまに凄く綺麗な大人びた顔をするなって…咲耶?」
なんか目が潤んでないか、何処か息も荒いし…って掴まれてる肩がすっごく痛いのですが。
もしかしなくても僕結局地雷踏んだ?
「あの…咲耶さん。そろそろ手を退かして貰えないでしょうか」
「…ダメよ」
「さ、咲耶」
「お兄様がいけないんだから……私の気持ちを知っていてあんな事言うんだから、もう我慢なんて出来ない」
「へ?分かってるって何。我慢って…ちょっと待て、咲耶!!」
何故目を閉じる!
もしかして、キ…ス?ちょっっとそれは不味いってば!!
暴れる僕を見て咲耶は目を開き潤んだ瞳で耳元に囁いてきた。
「お兄様は私の事嫌い」
「へ?あ、いや、嫌いな訳ない」
「じゃ、好き?」
「そりゃ…好きだよ。大切な家族だし」
「なら問題ないわよね。家族だものキスぐらい普通よ」
「いや、なんか可笑しくない!その理屈!?」
咲耶の脳内では家族はキスをする物なのだろうか。
いや、僕の記憶ではそんなの覚えが無い。
いや別に咲耶の事は嫌いじゃないしさっきも言ったけど最近本当に綺麗になって思わずドキドキしたけど僕たちは兄妹で、ああー何とかしないと!!
どうにか逃げようともがくが何故か、掴まれてる肩の力が予想以上に大きくて咲耶の手が外せない。
かと言って、強引に退けようものなら咲耶が怪我をしてしまう。
きゃ~~~!僕の貞操のピンチ!?
あと唇が重なるまで数mm、思わず目を閉じた時に僕の耳に予想外の人物の声が扉が大きく開く音と共に聞こえてきた。

バン!!

兄ぃ様!いらっしゃいますか!!どういうつもりなんです、私の誘いにも受けず連絡すら一回しかしてこないなんて…文句の一つでも言わないと許せませ……んわって…え?」
「ん!?」
「ん…」
「兄ぃ…様?」
まさかのかぐやの存在に気付き固まる僕。
そしてそんな僕同様、あり得ない光景に騒然と微動だにしないかぐや。
そして、僕の唇に重ねる感触に陶酔してるかのような甘い声を発する咲耶。
何故かぐやがここに?
その中で先に動いたのがかぐやだった。
「な、なななななな。何してますの貴方!!」
「ん…私のお兄様との初キス。…素敵よ」
しかしキスの余韻に陶酔してる咲耶には全く聞こえていなかった。
「あ、ああ。そうか。それはなによりなんだがな、咲耶。その…」
「何かしらお兄さま。お代りなら何時でも良い…きゃ!?」
いい加減自分を無視される事に腹を立てたかぐやが僕を押し倒す咲耶を思いっきり付き飛ばした。
そのまま、かぐやは僕の顔を掴み手持ちのハンカチで唇を拭いてきた。
「あああ、あんな誰とも知らない雌に兄ぃ様の大事な唇が汚れてしまって綺麗に拭かないと…」
「ちょっと、かぐや痛いって」
ゴシゴシと擬音を出すように激しく擦る光景を見て咲耶は痛みに顔を顰めながらも付き飛ばした元凶に食いついてきた。
「痛いわね…ちょっと、貴方いきなり何するのよ!」
「貴方こそ、兄ぃ様に何をしたのよ!」
負けずに言い返すかぐやにあっけらかんと答える。
「何って、愛の営みに決まってるじゃないの」
「あ、愛…」
「お兄様と私は愛し合ってるのよ。貴方にとやかと言われる筋合いはないわ!」
え?僕と咲耶ってそうだったのか。
胸に手を当てて断言する咲耶にかぐやの纏う空気が変わった。
あ、なんかヤバい気がする…
「あ、貴方。誰なんですの。私の兄ぃ様は貴方の様な破廉恥な人が安易に近づいて良い人ではなくてよ」
「っ!?そ、それはこっちの台詞よ!貴方こそ誰、私のお兄様を誑かす部屋に勝手に入って来る世間知らずの害虫かしら」
「が、害虫」
まさに一色触発。爆破五秒前。
二人の間で激し火花が散っている。
「ふっふふ。あ、貴方なんかが…兄ぃ様を、お兄様って呼ばないで!」
「貴方こそお兄様を兄ぃ様って呼ばないでくれる!」
「貴方よ!!」
「貴方だって!!」
まるで生涯の宿敵を見つけたかのようにものすごい形相で睨みあう二人。
二人の間の風景はきっとリアルで地獄が見れるだろう。
そんな二人を止める手など僕には思いつかない。
自己意志が高い二人、捻じれると相当厄介だと今更ながら気づいた。
既に後の祭りだがよもやあの電話一本でこんな展開になるなんて思いもしなかった僕はただ、この騒動が穏便に過ぎるのを祈るしかなかった。
ぐー…
必死に鳴る腹の虫を必死に抑えながら。
うぅ…腹が減ったよ~~~。


ちなみにかぐやは僕の父さんの再婚相手の連れ子だ。
いわゆる僕の儀妹。
牽制しあう二人がお互いの関係を知るのは暫く経った後だったりする。

~End~



***後書き***
小ネタ追加です。
小ネタと言える短さじゃないような気もするけど小ネタです。
通常のSSとの分別が曖昧やね。
そして何故か今更のシスプリのSSです。
前々から書きたかったけどネタが浮かばず書き始めの段階で没ってた事が多かったです。
別のSSのサイトをみて感化されやってみました。
ちなみに作者は咲耶激ラブです。
ゲームも体験済みです。
一歩間違えばヤンデレに行きそうな怖い妹ですが可愛くて仕方が無いです。
ああ、俺もあんな妹が欲しいです。
いっそゲーム内に飛び込めないだろうか。(失笑)

このシスプリの設定はオリジナル仕様を組んでます。
と言うよりも原作をあまり覚えてないと言うのもありますが。(ぇー)
他の妹も居るように考えてなく、咲耶と一緒に暮らしているという設定で考えて下さい。(咲耶が儀妹かどうかの設定はこの際あんまり関係ないので伏せときます)
新妹のがくやは適当かつ思いつきな設定で作ってるのでちょっと変かもしれません。
ちなみに最初の電話はかぐやからです。
始めなので誰からとか分からない様に台詞は無しです。
相変わらず兄ラブで直球少女ですけどそれの方がシスプリらしいですよね。w
想像としては、ロングヘアーで黒髪だと良いかなっと思ってます。
台詞からして気が強く独占欲は咲耶の上を行くほど高いです。
へんてこなお嬢様言葉はだたの仕様ですw
簡単に言えばお転婆娘ですね。
咲耶と衝突させたら似た性格の方が面白いかなーっと思ってこうなっちゃいました。
しかし、後々考えると口調や兄の呼び方が白雪に似てる様な似てない様な……き、気にしたらダメっすね。









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