ピピピ……

鳥の囀りと共に聞こえてくる機械音に部屋の主、河野貴明の意識が覚め鳴り続ける目覚まし時計にゆっくりと手を伸ばした。
「ん……あ、時間か。学校行かないとな……」
口ではそうは言うが気力が湧かず目覚めた後も暫く布団の中でだらけていた。
(駄目だ…全くやる気が起きない……はぁー、今日で三日目………か)

既に日常と化し、傍に居る事が当たり前になっている人が居ない事がどれ程辛いか貴明は経った三日目だけど身にしみていた。
一人がこんなにも寂しいなんて思いもよらなかった。
そう、貴明付きのメイドロボであるシルファが今、この家には居ない……家出とかの大層な理由でもなく何の事はないシルファは、定期メンテの為三日前から研究所に戻っているだけなのだが貴明にしてみれば理由がどうであれシルファが居ない事が重要な事だった。
一人暮らし同然の生活に戻り親と同居していた時ならば喜んでいただろうが今は違う。
彼女と居る事が当たり前になり生活の一部と化した今では一人っきりなこの状況は酷く孤独感を感じていた。
メンテの期間は四日間…明日には帰ってくる筈なのだが、シルファが居ない現状に貴明は完全に滅入っていた。
日に日に元気が無くなり学校にすら行く気も起きずサボりたい衝動にかけられながらも、何とか強引に気持ちを盛り上げ制服に着替え支度をする。
そして一階に降りリビングに足を運んだ。

『ご主人様、やっとおきたれすか?全く、らめらめなのれすから…片づけがれきないれすからとっととご飯を食べてくらさい』

ふと、耳に過った声に思わず笑みが浮かぶが実際にリビングにはおろかキッチンにも誰も居なかった。
当たり前だろう。
シルファは今は研究所でここに居る筈が無いのだから……
(ふー…駄目だな、俺)
貴明は深い溜息を吐き、朝食も食べずにそのまま家を出た。

学校へ着き何時ものように授業を受けるが心はずっと上の空のまま。
通学途中でのこのみ達との会話にも空返事しか出来なくて何を話したかも頭に入って来なかった。
「ダーリン。最近、元気ないね…やっぱりシルファが居ないのが寂しい」
一限目が終わり休み時間。
はるみが気を使って声をかけられ振り向いても何時もの笑顔はなく貴明は相槌をする事しか出来なくて微妙な空笑を浮かべていた。
「…明日には帰ってくるから大丈夫だよ」
あくまで辛いとは言わない。
はるみから見ても無理してる事は十分過ぎるほど伝わってくる。
「家に一人で居ても寂しいだけでしょう。ダーリンさえ良かったら家に来ない?姉さんや珊瑚様達もいるし」
心配したはるみの気遣いに貴明は静かに首を横に振った。
「気持ちは嬉しいけど……ごめんね」

学校が終わり、何をする事もなく重い足取りで家に帰り自室のベットへ着替える事もなくそのまま寝転がる。
(はぁー……何もする気がでないな。皆には心配かけちゃってるが情けないけど…………このまま寝ちまうかな)
そうすれば、日付が変わりもしかしたら明日の朝には会えるかもしれない。
夕食よりも、何よりも今の貴明には、シルファに会いたいそれが全てだった。
そっと目を閉じると、意識は沈んでいった。



「………様」
「ん…」
「ご主人様!おきれるれす!!」

自分を呼ぶ聞きなれた声に導かれるように徐々に意識を覚醒させる。
見慣れた天井に日が沈みかけているのか部屋の中は薄暗くなっていた。
ゆっくりと身を起こし声の方に顔を向けるとそこには腰に手を当てて少しだけ不機嫌な顔をして見下ろす少女が立っていた。
「あれ……?なんでシルファちゃんがここに…?」
寝起きで働かない頭ではシルファがこの部屋に居る事が理解出来なかった。
「何を寝ぼけてるんれすか。早めに終わったから帰ってきたんれすよ」
「あ、そうだったんだ……」
「なんれすかその顔は…シルファは帰ってきちゃらめらったんれすか?」
「そ、そんな事はないよ。おかえりシルファちゃん」
貴明の素っ気ない態度に頬を膨らませ機嫌を悪くするシルファに慌てて弁解をした。
少しは機嫌が直ったのか膨れっ面は治まったのだが目つきは悪く非難な視線をまだ貴明に対して向けていた。
「たらいまれす。それよりも…ご主人様。制服はちゃんとハンガーにかけてくらさいとお願いしたはずれすよね?なんれそのままれ寝てるれすか」
「あ…うん。そうだったね……ごめん」
「そのままれ寝てたら皺になるじゃないれすか。アイロンかけるのはシルファなんれすよ」
「うん。覚えてたけどさ……やっぱり、駄目だったよ」
苦笑を浮かべながら話す貴明の言葉にシルファは首を傾げた。
「何がれすか?」
「シルファちゃんが居ないと元気が出なくてね。何をするにも気持ちが乗らなくて……ごめんね」
情けない笑顔を浮かべながら告げる貴明の率直な言葉にシルファの顔が真っ赤に染まった。
「い、いきなり、な、何を言ってるんれすか」
「だって本当の事だし、ご飯も食べるのも億劫だったし………」
「…え?」
そう言われ始めて気づいた。
三日しか経ってないのに貴明の頬をが少しだけ痩せている事に。
シルファは嬉しいような呆れた様な複雑な顔をしていた。
「全く、ご主人様は本当らめらめれすね……シルファが居ないと何もれきないんれすから」
「うんそうかも」
「しょうがないれすね。直ぐにご飯作りますから、ちゃんと着替えて降りてきてくらさいね」

お腹を空かした貴明の為に手早く作れる簡単な料理を用意をしリビングのテーブルに並べた。
出来たての料理からは美味しそうな匂いが香り食欲が湧いてくる。
「頂きます」
「はい、ろうぞ」
貪るように食べる貴明を正面に座っているシルファは少しだけ呆れたような顔をしながら見つめていた。
「それられ、腹が減ってたなら自分れ作って食べればいいじゃないれすか。シルファが明日まれ帰って来なかったらろうするつもりらったんれすか?」



「多分あのまま寝てたかな。明日には帰ってくる筈だったしもしかしたら朝に会えるかもとか思ってたから」
「それれ、もしメンテが伸びて明日も帰れなかったらろうするつもりらったんれすか?」
「えっと………あ、あはははは」
「笑い事じゃないれすよー、全くご主人様は…………ふふっ」
誤魔化し笑いをする貴明に釣られるように笑いあうシルファだったが結果は分かっていた。
きっとそうなっても貴明はずっと自分の帰りを誰よりも心待ちにしている事に。
世界で一番大事な人が自分を大切に思っていてくれる事は嬉しい半面、このような無茶をされる事にはシルファとしては辛い所だ。
(ミルミルが電話で言っていた通りれすね。なるべく早く帰って上げてって言われたらけはあったれすね)
それでも貴明の気持ちはシルファには十分理解は伝わっていた。
なぜならば、シルファも貴明と会えない事が寂しくて抱いていた気持ちは一緒だったから……最も、シルファにそんな事を貴明のように口にするなんて事、恥ずかしくて言えないのだけど。

~End~



~お知らせ~
イラスト:FLOさん
挿絵はFLOさんから頂きました。
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