「38℃・・・・これは、学校休まないと駄目ね。」
季節の移り変わりのある日、俺は体調を崩し寝込んでしまった。
世間で言うところの、風邪である。
ここ数年は引いてなかったため、寝込むなんて随分久々である。
「お手数掛けます、春夏さん・・・・・・」
「気にしないで良いのよ、学校へは私から連絡しておくわね。」
「はい、お願いします・・・・・」
「大丈夫タカ君・・・・・・」
苦しそうに話す俺の様子に、このみは心配そうに見つめてきた。
このみに余計な心配を掛けまいと俺は何でもないように笑ってやろうとしたけど、軋む体がそれを許さず上手く笑えなかった。
「タカ君・・・・」
そんな状態の俺に益々このみの表情は曇った。俺は笑えない代わりにこのみの頭に手を乗せて撫でてあげる。
「そんな顔すんなこのみ。大丈夫だって、ただの風邪なんだから今日一日大人しく寝てれば治る。」
「うん・・・・・・・」
「ほらこのみ、タカ君は私が見ててあげるから貴方は学校へ行きなさい。」
春夏さんにそう言われてもこのみは、俺を気にしてか出て行く気配がなかった。
俺は無理にでも笑って学校へ行くように勧めるとこのみは複雑な顔をしながらもゆっくり」立ち上がる。
「分かったよ・・・・でも、タカ君絶対無理しちゃ駄目だよ。」
「分ってる。どうせこんな状態じゃ動けん。それと珊瑚ちゃん達に説明頼むな、あまり心配させないようにしておいてくれ。」
「うん・・・・じゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
このみは最後まで心配そうに何度も振り返り俺を見つめていて、手振って見送ると渋々出て行き学校へと向って行った。

「さてと、とりあえず薬を飲まないといけないわね。タカ君、食欲はあるかしら。」
「ちょっと、だけなら・・・・・・」
「そう。ならお粥を作ってきてあげるから、大人しく待ってるのよ。」
「はい・・・・すみません・・・・・・」
謝る俺に春夏さんは、優しく微笑み返してくれた。
皆心配かけてるだろうな・・・・
それから春夏さん特製のお粥を食べた俺は、薬を飲み大人しくベットへと横になっている。
「はぁはぁ・・・」
「寒くないタカ君?」
「いえ、大丈夫です・・・・」
額から流れる汗を拭いてくれる春夏さんに俺は苦しそうにしながらも微笑む。
苦しさを隠すように笑う俺を春夏さんは少しだけ寂しそうに見つめてきていた。
そんな時、何処からか軽快なメロディが聞こえてきた。
どうやら、春香さんの携帯の着メロみたいだった。
「・・・・・・・・・・はい。え、今?ちょっと待って。今日は行けないって言ったはずよ。ええ・・・・それは分ってるわ。けど、近所の子が風邪を引いて寝込んでるの、だから・・・・・・・」
春夏さんはポケットに入ってる携帯を取り出し電話に出ると、何やら電話の相手と揉めるように口調が荒くなる。
何か用事があったんだろうか?・・・・・・・
「春夏さん・・・・・」
電話の相手と口論している春夏さんを俺は、ガラガラの声で呼んだ。
「ちょっと待って・・・・・・・・・・・どうしたのタカ君?」
「その・・・・俺なら大丈夫ですから行っていいですよ。」
「タカ君?・・・・・・・・」
「外せない用事なんでしょう?俺は、どうせ寝てる事しか出来ないですから少しの間なら大丈夫ですよ。」
俺の言葉に複雑な表情を浮かべる春夏さん。
そして、意を決したように電話の相手に『午前中だけなら・・・』と返事をして通話を切った。
「・・・・・・・・ごめんね、タカ君。今日はどうしても町内会で参加しないといけない用事があったんだけど・・・・・・・・本当なら、付きっきりで看病したいけど・・・・・・あの分からず屋の、町内会の連中は・・・・・」
うわぁ・・・・何かすっごい怖い顔で、ブツブツ言ってるぞ・・・・・
「あの・・・・・春夏さん?」
「はっ!?い、いいえ、何でもないのよ。・・・・兎に角、何かあったら絶対我慢せずにすぐに電話しないさい。水もここに置いてあるから、喉が渇いたら必ず飲むのよ、良いわね。」
俺の手の届くところに、水の入ったペットボトルと電話の子機を置いてくれた。
あらに捲くし立てるように話す。
「それと、症状が悪化したり辛かったら直ぐに電話しなさい急いで戻ってくるから。」
「はい、分ってます。」
「本当かしらタカ君優しすぎるから・・・・・・・もし、遠慮なんかして連絡しなかったら後で怒るわよ!
ビシッと俺の鼻先に人差し指を指しながら春夏さんは強い口調で話す。
俺の事を心から心配してくれているのは伝わっているから素直に嬉しかった。
「本当に大丈夫ですよ。」
「ふう・・・・それじゃ、私は行ってくるけど本当に無理はしては駄目よ。」
「はい。」
このみと同じように俺は無理にでも笑って、春夏さんを見送るけどこのみ同様俺を気にしながら渋々出かけて行った。
ふうー・・・・春夏さんもこのみと同じ反応をして、心配症だな。
嬉しくはあるけど。
でも、これ以上俺のせいで迷惑はかけられないからな、この程度なら寝てれば治る。
俺はそう思いゆっくりと眠りの淵へ沈んでいく。
朝飲んだ薬の効果が聞いているのかあっさり俺の意識は沈んでいった・・・・・・・
そして、眠っている頭が痛む感覚が伝わってきて俺は目が覚めてしまった。
つっ・・・・ズキズキとくるな・・・・・
目覚めて感じる体の不快感。起きてた頃よりも頭が重く、体の軋々が痛く背筋に駆け抜ける悪寒、体が微かに震えてきてるのが感じていた。
この状態だと朝よりも熱が上がってるのかもしれない。
時計を見ると、10時を指し示していた。春夏さんが出て行ってまだ2時間ぐらいしか経っていなかったようだ。
たったそれだけしか経ってないのか・・・・・・・・・
あーくそっ・・・・・・頭痛も酷くなってきてる。
未だ残った薬の影響で眠気は襲ってきているけど、頭や体が痛くて今度は上手く眠れない。
春夏さんに電話をするか?
そう思って子機を持ったけど、俺は少し考えて結局子機を手放してしまう。
春夏さんも、昼には帰ってくるって言ってたし多分後少しすれば戻ってくるはずだ。電話をして余計な心配をかける必要もないし・・・・・・そう思って俺はあえて春夏さんに連絡をしなかった。
そのまま俺は眼をつむって無理にでも眠った。
しかし、それ以降俺の状態は着実に悪化の一歩を辿っていた。
何度、目覚めと眠りを繰り返たか分らなかった。
そして何度目かの目覚めの俺の耳にふと聞きなれた音が耳に聞こてきた。

ぴーんぽーん・・・・・ぴん・・・

どうやら家のチャイムが鳴っているらしかった。
今何時だ・・・・・頭がぼーっとして上手く時計が見れない・・・・・・・・春夏さんは、まだ帰ってきてないのか。
仕方なく俺が出ようとして体を起こすけど、鉛のように重く上手く直ぐにベットに崩れてしまった。結局俺は、大人しく横になってチャイムの音を聞くしかなかった。
そして、何時しかその音が止んだ。
諦めて帰ったのか・・・・・・しょうがないか、俺がこんな状態じゃ出れるわけないし。
そう思いゆっくり瞼を閉じて俺は無理にでも眠った。

ちゃぷ・・・・

ん?水の音・・・・・・
ふと俺の隣から、何かを濡らすような音が聞こえてきた。
痛みのせいで眠りの浅い俺は、聞こえた音に徐々に意識が覚醒してきた。
そして、額に感じるひんやりとした感触に俺は目が覚めてゆっくりと眼を開けた。
「ん・・・・・・」
「あ、お目覚めですか貴明さん?」
「え・・・イルファ・・・さん?」
何で彼女がここに居るんだろう・・・・・
不思議な顔をしている俺に、考えてる事が分かったのだろうかイルファさんは俺に微笑みながら答えてくれた。
「先程、春夏様から携帯に連絡があったんですよ。もう少し帰りが遅くなりそうだから、貴明さんを見にいってくれないかって。」
「春夏さんから?・・・・・・」
「はい。どうせ、貴明さんの事だからきっと迷惑かけないように辛いのを一人で我慢してるだろうからって言ってましたよ。全く本当でしたね。」
春夏さん、ドンピシャです。
「って言うか・・・・・・春夏さんはイルファさんの連絡先知ってたんだ」
「それは、勿論知ってますよ~。貴明さんの、身の回りの事ですから♪」
「いや、それ答えになってないよ・・・・・」
素敵な笑顔で微妙な答えをするイルファさんに、俺は複雑な顔をする。
そんな俺を見てイルファさんはクスッと可愛く笑った。
「ふふっ、本当は買い物途中とかで偶然何回か出会って居る内に話が弾んで仲良くなったたけですよ。」
「そう、なんだ・・・・・」
納得する俺の反応を楽しむ様にイルファさんは目を細めて含みのある笑いをする。
「それに、朝貴明さんが来ない事を気にしてこのみ様から事情を聞いた珊瑚様からもかなり慌てて連絡がありましたしね。『貴明が倒れてもーった!死んでまう、いっちゃん助けてあげて!!』って、私も気になっていたのでちょうど良かったです。」
珊瑚ちゃんの声色を真似ながら話すイルファさんに俺は思わず噴き出していた。
「ぷっ・・・・想像出来すぎだよ。」
「ふふっ、そうですね。でも貴明さんが、皆に好かれている証拠ですよ。」
「うん。でも。そう言われるとちょっと照れる・・・・・・・ごほっごほっ!!」
つっ、頭が・・・そうだった。風邪の状態があまり芳しくなかったんだった。
下手に騒いだせいで、疲れが鉛のように圧し掛かってきていた。
苦しそうに咳き込む俺にイルファさんは急に真剣な顔に変わり俺に近寄って来た。
「貴明さん?・・・少々、失礼します。」
「い、イルファさん!?」
イルファさんはいきなり俺の頬を掌に添えて、俺の額に自分の額を重ねてきた。
至近距離に見えるイルファさんの顔に俺の鼓動が高鳴った。
思わずもがく俺に、イルファさんは叱咤した。
「しっ、貴明さん!じっとしていてください。」
「は、はい。」
何時もは優しい、イルファさんが今まで見た事がない強い口調の言葉に俺は大人しくされるままにされていた。
少し経ってからゆっくりイルファさんが離れるとその表情は怒っていた。
「貴明さん一体いつからこの状態になってたんですか?」
「え・・・それは、最初目が覚めた時から・・・かな?」
「やっぱり・・・・・何で直ぐに春夏さんに連絡しなかったんですか!!!」
「い、イルファさん?な、何を怒ってるの・・・・」
「怒りもします!!今の貴明さんの熱が39度近くあるんですよ!」
冷静な彼女には珍しく怒気を含んだ言葉に俺は思わず息を飲んでしまう。
「いや、だって寝れてば治ると思って・・・・・・」
「甘いです!風邪は万病の元、拗らせば死にいたる危険な病なんですよ!!」
「それは、大げさだって。」
「大げさじゃないです!!!世界では、風邪を拗らせて死んじゃう人も少なくはないんですよ。これで、もう少し熱が上がっていたら・・・・・貴明さん死んじゃっうかもしれなかったんですよ・・・・・・・・そうしたら私は、悲しいです。」
極端な物言いに俺は最初呆然としていたけどイルファさんが本気で辛そうにしていたから、俺の方がかなり申し訳なく思えてきた。
「・・・・・・ごめん。」
泣きそうな顔で俺を見つめているイルファさんに他にかける言葉が見つからなかった。
「ごめん・・・・イルファさん。そんな心配させちゃうなんて、思わなかったから俺・・・・・・ただ、皆に心配かけさせたくなくて。」
「良いですよ分ってくれば・・・・直ぐに気付かなかった私も悪かったですし。ですけど、貴明さんは優しすぎるのがたまに傷です。こんな時ぐらいは周りを頼ってください。」
「うん・・・・今度からは気をつけるから。そんな泣きそうな顔しないでよ。」
イルファさんに向かって手を差し伸べるとそっと握り返してくれた。
「はい、約束ですよ。もし破ったらおしりペンペンですからね。」
俺は、彼女のこんな顔が二度と見たくなくて絶対に誓うように力強く頷いた。

「それで・・・・お昼はどうしますか?時間的には丁度良い時ですけど何か食べられますか?」
「・・・・ごめん食欲はあまりないんだ。朝よりも調子が悪くて・・・・・」
イルファさんの提案に俺は首を横に振った。
これ以上余計な心配をかけたくなかったから、今度は強がらず素直に話す。
「そうですか・・・・・・・ですけど、少しは口にしないと駄目ですし。ちょっと待ってて下さい。でしたら何か軽いものでも作ってきますから。」
そう言って立ち上がり踵を返すイルファさんを見つめて俺は思わず声をかけてしまった。
「あ・・・・・イルファさん。」
「はい、何ですか?」
「えっと・・・・・ごめん、なんでもないよ。」
振り返るイルファさんに俺は、結局何も言えずに苦笑する。
何で俺声をかけたんだ?・・・・・・何故かイルファさんが居なくなるって思ったら体が勝手に・・・・・・・・
俺自身分ってなかった行動にイルファさんも不思議な顔をしていた。だけど、俺の気持ちが伝わってるようにイルファさんは微笑みゆっくり顔を近づけてきた。
「すぐに戻ってきますから、そんなに寂しい顔をしないでください。・・・ちゅっ。」
「・・・・・・い、イルファさん?」
呆然とする俺の頬に軽くキスをして、何時も以上に優しい笑顔を向けてイルファさんは出て行った。
え・・・・・俺ってそんな寂しい顔してたのか。
遂顔を触っても、熱っぽいだけで良くは分らなかった。俺ってこんな寂しがり屋だったけ?
だけど、先程頬に感じたイルファさんの柔らかい唇に思わずニヤけてくる俺。
そう思うと、途端に恥ずかしさが湧いてきて俺はイルファさんが居なくなった部屋で、毛布を勢いよく被り布団の中で身悶えするのだった。

「お待たせです。貴明さん。」
「あ、イルファさん・・・・」
顔を向けるとお盆を持ったイルファさんが部屋に入ってくるのが見えた。
良い匂いが鼻腔を擽る。
普段なら、食いつきそうな匂いだけど今はどうにも食欲がわかない。
「ニラと卵を使ったスープです。体もあったまりますので少しだけでも飲んでください。
「うん、わかった。」
本当は、食べる気力も全くないけど普段の笑顔で見つめるイルファさんの顔に、何所なく俺を労わる雰囲気が見えて断れなかった。
自分で体を起こそうとするけど、どうにも力が入らず起きられなかった。
「手伝います。」
「お願い・・・」
イルファさんに支えてもらってどうにか体を起こす事が出来た。
実はこの状態でも結構辛いのが事実だ。
だけど、折角イルファさんが作ってくれたんだし少しは食べないと。
そう思い俺は、スープの入った器を受け取ろうと手を伸ばす。だけど、イルファさんはゆっくり首を振り俺に微笑みながら、スープを手に持ってレンゲを差し出してきた。
ま、まさかこれって・・・・・・・
「あーんです貴明さん。」
「ま、マジですか?」
「はい、マジですよ♪」
即答されてしまった。
流石にこれは、恥ずかしんだけど・・・・・・
「いや、食べるぐらい自分で出来るよ。」
「駄目ですよ貴明さんは病人なんですからちゃんと私の言う事聞いてください。メイドの命令ですよご主人さま♪」
いや、メイドに命令されるご主人さまってどうよ?
っていうか一体いつから俺がご主人さま?
「ですから、あーんです。」
「いやだからね。」
「あーん。」
「いや、だからね・・・」
「あーん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぱくっ。」
結局俺は根負けして、食べてしまった。
「美味しいですか?」
「・・・・・美味しいよ。」
「良かったです♪」
少し苦笑気味に話す俺の言葉でも、嬉しそうに笑うイルファさんを見てると悪い気はしなかった。
何処となく、俺の動悸が激しくなってきていた。
風邪のせいなのか、イルファさんが傍に居るからなのか全然分らなかった。
「まだありますからね、あーんです。」
「あ、あーん。」
恥ずかしくて顔から火が出そうだったけど、イルファさんの喜ぶ顔に負けて結局そのままスープを平たげてしまった。
こんなシーン、他の奴に見られてたら俺、確実に引きこもるぞ・・・・・・・
そして、スープを食べ終えると、さっきまでは寒く感じてたのにぽかぽか温まってきた。
だからなのか、体から汗が次々と湧いてきていた。
「食器片付けてきますね。これが終わったら、パジャマを変えましょうか。汗かいたままの服で寝てたら悪化してしまいます。私も着替え手伝いますから待っててくださいね。」
「・・・え?」
それってまさか・・・・・?


それから数刻後。
イルファさんに親身に介抱されるままゆっくりと時間が過ぎてゆき夕暮れになる頃には俺の体調は嘘のように良くなっていた。
きっとイルファさんの愛情一杯な看病のお陰だろう。
「具合いはどうですか、貴明さん。」
「うん大分良くなってるよ。」
「本当ですか。また強がりとかだったら容赦しないですよ・・・・・・では、失礼しますね。」
俺の言葉に訝しげに眼を細めて来た時と同じように、俺の額に自分の額を合して熱を計ってきた。
至近距離に、映るイルファさんの顔と感じる吐息に思わず俺はドキッとする。
「ん?・・・・・・まだ少しだけ熱があるっぽいですよ。でも・・・・本当に熱は下がってますね。これなら安心しました。」
「う、うん。」
「でも油断は禁物ですよ。風邪は治りかけが肝心ですから、今日一日は無理はしないようにしてくださいね。」
ベットで身を起こしている俺に屈みながら、眼を可愛く釣り上げて念を押す様に見つめてきた。
そんなイルファさんの可愛らしい瞳で見つめられて俺は吸い寄せられるように、イルファさんの腕を掴みベットへ引き寄せた。そのまま腰にも腕を回して優しく抱きしめる。
「た、貴明さん!?」
俺の行動にイルファさんは頬を染めて驚きの声を上げた。
「その・・・・今日はありがとう、イルファさん。もしイルファさんが来てくれなかったら俺まだ寝込んでたかもしれない。」
イルファさんのそれほど大きくはないけど、ふくよかな胸に顔を埋めてギュッと少しだけ強く抱きしめる。
鼻腔一杯にイルファさんの甘い匂いが漂ってきて凄く落ち着く。
最初は驚いていたイルファさんだったけど、自分も腕を回して俺を抱きしめ返してくれた。
「それは私にとって何よりもうれしい言葉です、貴明さん。」
顔を上げると頬を染めながら本当に嬉しそうに微笑んでいた。
俺は、イルファさんの笑顔に我慢ができずそのままベットへ押し倒しす。
そしてゆっくり近寄る唇、イルファさんからの抵抗はなく俺に身を任せていた。
重なる唇に彼女の吐息を、直に感じていた。
柔らなかな感触に俺の脳髄は、麻酔をかけられたように朦朧としてきて普段の俺よりも大胆になっていた。
既に俺の中で病み上がりと言う言葉は消えている。
「その・・・・・俺我慢できないだけど、良いかなイルファさん。」
イルファさんの頬に手を回し、優しく撫でる。
きっとイルファさんなら受け止めてくれるっと思っていた。けど、イルファさんは俺の唇に人差し指を押し当てて片方の瞼を閉じて可愛くウインクしながら少しだけ意地悪な笑みを浮かべていた。
「駄目ですよ、貴明さん♪今日はもうお預けです。だって・・・・・」
「だって?」
ゆっくり俺から離れるイルファさんの、予想外の言葉に俺は拍子抜けしてしまった。けどその言葉の意味が直ぐに俺は分かった。

バタバタバタッ!!

階段を駆け上ってくる激しい足音。
その直後に、勢いよく扉が開かれて入ってくる人影が。
「ごめんなさいタカ君!!まさか、あんなに伸びるなんて思わなかったから!!!本当にご免なさい、このお礼は何でもするから許してね!」
半分泣き顔で俺に必死に抱きつき謝り続ける春夏さん。
何時もの俺なら恥ずかしがる行為だけど、今は別の事を考えていた。
まさか、イルファさんこれが分ってて断ったのか?
彼女の方に視線を向けると、俺の予想を肯定するような微笑みを浮かべていた。
その顔はこれだけじゃないですよっと言いたげな笑顔だった。
更に足音が聞こえて、俺の部屋に入ってくる小さな二つの影。
「タカ君、風邪は大丈夫!!」
「貴明~~~~!死んでへんか~~~大丈夫なん!?」
勢いよく入ってきた、このみと珊瑚ちゃんに抱きつかれる。
苦笑する俺をイルファさんは、ただ愉快な笑みを浮かべているだけだった。
はは、確かに春夏さん達が帰ってくるなら出来ないか・・・・・・・はぁー。
少しだけ残念そうに溜息を吐く俺の耳元にイルファさんは魅力的な言葉を囁きかけてくれた。

「続きはまた今度と言う事で・・・・・楽しみにしてますね♪」

「?何の事なんいっちゃん?」
「いえ、何でもないですよ珊瑚様。」
?マークを浮かべる珊瑚ちゃんに、何時もの笑顔で返すイルファさん。
更にこの後に、タマ姉、雄二、瑠璃ちゃんも部屋にやって来てこの夜は軽い俺のお見舞いパーティーみたいなものに進展していったのであった。


~End~



***後書き***
昔書いたものを再アップしました。
タイトルも前と変わってたりしてます。
風邪ネタ物のイルファメインストーリーです。
ちょっと指摘があったので修正しようと思いましたが、前半部分をかなり変えないといけないので諦めました。
ヘタレでごめんなさい…OZN
しかし、俺もイルファさんに介抱されたいな…一家にイルファさが一台♪の世の中にならい物かね。






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