季節は夏。
穏やかな春の陽気から変わり始め夏特有の照りつけるような日差しになる中、姫百合家一同(貴明含む)は夏の風物詩の一つ海水浴に行く予定を今週末の休みにたてていた。何でも来栖川のプライベートビーチの一つが丁度今週末だけ空いてるらしく研究所の所長長瀬主任の好意で姫百合家にその話が転がり込んできていた。皆、断る理由もなく二つ返事で了承。しかし急に決まった事ゆえに、海に行く事自体初めてのメイドロボ三姉妹は水着などと言うものを持っておらず三人だけで市内の大型デパートに買い物に来ていたのだった。
「ふぅー・・・・水着を選ぶのも色々あって困りものですね」
頬に手を当てて困ったようにイルファは呟いた。
(これなんか可愛いんですけどちょっと私に合うでしょうか、うわっ・・これなんて際ど過ぎです。本当にこんなの誰か着るんでしょうか?)
色んな水着を見ては唸りイルファはどれにするか先程から散々と悩んでいた。
既に選び始めてから一時間は経っている。
それとは逆に、もう既に買うのを決まったミルファは手に水着を持ってイルファに近寄ってきた。
「何、姉さんまだ悩んでるの?」
「ええ・・・こう色々とあると、悩んでしまって」
「そう?私はもう決まったよ。これにするもん!」
と、先ほどから手に持っていた水着をイルファに見せびらかす様に持ち上げる。
「早いですね・・・・でもちょっと厭らしくないですかその水着」
顔をしかめるイルファの言い分は何となく分る。
そう、ミルファの選んだ水着は大人の女性が着るようなセクシーなビキニで異様な色気を醸し出していたからだ。柄も色も赤色で活発なミルファには似合ってるとは思うけど。
だが、指摘された当のミルファは少しもそんな事は気にしておらず、むしろそれが狙いですよみたいな感じで胸を張ってはっきりと言いきった。
「だってダーリンに見せる為に選んだんだもん。別にプライベートビーチだし、私たち以外誰も居ないからこれぐらいはするよ。これでダーリンの視線は釘付けにするんだから!!」
貴明が激LOVEなミルファには、なんとも納得のいく理由だ。
それを聞いたイルファは「はぁー・・・そうですか」と軽くため息を吐いて並べられている水着に視線を戻した。
(もう少しミルファちゃんには慎みと言うものを持ってほしいですね。あ・・・でも、ミルファちゃんの言い分は一理ありますね。確かにミルファちゃんの言うとおりでどうせ居るのは私たちだけですし男の方は貴明さんだけですし見られるのが貴明さんだけならちょっとは、大胆な水着も良いですよね。それにもしかしたらこれを見た貴明さんは・・・・・・・・・・・・・・きゃあ♪)
何処まで妄想したのかイルファは急に嬉しそうに笑いながら頬を染めて体をクネクネとしていた。
イルファの中の何かのスイッチが入ったらしい。
それを見たミルファは「入っちゃった・・・」とぽそりと呆れた様に呟き、少し離れた所で一人で水着を選んでいるシルファの方に声をかけた。
「シルファはどれにするか決めた」
「ぴぁ!?」
ポンと肩に手を置くとシルファは声を上げて驚いた。
「な、何よびっくりするわね・・・」
「びっくりしたのはこっちれす。いきなり声をかけるなれすミルミル」
「はいはい、悪かったわよ。それでシルファは何にしたの」
そう言ってシルファの返事を待たずに手に持っていた水着を見てミルファは『ふっ』と鼻で笑った。
「な、何れすかその反応・・・」
その態度にちょっとカチンときたシルファはキツイ視線でミルファを睨む。
シルファが選んだのはミルファとは対照的で、控え目なワンピースの中でも出来る限り露出を控えた水着を持っていた。
「べっつにー、奥手なシルファにはそれが似合ってるんじゃない。あーあ、今週の海でのダーリンの視線は私に釘ずけかなー」
「っ!!な、何れすからまって聞いてれば、勝手な事言って・・・そ、そんなエロエロな水着れご主人さまは何とも思わないれすよ!適当な事言うなれす!!!」
言い返すシルファの言葉にはミルファは余裕の笑みを浮かべていた。
「そうかな・・・だってダーリンって大きいおっぱいが好きだし、結構男の子ってHなんだよ。学校で私が抱きつくとダーリンは嬉しそうにしてるのよ」
「な!?シルファが知らない所れ、人のご主人さまを勝手に誘惑してるれすか!!!」
大声を上げて食ってかかるシルファにミルファは五月蠅そうに耳を押さえてる。
「五月蠅いなー、別に良いじゃない、抱きつくぐらい」
「らめれす、ご主人さまはシルファのものれすよ!!」
勝手にもの扱いされてる貴明は取りあえず置いといて、顔真っ赤にしてきつく睨めつけるシルファにミルファはちょっと呆れていた。
(もう、ヒッキーのくせに独占欲強いんだから・・・・・・・・・・・・・・・はぁー、でも良いな。シルファはダーリンと付き合えて)
本来なら自分が貴明の家に行ってメイドをして毎日あんな事やこんな事をしてムフフな展開を学校のパソコン室で出会ってから思い描いてたのにその計画は目の前のシルファに文字通り横取りされたミルファはなんとも複雑な心境なのだ。
(本当は私がダーリンと付き合いたかったのに、ヒッキーのせいで・・・すべて取られて、それで・・・・・・・・・ああもう!なんで私がこんな役回りになるのよ!!)
考えれば考える程無性にミルファの中で苛立ちが湧きたってくる。
収まりが利かないミルファはちょっとシルファを困らせてやろうと思いちょっと挑発的な態度をとってしまった。
「ふぉ、ふーん。ならシルファはダーリンを満足させられるの。もっともシルファみたいな貧相な体でこんな水着は似合わないもんねー?」
「な、なんれすって・・・・」
意地悪そうにシルファの胸を指すミルファにカチンときていた。
それはミルファの言葉がちょっとは理解出来るからだ。
人と付き合う事自体経験が乏しいシルファも貴明と結ばれてから、内緒で色々と調べてはいた。
男の子はHが好きな事とか、手料理に弱いとか、裸エプロンに興奮するとか・・・・何か微妙に知識が偏ってる気がするけどその中で大きいおっぱいが好きと言う意見が以外に多いのが眼には付いていた。
だからと言って、ミルファのようにシルファにはあれだけの大胆な水着は選べなかった。
理由は、至極当然『恥ずかしい』から。
貴明と出会ってから随分経って多少は人見知りも治ってきたと言ってもシルファも恋する女の子なのだ。大胆な水着を着るにはそれなりの度胸がいるのだ。それが、河野貴明という人物に見せると言う行為なら尚の事。しかし、ミルファにここまで言われて黙ってるのもシルファには癪に障っていた。
(くっ・・・・勝手な事言って、らいたいミルミルは慎みと言うものがないれす。何れこう何時も何時も恥ずかしも無くらいたんなこうろう取れるのれすか・・・・らーりんらーりんっていい加減その言い方止めろれす。ご主人さまはシルファのご主人さま何れすよ!)
シルファの中にも恥かしさよりも沸々と湧きあがる感情、嫉妬と言う名の怒りが出てきていた。
プルプルと震えるシルファに、ミルファは最後の一言をかけてそれがトドメとなった。
「ま、無理しないでも良いのよシルファ。ダーリンのお世話は譲ったけど、ダーリン自身は諦めてないからこのチャンスに私が貰うから」
ブチッ!!
その言葉でシルファの中の何かが切れた音が響いた気がした。
シルファは黙って持っていた水着を戻し、ミルファと同じビキニの水着を取ってミルファを睨みつけた。
「な、何よシルファ」
「・・・れす」
「は?」
「られがご主人さまを、一番誘惑れきるか勝負れす!!」
ここが往生の場も忘れ周りの視線も忘れシルファは大胆な発言を恥ずかしげもなく発言した。
周りの客や従業員も何事かと思いながら固唾を飲んで二人を見つめていた。
まさかシルファからこのような大胆な事を言われるとは思ってなかったミルファも一瞬呆気に取られたが直ぐに目をきつく吊り上げて睨み返す。
「ふ、ふん。良い度胸じゃないの。受けてたってやるわよ」
二人は手に持った水着をそのままレジに持って行った。
「「店員さん!!」」
「は、はい」
「これください!!」
「これくらさい!!」
二人のド迫力の気迫に怯え気味の店員はびくびくしながら会計を終えて水着を袋詰めをし二人に渡した。
「後悔させてやるれす。ミルミル」
「それはこっちのセリフよ。ヒッキー」
不敵な笑みで睨みあう二人は重い雰囲気を醸し出しながら外に出て行った。暫く店の中には変な緊張感が支配していたのだった。
「あらあら、貴明さんそんな事まで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってあれ?ミルファちゃんシルファちゃん何処ですか?」
約一名妄想に耽ったまま忘れ去られ置き去りにされていたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
その頃の学校では、そんな展開に発展してるとは思いもよらない俺は何時ものように皆と一緒に学校の屋上で昼休みをとっていた。
「はーくしょん!!」
急に背筋に感じた悪寒に俺は思いっきりくしゃみをしてしまい周りの皆が心配して見つめていた。
「タカ君、大丈夫?」
「あ、ああ。ごめん、大丈夫だから」
「そうなんか随分なくしゃみやったけど、なんや貴明風邪かー?」
「夏風邪は拗らすと大変だぞ。頼むで俺にうつすなよ」
「大丈夫よ、雄二じゃあるまいしタカ坊は夏風邪なんかひかないわよ」
あ、さり気無いタマ姉の言葉に雄二が地面にのの次書いてる。
「た、タマ姉。ちょっと言い過ぎ」
「だって本当の事じゃない。雄二なんか家で勉強してるの見た事無いもの、この前のテストなんか・・・」
「あーあー!!姉貴それ以上言うな!!!}
雄二の奴答案用紙までタマ姉に管理されてるのか・・・合掌。
しかしなんかさっきからぞくぞくするんだよ。嫌な予感がすると言うか・・・・・・・・・まさかな。
何とか別の話題に切り替えたい雄二は必死に話を誤魔化そうと今日休んだミルファちゃんの事を触れてきた。
「そ、そう言えば今日はミルファちゃん休みなんだよな」
「あ、そうだな。今度の休みに海に行くから、水着の調達って言ってた」
イルファさんは学校があるから休むのは駄目と止めていたが、イルファさんとシルファちゃんだけは買いに行くのに自分は選べないのは嫌っ!!と言って無理を言って今日は休ませて貰ったようだ。
「でも良いよな・・・・貴明も行くんだろ?」
「あー・・・まぁーな」
「羨ましいメイドロボ三姉妹と双子の姉妹とお泊まりか・・・・・はぁー、世の中って不公平だよな」
いや、俺に言われても知らないって。
「せやけど、ミルファとシルファも一緒で大丈夫なんやろうか?イルファもおるし問題になってへんとええけどな」
「そうやな。あの二人喧嘩ばっかりやもんな・・・・今度デパート行ったらみっちゃんとしっちゃん立入禁止とかやったらおもろいなー☆」
いや、珊瑚ちゃんその発言は笑えません。
本当、あの二人・・・・・また喧嘩してなきゃ良いんだけど。
そして、放課後。
「うー・・・まだ体がぞくぞくする」
家に帰る道を一人歩く俺は、昼から感じる悪寒に震えていた。
それは家に近づく度に酷くなってきていてまるで俺の第6感が家に帰るのを警告してるようだった。
やっぱりあの二人、また何かあったんだろうか?
シルファちゃんとミルファちゃんは前々から犬猿の中で今更だけど、シルファちゃんが俺の元へ帰ってきてからも更にその関係は続いていた。
いや、前より悪化してるよな。
喧嘩する理由は俺にも、分っている。
何時かはっきり言わないと思いつつ、結局言えないままでいる俺が原因なのだ。
しかし、なんというかタイミングというかそれがないのだ。
心は既に決まっているんだけど・・・・何時も言えないのだ。
俺は困ったように頭を掻きながら取りあえず考える事を放棄して、少し重い足取りで家路を進んでいった。
「ただいまー」
玄関を開けて家に入ると、見慣れた靴が二つ目についた。
あ、やっぱり・・・ミルファちゃんが来てる。
予感が的中した事に、やっぱりと苦笑する俺の耳に聞きなれた声が奥から聞こえてきた。
『あ、ダーリンが帰ってきた』
『ふ、ふん。ろっちかが選ばれても恨みっこなしれすよ』
『別に良いもん。ダーリンが選ぶのは絶対私だもん』
『くっ・・・あーぱーの癖に』
ん?二人ともリビングに居るのか。
微かに聞こえる二人の話声だけで、ちっとも迎えに来ない二人に俺は靴を脱いでそのままリビングに続く扉に近づいた。
「二人ともなにして・・・」
扉を開けるとそこには・・・・・・
「あ、お帰りなさい。ダ~リン♪」
「お、お帰りなさいれす。ご主人さま・・・」
とびっきり甘い声と、恥ずかしそうに頬を染めながら俺の帰りを迎える奇妙な恰好の二人が居た。
いや、居たのだけど何と言うか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ水着を着てるのだろうか?
ありえない光景に俺は一瞬固まってると二人は見せつけるように俺に寄ってきた。
「ね、ね。ダーリン、今度の休みの為に水着買ってきたの。どうかな?」
「あ、抜け駆けするなれす。ご、ご主人さまシルファも買ったれすよ。ろうれすか・・・似合ってますか?」
「え、あの・・・その・・・」
今回は予想の斜め上に行く展開に俺の頭は混乱していた。
え、何これ?何でこんな事になってるんだ?誰か説明プリーズー?
思わず心の中で変な言動を発する俺はかなり動揺していた。すると惚けている俺の顔が柔らかい手に抑えられ強引に向けさせられた。
「むー、ダーリンはこっちを見るの!」
「いや見るって言われても・・・・・なんで、そんな恰好をしてるんだ」
「もちろん、ダーリンに見せるためだよ。ね・・・私に似合ってない?」
そう言うとミルファちゃんっは腕で胸を押さえながらその豊満の胸で谷間を作った。
只でさえ大きい胸が異様な存在感を醸し出していた。
「・・・・・・・ごくっ」
「あ、ダーリン唾飲んだ。興奮してるんだ~~~嬉しいなー」
俺の反応に嬉しそうに腕に抱きつくミルファちゃんの感触に俺の顔が段々緩んでくるのが分った。
正直に言おう・・・・最高です。
そうふしだらな考えを巡らせていると、急に反対側の腕がギュッと思いっきり抓られた。
「痛っ!!!!!!!」
余りの痛さに一気に現実に戻らされた俺は、ヒリヒリ痛む腕に若干涙しながら抓られた方に目を向けた。
そこには不機嫌そうに不貞腐れたシルファちゃんが頬を膨らませて俺を睨んでいた。
「ご主人さまのH・・・・」
「あ、その・・・・ごめん」
謝る俺に今度はそっと俺の制服の裾を摘みながら俺の顔を見つめる。
「・・・シルファちゃん?」
「・・・・・み、ミルミルばかりズルイれす。シルファのもちゃんと見てくらさい」
顔を赤く染めながら話すシルファちゃんは腕を後ろの回して俺に見せるように立っていた。
俺に見られるのが恥ずかしいのか顔だけじゃなく体もほんのりと赤く染まってる気がした。
「ろ、ろうれすか・・・」
「あ、うん似合ってるよ」
「ほ、本当れすか?」
「うん・・・・でもシルファちゃんもビキニなんだね」
「え?可笑しい・・・れすか?」
「いや、可笑しくは無いけどさ・・・てっきり可愛いワンピースの水着を選ぶかと思ってたからさ。意外だっただけだよ」
「あ・・・そうなんれすか」
「?」
俺の言葉に理由は分らないけど、水着を褒められた事よりも嬉しそうにしているシルファちゃんに俺は首を傾げた。
なんか、妙に嬉しそうだな・・・・
まるで自分の事をちゃんと理解してくれているそんな全幅の信頼からくる喜びの笑顔に俺の方も自然に顔が緩んでくるのが感じてきた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
どこか熱っぽい視線で見つめ合う俺達を見て今度はミルファちゃんのいる左腕から不貞腐れた声が聞こえてきた。
「むー・・・・ダーリン!見つめすぎ!!!」
「痛ててててててててて!!!」
今度はミルファちゃんから頬を思いっきり抓られ激しい痛みに俺は唸った。
「ミルミル邪魔するなれす!」
「それはお互いさま!」
俺の両腕に抱きつきながらお互いに睨みあう二人。
両腕に二人が掴まってる以上、痛む頬を撫でる事も出来ずに俺は二人の喧嘩を見てる事しか出来なかった。
「ダーリン!!」
「ご主人さま!!」
「は、はい。なんでしょうか!!」
急に俺の方に向き直って異様な迫力で言いよる二人に俺は真面目に返事をしてしまった。
「ダーリンは・・・」
「ご主人さまは・・・」
「どっちの水着姿が好きの!!」
「ろっちの水着姿が好きなんれすか!!」
「い、いやそんな事言われてもどっちも似合ってるとしか言えないんですけど・・・・・」
素直にそう答えると二人はそんな曖昧な解答は望んでおらず尚も俺に食いついてきた。
「そんな訳ないもん!シルファの貧相なボディと私のダイナマイトなボディじゃ全然違うんだから!!!」
「られか貧相れすか!ミルミルはたらおっぱいがれかいらけれじゃないれすか!!」
「人をおっぱいだけしか能がない風に言わないでよ!」
「実際そうじゃないれすか!髪だけじゃなく頭の中も桃色なミルミルは自覚がないらけれすよ」
「な、何ですって・・・・・」
ああ、もうまた喧嘩を始める。
「ちょっと落ち着こうよ。ね、二人とも」
仲介しようと二人の会話に俺は割って入ると二人はもう一度先ほどと同じ質問をしてきた。
「じゃ、ダーリンどっちがいいか決めてよ」
「え、それは・・・・」
「そうれす!ご主人さまが決めればそれれ万事解決れすよ」
「えーっと・・・・・」
「どっちなの!!!」
「ろっちれす!!!」
二人の迫力に俺は冷汗をかきながら思考を巡らせていた。
どうやらはっきり決めないと、済まないらしい。
どっちって、言われてもな・・・・・・どっちも良いし。
ミルファちゃんの大胆なビキニもシルファちゃんの少し控え目で可愛いビキニも俺にはどっちも魅力的だった。でも・・・俺の中では一つの考えが浮かんでいた。
もしかしたら今が気持ちを伝えるタイミングなのかもしれないのかなーと。
何時までも二人に甘える訳にはいかない。
「うー・・・」
「むー・・・」
じーっと期待した目を向ける二人の視線を感じながら、考えに考え抜いて俺は彼女を傷つける事になると分っていながらも覚悟を決めて口を開いた。
「えっと・・・・・ミルファちゃんかな」
「え♪」
「え・・・」
まさに二人とも真逆な反応を見せた。
これで後戻りは出来ない。
「あのね・・・二人とも、俺は・・・」
「ダ~~~リン♪」
「おわぁ!?」
更に続きの言葉を言おうとしたが、嬉しそうに俺の腕に抱きつき惜しげもなくその豊満な胸を当ててくるミルファちゃんに俺は一瞬言わなければいけない事を飲み込んでしまった。
「本当に本当にシルファより私の方が似合ってる♪」
「あ・・・うん。俺はミルファちゃんの方が似合ってると思うよ」
「やった~~~~♪」
ちょっとその甘美な感触に先ほど考えていた事が一瞬頭から離れてしまう。
「やっぱり貧相なヒッキーより私の方がこれは似合ってるもんね。ダーリン分ってる~」
「あ、いやそう言う事で選んだんじゃないんだけど・・・・・」
ちゃんと俺の気持ちを伝えようと思ってたけどこちらの予想を上回る喜ぶ反応を見せるミルファちゃんに俺はつい話せなくなっていた。
結局また流されてるな・・・・・だけどそれが悪かった。
言うか言わまいか長ったらしく悩んでいたせいで、シルファちゃんの怒りのボルテージが上がっていき、遂にリミットが越えたシルファちゃんはギュッと俺の右腕が強く締め付けてきた。
痛む腕と隣から感じる黒いオーラに俺は冷汗をかいていた。
「やっぱり胸れすか・・・そうれすか・・・胸何れすね・・・・・・」
地獄からの怨念のような重い声が聞こえてきて俺はかなりビビっていた。
「あ、あの・・・シルファちゃん。怒って・・・・るのかな」
俺が聞くとシルファちゃんは笑顔で振り向いて答えてくれた。そう、とびっきりの引き攣った笑顔で。
「・・・・れつに怒ってないれすよ。ご主人さまは、シルファよりもミルミルの方が好みらったそれらけれすよね」
「あ、いや。俺はそういう意味で選んだんじゃなくてね。あくまで俺は・・・・」
「もー、ダーリンそんなに照れなくても良いんだよ。ほらほら、ダーリンの好きなおっぱい好きなだけ触っても良いんだから」
ちょっ!?ミルファちゃん!!今そんな事されたら逆効果・・・・・・あ、でも気持ちいい。
そして性懲りもなく緩む俺の顔をしてしまったせいで運命が決まってしまった。
「ふ、ふふっ・・・・随分嬉しそうれすね。そんなに大きな胸が好きなら・・・」
「し、シルファちゃん」
「おっぱいと結婚れもしろれす!!!」
ドガッ!!!
「ぶほぁ!!??」
「ダーリン!?」
「ふん!!」
怒ったシルファちゃんの鉄拳が顔面におみまいされて俺の意識は闇の中に沈んでいったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そして暫くして目が覚めた俺は見慣れたリビングの天井が視界に映った。
部屋の中は日が落ちかけているのか薄暗くなっていた。
ひんやりと額に伝わる感触が程良く心地良かった。
「そうか俺、シルファちゃんに・・・・痛っ」
「あ、ダーリン起きて大丈夫」
痛む頭を押さえながら、ソファーから起き上がると心配そうに俺を気遣う声が聞こえてきた。
声のした方に目を向けると、俺が気絶してる間に私服に着替えたのかミルファちゃんが俺の額から落ちたタオルを拾う。
「ミルファちゃん・・・うん、大丈夫だよ」
俺が気絶してからずっと看病してくれてたのだろうかミルファちゃんの傍らには水が汲んである桶があった。
「看病してくれてたんだね。ありがとう」
「うん。体は大丈夫なの」
「うん、ちょっと痛むぐらいだから・・・・それはそうとシルファちゃんは」
俺が聞くと、ミルファちゃんはちょっと困ったような顔をしながらリビングにある段ボールが置かれているエリアに指を指した。
俺も視線を向けるとそこには何段も段ボールが積まれており何時も以上の引きこもりぷりを醸し出していた。
あー・・・これは相当、怒ってるよな。参ったな・・・・
頭を掻く俺にミルファちゃんが罰が悪そうに話しかけてきた。
「ダーリンを殴ってから、シルファ直ぐにあんな感じになっちゃって・・・・ごめんね」
「いや、ミルファちゃんが謝る事無いよ。悪いのは俺なんだしさ」
「ううん。私もちょっと悪ふざけが過ぎたもん。ダーリンに選んでもらって、浮足経っちゃって・・・・ダーリンの気持ち分ってたのにね」
「き、気持ちって」
意外な言葉に驚く俺にミルファちゃんは、意地悪そうに微笑んだ。
「ふふっ、ダーリンは優しいもんね。さっき私を選んだ理由もシルファの為だったんでしょ」
「えっと・・・・うん。」
俺の考えがばれてた事に恥ずかしがる俺にミルファちゃんは少しだけ残念そうにしていた。
「分ってたんだ・・・」
「ちゃんと分ってるよダーリンの事だもん」
「ミルファちゃん・・・ごめんね、俺は」
悲しそうに瞳を曇らせるミルファちゃんに俺はそれ以上言葉が出てこなかった。
その顔で全てをくみ取ってくれたのかミルファちゃんもそれ以上何も聞いてこなかった。
「あーあ。やっぱり分が悪かったな・・・・・折角ダーリンをセクシーな水着で虜にしてゲットしようと思ってたのに」
「・・・ごめんねミルファちゃん。俺・・・・」
何も言わなくても俺の気持ちを考えてくれるミルファちゃんに俺は謝罪の言葉しか出てこなかった。
こんな時って何も浮かばないものなんだな。
「その気持ちだけで良いよ。ダーリンの一番は誰かずっと分ってるつもりだし、分ってはいたから」
手に持ったタオルを桶に戻すとミルファちゃんはゆっくりと腰を上げた。
「さてと・・・・それじゃ。私は帰るね」
「あ、玄関まで見送るよ」
俺も一緒に行こうと腰をあげるとミルファちゃんは手を制した。
「大丈夫、ダーリンは他にやる事あるでしょう」
「あ・・・うん」
「私を見送りに行ったら益々機嫌悪くなっちゃうよ」
ミルファちゃんの言葉に俺は、苦笑するしかなかった。
でも流石にちょっと今回は不安だ。
「はは、でもちょっと今回は根が深そうだからどうにかなるかな」
「大丈夫だよ、ダーリンなら」
不安で顔が渋くなる俺をミルファちゃんは暖かい頬笑みで返してくれたお陰で、少し気が楽になった気がした。
「じゃ、また明日学校でね」
「ああ」
「あ、そうだ」
そして、部屋を出る直前に俺の方に振り返った。
「一番はシルファに譲ったけど、二番は諦めてないから覚悟してね、ダーリン♪」
「え゛・・・」
ミルファちゃんらしい言葉を言われて咄嗟の事に呆気にとられる俺を見てミルファちゃんは嬉しそうにして帰っていったのだった。
そして部屋には俺とシルファちゃんしか居なくなった。
さてと・・・・行くかな。
暗がりの部屋に鎮座している段ボールの山を見て俺は軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「シルファちゃん」
「・・・・・・」
当然返事は無かった。
それでも俺は言葉を続けた。
「その・・・ごめんね」
「・・・良いんれすよ。ろうせご主人さまは大きいおっぱいが好きなんれすよね。シルファみたいなちんちくりんな胸じゃ嫌なんれすよね」
あーあ、すっかりやさぐれてますよ。
「そんな事は無いよ。俺はシルファが一番好きだよ」
「嘘れす」
「嘘じゃないよ」
「らったらなんれミルミルを選んらんれすか?」
「それは・・・・・・他の奴に見られたくなかったからさ」
俺の言葉にガタッと段ボールの山が揺れた。
「だって、ほらビキニって露出高いだろ。だから、あんまり他の人には見せたくないなーって・・・」
夏はまだ始まってばかりだ、今回はプライベートビーチに行けるから良いけど後から公共の場所へ行くとなるとあの水着のシルファちゃんを見せるのはちょっと嫌だったのだ。
「み、ミルミルは・・・良いんれすか」
「ミルファちゃんはあーゆー性格だから合ってると思うからね。でもシルファちゃんはその・・・俺の彼女だし余り露出高い物だと今度二人で遊びに行く事が出来なくなるしね」
「え・・・」
「ほら、他の男に見せるのは何となく嫌だったから」
くっ・・・・は、恥ずかしい。
「そ、それに、どうせシルファちゃんも無理してあの水着にしたんじゃないの?ミルファちゃんと張り合ってさ」
「うっ・・・・な、何れ分るんれすか」
図星をつかれたのかシルファちゃんはちょっと言葉を濁した。
「シルファちゃんの事だからね。何でもわかるよ」
「あぅ・・・・・・」
恥ずかしくて顔から火が出そうだが俺の素直な言葉にシルファちゃんは何も返事をしてこずに、ガタガタと音をたてながら段ボールの山を崩して中から出てきた。相当機嫌を悪かったのか気絶した前のままの恰好で水着姿のシルファちゃんがゆっくりと立ち上がった。
「ら、らったら一つらけ教えてくらさい」
「ん?何を」
シルファちゃんはぎゅっと手を握りしめて、俺を見つめてきた。
「もし・・・・・・シルファが自分れえらんら水着ならミルミルよりシルファをえらんられすか」
恥ずかしそうに頬を染めながら期待した眼で見つめるシルファちゃんに俺は当然「もちろん」と答えた。
「ほ、本当れすか」
「うん」
「ミルミルよりもシルファの方が好きれすか」
「うん、それはもう」
「ミルミルより・・・胸ちっちゃいれすよ」
「大丈夫俺はむしろ、シルファちゃんの胸が好きだから!」
最後は指を立てて宣言すると、シルファちゃんはボッと顔に火が付いた様に赤くなった。
あれ?ちょっと派手に言い過ぎたか。
「ちょっと、ご主人さま変態っぽいれす・・・・」
「うっ・・・ごめん」
「れも・・・」
「ん?」
「凄く・・・・嬉しいれす」
嬉しさでシルファちゃんはやっと笑みを漏らした。俺だけに見せてくれるシルファちゃんの笑顔に俺は無性に愛おしさがこみ上げてきてシルファちゃんの手を引き胸の中で優しく抱いた。
「ご、ご主人さま!?」
「いや、シルファちゃんがあまりに可愛かったからちょっと我慢が」
「っ~~~そう言う恥ずかしいセリフを言うなれす・・・・」
照れるシルファちゃん、怒るシルファちゃん、笑うシルファちゃん、全ての表情が俺の心を魅了していく。
胸のドキドキを感じると本当にこの娘に恋をしてるんだ気づかされた。
シルファちゃんのサラサラの金髪を撫でながら、俺達は互いの名を呼び目を見つめ合う。
「シルファちゃん・・・」
「ご主人さま・・・」
そのまま俺達は引き合うように唇を重ねそのままゆっくりとフローリングされた床にシルファちゃんを押し倒した。
「ん、ちゅ・・・あ、ご主人さま。そろそろご飯を作らないと遅くなるれすよ・・・・」
「んー・・・・今はシルファちゃんを食べたいじゃ駄目かな?」
「うぅ・・・ご主人さまはやっぱり変態れす」
そして俺が、夕飯にあり付けたのはそれから更に一時間後だった。
ちょっと、大胆な行動に今更ながらかなり恥ずかしくなっていた。
「えっと・・・シルファちゃん。明日また水着買いに行こうか」
「え?水着れすか・・・・まさかご主人さま変な趣味に目覚めたんじゃ・・・・・」
先程の行為の事を言ってるのか恥ずかしそうに俺に聞き返すシルファちゃんに必死に否定した。
「ち、違う違う!!そうじゃなくって、その・・・今の水着じゃなくてちゃんとシルファちゃんが選んだ水着をみたいなって思ってさ・・・・駄目かな」
「駄目じゃないれすよ。それにしても・・・・ぷぷっ、ご主人さま必死に否定して本当は違うんじゃないれすか?さっきも凄い気持ちよさそうにしてたれすよ」
「うぐっ・・・それは」
何か言い返そうにも可笑しそうに笑って嬉しそうにしているシルファちゃんを見てると結局俺は何も言い返せなかった。
シルファちゃんが可愛いのがいけないんだ。
そして次の日、水着を買いにもう一度デパートへ行くと何故か従業員の皆が興味深そうにちらちらとこっちを見ているのがとても気になったのだった。
何故に?
昨日の出来事が原因とは俺は知る由もなかった。
~終わり~