「はは、そうだよなー。おう、行く行く。用事なんて何もないし。それでさー…」

あれ、この声…お兄ちゃん電話してる?
部屋で宿題をやっていた私は部屋の中に聞こえて声に思わず手を止めた。
電話は階段の傍にある電話の声は上がった先にある私の部屋まで届いてしまう。
特にお兄ちゃんとお父さんの声は大きくほぼだだ漏れ状態だ。
それに……この妙に浮ついた声。
きっと相手は一人だけしかいない。
電話の相手は絶対お兄ちゃんの彼女だろう。
多分また、デートの誘いなんだろうな……嬉しいのは分かるけどもう少し小さな声で話してくれると助かるんだけど。
ま…不作法なお兄ちゃんじゃそんな気遣い無理だよね。
お兄ちゃんの彼女は一体何処を好きになったのか一度聞いてみたい気もする。
そう思いながらも私はなるべく気にしないようにして、宿題を再開するが直ぐのその手が止まる。
あ、そういえば…明日の休み友達来るって言ってたけど、どうするんだろう?
祐樹さんに…用事出来たってちゃんと連絡するのかな?
また連絡するの忘れてそのまま出かけそうだな~。
そうすると家に来ても無駄足になっちゃう…よね。
祐樹さん………ぽー……
その人の事を思い出すと思わず頬が熱くなってくる。
出会いは約一年ほど前に家に遊びに来たのが初対面だった。
ぱっと見は決して格好良くはないけど、ずぼらな兄とは違い誠実そうで優しい雰囲気を持った人。
一目見た時からドキドキと胸が高鳴り淡い思いが浮かんでは消える。
あの時は良く分からなかったけど今でははっきりと分かる。
私はあの人の事を………き。
でもそんな勇気は私にはまだなくて、だからせめて今は少しでもお話をしたかった。
お兄ちゃん居ないけど、家に上がってくれるかな?
クッキーでも焼いて誘えば………もしかして、いけるかな、うん。

次の日……

祐樹は約束の通りに、腐れ縁の友人信二の家まで訪れていた。
チャイムを押し、暫く待つ。

「はーい、どちら様ですか?…あ、祐樹さん」
しかし、玄関から出てきたのは、信二では無くその妹の祢夢だった。
同年代の学生の割には、比較的背が小さい祢夢はそこまで平均的にな身長の祐樹でさえ見上げる程だ。
何処か熱っぽい視線を向けてる事に、一切気づかずに祐樹は何時ものように話しかける。
「こんばんは、祢夢ちゃん。信二、居る?」
祐樹がそう聞くと、祢夢は申し訳なさそうに言葉を濁した。
「えっと…お兄ちゃんは出かけてます」
「本当に?まさか……」
「はい、多分。昨日の夜に電話が来て、部屋で嬉しそうに電話をしてましたから」
「そっか。信二の奴……また忘れてやがるな」
どうやら、ドタキャンをされるのはこれが初めてでは無いのか、不満そうに顔を顰めていた。
「ご、ごめんなさい…私から連絡出来れば良かったんですけど、祐樹さんの家の番号を知らないし、お兄ちゃん彼女さんからの電話は遅くまでしてるから……」
「気にしなくていいよ、祢夢ちゃんが謝る事無いから。悪いのは全部信二だしさ…全くあいつのいい加減さは何時までも変わらないな」
「うっ…不出来な兄で申し訳ないです……」
「いや、だから祢夢ちゃんは悪くないって」
兄の不手際をまるで自分のせいの様に謝る祢夢を宥める。
それ以上、信二の事で愚痴ると祢夢が逆に落ち込むと思い祐樹は話題を逸らす事にした。
「それは、まぁ会った時にあいつに言うとしてだ。しかし、どうしような…信二の奴デートへ行ったなら夕方まで帰って来ないだろうし」
考え込む祐樹の言葉に祢夢は“チャンス”と瞳を輝かせ、伏せていた顔を上げ大きな声で提案をした。
「あ、あの!!だ、だったら…その、良かったら家に上がりませんか?」
「え、良いの?」
「はい、私も祐樹さんと話するのは楽しいですしその…えっと、だから、あの…あ、そうだ。クッキーも焼いたんですよ。よ、良かったら、食べて貰って……駄目ですか?」
「うーん。そうだな…他に用事がある訳じゃないし、祢夢ちゃんのクッキーが食べられるなら直ぐに帰る理由もないしね。……悪いけど、お邪魔させて貰って良い?」
「は、はい!どうぞ、上がって下さい」

そして、ちょっと強引な祢夢に連れられて祐樹は祢夢の部屋にまで案内されていた。
ぬいぐるみやピンクのカーテンなどファンシー感が溢れ女の子らしい可愛らしい雰囲気に包まれながら周りを物珍しい風に見渡す。
(別に居間でも言い気がするけど何で、祢夢ちゃんの部屋なんだろうな?……それに何処となく良い香りがする。コロンかな?)
そして待つ事数分。まだ焼き終えてそんなに経ってないのか香ばしい甘い香りを漂わせるお盆を持ち部屋に戻ってきた。
「お、お待たせです」
「うん、ありがとう」
部屋を見渡していた祐樹に気づき祢夢は恥ずかしそうに頬を染める。
「あ、あんまりじろじろ見ないでください。ちょっと恥ずかしいです」
「ごめん。女の子の部屋って入った事が無くて珍しくて」
「そう…なんですか?彼女とかに呼ばれたりしないんですか」
「はは、生憎そんな人は居ないよ」
(あ、そうなんだ…)
てっきり、付き合ってる人が居るものだと思いこんでいた祢夢は予想外な話に心の中で小さくガッツポーズを取っていた。
私にもチャンスがあると。
「それよりも、早速クッキーを食べて良いかな?」
「は、はい。どうぞ」
「じゃ、頂きます」
一つ掴み口に運ぶ。
それを何処か祢夢は期待した目で見つめていた。
「どう…ですか?」
「うん、美味しい。祢夢ちゃんのお菓子は何時食べても絶品だよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます!」
褒められて嬉しそうに頬を染める祢夢に釣られ祐樹も微笑えを零す。
「うん、自慢しても良いと思うよ。でも、信二が羨ましいな……」
「羨ましい?何がですか」
「いや、だってこんな美味しいお菓子を作れる妹がいるし。それに祢夢ちゃんって他の料理も得意だろう?」
「一応…基本的な物ならですけど」
「だろう?毎日こんな手料理を食べれる信二には、羨ましさを通り越して妬みが湧いちゃうよ」
「そ、そんな事無いですよ」
照れ笑いを浮かべる祢夢に祐樹は真面目な顔をして話す。
「いやいや、謙遜する事無いって。僕なんか、家に帰っても誰もいないし毎日店屋物だから素直に羨ましいよ」
「誰もって…祐樹さんは独り暮らし何ですか?」
「ま、半分そんな感じだな。家は父子家庭で、親父は夜遅くしか帰って来ないし母親は昔、男と駆け落ちして以来音信不通だからほとんど一人暮らし同然だね」
まさかそんな家庭の事情があるとは思いもよらず祢夢は無神経に聞いてしまった事に激しく後悔した。
「ご、ごめんなさい。わ、私知らずに普通に聞いちゃって……」
「いや、別に気にしないで良いよ。もう昔の事だしもう気にしてないからさ。でも……だからなのかなー、手料理って言うのに憧れててね。いっその事、祢夢ちゃんが僕の彼女になって毎日家にまで料理作ってないかな?」
少しだけお茶らけた口調で告げられ、祢夢は一気に照れて顔が真っ赤になった。
話の流れから言って冗談なのは分かってはいたのだけれども、それでも内心期待してしまう自分がいた。
だから、話に合わせるように祢夢も軽く流そうとした。
「え、そ、そんな私なんかじゃ祐樹さんに釣り合わないですよ……こんな背が小さいし」
「そうかな?僕は、祢夢ちゃんの事好きだよ。何時でも一生懸命で元気で、可愛いし。こんな料理を食べれるなら願ってもないけどね」
「はぅ……じ、冗談やめてくださいよ」
しかし、祐樹は切り替える事もなくj尚も話を引っ張ってきた。
これ以上からかわれると、抑えられなくなる…そう思った祢夢は苦笑気味に答えた。
だけど、祐樹の顔は少しだけ真剣な目をして祢夢を見つめてきた。
あまりの真摯な顔に息を飲み込む。
「………もし本気だって言ったら、どうする」
「……え?」
思いがけない言葉に祢夢は呆気に取られ耳まで赤く染め上げた。
今ってどういう意味なのかな?……祐樹さん私の事本当に。
祐樹の真っ直ぐに見つめる瞳に祢夢は目を逸らす事が出来なかった。
こ、これって本当に……そ、そんな目で見られてら、わ、私も抑えられないよ。
もしかしたら、本当に祐樹さんも私の事…
「あ、あの。ゆ、祐樹さん、そ、それって本気…」
「なんてな。冗談だよ」
「はい?…冗談」
「流石に、僕と祢夢ちゃんじゃ歳が離れ過ぎてるし付き合ったら僕が変態扱いされかねないしね。ごめんね、話をひっぱり過ぎたね」
先程の真剣な顔とは打って変わって何処か茶化すような口調になった祐樹に思わず笑顔が引きつった。
(あ、あははは。冗談だったんだ、そうだったんだ……そうだよね。私なんて普通眼中にないよね、はははは……はぁー)
明らかな落胆ぶりをみせる祢夢に祐樹は訳が分からず首を傾げていた。
「どうしたの?」
「何でもないですよ。………祐樹さんのバカ。鈍感」

若干落ち込み気味な祢夢を不思議に思いながらもその後は二人で取り留めのない話をしながら時間をつぶした。
学校の話や、友達の話、面白かった漫画の話。
そんな話をしながらちらりと、祐樹の顔を見つめる。




ぶー…本当に酷い冗談を言うんだから…さっきの本気に知っちゃったよ。
本当に…私なら、構わないのにな…
何時からだろうか、祐樹さんの事ばかりを考えるようになったのは。
お兄ちゃんの友達なのは随分前からだって知ってたけど実際会ったのは、お兄ちゃんに好きな人が出来てからだった。
恋愛に奥手なお兄ちゃんは、学校でもモテている(らしい)祐樹さんを家に呼んで度々相談していた。
私も、一目見た時からとっても大人っぽくて恰好良い人だなー…とは思っていたしこんな素敵な人なら女性が放っておかないだろう。
きっと色々な経験とかしてるから、お兄ちゃんも相談して居たんだと思う。
それから、何度か家に遊びに来る度に会って話したりして少しづつ惹かれて行ったんだ。 格好良さだけじゃない。見た目に反して、たまに見せる子供の様な笑顔や何処となくふざけた態度とか。
祐樹さんが来るのを心待ちにしながら友達にその事を話してる内に気づいた。
学校の男子と話してる時は違う。
友達の好きとは違う。
家族の好きって言う気持ちとは違う。
今は、上手く言葉に出来ないけどきっと、これが本当に人を好きになるって事なんだなーって思った。
でも、自覚したからと言ってもどうしようもないよね。
だって、私は祐樹さんよりも年下だし、ちんちくりんだし、胸ないし、子供っぽいし……友達は良く、祢夢ちゃんはしっかりしてて大人っぽいねって言ってくれるけどやっぱり今はただのおませの子供だよね。
はぁー、もう少し早く生まれたかったな。
そうれば…きっと。




「はぁー…」
「どうしたの?急に溜息なんて吐いて」
(え、あれ?)
考え事をしていた祢夢は無意識に溜息を吐いてしまった事に気づき驚く。
「えっと…私、溜息吐いてました?」
「うん、思いっきり。何か、悩み事でもあるの?」
「悩み事と言うか…その…」
「何かあるなら言ってみてよ。僕に出来る事なら力を貸すから」
祢夢を気遣う素振りに、どうするか少し迷いながらもある決心をしてゆっくりと胸の内を語り始めた。
折角の二人っきりのチャンス。どうせなら、駄目もとで行ってみよう。

「あの………祐樹さん。さっきの話なんですけど」
「さっき?」
「うん。私が、彼女なら嬉しいって話。あ、あれって……」
だけど、いざ言うとすると胸がドキドキ、高鳴りその先の言葉が出てこない。
顔が風邪に侵されたかのように熱くクラクラしてくる。
普段ならはっきりと言えるのに唇が震えて上手く言えない
それでも、必死に気持ちを固めて大切にしていた思いを告げる。

「本当にしたら駄目……ですか?」

聞かれた祐樹は一瞬何を言われてるか分からず思わず首を傾げていた。
だけど、暫くして何を言われてるのかやっと理解したのか少しどもりながらも聞き返してきた。
「ほ、本気なの?」
「は、はい。本気です!わ、私は、その…祐樹さんの事ずっと前から好きだったんです!!だから、その……さっきの事言われた時本当は嬉しくて、だけど冗談って言われて落ち込んで…その…だから…」
「祢夢ちゃん……」
何時もはしっかりしてる祢夢にはないしどろもどろな言葉。
でも、その一生懸命な一途な思いは祐樹に十分伝わっていた。
そして、先程の自分の軽はずみな言葉が祢夢を傷つけていた事に気づき祐樹は、少し間を開けてゆっくりと口を開いた。

「…ごめんね」
「はい…」
「僕……そこまで祢夢ちゃんが気にするなんて思わなかったから」
「い、いえ。そんな事はないです…」
「その…祢夢ちゃんの気持ちは嬉しい。だけど僕さ、いまいち恋愛って言うものが良く分からないだ」
「はい…」
「さっきも言ったと思うけど、僕の母親が駆け落ちしてたせいもあるからかな?本当は何回も女の子から告白されたけど、どうしても本気になれなかったんだ。皆、上っ面の事ばかり話すし試しに付きあっても良心地が悪いだけだったよ」」
「そう……ですか。じゃ、私の事も…」
祐樹の言葉が自分の気持ちを拒絶する事だと感じた祢夢は、悲しそうに顔を伏せる。
だけど、祐樹の続きの言葉に顔を上げた。
「でもさ、その…祢夢ちゃんの事は僕もなんとなく気になってたんだ。今までの娘とは違って、なんて言うのかな…純粋さが伝わってきて凄く落ち着くんだ。だけど僕と祢夢ちゃんは流石に歳が離れてるだろう?僕が良くても祢夢ちゃんに迷惑がかかると思って、気のない振りをしてたんだけど……」
「それじゃ…」
「その…さっきはあんな冗談風な事言っちゃったけど僕も本当は………祢夢ちゃんさえ、良かったら僕は良いよ」
頬を掻きながら照れ臭そうに笑う祐樹に、祢夢はいきなり泣き出した。
「うっ…うう…」
「え、あ、どうしたの?何で泣くの!?」
突然の反応に焦る祐樹に祢夢は潤む瞳を手で擦りながら答える。
「ち、違うの。嬉しくて…私じゃ、絶対子供としか見られないって思ってたから……」
「そ、そう……でもそう言うほど僕も大人って訳じゃないから。普段の態度からそう見えるだけだし、ほら泣かないで。あんまり気にしなくてもこれから二人で一緒に大人になって行けばいいじゃない」
未だに泣く祢夢を、抱き寄せて頭を撫でると少しづつ声も収まっていき笑顔が浮かんでくる。
「う、うん。…祐樹さん、わ、私が恋人って事で良いんですよね?」
「当り前だよ」
「さっきは変態になるって言ってたのに?」
「うっ、あれはその…言葉のあやって言うのかな…その…別に、後数年経てば気にならなくなるからきっと大丈夫だって」
そう言うもんだろうか?
だけど、祢夢の方は初めてみる祐樹の慌てる表情を見れて嬉して溜まらなかった。

「だ、だったらその…証が欲しいなって、思うんですけど駄目ですか?」
「証?」
「うん。その…キスしてほしいです」
そう言って目を閉じてじっと待つ。
祐樹は、頬を染めながら自分を待つ祢夢の姿が健気に見えて凄く可愛く思えた。
そう思えても仕方が無いほど、目の前の少女に見入っていた。
自分よりも数歳年下の小さな女の子にそう感じるなんて祐樹自身、相当ヤバく感じていた。
だけど今まで出会ったどんな娘より純粋無垢な祢夢を大切に思う気持ちは本物だと自信を持って言える。
自分の手平に収まらないぐらい小さな頬に優しく手を当てて唇をそっと重ねゆっくりと離れる。
「えへへ、キス…しちゃいました」
嬉しそうに微笑む祢夢が、可愛くて可愛くて祐樹は自分が女性が苦手なのも忘れ祢夢の小柄な体を胸に抱いた。
「ゆ、祐樹さん?」
「ごめん。祢夢ちゃんが可愛し過ぎて……このままじゃ、駄目?」
「だ、駄目じゃないです」
すっぽりと腕の中に収まる感触が程良く心地いい。
抱きしめて感じる祢夢の温もりを何時までも感じていたいと思えれるほどに思えた。

そして、その後…
授業が終わり放課後。
「祢夢ちゃん、今日家に遊びに来ない?」
「あ、ごめん…ちょっと用事があるの。じゃ、また明日」
「あ、祢夢ちゃん!!」
友達の遊びの誘いをすんなりと断り筆記用具を慌てて片づけて教室から小走りに去っていく祢夢の背中をクラスメイトは見送った。

「なんだよー、最近付き合い悪いよ」
「なに?夕紀、知らないの?」
「何が?」
「祢夢に彼氏ができたらしいよ」
「う、うっそ!?」
「い、いや、あくまで噂だし少なくともこの学校の男子じゃないから…そんなに揺らさないで!!」

待ち合わせの場所へ急ぎ、待ち人を見つけると大きく手を振り祢夢は世界で一番大切な人の名前を呼んだ。

~終わり~



***後書き***

初めてのオリジナル物に挑戦してみてました。
前々から書きたかったけどやっぱゲームとかをパロルとかとは訳が違いますね。
色々考えるのが難しいわ。
ま、そう言うほど話は長くは作ってないんですけどね。w
徐々に長く書けるようになったらええなーとは思ってます。
祢夢の設定年齢は…あえて言わないでおこう。
想像出来たのがラン●セル背負った●学生を思い描いてくれたら私と同類です。
祐樹は話には出てないが高校生だから分かるとは思いますけど。
ま、リアルな妹はこんなにも可愛くないよな絶対。






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