一心学園。
この学園は文武両道をもっとうに由緒正しい名門校の一つだ。
そして、別の意味でも有名なのが巷で美少女と囁かれその二人の笑顔に魅了された男子は数知れず、まるで一個師団の軍人並みの規模のファンクラブが存在すると称される噂の姉妹が通う学び舎としても有名だった。
一目彼女達を見ようと学園に忍び込んだ生徒は数知れず。
今まで貰ったラブレターの数は10tトラックが三つあっても足らないぐらいの量があるとかまるで何処かの金髪の誰か見たいな事だ。
そんな、現役アイドルより人気が高い双子の美少女。
その姉妹の名は、一条薫子と一条菫子。
そんな世の男どもの声など全く気にもしてない二人は今、学園内の保健室に居るのだった……

「大丈夫薫子ちゃん…」
右足を怪我したのか包帯を巻いた姿が実に痛々しい。
白いベットの上に腰かける薫子を心配そうに見つめる菫子に安心される様に笑いかけた。
「うん、大丈夫。ちょっと足首を挫いただけだから」
「そう、良かった…はい、鞄。タクシーはもうすぐ来るって」
痛みがまだ引いていないのか少し辛そうにする薫子は鞄を受け取り背中からベットに体を倒した。
「あーあ…早退か、最悪。今日は生徒会もないし部活もないから、ダーリンと一緒に帰れると思ったのにな……」
ダーリンとは誰だろうか?
薫子が告げるその名には何処か特別な感情が込められているのが分かる。
それは、菫子も同様なのか答える言葉に何処か親しさが籠っているようだった。
「それはしょうがないじゃない。そんな姿でダーリンの前に出たら慌てちゃうわよ。ダーリン口ではああいうけど心配性だから」
「分かってるけど…」
「それに、調子ついて無茶した薫子ちゃんが悪いのよ分かってる?」
「うっ。だって…」
お調子者の薫子は周りに持ちあげられると張り切って行動する癖があり体育でちょっと間がさし調子のったっ結果がこれである。
薫子らしいと言えばそれまでだが、運動神経も良い故に性格も相成っての事だ。
自分が悪いのも分かってる薫子は顔を顰めながらキツイ顔になって不貞腐れるしかなかった。
しかし、何か思いついたのか急に顔が明るくなり体を起こした。
「あ、そうだ!どうせならダーリンに迎えに来て貰おうかな。そうすれば一緒に帰れるし、一石二鳥じゃない♪」
「えっ、それはちょっと意味が…って、待ってってば薫子ちゃん!?」
思い立ったが吉日。
菫子の制止の声も聞かずに携帯を取り出しピピッっと目にも止まらぬ早打ちで文字を打っていき数秒後には送信完了。
「よし、送信っと。うんOK。これでダーリンと…」

「OKじゃない!」

何処から取り出したのか芸人のツッコミの必需品、スリッパで頭を小突かれ涙目で頭を摩りながら菫子を睨む。

「痛~~い。何するのよ菫子ちゃん!」
「何するのじゃない。ダーリンだって学校があるんだから、そんな事したら迷惑でしょう!」
「でもでも、ダーリンと学校が変わってから全然会えないんだもん。会える日には少しでも長く一緒に居たいじゃない!!菫子ちゃんだって分かるでしょう」
「それは分かるけど……」
「私だってダーリンと会いたい!菫子ちゃんだけと会えて一緒に帰れるなんてずるいずるいずるい!!」
みっともなくじたばたと暴れる薫子を笑う事無く複雑な顔で見つめる。
その様はとてもファンクラブがいるような少女とは思えずむしろ普通の女の子のさまだった。
「はぁ…分かったわよ。ダーリンを、家に寄って行くように誘って上げるから大人しく家で待ってなさい」
「え、本当!!」
「うん、だからちゃんと家に帰って休んでね」
「うん、分かった。あーあ、楽しみ。ダーリンが家に来たら何をしようかな」
「全く………」
もう気持ちは家での気持ちへ移動しており楽しそうにする薫子を苦笑しながら菫子はダーリンと言われる相手にメールを打つべく携帯を取りだした。
「あっ…そうだわ」
しかし菫子は何かを思い付き文字を打つ手を止めた。
「どうしたの菫子ちゃん?」
「え?ううん。何でも無いわよ」
笑顔で振り返る菫子。
しかしその顔はまるで小悪魔の様な含みを帯びた笑みを浮かべている事に薫子は気づいてなかったのだった。

そして時が変わり放課後、双愛高校へ……

えっと、菫子は何処に居る?
校門を抜け辺りを見渡すが下校途中の生徒だけで他の人は見当たらなかった。
可笑しいな、メールではちゃんと来るって言ってたのに。
菫子の奴は何処に…

「ダーリン、お疲れ様♪」
「うわっ!?」
考え事をしてる瞬間に突然後ろから衝撃と声が聞こえ思わず驚きの声を上げた。
この声は、菫子?
首に回された腕を伝い後ろの視線を向けると、彼女の顔が身近にあった。
「ダーリンの背中広くて逞しい」
「浸ってる所すまないが、一体何をしている?」
「え?何って抱きついてるの」
「それは、分かるが何でこんな事をするだ?普通に声かければ良いじゃないか」
俺の最もな意見に、菫子はその体制のまま考える仕草をする。
未だ抱き会う格好のままで校門前にいる俺達は他の下校途中の生徒からはかなり注目を浴びていた。
個人的には、先に降りて欲しんだけどな…
どうにか体を動かし自分から降りる様に仕向けるが何とも器用に俺の動きに合わしてきて落ちる様子がない。
お前は猿か。
思わず心の中で突っ込こむ。
そしてやっと考えが纏まったのか全く悪びれた様子もなく返事を返してきた。
「えっと…最初は普通に声をかけようと思ったんだけどね。ダーリンの背中見てたら我慢できなくて、こう体が動いちゃった。驚かせてごめんね、これはお詫びよ♪」
「っ!?」
抱きつく力を強め更に密着した感触に体を強張らせる俺に菫子はそのまま顔を寄せ頬に軽くキスをしてきた。
左の頬に感じた柔らかい感触に一気に顔が紅潮してくるのが分かる。
「あ、ダーリン顔真っ赤。照れちゃって可愛い~~~♪」
「うくっ…お、お前な。こんな事されれば誰ってこうなるに、決まっ……て、ん?」
明らかに周りからの雰囲気が先程と似ても似つかないどす黒い空気を感じた俺は口を止めた。
女生徒からは『キャー♪大胆』と言った楽しそうな声が聞こえるのだが、問題はそんな事よりも男子生徒から来る痛い視線の数々。
その目は血走り、殺気が籠っており俺には奴らの考えが嫌と言うほど伝わる。

殺!!

ただこの一文字だけで奴らの考えを察した俺にやつらはまっすぐこっちに向かってきた。
「やっべっ!?逃げるぞ、菫子!!」
「え、きゃっ!?」
背中に抱きつく菫子を背負い直し落とさない様に腕を後ろに回してしっかり固定をし思いっきり地を蹴った。
「だ、ダーリン…」
逃げながら背中から聞こえた菫子の何処か熱っぽい甘い声。
しかし俺の耳には届いておらず悪鬼羅刹と化した男どもの恨みの声しか聞こえていなかった。
だーもう、なんでこうなるんだっての!!!

それから30分後……
「はぁはぁはぁ…ぜぇぜぇ……」
走りっぱなしだった俺は激しく息を切らし体力がレッドラインギリギリで命からがら何とか人気のない公園へ逃げのびていた。
「ダーリンの足の速さは変わらないね。鬼の様な顔でおっかけてくる男の子をビュンビュン振り切るんだもん」
「はぁはぁ。だ、誰のせいだと思って…はぁー、もう良いから兎に角降りてくれ」
「えー、もう少し良いでしょう?」
「た、頼みます。休ませてください、このままじゃ俺、マジで死んじゃいますから」
「ぶー…分かった」
文句の一つでも言いたい所だが今は休息が最終戦事項。
降りてくれないとマジで死ぬって。
渋々背中から降りる菫子をその場に残し、俺はふらふらとした足取りで数m先にあるベンチに向かった。
まったくファンクラブの連中もウザいったらあらしない。
毎度毎度俺ばっか追いかけまわしやがって……特にファンクラブの団長の五頭。
あの筋肉馬鹿、マジでやばいだろう……
さっきまで追いかける奴らの中で群を抜いて怖かった人物。
いずれ殺されそうでマジで怖い。
今の内止め刺した方が良くないか?
はぁー…ま、良いや。とりあえず今は寝転びたい。
しかし後、数歩でベンチに届く所で何故か菫子が俺を追い越し先に座ってしまった。
何のつもりかと思わず睨むが、そんな視線をものともしずに嬉しそうに自分の膝を叩いていた。
まさか…
「ベンチじゃ固いでしょう。膝枕してあげる」
「お前な誰のせいでこうなった……」
こんな所万が一ファンクラブに見つかれば、さらに激化するであろう事は必至。
ただもう俺の体力は限界なのも事実だ。
………ああもう、もうどうにでもなれ。
突っ込む気力も別のベンチに移動する気力もない俺はその申し出を半分投げやりに申し受けた。
「そうか。なら、遠慮なく使わして貰うからな」
「きゃっ!?」
先程の仕返しの意味も兼ねて少し乱暴に寝転び頭を膝の上に置かれ菫子は軽く声を上げた。
「ダーリン、ちょっと乱暴だよ。いきなりされたからびっくりするじゃない」
「ふん、元はと言えば菫子のせいじゃないか。あんな所でキスするからだ…」
そう考えると先程のキスの感触を思い出し、冷めかけた熱が湧きあがり顔が熱くなりそっぽを向く。
「えー?だって私とダーリン、恋人同士だよ。キスぐらい当たり前じゃない」
「確かにそうだが…」
それでも、人前でキスをするほど俺は度胸は無い。
しかし、菫子の方は全く気にしてない様子だった。
ちっ、もう少しは恥じらいを持てよ。
「そう言えば、薫子は大丈夫なのか?」
「うん、体育で足を挫いただけだから。今日一日安静にしてれば治るって」
「そうか」
「この後…家に来るんだよね」
「ん?ああ、薫子の様子も気になるしな。それに薫子にはお仕置きしないと気が済まない」
そう始め薫子から“大怪我した!助けてダーリン!!”って超デカ文字でメールがあった時は本気で心配した俺は一瞬嫌な考えが浮かび、授業中にでもあったにも関わらず思わず大声で叫んでしまい愛姉に怒られ廊下に立たされたのは内緒だ。
ま、直ぐ後の菫子のメールで只の捻挫って事が分かってほっとしたけど薫子はちょっと表現が大げさ過ぎるからな……あんまり心配させるな。
「まったく、ああいうメールはマジで止めてくれ。悪戯じゃないにしても見てる方は心臓に悪い」
「うん、分かってるわ。でも……ふふっ」
不機嫌そうに剥れる俺を見て何故か菫子が笑われた。
まるで俺の考えを全部分かってる様な笑みに思わず睨む。
「何で笑うんだよ」
「だって、ダーリン可愛いだもん」
「あ?俺が可愛い」
意味が分からない。
何時も思うがなんで菫子は俺の何処を見て可愛いと言う単語が出るんだろう?
訝しげな顔をする俺だけど、菫子の顔は一転の迷いもなく真摯な瞳で見つめている。
「ふん…俺には分からん。全く菫子といい薫子といいそんな事言うなんて趣味悪すぎだぜ」
妙に恥ずかしくなった俺はこれ以上顔を見られないように、顔を横に倒し視線から外す。
そんな俺の頭を優しく撫でた。
「そんな事無いよ。ダーリンは私にううん私達にとって最高の男の子だから」
「…」
「私と薫子ちゃんの事をすごく大切にしてくれてるのも分かってるし、薫子ちゃんが怪我をした時もどれだけ心配してくれたかちゃんと分かってるから。ダーリン、昔から優しいもの…口は悪いけどね」
「…うるせーよ」
幼馴染に見破れてた事に俺は何も言い返せない。
昔からこの姉妹には隠し事は出来ない。
特に菫子に対しては俺の考えなどほぼ筒抜け状態、口でどれだけ強がりを言ってもまるで心の中を覗いてる様に伝わる。
そんな菫子に敵う訳もなく俺に出来る事はそっぽを向いて照れた顔を見られない様にする事だけだった。
そのままお互い会話する事もなく時間だけが過ぎる。
吹く風が木々を揺らし木の葉の間から差し込む陽の光が頬を撫でる。
段々気持ち良くなってきた俺は先程の男子との耐久レースの疲れが重なり、無性に眠くなってきた。
「ふぁ~…」
「眠いの?」
「ああー、なんか気持ち良くてな。でも、あまり遅くなると薫子が機嫌悪くするだろう。もう少ししたら…」
「そうだけど…少しの間なら良いわよ。薫子には私から連絡しておくしダーリンは少し眠っても良いよ」
「そうだな……少しだけ頼むわ」
薫子に悪いと思いながらも俺は甘美な一時の誘惑に負け目を閉じた。
「おやすみなさい…ダーリン」

本当に寝ちゃった?
寝息をたてるダーリンの頬を突くとくすぐったい様に顔を顰める。
熟睡してる。…それにしてもダーリンの寝顔って久々に見たわ。
何時もはムスってしていてどこか怖いイメージが強いダーリンだけど無防備の寝顔は何処か子供の頃を思いださせる。
やっぱり、ダーリンって可愛い。
子供のころからずっと一緒。
変わらない関係だと信じていたのに、月日が流れる事に会える時間も減り少しづつ変わって行くのを感じていた。
これが大人になることだと思うと嫌になり不安になるけど…ダーリンと私達の間には切っても切れない縁がある。
恋人同士。
そう思うと嬉しくなり顔がにやけてくる。
ダーリンたら、奥手だから全然手を出してくれないのがつまらないけどね。
折角恋人同士になれたのに、肝心の彼は今までと対して変わってない。
ううん、前より私達に気を使ってくれるのが分かる。
彼の事ならなんだって分かる自信はあるけど、やっぱりもっと恋人同士がする様な事をしたい。
もっと、あんな事やこんな事をしてイチャイチャしたいのに…ダーリンの馬鹿。
女の子はちゃんと態度で示してくれないと不安なんだからね。
思わず愚痴を心の中で言いながら、私の中でちょっとした悪戯心が湧いてきた。
あ、よく考えて見たら今って凄いチャンスじゃないかしら?
人気のない公園に二人っきり。
肝心のダーリンは熟睡していて、逃げられる心配もない。
薫子ちゃんも家に大人しくしてる。
なら……自分から彼の彼女らしくしちゃえばいいじゃない?
そう思いつくと私の中から何かが湧きでてきて止まらない。
もう、ダーリンがしないなら私からしちゃうんだからね…………
膝の上で眠る愛しい人との温もりを求め目を閉じゆっくり頭を上げてゆく。
あと、少し。
「ダーリン……愛してます」
ドキドキ高鳴る胸を感じながら唇が重なるその瞬間…………私の携帯から着メロが鳴り響いた。
ビクッと思わず驚きポケットの中ら慌てて携帯を取り出すと液晶には“薫子”と書かれていた。
あーあ、タイムリミットか。
「もしもし…」
「あ、菫子ちゃん!?何処にいるの。まさか抜け駆けしようと考えてるんじゃないわよね?」
「…そんな訳ないじゃない」
「その間が怪しいわよ!!良いから早く帰って来なさい!!」
「はいはい。分かったから切るわよ……」
「あ、ちょっと菫子ちゃん!?」
薫子ちゃんの怒鳴る声が聞こえたけど構わず電話を切った。
「もう……後少しだったのに」

帰りが遅い私達…というかダーリンに我慢できずに電話をしてきた薫子ちゃんの指摘に思わず私はため息を吐いた。
やっぱり姉妹ね。
考える事は分かってるわね。
企みが失敗した私は気持ちよさそうに眠るダーリンの唇を名残惜しそうに突いた。
今度はダーリンからしてよね。

~End~



***後書き***
今回は双恋のSSです。
一条姉妹です。
可愛いですよね。
菫子薫子が一番好きです。
キャラソンも良いですし。
主人公の性格もゲームより男っぽく荒くしてみました。
この方が一条姉妹には合うかなーと個人的に思ったり。
嫌いな人は済みません。(;><)
桜月姉妹も書いてみたいなー。









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