クーラーをガンガンに効かせ好きなアニソンのCDを聞きながら夏休みを満喫していた。
来週には、ワンフェスがあり月明けにはコミケがある。
ヲタクにとって夏はまさに祭典ばかりだ。
なのだが………

ドタドタドタドタ!!

階段を大きな音をたてて何かが駆けあがってくる。
またあいつか……

「お兄ちゃん遊ぼう~~~!」

扉を大きく開けられ、部屋に入ってくるなり元気な声で遊びに誘ってくる従兄妹の未来。
夏休みに入りほとんど毎日、未来は俺の元へやって来てこうやってしつこいぐらいにやってくる。
家が隣町だと言うのにご苦労な事だ。
「ね、お兄ちゃん。お願い」
可愛くお願いされても嫌なものは嫌だ。
俺は何時ものように容赦なく一蹴する。
「うるせーな。そんなに遊びたきゃクラスの奴らと遊んどけ。なんで態々家に来てまで俺を誘うんだよ」
「友達とは何時でも遊べるもん。お兄ちゃんとは休みの日しか遊べないじゃーん」
「そんなの知るか。俺は忙しいの」
そう俺はワンフェスやコミケなどの準備で忙しいのだ。
その為に今は無駄な体力は使わず温存しておく必要がある。
入稿も終わり後は、本戦に備えるだけ……この休養は大切な事。邪魔はして欲しくないものだ。
「え~、忙しいって寝てるだけじゃん。ダラダラしてるぐらいなら遊んでよ」
「これは、重要な事だっての。夏のイベントの為で……」
「そのイベントももう少し先じゃない」
俺の言い分など全く聞かずしつこくお願いを重ねながら体を揺すってくる……全く分かってないな。
これも本戦の為の……(以下同文)
言う事を聞かない未来に俺は無視を決め込んでいたが、未来も強情で体を揺すりながらめげずにお願いをしてくる。
流石にこれじゃ、休むにも休めずいい加減鬱陶しい。
ちっ…ここはしょうがねーな。
寝転んでいた体を起こし未来の方に向いた。

「ああ、もう分かった分かった。遊んでやるよ」
「え?本当!やった~~♪ 」
嬉しいそうに声を上げる未来だが、そうは問屋がおろさない。
世の中には、等価交換と言う物があり頼み事に見合うだけの対価が必要だ。
俺はある課題を出した。
「その代わり、俺の絵のモデルになれ。そうすれば遊んでやる」

「え……えーーーー!!」

案の定、大きな声を上げ驚く未来。
俺も、資料として色々と持っているがやはり絵を描く上で分からない事が多い。
現物に勝る資料が無いが生憎俺にはそんな都合のいい人などおらず雑誌などの資料をもとに後は想像で補っている。
未来が手伝ってくれるのであるならば、俺の作品は更なる進化を遂げる事となるだろう。
………と、まぁーそれは建前だが、こう言えば未来は躊躇し先程のように強引には誘ってこなくなるだろう。
俺がどのような漫画を描いているのかある程度は知っているからな。
「どうだ。やるのかやらないのか?」
「それは……未来には無理だよ」
予想通りに恥ずかしがって渋る未来の反応に俺は安堵のため息をついた。
「ほらみろ。無理なんだから、帰れよ」
「そ、そんな……」
目に見えて落胆する未来の様子に俺も少しだけ罪悪感が浮かぶ。
少しぐらいは遊んでも良い気もしたがやっぱり面倒くさいので口にはしない。
何故ここまで俺に対し付き纏うのかが聊か疑問だが………面倒な事には変わりないしな。
もう一度横になり未来が諦めて帰るのを大人しく待ったが、一向に帰る気配はなくその場に立ちつくしていた。

「なんだよ。まだ帰らないのか」
「うぅ~~~……ほ、本当にモデルになったら、遊んでくれるの?」
「ん?ああ。そうだな。俺の言うとおりにしてくれるなら、何処へでも連れてってやるよ」
暫く唸り……そして、頬を赤く染めながらもキッと何かを決意した強い目をして俺を真っ直ぐに見つめてきた。
まさか………
「うん。み、未来やるよ。お兄ちゃんの…も、モデルになる!」
顔を真っ赤に染めて、どもる口調では無理をしているのが丸分かりだ。
それでも、俺を見つめる目には強い意志が宿っていた。
たくよ…何をそんなに意固地になってんだか。
はぁー………しょうがねー奴。
「ああもう、分かったよ!遊びに連れてってやる」
「…え?モデルは」
「別に良い。お前があまりにしつこいから言っただけだ。モデルなんて居なくてもどうにかなるしな」
渋々了承をしたのはいいがやはり面倒くさい。
微妙な表情をしながら頭を掻くが、未来の方は俺と遊べるのがそんなに嬉しいのかピョンピョンと飛び跳ね両腕を広げて勢いよく抱きついてきた。
「やった!やった~~!!!お兄ちゃん……ありがとう♪ 」
「お、おい抱きつくなっての!暑いわ!!」
「やっぱりお兄ちゃん優しいね」
「う、うるせよー!!今回だけだ。次はねーからな」

そして暫くして、俺は未来を連れて市内の大型プールに足を運んでいた。
しかしきた早々後悔していた。
半分お情けで言ってしまった事とは言え……早まったかもしれない。
「暑っ………」
コンクリートの地面を焦がすように照らす日差し。
敷き詰めるような人垣。
コミケでも同じようなものだが、あそこには夢があり希望があるがここには一切ない。
いくら水着に着替えてるとは言えこの暑さは半端なくさまに灼熱の地獄だ。
ヘタレモード全開の俺は動物のプリントが入った浮き輪を持ち隣にいた未来の名前を徐に呼んだ。
「未来……」
「何、お兄ちゃん?」
「俺、やっぱ帰るわ」
と、告げあっさり踵を返す俺の手を慌てて握り未来は引きとめた。
「な、何で!?来てばっかだよ!」
「だって暑いし、人は多いし、面倒だ」
俺の言い分に、未来は一瞬唖然としていた。
その隙に立ち去ろうとするが俺の手を握る未来の力が先程から増してる気がした。
と、言うか未来の体からなんか黒いオーラが見えた気がした。
「あ、あの……み、未来さん?」
本能的に恐怖を感じ口調が敬語に変わり未来に恐る恐る声をかけた。
「お、お兄ちゃんの……」
「お、おい」
「ヘタレ野郎!嘘つき!!ヲタク馬鹿!!!」
大きな叫びと共に綺麗なジャンプと回る体。
綺麗な円を描き振り回した未来の足が顔面に迫った。
その先に未知の領域が見えて俺は一瞬別の事を考えていた。
あ、たて筋が…
そしてその直後激しい痛みが顔面を襲い俺の意識は失った。


「痛っ……」
一体どれ程気を失っていただろうか…気が付くと俺は見知らぬ部屋のベットに横になっていた。
痛む顔に顰めながらゆっくりと体を起こす。
俺は一体………あ、そうか。未来に………
「大丈夫ですか?」
「…あ、はい大丈夫です」
声をかけられた方に振り向くと、このプールのスタッフらしい水着姿の女性が立っていた。
うん………言い。
プロポーションも良く思わず見惚れ俺の頭には思わずスケッチを取りたいなどと場違いな事を考えてしまった。
「…どうしました?私の体に何か付いてますか」
マジマジと見過ぎたせいか訝しげな目をされてしまう。
いかん、ここは妄想の世界じゃ無いし、自重しないと。
「ごほん……なんでもないです」
「そうですか。無理をせずに、暫くは横になってた方が良いですよ」
「いえ。大丈夫ですよ」
確かにこの人と一緒に入れる事は良い刺激になりそうだが、今はそれよりも少し気になる事があった。
「連れの女の子は何処にいるか知らないですか?」
「え?あー……あの子から部屋の外に居ますよ」
なんとも言い辛そうにしているのを見て、なんとなく予想は付いた。
大凡まだ不機嫌のままなのだろう。
俺は女性のスタッフにお礼を込めて軽く解釈をし部屋を出た。
すると、部屋の傍に備え付けてあった長椅子に不貞腐れた顔をしながら未来が膝を力強く抱え座っていた。
「未来」
「………」
名前を呼ぶがこちらを見ようともしない。
これは相当怒ってるか………
「そんなに怒るなよ。俺もちょっと、軽率な事を言っちまったって反省はしてる」
「むー……」
謝っても機嫌が直らないのか未来はまるで動物のような声を鳴らしていた。
はぁー…なんでこうなるんだか。
俺は未来の隣に座った。
「未来な、元はと言えばお前が誘ってきたんだぞ。俺なんか誘うからこんな事になるんだよ。俺と一緒に居るよりクラスの連中と一緒の方が絶対楽しいだろう?」
そうだ。そもそもなんでそこまで俺に固執して誘うのか分からない。
自分で言うのもなんだが俺は世間で言う所のヲタク。
そんな男として楽しい訳が無いだろう。
未来はまだ小学生……俺なんかと居るより友達と遊んでた方が気兼ねなく遊べる筈だろう。
だけど、未来の返答は俺の予想の斜め上を行っていた。
「だって……お兄ちゃんと一緒に居たいだもん」
「は?」
「私はお兄ちゃんの事が好きなの!好きだから一緒に居たかったの!!こんな時しか会えないから何でも良いから一緒に遊びたかっただけなのに………なのにお兄ちゃんは、ぐすっ…」
呻き声を上げ泣く未来の突然の告白に俺はどう反応したら良いか迷った。
未来が俺の事が好き……だと?
何時もなら一笑してやる所だが今の未来を見てるとそれすら躊躇われる。
反応に困りつつ俺は未来の頭に手を乗せ撫でた。
「その……すまんな」
「別にいいもん。お兄ちゃんはアニメのキャラしか興味が無いもんね」
「い、いやそうでもないんだが………本当に俺の事好きなのか?」
「うん……」
「俺はヲタクだぞ?未来にはまだ分からないかもしれないけど、世間的には“うわぁ!?キンモー”とか指をさされ笑われる連中だぞ?それでも良いのかよ」
「そんなの分かってるよ。普段のお兄ちゃん見てるもん……それでも未来はお兄ちゃんが良いもん」
「う、うーむ………」
そこまで言われて悪い気がする訳もない。
いくらまだ小学生の少女だからと言っても、俺に普通に接してくる女性など母親を除けば未来ぐらいだ。
学校でも色もの扱い。
友人も濃いメンバーが多い。
だから、正直に言えば未来の気持ちはとても嬉しい……でも、だからと言って未来の事が好きかどうかなんて俺にはまだ分からないし軽率に受ける訳にはいかない。
「その……未来の気持ちは嬉しいよ」
「うん…」
「だけどな、未来の事をどう思ってるかなんて俺にはまだ分からない。あ、別に未来が嫌いじゃないぞ。従妹としては好きだしな」
未来は頷き俺の一言一句見逃さないように耳を傾けている。
「だからな……・…ずるいと思うけど、暫くは今まで通りではダメか?」
「ううん……駄目じゃない」
「俺も、これからは未来の事をちゃんと見ていくつもりだから……今はそれで我慢してくれ」
せめて今の段階での精一杯の気持ちと告げる。
曖昧な返答に卑怯だと思いつつも未来は振り向き俺の顔を見つめ何時もの笑顔を浮かべていた。
「うん!絶対、お兄ちゃんをアニメなんかより未来に振り向かせて上げるからね」
いや、その殺し文句はどうよ?と思いつつも、俺を指さし笑顔で宣言する未来が可愛くて思わず笑ってしまう。
未来の方に、気持ちが向くのも時間の問題なような気がした。

~End~







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