「ね、ひとみ。野菜の大きさってこれぐらいで良いの?」
「もうすこし小さい方が良いかも。ななちゃんはどう?」
「うん。もう少し・・・・」
「あ、ななちゃん。そんなに指立ててたら危ないよ。」


時刻は夕方。
菜々子ちゃんスミレちゃんひとみちゃんは三人仲良く夕飯の準備をしている。
唯一の料理の経験者であるひとみちゃんが筆頭で料理をしてる。
作ってるのは、カレー。
そんなに難しくもなく、あまり料理の経験がない二人でも作れる様にとひとみちゃんが考えたようだ。
でも料理が慣れてない二人はかなり危ない手つきで包丁を使っている。
ひとみちゃんが、ちゃんと見ているから大きな怪我はしてないが・・・・・かなり不安だ。
俺は、そんな三人をリビングからヒヤヒヤしながら眺めている。

今日は、みんなで菜々子ちゃんの家でのお泊まり会だ。
何故このような状況になってるか?と言うのが、皆の当然の疑問だろう。
当事者である俺も、この状態は結構困惑してるぐらいだし。
事の発端は数日前に遡るわけだが・・・・








――――――数日前の学校の帰り道――――――

俺達は学校帰りで何時ものように待ち合わせをし遊ぶ事は日課と言っていいほど当たり前になっていた。
ま、遊ぶと言っても特に何かをするわけではなく大体、商店街をブラブラしたりとか公園などでお互いの学校の話をするぐらいだ。
今日もいつもの様にブラブラとしてたのが、突然菜々子ちゃんが俺の手を掴みどこか神妙な面持ちで話しかけてきた。
「お兄ちゃん。明後日て・・・・何か用事があるの?」
「明後日?特に何もないけど。」
俺の答えに期待が膨らんだのか、どこか目をきらきらさせながら言う。
「じ、じゃその日、菜々子の家でお泊まり会しよ!」
「え!?」
行き成りの話で、俺は鳩が豆鉄砲くらった様な顔をした。
菜々子ちゃんとお泊まり・・・・・菜々子ちゃんの家でお泊まり・・・・・・・・・・
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「ぐはぁ!!!!」

「お兄ちゃん!?」
イケナイ妄想まで行きついてしまい、もんぞり返る俺を心配そうな顔で支える菜々子ちゃん。
最近、菜々子ちゃんで妄想する事が多くなった気がする。それもこれもあの、ピンクの元生徒会長のせいだ。
なにか事あるごとに、菜々子ちゃんに色々な格好を・・・・・・・・・って、やばいって!思い出したらあかん!!俺はペドじゃない!!!そうじゃないんだーーーーーーーーーーー!!!
「お、お兄ちゃん大丈夫!?」
俺の頭の中のイケナイ葛藤なんか全然想像できない心が清い菜々子ちゃんは、目にうっすらと涙を浮かばせながら真剣に俺の事を心配してくれる。
ごめん、菜々子ちゃん。こんな純粋無垢な子にあんな妄想するなんて・・・・・・・俺は最低な、人間です。
「だ、大丈夫。ありがとう菜々子ちゃん。」
「う、うん。無理しないでね。」
頭の中の不純な妄想をどうにか拭い、俺はなんとかいつも通りに菜々子ちゃんに振舞う。

「でも、どうしたの急に?」
「うんとね、その日お母さんとお父さんが用事で家にいなからね、お母さんが心配してて。どうせなら、お兄ちゃんに家に泊まりに来てもらいなさいって。」
手をもじもじしながら、そう答える。
しかし、どうせならって・・・・菜々子ちゃんのお母さん一体何を考えてるんだろう。
一度マジで会ってみたい気がする。
「でも、良いの?俺なんかが泊まりに行って。」
「うん。お母さんもお兄ちゃんが居るなら安心って言ってたし、菜々子もお兄ちゃんと家でも一緒に居られるってだけで嬉しいもん♪」
うわぁ・・・・なんて嬉しい事を言ってくれるのでしょうかこの娘は。
思わず抱き締めてしまった俺に恥ずかしそうにする菜々子ちゃん。
「お兄ちゃん、恥ずかしい・・・・」
「あ、ごめん。遂ね・・・・」
「ううん。いきなりで驚いたけど嬉しかった。」
「そ、そっか。」


なんて事があり俺は菜々子ちゃんの家に泊まる事になったのだが。
問題はこのお泊まり会当日に起きた。

「お兄さん、今日ななちゃんの家に泊まるんですよね。」
「私たちも、泊まる事にしたからよろしくねお兄さん。」
「は、はははははは。」
俺に対して指をぴっと指してそう宣言する二人。
何故か当日になって、ひとみちゃんスミレちゃんも一緒に泊まる事になってしまっていた。
そんな現実に俺は苦笑いするしかなかった。
原因は菜々子ちゃんが学校でひとみちゃんとスミレちゃんに俺が泊まりに来る事を嬉しそうに話してしまい、それを聞いた二人が『私たちも一緒に泊まりたい』と言いだしたのだった。
菜々子ちゃんは「人数が多い方が楽しい♪」と特に気にした風もなく、二つ返事でOKしてしまい今に至るという訳だ。









ま、こうゆう展開になってしまった以上は仕方がないよなー。
二人とも親には了解は取ってあるとは言ってるし問題はないだろう。
俺はさっきまで、料理をしてる菜々子ちゃん達を見ていたがずっと見てると三人の気が散るかと思い今はリビングにあるTVで適当に番組を見ていた。
「はい、お兄さん。お茶どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
そんな俺に、ひとみちゃんがお茶を持って来てくれた。
ここにひとみちゃんがいると言う事はダイニングにはあの二人が居ると言う事だ。
・・・・・大丈夫なんだろうか。
先ほどの、料理を見てるとかなり不安になってきた。
そんな見るからにあらかさまな顔をする俺を見て、ひとみちゃんは可笑しくなり笑いながらも言った。
「そんな不安な顔しないでも大丈夫ですよ。後は煮込むだけですし、焦げないように見てもらってるだけで完成ですから。」
「え?俺そんな顔してた。」
「はい。もう丸わかりでした。」
小さく笑いながら俺の顔を指さすひとみちゃん。
そんな分りやすい顔をしてたのか・・・・・少し反省しよう。
「でも、ごめんなさい。今日は。」
「ん?どうしたの急に。」
突然謝るひとみちゃんに俺の頭に?が付く。
「本当は、今日はななちゃんと二人っきりになるはずだったのに私たちが邪魔しちゃったみたいで。」
少し、しゅんとした感じで話す。
あーその事か。
「気にしてはないから良いよ。」
ひとみちゃんの頭に手をポンと乗せ俺はそう答える。
目を細めくすぐったい様な顔を、するひとみちゃん。
「やっぱり、ななちゃんが少し羨ましいです。」
「羨ましい?」
「こんな優しくて格好いいお兄さんがいるんですから。」
「そ、そっかな〜。」
「はい。そうですよ。私も妹にして欲しいぐらいです。」
そんな真顔で言われると俺も恥ずかしんだけど。
「え?・・と、でも俺なんかお兄ちゃんになっても良い事なんかないよ。」
「そんな事ないですよ。ななちゃんお兄さんに会ってから幸せそうですし、最近の会話の8割以上がお兄さんの事ですから。クラスの間でも結構噂になってますよ。」
「はい?学校で。」
「はい。」
うわぁー・・・・・それは初耳だよ。
思わぬ真実に頭を抱えて悩みこんでしまう。
そんな俺の態度にもニコニコしながらも、こっちをじっと見つめてくる。
なんかその笑顔の裏にさらなる真実がある気がして、聞き返すのが怖いです。
その視線でさらに居た堪れなくなり、お茶で俺は乾いた喉を潤す。

そんな時、ダイニングからスミレちゃんの呼ぶ声がした。
「ひとみ〜。言われた時間になったよ〜。」
「それじゃお兄さん。もう少しで出来ますから待ってて下さいね。」
「あ、ああ。」
スミレちゃんに呼ばれ、ひとみちゃんはダイニングに戻ってゆく。
それを横目で見ながらほっと一息をつく。
「あーびっくりした・・・・・あんな事、突然言われるんだもんな。」
一体菜々子ちゃんの学校でどんな噂が広まってるのか、聞きたくもあり聞きたくない様な不思議な心境だ。
変な方向の噂じゃない事だけを祈るのみだ。








「「「「いたただきます。」」」」
食事の用意が出来、4人が手を合わせる。
出来上がりのカレーを見るが、とても美味しそうな匂いをしている。
野菜やジャガイモなどの大きさがまばらなのはご愛嬌だろう。
そんな俺をじっと見つめる三人。

「じー」
「じー」
「じー」

う、なんかそんなに見られてると食いにくんだけど。
ちゃんとひとみちゃんが、味見をしながら作ってたから極端にまずいということはないんだろうけど、やっぱり俺の口に合うかが気になるのだろう。
三人の期待を込めた視線の威圧を受けながら俺は、カレーをスプーンですくいそして口の中に入れた。

「「「あっ」」」

三人が同時に声を出していた。

もぐもぐもぐもぐ、ごくっ

「どう、お兄・・・ちゃん。」
心配そうな顔でこっちを見つめてくる菜々子ちゃん達。
そんな、不安な顔を打ち消すように俺は笑顔で答える。
「うん。とても、美味しいよ。」
「ほ、本当!お兄ちゃん!!」
「本当だよ。すっごく美味い。」
「やった〜〜〜〜〜〜♪」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる菜々子ちゃん。
スミレちゃんもひとみちゃんも嬉しそうだ。
「お兄さん本当に美味しい?」
「何所かいけない所とかあったらちゃんと言ってくださいね。」
「ううん。本当に美味しいと思うよ。」
そりゃ、春夏さんやタマ姉の料理比べれば全然な出来だけど、あの二人はプロの料理人も裸足で逃げ出すほどの実力だからね。比べる方が可哀想と言うものだ。
それに料理が初めての二人も含めて作ってこれだけの味が出せるんだから、凄いと思う。
「頑張ったね二人とも。ありがとう。」
二人の頭を撫でながら、俺は素直にお礼を言う。
「あ・・・・・」
「ぅ・・・・・」
二人は顔を赤くなりながらも、俺に頭を撫でられ続けている。
それを見た菜々子ちゃんは、「あースミレちゃん達だけずる〜い!菜々子も頭撫でてお兄ちゃん。」とぴょんぴょん喜ぶのをやめて今度は俺に抱きついてきた。
「はいはい。菜々子ちゃんも、頑張ったね。」
菜々子ちゃんの頭を撫でるため二人から手を離すが、
「「あっ・・・」」
と、どこか残念そうな顔をする二人。
そんな二人が、少し気になったが俺は菜々子ちゃんの頭を撫でる。
「えへ〜〜〜。」
心底うれしそうな顔をする菜々子ちゃん。
「ほら、菜々子ちゃんご飯食べよ。折角美味しく出来たんだし温かいうちにね。」
「うん。」
と、嬉々として菜々子ちゃんは自分の席に戻る。
俺も自分の席に戻り食事を再開するが、どこかスミレちゃんとひとみちゃんが心ここにあらずな顔をしていた。
「どうしたの、スミレちゃんひとみちゃん?」
「え!?い、いや何でもないよお兄さん。ね、スミレ。」
「う、うん。大丈夫ですよ。」
何所か、固い笑顔で返事を返してくれる。
別段その後は、普通に食事も出来話も出来たのでその時はあまり気にはしなかった。








その後は、リビングで三人とTVを見たりとか互いの学校の話をしたりとかゲームをしたりと色々と遊んで楽しい時間が過ぎて行った。
流石にお風呂の時は三人が一緒に入ろうと言われた時はかなり焦ったが。
そして、時刻が変わろうと言う頃になると、菜々子ちゃんはかなりうとうとし始めていた。
「ほら菜々子ちゃん。もう寝よ。」
「いやだも・・・・もっと、お兄ちゃんと話・・・したんだも・・・・」
かなり眠たそうにしゃべる。なのに、俺とまだ居たいと言ってくれるのは素直に嬉しい。
が、この状態じゃ菜々子ちゃんが寝てしまうのは時間の問題だろう。
どうしようかと考えていると突然ひとみちゃんが、
「じゃここでみんなで寝ましょうか。」
「え?」
その発言に目が点になる俺。しかしスミレちゃん達はノリ気みたいで断る訳でもなく、
「あ、それあたしも賛成〜〜〜。」
「え、え?」
「うん。それなら良いんだもー♪・・・」
「え、え、えっ。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

んで、こんな状況ですか。
フローリングの床に大きめの布団を敷き右に菜々子ちゃん、左にひとみちゃんスミレちゃんの順番で布団に入っている。
「お兄ちゃん温かい。」
俺の方に嬉しそうにすり寄ってくる菜々子ちゃん。
小さいながらも女の子特有の柔らかい感触に内心はドキドキしている。
しかも、
「あ、ななちゃんだけずるいです。私も。」
「それなら私も、もっと寄ろうかな。」
ひとみちゃん、スミレちゃんも俺に段々すり寄ってくる始末だ。
そんな状況で俺の精神力のゲージはすでにレッドゾーンを超えていた。
これって何かの拷問ですか?
心の中でそう呟きながら、俺はお経を唱え邪念を払い無理にでも眠りにつこうとするが・・・・・・・・・・・・・・・・・素直に寝れたら苦労はせんわな。
「あの、三人とも?ちょっと、近寄りすぎじゃない・・・かな?」
なんとかこの状況を打破しよと試みるが、

「お兄ちゃん、菜々子の事嫌い?」
「お兄さん私の事嫌いですか」
「お兄さん私の事嫌いなの?」

「うぐっ!?・・・・・・・・・嫌いじゃ・・・ないです。」
三人の、切なそうな顔に負けてあえなく撃沈。
結局俺は、このままの状態で4人一緒に寝る事を選択せざるおえなくなった。
頑張れ俺。決して劣情等に負けるな!!!





と、豪語してみてたが・・・・・・

「うーん・・お・・兄ちゃん・・・・」
「うん・・・」
「んにゃ・・・」

双方から、子供ならではの可愛らしい声の寝息が聞こえてきて、かなりドキマギしている。
三人に腕を掴まれているから、寝返りも逃げる事も出来ずに俺は一夜このままで過ごしたのだった。
この日の出来事は、まるでこの世の地獄と天国を垣間見た気分でしたよ。



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