水精霊騎士隊の訓練が終わってからも俺は一人残り稽古を続けていた。

ビュン!ブン!!

「せい!はぁ!!」
日が暮れた中庭に風を切る音が鳴り響きそれに合して大きく声を上げる。
目を瞑り居る筈のない敵をイメージする。
無駄を無くし最小の動きで敵を討つ。
ひたすらにそれを繰り返し体に馴染ませる。
「ふう・・・今日は、これ位にしとくか」
ようやく俺は構えを解き力を抜いた。
するとそれを見計らった様に手元からカチカチと音を立てながら俺の愛剣デルフが話しかけてきた。
『毎日毎日、精が出るな相棒』
「まぁな。俺の大切な人を守るために俺自身が強くならないといけないって分ったからな。何時までもガンダールヴの力だけに頼ってちゃ情けないだろう」
『ほぉー・・・良い心がけだな。やっぱり譲ちゃんの為か』
デルフにそう指摘されると俺は少し恥ずかしくなった。
「・・・あたり前だ。俺はルイズをこれからも守るって決めたんだからな」
俺がそう断言するとデルフは可笑しそうにカチカチと大きく音を鳴らす。
照れくさい俺はそれ以上何も言わずにデルフを鞘にしまい学園の中に入っていく。
そしてそんな俺を見つめる人がいた。
それは学園の学生寮のある部屋のフロア。建物の比較的上層階に位置する故に俺は気づく事は無かった。
「サイトの・・・・・・・・馬鹿」
少しだけ寂しそうに呟きながら先程まで俺が居た中庭を見つめ続けていた。


「ふう、気持ち良かった」
稽古を終えてお風呂で汗を流しさっぱりした後、ルイズの部屋に戻ろうと俺は廊下を歩く。
窓から入り込む夜風が程良く心地良い。
「ただいまー」
しかし部屋に入ると明かりはもう消えていて真っ暗だった。
先のベットには膨らんでる様子がありルイズは多分そこに居るのだろう。
もう寝る時間か・・・少し早くないか。
「ルイズ、どっか調子悪いのか」
ベットに近づき膨らんだシーツに声をかけると中からくぐもった声が聞こえてきた。
「さ、サイト・・・その・・・・」
「なんだルイズ。薬がいるのか」
「そうじゃなくて、その・・・・」
「なんだよはっきりしないな」
意味が分らない俺は少しぶっきら棒に言うと、その反応に少しカチンと来たのかシーツから顔を出して語気を荒げながらルイズは口を開く。
「す、すすす少し寒いの。だ、だから、その・・・・私を温めなさい」
「は?」
益々意味が分らない。温めるってどうやって・・・
「火でも起こして温めれば良いのか?」
「そうじゃなくて、その・・・・・い、いいいい一緒に寝なさいって言ってるの!!」
「はぁ、一緒に・・・ね?・・・・・・何、一緒にか!?
びっくりする俺にルイズは、上半身を起こし腕を組みながら何時ものように投げつけるような口調で話す。
「今日は寒いから、私が寒くないようにするだけだから。それだけよ、変な意図はないからね!」
ふんと、そっぽを向くルイズ。
調子が悪いようには・・・見えないよな。
だったら機嫌が悪いのだろうか、仕方がないな・・・
「分ったりましたよ、ご主人さま」

そしてひょんな事から俺はルイズのベットで一緒に寝る事となった。
互いに恥ずかしいのか俺達は背中を向けて寝ているけど。
正直ルイズの意図は読めないけど久々のベットは暖かく心地良いのが正直な気持ちだ。
だけどルイズと一緒に寝ているこの状況はどうにも落ち着かない。
いや、嫌ではないんだけどな。
むしろ好きだから問題があると言うか。
何でルイズは急にこんな事言いだしたんだ。
そう考えているとルイズの方から話しかけてきた。
「ねぇ・・・サイト」
「なんだよ」
「何時まで剣の稽古を続けるつもり」
「何時までって・・・・それよりも見てたのか」
「中庭なんてここから丸見えよ。ねぇ何で、今は戦争中じゃないのよ。それなのにあんなに頑張る必要あるの」
「それは強くなるまでさ」
「何言ってるのよ貴方十分強いじゃない、それなのに・・・」
「いや、俺が強いのはガンダールヴの力があるからさ。それが無くなればただの非力の人間だって力を無くした時に思い知ったからな。だからもっと強くなってさ、お前を・・・」
「そう・・・もう良いわ」
俺の話を最後まで聞かずにルイズは途中で話を打ち切ってしまった。
「おい、俺の話を最後まで聞けって!」
「五月蠅いわね。分ったって言ってるでしょう」
そう言って俺を見る目は寂しそうに見えてならない。
そんなルイズを放っておけるなんて俺には出来なかった。
「だったらなんでそんなに寂しい目をするんだよ」
俺の言葉にビクッと体が震えたのが分かった。
俺の指摘に顔を真っ赤にしながらルイズは向き直り反論をしてきた。
「さ、寂しいなんて一言も言ってないわ!!私はただ、使い魔のあんたがご主人さまを放って訓練してるのが気に入らないの!」
「・・・・ルイズ」
「何よ!・・・・あ」
俺はルイズをそっと胸に抱き締めると急な事で驚き強張るのが分かった。
「な、さ、サイト!?何をするの!!」
暴れるルイズを気にしずに俺はそのままで言葉を続ける。
「ルイズ・・・いい加減二人っきりの時ぐらい素直な気持ち聞かせてくれよ」
「す、素直って何よ。私は本当の事を・・・・・」
「・・・・俺が強くなろうとしてるのはこれからもルイズを惚れた女を守り抜くためにやってる事なんだ」
「サ・・イト?」
「けれど、もしそれがルイズにとって辛いならちゃんと言ってくれ」
包み込む様に少しだけ抱きしめる力を強めると、ルイズの体から少しだけ力が抜けた気がした。
「っ!?な、何よ。そんな風に言われてたら私・・・・・」
「ルイズ・・」
優しく名前を呼ぶとぴくりと反応をして強張っていたルイズの体が完全に力が抜けた。
「わ、私は強がって何かないわ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただ、またサイトが無茶しないかって気になるだけよ」
やっとルイズの口から少しつづ気持ちが出てきた。
「やっと戦争から帰って来たのに全然話も出来ないし・・・アルビオンの時みたいにまたどっか行っちゃうんじゃないかって・・・・・」
俺は、何も答えずただ優しく抱きしめ続けた。
徐々に溢れ出てくる気持ちがルイズの口から漏れ出てくる。
「もっと、サイトと・・・・・・・・・・・サイトと一緒に居る時間が欲しかっただけなんだから!・・・・もうあんな悲しいのは嫌なの・・・・・」
最後は、消え入りそうな小さな声で言葉を漏らす。
気持ちを伝え終えたルイズは少しだけ震えていた。
もしかしてルイズ・・・泣いてるのか。
「ごめんな、ルイズ・・・・俺、自分の事しか考えてなかった」
「サイト・・・」
「俺、これからもルイズを守れるようにもっと強くなろうとしてただけだったんだ。それも結局ルイズを一人ぼっちにしてただけで、ルイズを傷つけて・・・・・ごめんな」
謝る俺にルイズは袖を涙を拭った。
「わ、分れば良いのよ。分れば。あんたは私の使い魔なんだかもう勝手に居なくなるのは絶対駄目なんだからね」
「分ったよ、ルイズ」
「なら、誓いのキスしなさい。これは・・・命令よ」
そう言って恥ずかしそうに目を瞑り顔を俺の方に向けた。
ルイズ・・・・
俺はルイズの命令に優しいキスで答えた。

「これからもちゃんと私の傍に居なさいよ、バカ犬。破ったらお仕置きなんだからね」








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