「あ」
「どうした?」

放課後、このみと一緒に帰っていると急に足を止めて何処かを見つめていた。
このみの視線を追って辿ると、そこには小さなアクセサリーショップがあった。
綺麗な外装をしており新開店と大きな文字で書かれている旗が掲げられていた。
どうやら最近出来た店のようだった。

「見に行ってみるか?」
「え、良いよ。べ、別に気にしてないし…その…」
「嘘つけ、目が“中に入りたい”って言ってるぞ。良いから来いって」
渋るこのみの手を握り強引に連れて行く。
「あぅ…ごめんね、タカ君」
「ばーか、遠慮すんなって」

全く、普段は遠慮なく強引に突っ走る癖に時たま消極的になる。
それにだ、このみを部屋に行くと何時もは少女マンガ雑誌や漫画の単行本が多かったのに最近は女性誌やファッション誌が混じっていたのを見た事がある。
どうやら、少しは色気に興味が湧いて来たらしい。
昔は食い気の方が買ってたのにな。
少しは大人っぽくなってきたって事か。

店内に入ると白を基準とした内装になっており、ピンクのラインが見える壁は可愛さをだしているが男の俺が入っても別に気負いする事無く入れる空間となっていた。
もっと女の子らしい作りになってると思ったんだけど、これなら俺一人でも来れそうな感じだ。
「うわぁ……色々とあるね」
「ん?そうだな」
二人して店内のショーケースに飾られてるアクセサリーを見回る。
真剣に見つめるこのこのみの顔は何時か大人びて見えて思わずドキリと胸が鳴った。
「…?どうしたのタカ君。このみの顔に何か付いてる」
「い、いや何でないよ。それで何か買うのか?」
「え?あ、…うん。買いたいんだけどちょっと」
「ちょっとなんだよ」
「……今月は色々と使っちゃって今はお小遣いがないであります」
「おい」
買う金がないのに、ここに来たかったのかよ。
それならそうと……って、そう言えば俺が強引に連れてきたんだっけ。
全く……しょうがないな。
あんまりお金は持ち合わせてないがアクセサリーぐらいならと思い、ショーケースの内の値札を見ると俺の顔は一瞬固まった。

うおっ!?高ぁ!!

8,000円って…アクセサリーってこんなにも高いのか?こんなん買ったら当分質素に生きる羽目になるぞ。
他の物も似たりよったりな値段で流石にこれは無理と諦めた。
しかし、ここで何も出来ないのは情けな過ぎる。
俺は周りを見渡し、会計のカウンターの傍に開店記念価格と貼られた台が目に付いた。
値段も張られており、いくらかの安い値段の間で販売されているみたいであれぐらいならなんとか手が出せそうだった。
よし、あれなら大丈夫だろう。
「このみ。あそこのある奴から好きなの選べ」
「え?」
「だから、俺が買ってやるって言ったの。流石にショーケースのは無理だけどな。良いから好きなの選べって」
「うん。でも…良いの?」
「ああ。何時もこのみには朝食とか、夕飯を作って貰ってるしな。今日のはそのお礼だ」
「う…うん!分かったよ、有難うタカ君」
嬉しそうに微笑み綺麗に棚に積まれた指輪中心で集められた台の中からこのみは一つを選び俺に差し出した。
ピンクの色をしたかなりシンプルな指輪だった。
値段もかなり安い。
「…本当にこれでいいのか?」
「うん。結構可愛いし気に入ったから」
そうは言うが、アクセサリーに疎い俺から見てもちょっとしょぼく見えるのだが…
他に置かれている物も見てみると、先程の指輪ほどではないが他にもっと良い物があるだろうに。
それでもこれを選んだと言う事は多分、俺への奢りと言うのでこのみなりに気を使い一番安い奴を選んでくれたのだろう。
その気持ちは素直に嬉しいがこんな時ぐらいは遠慮しなくても良いのだが。
他のにしろと言おうとするが、嬉しそうに笑顔を浮かべるこのみを見てるとそうするのも少し気が引ける。
「分かった。じゃこれにするか」
何も言わず俺は会計を済ませた。
このみの為のプレゼントなんだ。
このみが喜んでくれているならそれでいい。
店を出るとこのみは買ったばかりの指輪を早速人指し指に嵌めて嬉しそうに見つめていたのだから。
だけど、どうしても気になり俺はこのみに聞いてみた。
「綺麗だね。凄いキラキラしてる」
「そうだな……なぁこのみ、本当にそれで良かったのか?」
「え?どうして」
「このみの好きそうな物は他にもあっただろう?俺に気を使ったなら、そんなの気にしないでもう少し良い……」
「ううん。そんな事無いよ」
俺の言葉を遮ぎるようにこのみの声が重なる。
「こういうのをタカ君から貰うのは初めてなんだもん。どんなものでもこのみは嬉しいよ。それにちゃんとした指輪はね後の楽しみにとってあるんだ」
「楽しみ?」
「うん。このみが今よりもっと綺麗になって、大きくなってもっと大事な時に大切な人に貰って薬指に嵌めたいの。綺麗なドレス着て、そして……えへへ♪だからその時にまたお願いするね、タカ君」
おい、このみ。それってまさか……
照れ臭そうに頬を染めながらも無邪気に笑うこのみの言葉を聞いて想像した俺の顔も次第に紅潮し心臓が高鳴る。
そ、その言い方はずるいっての。
恥ずかしくてショートしそうになる頭を何とか抑え込み死ぬほど照れ臭い俺は精一杯の強がりで小さな声で呟いた。
「……そ、その時が来たらな」
「タカ君……うん♪」
嬉しそうな声をあげやがって…そんな先の事まで知るかっての。
「ほ、ほら。さっさと、帰るぞ!あまり遅くなると春夏さんが心配するしな」
明らかに、照れ隠しな俺の反応にこのみは終始笑っていた。
これじゃ、俺の方がガキっぽいっての。

仲良く手を繋いで夕陽に染まる道を並んで歩く。
二人の関係は、幼馴染から恋人へ。
そして、恋人から…先へステップアップするのはまだまだ先の話になるようだった。

~End~









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