「貴明、これやるよ」
学校の休み時間に雄二は俺の席へやってきて何かを差し出してきた。
それを俺は手にとって見てみるとどうやら映画のチケットらしい物が二枚あった。
タイトルは可愛らしい書体で『True Love Story』と書かれていて端に赤文字で特別試写会とも書かれていた。
「試写会のチケット・・・これはまた恥ずかしいタイトルだな」
「そうなんだよ。もうこてこての恋愛もの俺には興味ねーっつーの」
漫画の実写化らしいけどなと、雄二は最後に付け足した。
聞いた事無い漫画だな・・・・少女漫画か?
「ふーん・・・でもだったらどうして見る気もないのにこんなもん持ってるんだよ」
渡されたチケットを揺らしながら俺は、文句をたれる雄二に事を聞くと本気で悔しそうに顔を顰めて俺の肩に腕をかけてきた。
「そうなんだよ聞いてくれよ貴明・・・・・」
「重いって雄二・・・」
乗せられた腕が重く煙たがる俺を無視して雄二は話を続ける。
「それはな、雑誌の懸賞で応募したんだよ。だけど俺は本当は緒方理奈の直筆サインニューアルバムが欲しかったんだよ。数十枚雑誌を買って送ったのになのにだぜ、よりにもよってこんな物が当たるなんてありえないだろう?・・・・洒落で第二志望で書いただけなのにそれが当たるのかよ・・・・・この世には神も仏もないよな貴明」
「俺に同意を求めるなって。まーなんだな・・・取りあえず、元気出せ雄二」
本気で落ち込んでる雄二に苦笑しながらも俺は一応友人を元気つける為に労いの言葉をかけた。
「ああ、ありがとう貴明。そんな訳だからそれはお前にやるよ。誰か誘って行ってくれ」
「お、おう」
「じゃあな・・・」
用件が終わった雄二は、肩を落としながら自分の席に戻っていった。
うーん・・・あんなに落ち込むなんてそんなに欲しかったのだろうか。
っていうか懸賞を貰うのに雑誌を数十枚買ったのか?凄いな雄二、ある意味尊敬するぞ。
しかし・・・・・・・・・・・・・・・・一体誰を誘おうか。
渡されたチケットをポケットに、押しこんで次の授業中俺は暫くその事を考えていたのだった。
そして、学校も終わり放課後になった俺は誰を誘ったかと言うと・・・・

「え・・・映画ですか?」
「あ、うん。イルファさんどうかなって思って、一緒に行かない?」
もはや恒例となりつつある珊瑚ちゃん家での夕飯を御馳走になった俺は、二人がお風呂に入ってここにいないタイミングを見計らいキッチンで食器の片付けをしているイルファさんに話を持ちかけていた。
受け取った映画のチケットを一枚を見つめてイルファさんは複雑な顔をしながら俺と交互に見る。
「これって・・・・まさか、デー・・・トの誘いですか?」
「うっ、そう言われると恥ずかしいけど・・・平たく言えばそうなるかな」
デートと言う言葉にほんのりイルファさんの頬が赤く染まる。
そう、俺は結局身近な人イルファさんを誘う事にしたのだ。
勿論珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんの案も考えたけど一人に誘うと絶対に片方と悶着を起こす恐れがありそうだしそうなると結局二人一緒に行くといパターンになってしまう。それに試写会じゃ三人で行くのは無理だしチケットは二枚しかないし、それだと折角もらったチケットが無駄になってしまう。
そうなるとイルファさんしか俺は誘う人が見つからなかった。もちろんそれだけが理由じゃないけど、イルファさんと一緒に出かけるなんて事は一度もなかったしこの機会に一緒に遊びに行くのは丁度いい機会だと思ったからだ。
そして、誘われた当のイルファさんは顔が真っ赤のままでまるでフリーズしたかのように動かなかった。
「あの・・・イルファさん。聞いてる?おーい」
「・・・・はっ!?す、すいません!!急な事にちょっとオーバーヒートしそうでした」
おいおい、大丈夫か。
「いや、そんなに堅苦しく考えなくて良いよ。だた映画に行くだけだし」
「そ、それはそうですけど・・・・でも私なんかで良いんですか?その・・・珊瑚様とかの方が」
彼女たちを一番に考えるのは何ともイルファさんらしい一言だった。
「うん。それは俺も考えたけどさ、珊瑚ちゃんに誘うと瑠璃ちゃんも誘わないと行けなくなるだろう。その逆もしかりで、俺はそれでも良いんだけどそれだとペアチケットの意味がなくなるし・・・それに」
「それに?」
俺は続きの言葉が相当恥ずかしくて鼻の頭を掻いて視線を逸らしながら話した。
「イルファさんとも、一度デートしてみたかったしね。今までその機会無かったし、丁度良いかなって思ってさ・・・・」
自分でも相当歯の浮くセリフに思わず赤面していると、クスリと笑う声が聞こえた。
「ふふっ、貴明さん。顔真っ赤ですよ」
「それはお互い様だろ」
「そ、そうですね・・・」
二人して恥ずかしさを誤魔化す様に笑い合う。
「分りました。今度の休みの日に一緒にデートしましょう」
「うん。そうだね、あと二人にばれるといけないから駅前に9時に集合ね」
「はい。ふふっ、これは二人だけの秘密ですね。貴明さん」
「うん。そうだね」

がちゃ

そして、まるでタイミングを計ったかのように、扉が開かれてお風呂上りの珊瑚ちゃんがパジャマ姿で俺に飛びついて来た。
ほんのりと香る石鹸の匂いが鼻腔に漂った。
「貴明~~♪ゲームしよう~~・・・・って何や?貴明少し顔赤ない」
「そうかな。気のせいだと思うよ」
「ん?イルファも、顔赤いで?」
「気のせいですよ。瑠璃様」
似た返答をする俺たちに珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは首を傾げていたのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

そして、デート当日。
鳥の囀りを耳にしながら少し肌寒い空気を肌に感じて俺はゆっくりと目が覚めた。
「ん・・・・・・ここは・・・俺の家か」
何時も休みの前日は珊瑚ちゃんの家に泊まる事が確率的に高いのでたまに起きても自分の家なのか珊瑚ちゃんの家なのか分らなくなる。それはそれで問題があるような気がするが、今回はその・・・・デートがある為に珊瑚ちゃんの家のお泊まりは遠慮したのだ。
二人には内緒にしてるので俺が来ない事が分かると、寂しそうに表情を曇らす二人を見てちょっと罪悪感が湧いた。今度二人に、何かお詫びをした方がいいかも知れないな。
そう思いながら俺はベットの棚にある時計を手にとって時間を確認した。
「まだ・・・こんな時間か」
カーテン越しに見える外は薄ら明るい程度だ。こんな時間で起きてるのはきっと新聞配達の人ぐらいだろう。
「んー・・・・・・よし!起きるか」
一度目が覚めてしまったら、どうにも寝なおすのも億劫に感じ俺は休みにしては相当珍しい時間で起床をした。
時間まではたっぷりあるからシャワーを浴びて、さっぱりして早めの朝食を採った。
その後はTVを見ていたが、こんな時間じゃたいしたものはやっておらず結局自室に戻り落ち付きなくそわそわしながら部屋の中をグルグル歩いていた。
何の事は無い俺も相当緊張していると言う事だろう。
ま、俺自体珊瑚ちゃん達と会う前まではそこまで女の子と遊ぶ事なんて無かったから、この様な状態はあまり慣れてないのである。緊張するのは仕方がないよ。だってデートだよ。イルファさんとデートだよ。珊瑚ちゃん達とも数える程度しかしてないんだから、緊張するのは当たり前じゃん。
・・・って誰に言い訳してるんだ俺は。
と、何の気なしにふと時計を見ると・・・・・・・・って八時半!?何時の間にかこんなに時間が経ってたのかよ!!
着替えて準備しないと、遅刻しちまうって!!!
あんなにも余裕があったのに、俺は何をしてるんだ!お約束過ぎるだろう!!
慌てて着替えて財布とチケットを忘れずに持って、俺は家を飛び出していった。

そして、全速力をする事が幸いしてか駅前の時計を見ると時間はまだ約束の5分前だった。
「はぁはぁはぁ・・・・良かった間に合った。はぁはぁ・・・俺から誘って遅刻なんて、情けな過ぎるもんな・・・・はぁー疲れた」
取りあえず、間に合った事に安堵した俺は周りを見渡しイルファさんが来てないか確認をした。どうやらまだ来てないようだった。俺は取りあえず備え付けてあるベンチに腰かけて息を整える事にした。
「あつっ・・・本当何やってるんだ俺は・・・中坊かっての」
思わず苦笑をし、大きくベンチに背もたれて座っていると朝独特の涼しい風と陽気が俺の体を優しく撫でる。火照った体には丁度良い・・・ふー。
眼と閉じて暫くそのままくつろいでいると息も大分落ち着いてきた頃、俺の方に向かってくる足音が聞こえてきた。
眼を開けてその方向へ向けて顔を向けると、俺の待ち人が何時とも違う装いでそこに居た。
グレーの長袖のタートルネックのカットソーとデニムのロングスカート。シンプルな服装だがこれ位の方がイルファさんには合ってる気がした。
駅間にある時計を見ると9時ジャストで何とも真面目なイルファさんらしい到着ぶりだった。
「お待たせです。貴明さん」
「・・・・・」
「貴明さん?」
「あ、いや、その・・・今日は何時ものメイド服じゃないんだね」
「あ、はい。折角のデートですし、メイドロボなんかがオシャレするなんて変だと思ったんですけど・・・・・やっぱり変ですか?」
イルファさんは自分の服をまじまじと見て不安そうに聞いてくる。
俺は腰を上げて少し照れくさそうに答えた。
「その・・・変じゃない。凄く似合ってるよ」
「そ、そうですか・・・良かったです」
俺の言葉に安堵した様子で胸に手を当てながら、ほっと胸をなでおろしたようだ。
見慣れない服装のイルファさんに一瞬見惚れてしまったのは内緒だ。
本当にこれからデートへ行くんだと再認識した俺は妙にドキドキ高鳴る胸を感じながらイルファさんに手を差し出した。
「じゃ・・・行こうか」
「はい」

そして、映画館に着くと試写会故にそこまで人は並んでは無くすんなり中に入れた。
指定の席に俺達は座り、上映時間まで待つ。
「私、映画を見るの初めてです。中はこうなってるんですね・・・・」
まるで、初めて子供がおもちゃを貰った時のように珍しい物を見るような眼でイルファさんはまじまじと周りを見つめていた。
「うん、ここは少し狭いみたいだけどもっと大きい所とかもあるよ」
「そうなんですか?ここでも結構大きいと思うんですけど・・・あ、そう言えば今日見る映画の話ってどんな話なんですか?」
そう聞かれて俺は入場する時に買ったパンフレットを開いて見てみる。
「えっと・・・『未来から来た少女型のアンドロイド。これから起こるであろう災厄をある少年から助けるためにやってきた。しかし、少年は親身になって助けてくれる少女に徐々に惹かれ恋に落ちてゆく。そしていつしか少女も・・・二人の結末は一体・・・』だって」
なんとまぁー、どっかで聞いたよな展開だな・・・えっと何だっけ?昔見たので似たのがあるような気が・・・・・・おおーそうだ。ターミ〇ーターだよ。うん、懐かしいなー。
俺は変に懐かしんでいると、イルファさんは何所かぼぉーとしていた。
「・・・・・・・」
「イルファさんどうしたの?」
「・・・え?あ、何でもないです。ちょっと気になっただけですから・・・・映画楽しみですね」
少し複雑な顔をして微笑むイルファさんに俺は首を傾げた。
どうしたんだ・・・ちょっと浮かない顔してたけど。
気になった俺は声をかけようとしたけど、『ブゥー』と上映開始の音と共に部屋が暗くなりアナウンスが流れた。

『今回は、当映画館へ起こし頂き大変ありがとうございます。今らか「映画 True Love Story」の特別試写会を上映開始致します。上映中はお客様はお立ちに・・・』

おっと、始まるか・・・ま、聞くのは後からでもいいよな。
俺はそう思い口を閉じて視線をスクリーンに移した。
でも・・・・やっぱり気になって視線を一瞬イルファさんに向けると何処か憂いを帯びた顔に見えてならなかったのだった。


そして、約二時間後・・・・上映時間が終わり、部屋に明かりがついた。
俺は素直に感激していた。
場内を見ると、俺と同じ感想なのか男女関係なくちょっと涙ぐんでる人が多かった。
報われない恋、惹かれあう二人、だけど決別の時は来てしまう。最後にはヒロインは主人公を守って機能を完全に停止してしまう。
くっ・・・ちょっと涙腺にきた。映画で泣くのは久々だ。
でも、最後の主人公の台詞は本当に良かった。理由は分らないけど主人公のあの時の台詞はどんな言葉よりも一番心に響いた。
暫く俺は余韻に浸っていたが何時までの居る訳にも行かずイルファさんに声をかけた。
「イルファさん、そろそろ出ようか」
「・・・そうですね」
「・・・イルファさん?」
映画を観終わったイルファさんは気のない返事を返して何所か複雑な表情をしていた。
悲しいような辛いようなそんな憂いの表情。
これは映画を観る前にしていた表情だ。
映画に感動したにしては少し可笑しい反応だよな・・・・
俯いて浮かない顔をしている、イルファさんに俺は取りあえず手を取って映画館を後にした。
只ならない雰囲気に俺は出来る限り人気のない場所、近場の公園を選んでベンチに座った。
「・・・・・」
「・・・・・」
うーん・・・参ったな。どうしたんだろう、映画面白くなかったのかな?
イルファさんの重い雰囲気に声をかけずらくて、何も聞けないでいた。暫くお互い無言で目の前を通り過ぎて行く通行人を眺めているとイルファさんが徐に口を開いてきた。
「・・・・貴明さん」
「何?」
「貴明さんはあの映画見てどう思いました」
「どうて・・・・良かったよ。すっごく感動出来た」
「そう・・・ですか」
一体どういう意図だろうか。俺にはいまいちイルファさんの気持ちが汲めれないでいた。
俺は今度は逆にイルファさんに聞いてみた。
「イルファさんはどうだったの」
「私ですか?」
「面白くなかった」
「いえそんな事は無いですよ・・・・私もすごく良い話だと思います。でも・・・・・・」
「でも?」
「なんだか他人言じゃないような気がして・・・・・見てられなかったんです」
「それってどういう・・・」
俺の言葉に寂しそうに笑みを浮かべていた。その顔があまりにも辛そうで俺はそれ以上聞けなかった。
他人事じゃないってどういう意味なんだ?
他人事じゃないって事は何か似てるって事だよな。アンドロイド、人間、恋、・・・メイドロボ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
言葉の連想で俺はある事に気づいた。
普通の人なら映画は客観的に見れるから、自分を疑似的に登場人物と重ね合わせれるから楽しめるんだ。
どれだけ辛い話でもどれだけ悲しいはなしでも自分とか違う架空の自分故にそこまでは気にならないだろう。
だけど、今回の映画はアンドロイドと人間の禁断の恋。
それはある意味イルファさんにとっては、自分を写したような話だったのかもしれない。
俺はもちろんそんな事は全然気にしないけど、どれだけの時が進んでもメイドロボと人間と言う種別の違いは永遠に変わる事なんてない。
それに、この世界も人間とメイドロボの恋だって受け入れられないかもしれない。
第一そんな事が起きてる話すら出ていない。
それならば、結局あの映画と同じ結末にどれだけ愛しても人間とは一緒に居られないという事ではないのか?
あの映画はまるでその事への啓示のようだ。だからイルファさんはあんな不安そうな顔をしていたのだ。
その事に気づいた俺は悔しそうに唇を噛んで自分のあまりの迂闊さに嫌気がさしてきた。
上映前のあの雰囲気はそう言う事だったのか・・・・自分と映画の話を照り合わせて感じていたのか。
くぅ!!俺はそれを気付かずに自分だけ感動して浸っていたのか!俺って奴は・・・・・・
こんな時なんて言葉をかければ良いのか分らない俺は無言でイルファさんの傍に居る事しか出来なかった。
こんな時、言葉がある事にどうしても恨んでしまう。
だって今の雰囲気じゃ、何を言ってもどれも陳腐な台詞にしか聞こえないからだ。たとえそれが『好きだよ』や『愛してる』と言った言葉でさえも。どうしようもなく時間だけが過ぎて行く。
後悔だけが心の中を駆け巡っていくのを感じてると、ふと俺の中であの映画の最後のシーンが思い出された。

主人公を守るために来たアンドロイドの少女、その運命の災厄の日。
少女は、主人公を庇って傷ついてしまった。まるで、主人公の身代りにここに居るのだと示す様に。
『泣かないで・・・くだ・・さい。わた・・はこの為に・・・来たの・・から』
『だけど、俺なんかを庇って、こんな・・・』
『良いん・・す。所詮・・・はアンドロイ・・人間とは違・・から、一緒に・・居られ・・』
『そんな事無い!!君がどんな存在でも僕にとっての君は君だけだ!代わりになるものなんてどこにもない!!!周りにどれだけ虐げられても、この気持ちは変わらない!!!』
『あり・・が・・・う』

そうだ・・・あの言葉。一番心に響いたあの台詞。あれは、俺も同じ風に共感できた感情だからこそ感動したんだ。
全てを捨てても尚、愛せ続けれる覚悟と思い。それは俺の中にもある筈だ。
イルファさんと出会ってまだ一年もたってないけど俺の中で代わりになるものなんていない。
イルファさんはイルファさんだ。
俺の大切な女性の一人じゃないか。
陳腐でも良い俺に出来るのは精一杯自分の思いを伝えるそれしかないじゃないか。
「イルファさん!」
「な、何ですか!?」
大声を上げてイルファさんの肩を掴みじっと瞳を見つめる。
「俺イルファさんの事好きだから!!」
「貴明さん・・・?」
人通りは悪いと言っても少しは人は居る。大声をあげる俺に通行人は興味本位で顔を向けていた。
イルファさんもいきなりの事で驚き目をパチパチとしていた。
それでも、構わず俺は声をあげる。
「メイドロボなんか関係ない、どれだけ世界が俺たちを拒絶してもこの気持ちだけは変わらないから!ずっとずっとイルファさんの事は大好きだからだから、その・・・・・信じて欲しい」
劇中と似た俺は台詞を吐き全てを言い終わると、自分の言った言葉の恥ずかしさに段々顔が赤面してきてまともにイルファさんの顔が見れなくなっていた。だけど、決して後悔はしていないし、これは俺の本心だから。
何時の間にか周りの通行人も足を止めて、張りつめた雰囲気を出している俺たちを固唾をのんで見守っていた。
「・・・貴明さん」
俺の呼ぶ声に顔をあげた。
その時見たイルファさんの顔は先程までの憂いの表情では無くとても幸せそうに微笑んでいた。
そうまるで、映画の中であのアンドロイドの少女が見せた最後の笑顔のように。
「ありがとうございます。貴明さんにそこまで思ってくれてたなんて私・・・とても嬉しいです」
「イルファさん・・・」
イルファさんの肩に手を置いて俺はじっと見つめた。俺の気持ちが伝わったのかイルファさんは瞳を閉じて俺の名前を呼んだ。
「貴明さん・・・」
ゆっくり近づく俺達の唇。
優しく触れあった柔らかい感触。
俺達は暫くそのままお互いの吐息を感じていた。そして、ゆっくり離れると俺達はの顔はほんのりと赤く染まっていた。
「・・・・」
「・・・・」
お互い無言でイルファさんは頬に手を当てて恥ずかしそうに微笑み、俺は照れ隠しで頭を掻いてると急にぱちぱちと叩く音が聞こえてきた。
思わず周りを見渡すと何時の間にか居たのか俺たちを囲む様に大勢の人が集まっていた。

「ひゅーひゅー兄ちゃん。くせーセリフ良く吐くな」
「きゃ~~♪私もあんな事言われたいー」」
「何かの撮影かな・・・どっかにカメラあるか?」

集まった人たちから冷やかしや羨ましさといったそれぞれの声が聞こえてきた。
「うっ・・・これは・・・・・・」
人目も憚らず臭いセリフ言った罰だろうか。
あまりの人だかりに固まる俺の腕を誰かが握った。
「・・・逃げちゃいましょうか」
「うん、そうだね。そうしよう」
俺達は互いの手を握ったまま逃げるように公園を後にしたのだった。
後ろから色々な声を耳にしながら走ってるとイルファさんがクスリと笑った。
「どうしたの?急に笑って」
「いえ、貴明さんがあんな事言ってくれるなんて想像も出来なかったものですから・・・あの言葉嘘じゃないですよね」
何所か期待した瞳で俺を見つめるイルファさんに俺は笑って答えた。
「もちろんだよ」
「・・・はい!」
やっと何時ものイルファさんの笑顔が見れた俺はほっと安堵した。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

しかしそれもそれもつかの間。
この後、珊瑚ちゃん達に内緒にしている事も忘れ何の気なしにイルファさんと一緒に珊瑚ちゃんの家に帰ったものだから・・・・

「あー貴明がいっちゃんといっしょにおる~~~!!」
「イルファ、どういう事かはっきり説明してもらうで!!」

私用で出かけたイルファさんが何故か俺と一緒に帰ってきた事に対して怪しまれて俺達より小さい二人の追及にあっていた。結局内緒にデートしてたのがばれてしまったのだった。
し、しまった・・・あんな事あったからすっかり二人に内緒でデートしてたの忘れてた。はは、隠し事なんて所詮こんなもんだよね・・・
結果仲間外れされていじける珊瑚ちゃんと怒りの形相をする瑠璃ちゃんを宥める為に後日、俺は珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんと一緒にデートへ行く事になった。
それのお陰で珊瑚ちゃんの機嫌は良くなったがすっかりいじけてしまった瑠璃ちゃんは未だ機嫌が直っておらず剥れていたのだった。
「あーあー瑠璃様そんな怒らないでください。決して悪気があった訳じゃなくてですね、その・・・」
「知らへん。嘘付くイルファなんかとか口何かきかへんもん!」
「そ、そんな~~」
ご立腹の瑠璃ちゃんを必死に説得しているイルファさんを見て俺は微笑ましく二人にばれないように小さく笑った。
だけど俺はある事を考えていた。
さっきはああ言ったがもしかしたらあの映画の結末は、本当に俺達の未来を啓示してたものじゃないのだろうか?と思ってしまう。
俺達はまだ未成熟で若い、大きくなればきっとその問題も直面する時がくるかもしれない。
その時俺達は本当に今の関係のままでいれるのだろうか・・・・・
難しい顔をしている俺を心配してか珊瑚ちゃんは俺の膝の上に乗ってきた。
「どうしたんや貴明?キツイ顔してなんや悩み事か」
「ん・・・いや、ずっとこんな関係が続けば良いなって思ってね」
俺の言葉に首を傾げる珊瑚ちゃん。
だけど直ぐにその顔は満面の笑みに変わった。
「あたりまえやん。ウチらはずっと一緒やで貴明♪」
「そうだね・・・うん。ありがとう珊瑚ちゃん」
「うん、何や貴明そんなん気にしてたん?」
「ちょっとね」
そうだよ・・・今は先を考えるよりこの日常をしっかりと堪能しよう。
向かう時が来たらその時しっかりと向かい合えば良い。
俺に抱きついている珊瑚ちゃんの頭を優しく撫でながら心の中で強く思った。
『ずっとこの関係が続きますように』と。
今のこのカタチが俺達の一番の幸せなのだと願うように。

~終わり~







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