「ダーリン、私のお願い聞いて~~~」
他の生徒がいる教室内にも関わらず力一杯抱きついてくるミルファに俺は複雑な顔をして彼女の顔を見つめる。
こんな風景は何時もの事なので周りは既に知らんぷりだ。
ま、未だに一部の生徒…主に雄二が羨ましそうに睨まれる事は多々あるが。
「・・・お願いって何?」
出来るならば離れて欲しい俺は口調を少しだけきつい声色で返した。
しかし、そんな俺の願いなど微塵も感じていないミルファは何時もの調子で元気に答えてくれた。
「うん!あのね。この前の試験の結果が散々で……姉さんに大目玉食らったの覚えてる?」
「あ・・・うん。覚えてるかな」
メイドロボなのにオール赤点なんて言うある意味奇跡のテスト結果だったあれだよな。
次の日のミルファの意気消沈した様子をみればどれだけ説教されたか分かる。
イルファさんは色々厳しい所あるからなー。
「それで今度試験があるでしょう。それで、今度の試験がもし赤点が三つ以上あるなら家に帰ってからも勉強させるって、言われて・・・・・・・どうしよう、家でも勉強なんて私死んじゃうよ!?」
本気で泣きつかれるミルファに俺は苦笑を浮かべた。
こいつ本当に最新型メイドロボか?それぐらい、直ぐに覚えられそうなのに・・・・
「いや、だったら家で勉強すれば良いだけじゃん。試験にはまだ一週間近くあるんだし」
もっともな意見を言う俺にミルファは顔を顰めた。
「・・・それが出来れば苦労はしないの!家で勉強してるとどうしても眠くなってきて・・・・いっつも気づいたら朝になってるから」
「駄目じゃん……」
ま、その気持ちは分らない事は無いけどさ・・・・・・たく。
「しょうがないな・・・俺もそんなに教えるの上手くないよ。それでも良いの」
「うん♪ダーリンとなら頑張れる気がするから」
「そっか・・・・じゃ、ミルファの家で一緒に勉強するか」
「それは駄目!!」
はっきりと却下された事に、俺は怪訝な顔をする。
「なんで」
「だって姉さんが居るんだもん。絶対勉強してる間小言言われるし、どうせなら姉さんに内緒で勉強して見返したいの!だからダーリンの家で勉強し・た・い・な♪」
何故そこで甘声になる?
はぁ、言ってる事は立派だけどそれなら授業をしっかり受けるなり、学校に残るなりすれば良いと思うのは俺だけ?
「駄目・・・ダーリン?」
だけど、潤んだ瞳で甘える視線を送るミルファに対して、内心可愛い…と思ってしまい断れない自分がとてつもなく悲しい。
「はぁー…分ったよ。じゃ、今日から俺の家で勉強する?」
「うん♪ありがとうダーリン」
嬉々として声色を上げて返事をするミルファに俺は苦笑しつつも、一つだけ脳裏に浮かんだ不安要素に対して釘を刺しておく事を忘れることなくしておいた。
「そうだ。勉強は良いけど、くれぐれもシルファちゃんと喧嘩はしないでよ」
「大丈夫大丈夫~~♪」
あっけらかんと答えるミルファに、俺の脳裏には嫌な予感しかしなかった。
絶対、分ってないなこの顔・・・・・・このまま帰ると何か起こるよな。
試験まであと1週間とちょっと切ったある日の事。
俺は無駄と知りつつも穏便に過ぎる事を心の中で神に祈ったのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ただいまー」
「おかえりなさいれす♪ご主人・・・様?」
学校から帰ってきた俺の声を聞きつけてパタパタと家の奥から可愛らしい音をたてながら玄関まで笑顔で出迎えてくれるシルファちゃん。
だけど今日はその笑顔が凍り徐々に目元が吊り上ってきたのだった。
その理由は、言わなくても分っていた。
学校の帰りから嬉しそうにずっと俺の腕に自分の腕を絡めて幸せそうに笑みを浮かべているミルファが居たからだ。
「おひさ~~シルファ、元気にしてる?」
そんなシルファちゃんを分っているのかいないのかミルファは何時ものように明るく挨拶を交わす。
その瞬間シルファちゃんの周りの気温が下がったような気がした。
「・・・・何しに来たれすか?」
不機嫌を隠す事なく顔を顰め冷めた言葉を返すシルファちゃんにミルファは全く臆することなくむしろ見せつけるように腕を更にきつく絡めて答えた。
「ダーリンと二人っきりで試験勉強するためよ。だから、邪魔しないでねシルファ」

ピシッ!

あ、シルファちゃんの頭に漫画に馴染みの怒りマークが浮かんだような・・・・・・
それよりもそんなに強く絡めないでむ、胸が腕に当たって・・・・その・・・・・
思わずその柔らかな感触にニヤけそうになると、キッとシルファちゃんに睨まれた。
ご、ごめんなさい。
俺を一喝したシルファちゃんはミルファの明らかな挑発的な言い方に、ピクピクと口元を引き攣り不気味な笑みを零しながら口を開いた。
「へ、へーそうなんれすか・・・・れもろうせ、赤点ばっかのミルミルには徒労に終わると思うれすけろ精々頑張れば良いれすよ」

ピシッ!

二度目の亀裂。
挑発に挑発で返されたミルファの頭に怒りのマークが浮かんだ。
俺には頭の中で戦いのゴングが鳴ったのを聞こえた気がした。

「それってどういう意味・・・・シルファ」
「そのままの意味れすよ、おぽんちミルミル」
玄関先で互いに冷たい視線を交わす二人のメイドロボ。
あーやっぱりこうなるのね。
今のやり取りで頭にきたミルファは俺の腕に絡めたと言うより既に締め上げる表現に近い力で抑え込んでいた。
すっごい腕が痛い・・・、はぁーこうなるのは分っていたんだ。
二人に気づかれない様に軽くため息を吐いた。
半分こんな展開は何時もの事と諦めが入る俺に若干嫌気がさすけど、流石に毎度は繰り返したくないのが本音だ。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ここは一度ビシッと言っておくのも良いかもしれない。
「あのさ・・・・・二人とも、来て早々喧嘩は止めない?」
一触即発な空気を醸し出している二人に俺は珍しく少しだけ怒りの感情を込め声を重くして言葉を発すると、二人は驚いた様で俺を見つめてきた。
それもその筈、この二人の前で俺が怒るなんて今まで一度も無かったから。
その効果があってか二人は先程までの殺伐とした雰囲気は無くすっかり意志消沈していた。
「シルファちゃんも、来ていきなり喧嘩腰は止めようよ」
「らって・・・・」
「帰って早々喧嘩されたんじゃ俺の身が持たないよ。シルファちゃんは俺のメイドロボなんでしょ、俺の為に少しは我慢してくれないかな」
「ううっ・・・・・はいれす」
少し卑怯だと思ったけど、あえてご主人様とメイドと言う関係を利用させて貰った。
怒られたシルファちゃんは、かなり落ち込んだ顔をしてまるで泣きそうな顔をしていた。
俺は罪悪感で胸が締め付けられそうになったけど、ここはあえてフォローをしなかった。
そして、怒られたシルファちゃんを見たミルファは勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
「ふふっ・・・・」
さて、シルファちゃんだけは不公平だよな。
この娘にもお灸をすえないと。
「笑ってないで、ミルファも悪いんだよ」
「え、え?私??」
言われた本人は訳が分らない顔をしていた。
「そうだよ。学校でも言ったよね、喧嘩はしないでって」
「だ、だってそれは、シルファが煽るから・・・・」
「それは、ミルファもお互い様でしょう?」
「うっ・・・・でも」
「でも、じゃない。喧嘩するならもう一緒に試験勉強してあげないよ。赤点一人で抜けれる」
「ううっ・・・・・それは無理」
今日の目的を思い出したのか、嫌そうに顔を顰めた。
「なら、する事はあるよね」
俺に軽く背中を押されて、少し前に進んだミルファは戸惑いながらも頷いてシルファちゃんに向きなおり素直に頭を下げた。
「うん・・・・その、ごめんねシルファ。私も少し言い過ぎた」
「ミルミル・・・」
「ほら、シルファちゃんも」
戸惑いながらも俺を見つめるシルファちゃんに、今度は優しく笑顔を向けて勧めた。
「ご主人様・・・・・ううっ…し、シルファも言い過ぎたれす。ごめなさい」
互いに謝った二人の間には微妙な空気が漂っていた。
気まずいような、悲しいような。
二人はまるで親に怒られた子供のような哀憐の瞳をしながら俺の様子を伺っていた。
勿論、俺は始めっから怒ってはない。
さっきはきつく言ってしまったけど、喧嘩ばかりな二人に少しは仲良くして欲しいのだ。
それに二人とも、俺の事に対して互いに嫉妬しているのだ。
そんな二人の好意は、嬉しくない訳がない。
俺は、頑張った二人にとびっきりの表現で答えた。
「そんな顔しないで良いよ。もう、怒ってないから」
二人の頭を、優しく撫でながら俺は何時もの優しい笑顔で見つめる。
「ダーリン!!」
「ご主人様!!」
すると二人はやっと不安が消えたのか俺の名前を叫びながら抱きついてきた。
「おっと!?」
流石に二人分の体重を支えきれず一瞬後ろに倒れかけたけどなんとか足を踏ん張り二人を抱きとめた。
「ごめんね、ダーリン。もう喧嘩なんかしないから・・・・私の事嫌わないで・・・・・」
「シルファも、少しは我慢するれす。らから・・・らから!・・・・」
「ミルファ・・・シルファちゃん・・・」
えっと・・・・これはちょっとお灸が効きすぎたのかな。
流石にここまで効くとは思ってなかった俺は、ちょっと戸惑っていた。
やり過ぎた事に俺は、今更ながら後悔の念が押し寄せて来たけど鞭を与えたならそれ相応の飴を与えれば良い。
俺は抱きついている二人の背中に腕を回しギュッと抱きしめる。
「ごめんね、俺も言い過ぎた。二人の事はちゃんと好きだから、嫌いになんて絶対ならないから安心して」
「ダーリン・・・・うん」
「シルファも・・・れす」
暫く俺達は時間を忘れて抱き合っていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「それじゃ、試験勉強始めようか」
「うん、やろうやろう!」
「って、シルファは試験は関係ないれすよ」
何だかすっごい遠回りをして時間が随分経ってしまったが当初の目的通り俺達は俺の部屋に来て試験勉強を始めようとしていた。
学校に行ってない、シルファちゃんも何故かここで一緒に試験勉強をする事になった。
ま、何と言うかなんとなくその場の雰囲気でと言う奴だ。
シルファちゃんも口では何だかんだ言いながらも結構乗り気みたいだし別に良いだろう。
「確か、最初は国語と数学だったよな。今日はその二つを重点的にやっていこうか」

そう思い始めて勉強を進めて、約一時間。
国語の勉強を一段落し、数学に変えた頃。
「分らないよ~~・・・」
まるでプシュ~~ッと頭から煙が出そうなぐらい顔を赤くなったミルファは急に机に項垂れたのだった。
勉強が初めてなシルファに、色々教えながらも勉強を進める俺はミルファの余りの速さの挫折に驚いた。
「って、もうかよ!早いって!?」
「ミルミル、ららしないれすよ」
シルファちゃんも、半分呆れながらミルファを見つめた。
妹にそう言われたミルファは若干悔しそうに顔を顰めるけど視線だけを上げて呻く。
「だって、分んないんだもん・・・こんな数字ばかりの勉強何が楽しいの。関数て何よ?√なんて知らないもん」
ブツブツと、まるで地獄の底からの亡者の呻き声を思わせるような恨めしい声に俺は苦笑するしかなかった。
「その気持ちは分かるけどさ、もう少し頑張ろうよ」
「うー・・・・」
「シルファちゃんだって頑張ってるんだしさ」
「ぶー、なんでシルファはそんな軽快に回答出来るのよ~~」
「別に・・・シルファは、普通にやってるらけれすよ?」
まるで何でもない風に話すシルファちゃんにミルファは恨めしそうに見つめていた。
確かに勉強してみて思ったけど、シルファちゃんはかなり飲み込みが早かった。
教えた事は大体直ぐ身に付くし、応用も完璧だ。
流石最新型メイドロボ。かなり優秀だった・・・って、ミルファも同じ機体だったよな?
何でミルファは出来ないんだ?不思議でしょうがない。
でも、このままだとまずいよな・・・・・ミルファだけ遅れちゃうしな。かと言って俺だってそんなに教えるのは上手くない。
と言うか人に教えるほど成績良くないし。
どうするか思案してると、困った俺をじーっと見つめていてシルファちゃんが徐に口を開いた。

「・・・ぷぷっ」
え?シルファちゃん何笑ってるの?
俺はその声に怪訝な眼で見つめた。
そんな俺を気にする事なくシルファは言葉を続けた。
「これらから、おぽんちミルミルはらめなのれす。大人しく赤点取ってイルイルの説教受けると言いれすよ」
ちょっ!?そんな挑発的な言い方したらさっきと同じ展開に・・・・・
「な、何ですってシルファ!!もう一度言ってみなさいよ」
「ええなんろれも言ってやるれす。おぽんちミルミルは、万年赤点の落ちこぼれめいろろぼれす」
その言葉に完全に頭に来たミルファは直ぐにでもシルファに食ってかかりそうな雰囲気を出している。
あーもうー!!この娘らは学習能力と言うものは無いのか!?
さっきの出来事がまるで夢物語のようじゃないか!!
もう、怒る気力も湧かず諦める俺の耳にシルファちゃんからの最後の言葉が投げ出された。
「悔しかったら、しっかり勉強すると良いれすよ。ま、ろうせミルミルの成績なんてシルファなら余裕で越せちゃうれすけろね」
って・・・・あれ?この言い方だとまるで・・・・・・・
「っ~~~~~!言ったわね。良いわよやってやるわよ!!こうなったら全教科赤点返上してやるんだから!!!!」
はっきりそう断言したミルファの瞳は闘志で燃えていた。
おおー、なんか当初より目的が底上げされてるぞ。
「さ、ダーリン勉強続けよう!絶対負けないんだから!!」
「あ、ああ」
余りの気迫に俺はコクコクと頷いた。
そして、それからは順調に進み試験範囲の半分近くはおさらいが出来たのだった。
時間も結構経ち、そろそろミルファも珊瑚ちゃんの家に帰る時刻になると今日の勉強はここでお開きとなった。
家に帰るミルファを俺達は玄関まで見送りにきていた。
「お疲れ様、ミルファ。明日も、家で勉強するんだよな?」
「もちろん!絶対負けなんだから!!」
いや、何に負けると言うんだ?
勉強が終わった今でもミルファの闘志は未だ燃えさかっていた。
そんなミルファにシルファちゃんは最後まで意地悪そうに笑っていた。
「ぷぷっ。今日らけにならなきゃいいれすけろね。ミルミルは、三歩歩いたらけれ忘れそうれすし」
「私は鳥頭じゃない!見てなさいよシルファ!!」
おお、ナイス突っ込みだ。
こんな所で勉強の成果が・・・・ってこんなの試験に出るっけ?
シルファちゃんの挑発に最後まで不屈の闘志を絶やす事なく何所かで聞いたセリフを吐きながらミルファは帰っていった。
この調子なら本当に、試験までこのテンションで行けそうだな。

「さて、と・・・・シルファちゃん」
「なんれすかご主人様」
ミルファも居なくなり二人っきりになった俺はシルファちゃんの淡いエメラルドの瞳を見つめながら気になってる事を聞いてみた。
「なんで、あんな言い回しをしたの?」
また喧嘩を始めたかと思い不安だった事を伝えると、シルファちゃんは小さく笑って答えてくれた。
「ご主人様が・・・・困ってたかられすよ」
「え?」
「ミルミルと玄関れ喧嘩した時に言ったじゃないれすか。“シルファちゃんは俺のめいろろぼれしょう?”って。らからシルファなりに考えてやったまれれすよ」
「だから、わざとあんな挑発的な言い方を?」
「はい。単純なミルミルなら、直ぐに乗ってくるとおもったれすから」
「ハハ、何気に酷くないその言葉?」
「ふふっ、それうれすか?」
互いに可笑しそうに笑う俺達。
俺の為にそこまでしてくれたシルファちゃんに俺は嬉しいような恥ずかしいような感情が湧いてきて頭を掻いた。
ま、やり方はちょっと強引だけどな。素直に嬉しい。
「うん・・・その、ありがとう。シルファちゃんのお陰で助かったよ」
「れつに良いれすよ。シルファはご主人様の専属めいろろぼれすから、ご主人様の為に行動するのはあたり前れすよ」
腰に手を当てて胸を張るシルファちゃんは、さも当然という態度をしていた。
その真っすぐな気持ちに俺は、余計に恥ずかしくなってきて顔が熱くなってくるのが分かった。
そんな俺の顔を見たシルファちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ぷぷっ、ご主人様・・・照れて可愛いれす」
何時もは意地悪な事を言う時しか言わない『ぷぷっ』と言う笑いが今はとても愛おしい風に聞こえる。
「ち、茶化さないでよ」
「はーい。それじゃ、シルファは夕飯の支度をするれす。今の内に部屋の片づけお願いしますね」
「あ、うん。分かった」
シルファちゃんはそのままスカートを可愛く靡かせて、キッチンへと消えていった。
本当シルファちゃんには敵わないな。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

そして、それから試験までの約一週間、ミルファは俺の家に来て毎日試験勉強をしていった。
本気でシルファちゃんの挑発が効いたのか最初のようにめげる事無く、毎日俺よりも集中して勉強をしていったのだった。
勿論、時折シルファちゃんからの挑発が入ってるせいもあるとは思うけど。
そのせいかシルファちゃんも自分は試験がないのにミルファに対抗するように自分も勉強をしていき互いに競い合っていた。
色々な意味で、この二人はやっぱり姉妹なんだなーって思う。
負けず嫌いな所は、本当似てると思うよ。

そして試験当日。
二人と一緒に試験勉強をしていたお陰か今回のテストは何時もより簡単に回答が出来た気がした。
もしかしたら、今までの最高自己ベストも狙えるかもしれない。
と、そう思うと不意に気になり鉛筆を持つ手を止めてミルファの方を見ると何時もは頭を抱えるテストとは一転して真剣な表情で黙々と回答欄を埋めていくのが見えた。
今の姿はそれだけ頑張った証だろう・・・・・・でも。
成り行きとはいえ一緒に勉強してたシルファちゃんだけが何もないのは少しだけ寂しいよな。
一緒に試験受けれたら良かったのに・・・って試験だけで一緒に学校に行くのも悲しいよな。
でも、一度でいいから、シルファちゃんと一緒に学校行けたらな・・・・・・・・・・・・・・おっと、考え事する前に俺も回答埋めないと。

そしてさらに数日後、学生にとって地獄の試験期間は無事に終わった。
後日帰ってきた試験の解答用紙を貰い結果を見ると全教科今までで一番良い成績を残していた。
点数が取れて気分が良くなるのを感じていると、俺とは正反対の重い空気を出している雄二が俺に近づいてきた。
「貴明結果どうだったんだよ」
「え?俺か俺はな・・・・・」
「どうせ、お前も何時ものギリの点数だろうよ・・・どうせなら赤点取って、補習・・・を?」
恨み事を言いながら、俺の手元にある試験結果を覗き見て雄二は途中で凍り付いた。
「な、ななな何でこんなに点数良いんだよお前!?」
「いや、何でって勉強したからだって・・・」
「嘘だ!!毎日ミルファちゃんと一緒に帰ってたじゃないか!!」
「だから勉強を・・・」
俺の言い分を全く聞こうとしない雄二はブツブツと何か呟いていた。
「俺なんかこんな点数で、これが姉貴に知られたらどんな罰されるか。それなのにこんな良い点数取ってるなんて、絶対学校では出来ないあんな事やこんな事を家でしてたにちが・・・・・・ぐほぉ!?
「ダーリン~~~♪」
卑猥な妄想まで発展する雄二を強引に退かして、俺の元へやってきたミルファは雄二と同じような言葉で聞いてきた。
「ね、結果どうだった?」
突き飛ばされた雄二は脇腹を押えながら、ピクピク痙攣をしていた。
時折すすり泣くような声が聞こえるようが気がするのはのはきっと痛みのせいだけじゃないだろう。
そんだけ成績悪かったのか雄二?
「ね、ダーリン?」
そんな雄二を気にする事無く嬉しそうな顔をしながら聞いてくるミルファに俺は親指を立てた。
「ばっちりだよ。ミルファは、どうなんだ?赤点は抜けれたのか?」
「私?私はね・・・」
少し考える仕草をして、そしてゆっくり親指と人差し指で丸を作り笑顔になった。
「そっか。良かったな。これで、イルファさんの説教からは回避出来そうだな」
「うん♪これも全部ダーリンのお陰だね」
「はは、俺は特に何もしてないけどね」
それに今回は俺と言うよりシルファちゃんのお陰なようが気がするけど、あえて何も言わない事にしておこう。

そして、家に帰ると俺は今日の試験結果をシルファちゃんに伝えた。
「で、ミルファも結果が良くて嬉しそうにしてたよ」
「そうれすか。それは良かったれすね」
夕飯の準備を進めながら、他愛もない会話を交える。
「俺も試験結果良かったし、今回は一石二鳥だったな・・・一緒に勉強も良いもんだよな」
そんな俺の呟きにトントンと規則正しい包丁の音が聞こえていたのが急に止まった。
「じゃ・・・これからもミルミルと一緒に勉強をするのれすか?」
「え?」
その言葉に思わず呆気に取られシルファちゃんの後姿を見つめる俺だが、何処となくその背中が寂しいような雰囲気を出している気がした。
「・・・さぁそれは分らないけどさ。その・・・・シルファちゃんが良かったらさ、これからは一緒に勉強しない?」
「シルファが・・・れすか?」
振り返るシルファちゃんの顔は何所か怪訝な表情だった。
俺は構わず話を続ける。
「うん、ミルファはどうするか知らないけどさ、俺はシルファちゃんと一緒に勉強したいなって思って・・・・嫌かな?」
俺は、試験中に思った事を口に出していた。
せめて学校へ行けないならこの娘と一緒に勉強出来たらきっと楽しいだろうなっと。
「べ、別にシルファは良いれすけろ、れもシルファは別に勉強する必要ないれすよ。試験もないれすし・・・」
「うんそうだね。でも、シルファちゃんと勉強したらきっと楽しいだろうなって思ってさ。その・・・・シルファちゃんとは学校には一緒に行けないしさ・・・・・」
「あ・・・」
恥ずかしそうに頬を掻く俺のその言葉で気持ちを悟ってくれたのか、シルファちゃんは小さく声を上げて頬を赤く染め上げた。
「し、しょうがないれすね・・・・ご主人様がそう言うならシルファは従うらけれすよ。こ、これからはシルファがご主人様の勉強のめんろうを見てあげるのれすから覚悟するれすよ!!」
顔を真っ赤にしながらも、何時もの調子で話すシルファちゃんに俺はとびっきりの笑顔で答えた。
これからはきっと勉強も楽しくなる事だろう。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

そして後日。
テスト後の姫百合邸では・・・
「じゃーん。姉さんどうよこの点数!!私だってやれば出来るんだから」
赤丸が多い、テストを見て流石のイルファも驚いてるようだった。
「これは・・・・・凄いじゃないですか。今までの点数の倍以上じゃないですか」
「えっへん」
さも、やりきりましたという感じで誇らしげに胸を張るミルファにイルファは、何時もの小言を言わずに素直に褒めた。
「これなら文句は無いです。頑張りましたねミルファちゃん。流石、貴明さんと一緒に勉強してただけはあります」
「あ、やっぱり知ってたんだ」
「それは、そうですよ。あんなに帰りが遅いなんて貴明さんに会ってる以外考えられないですから」
「ふふ、これなら散々バカにしたシルファを見返してあげれるわ・・・・待ってなさいシルファ!!」
天高らかに腕を上げてそう叫ぶミルファに、イルファは少し罰が悪いような顔をしていた。
少し言い辛そうに、ミルファに話をかけた。
「あのですね・・・・・ミルファちゃん。その事なんですが」
「何よ姉さん。辛気臭い顔して、今私は喜びにうち震えてるの」
「えっとですね・・・実はシルファちゃんも内緒でテストを受けたんです」
「え?」
「自分も勉強したから何だかそれで終わるのは勿体ないって言ってその・・・ここで」
なぜテスト用紙がここにあるのかと言う突っ込みは置いておいて、その最後の言葉の方がミルファには重要だった。
「そ、それで」
「その・・・・結果はですね。はい、残念ながらシルファちゃんの方が、ミルファちゃんより点数良いみたいで・・・」
「は?うそ・・・・」
「本当です。ほら」
呆気の取られるミルファにイルファは本当に一体何時受けたのかシルファの名前が入ったテスト用紙をぴらっと手に取って見せた。
その回答欄をじーっと見て行きそして点数の表示でピシッと固まった。
「な、ななななななななななな!!!!!!!!!!!!!!」
「あ、それと。最後にシルファちゃんから一言、『ぷぷっ、おぽんちミルミルはシルファにはれったい勝てないれすよ。ご主人様をかけた勝負ならいくられも勝負するれすよ』とも言ってました」
ちゃっかりシルファの声色を真似て話すイルファにミルファはブルブルと震えて・・・・・今まで聞いた事がない怒りの最上級の雄たけびを上げた。

「シルファ!!!!!」

最後まで、ミルファを焚きつけるのを忘れないあたり流石天の邪鬼なシルファらしかった。

そして、もう一人今回の試験で不幸の末路を味わった物が一人。
居間で正座をさせられて、縮こまってる雄二を鋭い眼光で睨む向坂家の赤い悪魔。
「雄二・・・・この点数は何かしら?」
「いやそれは・・・だな、その・・・今回は調子が悪かったと言うかなんと言うかで・・・・」
「ふふっ、タカ坊でも成績が良かったって言うじゃないそれに引き替え家の愚弟はこの体たらく・・・・・・可笑しくて笑っちゃうわ」
「ちょっと待て!何で姉貴が貴明の成績を知って・・・・・」
「お黙りなさい!!」

「ぎゃぁ~~~~~!!!」

こっちはまぁー・・・運命かな。うん。

~終わり~







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