私の担当のプロデューサー……その人の誕生日が来月にあり皆でパーティーを開く事になった。
その時に渡すプレゼントに今、私は悩んでいる。
発展途上の事務所はまだ規模も小さく従業員もそこまで多くはない。
所属アイドルもまだ数人、プロデューサーも数人で事務もアイドルの一人が兼用してると言う一人一人がギリギリの状態の激務。
そんな少数精鋭で仕事を切り盛りする765プロでは他人を助けあい協力しあうのがモットーだ。
だから、こう言う他人の祝い事を起こし皆で楽しむ事が765プロでは非常に多い。
最も、騒ぐのが好きな人が多いとも言うのだけど……
それを含めてもプロデューサーにはデビューから今日まで世話になってるしそれに……私にとって大切な人だからあまり騒がしいのは好きじゃないけど今回のパーティーは大賛成だ。
ただ、問題はそこでは無くて、今まで他人にプレゼントをあげた事がない私には何をあげればいいのかが全く思いつかないが一番の問題だった。
誕生日って一体何を贈れば良いのかしら。

とあるバラエティー番組での控室。
未だプレゼントが決まらない私は、休憩中でもその事が頭から離れ無くなっていた。
折角のプレゼントだから、プロデューサーには喜んでもらいたい……だけど、プロデューサーが喜ぶ物って何だろう?
お菓子?
ダメだ、私はある程度の家事は出来るけどお菓子なんて作った経験がない。
じゃ、編み物?
それもダメ、もう誕生日まで時間がないしとても間に合わない。
なら、店で買って……
「………はや。千早!聞いてるのか?」
「……え?呼びましたか」
考え事をしていて全くプロデューサーの言葉が耳に入ってなかった私は思わず聞き返した。
私の反応にプロデューサーは少しだけ目を細め呆れたように声を漏らす。
「おいおい、大丈夫か。本番は直ぐだぞ」
「ご、ごめんなさい……ちょっと考え事をしていて」
いけない。今は仕事中だし考えるのは程々にしておかないと。
「気をつけろよ。本番でもそんな調子だと番組のレギュラーから外されるかもしれないぞ。じゃ、もう一度言うぞ。今日の……」

しっかりと釘を刺されながらプロデューサとの軽い打ち合わせを済ませ、番組に出演。
だけど頭の片隅には、プレゼントの事が何処かしら残っていてそれでも成るべく意識しないように心がけて仕事をこなしていく。
それから、ラジオの出演と新曲の打ち合わせを済まし今日の仕事は終わった。
そして、車で事務所へと向かってる途中、プロデューサーが私の名を呼んできた。
「そのな……千早」
「はい」
「俺が聞いて良いのか分からないけど、最近ボーとしてる事が多いんじゃないか?何か悩みでもあるのか」
仕事の時とは違い相手を気遣う優しい目を向けてきた。
プロデューサーの気持ちは素直に嬉しいけど、私が誰の為にここまで悩んでるのかこの人は本当に全く気づいてないのだろうか?
バースデーパーティーの事は本人も知っているし察してくれても良い気がするけど……全くこの人は……
「別に…何でも無いですよ。ちょっと考え事をしていただけですから」
誤魔化す私は内心溜息を吐いた。
このプロデューサーは自分の事にはからっきし無頓着で鈍感なのだから仕方が無い。
他人に対しては時々驚くほど鋭い反応を見せるのに……その目を少しは自分に向けて欲しいものね。
「そっか……千早が良いならいいんだ。けど何かあったら遠慮しなくていいからな。俺の力になれる事なら何でも協力するぞ」
何処か寂しい笑顔を向けてくるプロデューサーに嘘をついた事に少しだ罪悪感が浮かぶけど、貴方のプレゼントに悩んでますなんて言える訳もなく私は取りあえず“ありがとう”とだけお礼を伝えた。

お店に行ったり本を読んだりしたけど、結局決まる事無く時間だけが過ぎてゆき誕生日パーティーの前日……この後にある仕事まで少しだけ時間がある私は事務所のソファーに座り時間を潰していた。
考えるのはもちろんプレゼントの事ばかり……出て来るのは溜息と焦りだけだった。
「はぁー……どうしよう」
もう時間がない。
プレゼントも全く決まってない私は焦りだけが心の中を駆け巡った。
「千早ちゃん、どうしたの?溜息なんてついて」
突然声をかけられ顔を上げるとそこには仕事を終えて戻ってきた春香がいた。
「あ……春香。仕事は終わったの?」
「うん、ばっちりね。今日はプロデューサーさんも一緒だったし何時もより張りきっちゃった」
午前中の仕事は少しだけ遠く電車で行くには難しい場所にあり今回はプロデューサーの車に送って貰ったらしい。
今は私の担当だけどプロデューサーは随分前に春香の担当をしていた時がありそれからと比べれば仕事で一緒になるのは久々なのだろう。
何時も以上に明るい笑顔を浮かべ何処か嬉しそうだった。
「そう…良かったわね」
「えへへ、うん。最近、プロデューサーさんと一緒になれる時間なかったから色々と話しちゃった」
頬を染めて笑顔を浮かべる春香は素直に可愛いと思えた。
この太陽のような明るい笑顔が春香の魅力であり人気の秘密だと思う。
「……ね。春香」
「何、千早ちゃん」
「貴方。明日、プロデューサーに渡すプレゼントって決まってる?」
「それはもちろん。お手製のお菓子でも上げようかなーて思ってるけど……まさか、千早ちゃん決まってないの?」
遠慮がちに聞いてくる春香に頷く。
「ええ、決まってないわ」
「え?……えええ!!!!!!!!」
大袈裟に驚く春香に私は宥める。
「ちょっと、落ちつきなさい。声が大きいわよ」
「ご、ごめん。で、でもパーティーは明日だよ。それに千早ちゃん今日の仕事、遅くまであったよね。買いに行ってる時間がないよ」
「そうね……」
春香の言うとおり、仕事が終えてからじゃ店はどこも閉まってるだろう。
かと言って今から買いに行っても、この後直ぐに現場へ向かわないといけないからとてもじゃないが間に合わないだろう。
散々悩んで考えていたけど決まらない。
自分がここまで優柔不断だとは思わなかった。
「どうするの?私が変わりに買ってきてあげようか」
「春香の気持ちは嬉しいけど……………でも、出来るなら自分が選んだ物をあげたいから遠慮しておくわ」
それだと私のプレゼントではなく春香からのプレゼントになってしまう。
それだけは嫌だった。
渋る私に春香も気持ちを察してそれ以上、言ってはこなかった。
「そう…だよね。ごめん、余計な事だったね。好きな人の誕生日だもん、自分で決めたいよね」
当たり前に言われた言葉に思わずドキリとした。
「す、好きって誰と誰が?」
「千早ちゃんとプロデューサーさんの事だよ。今日だってプロデューサーさんの話題なんてほとんどが千早ちゃんの事ばかりだもん。バレバレだよ」
「うっ…」
人の目がある所では分からないようにしようって自分で言ってたのにあの男は………
「二人とも別に気にしないくても良いのに…でも本当にどうするの?」
「それは……」
そうだ。まずはプレゼントの事の方が先決だわ。
決めれなかった、私が悪いのだろうけど本当にどうしよう……
「千早ちゃん、あまり気負いしない方が良いよ。プレゼントは何を贈るよりあげる相手に対しての気持ちが重要なんだから」
「気持ち…?」
「うん、喜ばれるものとかあまり考えると決めつらくなるし、プロデューサーならどんな物でも千早ちゃんが一生懸命選んでその気持ちが一杯こもった物なら絶対に喜ぶと思うよ」
プロデューサーには伝えたい気持ちは一杯ある。
感謝なんてしきれないぐらい沢山。
だけど私にあるものなんて歌ぐらいしか……あ。
随分前、休みの日にとあるレコードショップでプロデューサーと会った時に話した言葉を思いだしていた。
そうだ、これなら……私でも出来るかもしれない。
プロデューサーが喜ぶか分からないけど、好きって言ってくれた私の歌。
そして私の気持ちは一番伝わると思う。
「ありがとう春香。貴方のお陰でプレゼントが決まりそうだわ」
「そう?それなら良かった」
晴れ晴れとした笑顔で春香に答え私は仕事を何時も以上に張りきってこなし急いで家へと急いだ。

そして、誕生日パーティー当日。
仕事を其々を分断して早々に切り上げ時間は午後の8時。
「それでは、今からプロデューサーさんの誕生日会を始めたいと思いますー!それでは乾杯―!!」
時間は少し遅いのだけど、パーティーの合図を小鳥さんが大きな声で上げた。
この日ばかりは珍しく事務所のメンバーが全員が集まり祝う。
もっとも社長だけは用事があり参加はいないのだけど………

「うっうー!はい、プロデューサー。誕生日おめでとうでーす」
「感謝しなさいよ。私から貰えるなんて普通じゃあり得ないんだからね」
「プロデューサー!おめでとうございます。これは僕からのプレゼントですよ」

やよい、伊織、真を始めそれぞれ皆からプレゼントを貰うプロデューサーは、抱える程沢山のプレゼントを受け取り恥ずかしそうにしながらもその顔は嬉しそうに笑っていた。
「ふはぁ……プロデューサー、何時もより嬉しそう」
そんな光景を欠伸混じりに複雑な心境を感じながら少し離れた所から見つめていた私の元に真っ先にプレゼントを渡し終えた春香がやってきた。
「千早ちゃん」
「ふはぁ……何かしら?」
「……どうしたの?欠伸して」
「ちょっと眠くて……」
私の顔を見て少しだけ驚きの表情を向けてきた。
「もしかして……昨日寝てないの?」
「そうじゃないけど……ちょっとだけ夜更かしをしただけよ」
「それってやっぱり……プレゼントの事で」
昨日の事を気していたのか、それとなく聞いてくる春香に私は意識が薄れそうになるのを必死に抑え微笑み返す。
「ええ………」
「そっか。準備は出来たんだね………何時渡すの?」
「もう少し後で……今はまだあげないわ」
「……なんで?」
微妙な表情になる春香に私はあえて何も答えなかった。
プロデューサーにあげるまでは言いたくないのもあったけど、ちょっとだけ恥ずかしかったから。
そして、パーティーも一段落しそれぞれが騒いでいる時プロデューサーが一人になってるのを見計らい私は話をかけた。
「あの…プロデューサーちょっと良いですか?」
「ん?ああ、何だ」
「その……ここじゃ言いにくいので少し外に行きませんか?」
「分かったよ」
素直に頷き二人でそっとパーティーを抜け出す。
そのまま事務所の屋上へ向かい扉を開けた。
冷たい夜風が吹き肌をさし薄着の服装では少しだけ寒いけど我慢ができないほどではなかった。
むしろ意識が冴えて逆に良いし、それにここなら誰かに聞かれる事もない。
「それにしても、千早。こんな所に連れ出してどうしたんだ?何かあるのか」
「いえ、何かある訳じゃないんですけど。その……私からプロデューサーにプレゼントをあげたいんです」
「プレゼント?」
「最近、ずっとその事ばかり考えてました。何をあげればプロデューサーが喜ぶのかと」
「ああ…それで上の空が多かったのか」
「はい、その性で仕事で迷惑をかけた事は謝ります。でも他人にプレゼントをあげるのは初めてで分からなかったから……だから、私は私なりのプレゼントを贈りたいと思います」
「ああ」
「聞いてくれますか?私の歌」
真剣な目を向けて告げる。
断られたらどうしようとか、不安が胸を駆け巡った。
だけど、プロデューサーは何時もの優しい笑顔を浮かべてはっきり頷いてくれた。
「もちろん。千早の歌なら喜んでね」

その笑顔に。
プロデューサーの気持ちに応えようと、瞳を閉じてゆっくりと深呼吸する。
胸が激しく鼓動を打ちオーディションの時よりも緊張が走り全身を強張らせる。
それでも、心を落ち着かせ唇から自分なりの精一杯の気持ちをのせて奏でた。

何時も素っ気ない態度
初めて出会った時は無愛想な私
それでも貴方は優しい笑顔で応えてくれる
身近に幸せに気づかずに私は何時も一人よがり

伝えたい言葉は沢山あるけれど、私は知らないふり
貴方と出会い自分の弱さに気づいたの
伝えたい気持ちに気づき溢れる思いは貴方の事ばかり
こんな気持ち知らなかった
大切な思いを伝えたい
本当に貴方と出会えて良かった
精一杯の思いを伝えたい
ありがとう……そして大好き
これからも一緒に居たいの

歌い終えてじっとプロデューサーからの言葉を待つ。
自分なりのプレゼント。
今まであった事を感じた事を素直に歌にのせた。
プロデューサーはどう感じてくれたんだろうか?
変に思われてないか怖くて閉じた目が開けれなかった。
すると、拍手が聞こえ私はゆっくりと瞳を開けた。
そこには何時もよりも優しい目に少しだけ涙をにじませ私を見つめていた。
「ありがとう千早。今日貰ったプレゼントの中で一番嬉しいよ」
「そんな……私にはこんな物しかあげられないですから」
褒められる事が恥ずかしくてプロデューサーから私は視線を逸らした。
私に近寄る足音が聞こえ、頬に温かくて大きい感触が伝わった。
「こんなものなんて寂しい事言うなよ。俺にとっては十分価値がある贈りものだったよ」
「プロデューサー……」
「それに本音を言うと、千早からプレゼントがなくて寂しいかったんだよ。本当は俺の事なんて何とも思ってないのかと考えてたしな」
「そ、そんな事絶対ないですから!」
「そうだな……俺は千早のプロデューサーになれて本当に良かったよ」
「私もプロデューサーと会えて、よかっ……」
視界が揺らぎ態勢が崩れた。
「ち、千早!?」
慌てて抱きとめプロデューサーが支えてくれた。
「ごめんなさい……ちょっと、足元がふらついて……」
「おいおい、大丈夫か」
「大丈夫ですよ。ただの寝不足ですから………ふふっ、一晩で歌を作るのはやっぱり無理がありましたね」
流石に睡魔が限界まで迫ってきている今では上手く笑顔が作れなかった。
普段から徹夜なんてものした事が無い私には初体験で想像よりも体にきていた。
「馬鹿……千早はアイドルだろう?もし現場で倒れてたらどうしたんだよ……」
「そうですね……ごめんなさい。でもどうしてもプロデューサーに上げて喜んで欲しかったん………です」
あ、駄目。もう限界……
「プ…ロデューサー……誕生日…おめ…でとう……きです」
最後の言葉すら上手く言えず重い瞼がゆっくりと閉じられていく。
霞む視界に心配そうに見つめるプロデューサーの顔を移しながら私の意識は沈んで行った。

「ん……すぅ……」
眠ったか……全く無茶しやがって。
腕の中で安らかな寝息を立てながら眠る少女に苦笑を浮かべた。
本来ならば数時間の説教物だが、今回ばかりは大目にみてやらないとな。
俺の為にしてくれた千早なりの心のこもった精一杯のプレゼントなのだから。
でもな千早……
「お前、あの歌ほとんど告白と同じだぞ?気づいてるのかよ」
所々未完成で支離滅裂な歌詞。
きっと歌を作るのが精いっぱいで読み返してる時間なんて無かったのだろう。
それでも千早の思いは十分に伝わった。
「ありがとうな。千早……俺も大好きだよ。ずっと一緒だ」

そっと眠る歌姫の唇にそっと口づけを交わした。

~End~



***後書き***
誕生日SSです。
随分前に書いてオチが浮かばず試行錯誤してなんとか完成した物です。
エロを入れるか入れないかとも悩みましたが結局無しにしました。
ぶっちゃけSS内にある歌は適当です。
変で済みません。(苦笑)
歌詞なので句点無しです。









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