放課後。
授業も終わり、鞄を持ち帰る生徒がちらほら目につく。
その中に見慣れたメンバーも混じっていた。
「かえちゃん、一緒に帰ろう」
「はい。良いですよ」
「麻弓。良かったらゲーセンに寄って行かないかい。今日はちょっと時間が潰したいからね。特別に付き合って上げても良いよ」
「緑葉くん…それが人を誘う言葉かしら。全く、良いわよ、何時ものゲームで白黒つけましょう」
何時も一緒に居るメンバーも思い思いに帰って行く。
ほんの数カ月前までは皆で一緒に帰る事が多かったのだが、今はそれぞれ別で帰る事が多くなっていた。
それは俺にとって一番大切な人が出来たからだ。
ざわめく教師の中で静かにだけど確かに聞こえる足音を聞こえ振り向くとそこにはまるで天使の様な優しい笑顔を向けるお姫様が立っていた。
「稟さま」
俺を呼ぶ声に鞄を持ち立ちあがる。
「俺達も帰るか、ネリネ」
「はい、稟さま」
その笑顔に答える様に俺も精一杯の笑顔で返しその小さな手を取りあって一緒に教室を後にした。
何時ものように男子生徒からからの、熱い視線を注がれた気がしたが気にしない事にした。


夕陽に染まる道を二人で手を繋いだままネリネと並んで歩く。
繋いだ手から感じる温もりが溜まらなく心地いい。
「はは、相変わらず何だな。魔王の伯父さんも」
「ふふっ。はい、お母様もちょっと呆れてました」
二人で笑いながら楽しく雑談する。
もっぱらの話題はネリネの家…もとい魔王の伯父さんとセージさんの話題が主にだったりするのだが。
波乱しか呼ばないあの奇天烈な夫婦には毎日の話題にも事欠かない。
将来あの二人をお父さんお母さんと呼ぶ事を考えるとちょっと気が重い事だが……ネリネと一緒に入れる事の方が何倍も嬉しい。
そんな中、不意に風が吹き俺達を仰ぎ思わず身を振るわせた。
「うー結構風が冷たくなってきてるな……」
「確かにそうですね。もう11月になりますから…日本の冬は初めてなんですけど、これぐらいなんですか?」
「いや、今はまだ真冬でもないしな。これからもっと寒くなるけど……移り始めは寒さに慣れてないからな余計に寒く感じるんだ」
まだ吐く息が白くなるほど寒い訳でもないが肌に刺すような冷たい風は冬用の制服でも結構堪えた。 あまりにも寒そうにしているネリネが心配したのか足を止め俺の両手を自分の手で包み込むように握り小さな唇からゆっくり息を吹きかけてきた。
「ね、ネリネ?」
「これで少しは暖かくなると思いますが…どうですか稟さま?」
「あ、ああ、大丈夫。暖かいよ」
「良かったです……私に出来る事があったら遠慮なく行ってくださいね」
優しく愛でる瞳で見つめてくるネリネに俺の体と心音は急速に高まる。
頬を染め恥ずかしくなりそっぽを向けながら、明日辺り薄手のコートぐらい持って行こうかと思っていた。
だが問題は今の寒さ、この寒さは現在進行形でどうにかしたいのが本音。
ネリネに包まれた掌は暖かいのだがこのままでは歩く事すらできない。
なら、ちょっと恥ずかしいけど………ネリネもこう言ってるしあれをするしかないな。
「だったら、折角だし……腕組んで帰らないか?」
「…………」
「そうすればお互い温かいだろうし……ダメか?」
清楚な見た目通り純なネリネには、恥ずかしい行為だと思った。
だけど、恥ずかしそうに頬を染めながらもネリネは静かに頷く。
彼女の承諾を得た俺は恐る恐る左腕をネリネの方に向けると手を触れて腕を回してきた。
女の子らしい華奢な腕と密着した体から微かに当たる柔らかい胸の感触に色々な意味で俺の体は温まってきた。
「ど、どうすか稟さま?少しは温かい…ですか?」
「あ、ああ。有難う、とっても暖かいよ。……じゃ、行くか」
「いえ、私は稟さまの所有物ですから……稟さまが仰ってくる事なら何でも致します」
「ネリネ……」
顔を真っ赤に染め呟くネリネの言葉に、俺の心まで温かくなっていく気がした。
く~~~、嬉しい事言ってくるな。
今ここで思いっきり彼女を抱きたい衝動にかけられるが、そんな事をしたら抱きしめるだけじゃ済まなくなりそうだ。
俺は駆け廻る衝動を今まで鍛えた理性をフル導入してどうにか抑え込む。
それは帰ってからのお楽しみと言う事で強引に自分を納得させた。
「………」
「………」
先程の様に、話す事もなくただお互いに寄り添いながら歩く。
時折通りがける人の視線に気づき恥ずかしそうに俺の腕に顔を寄せる。
その度にギュッと力一杯に腕を出来しめられるものだからさっきから胸が当たって何とも言えずかなり良い…じゃなくて困った事になりそうだった。
こう、この危険な感触を味わっているとさっき抑えた感情が出てきそうだった。
自慢の胸を結果的に押しつけるように歩くネリネの感触に俺の中の理性はレッドゾーンまで突中していた。

それから、どうにか耐え忍びながらも歩いていると視線の先のコンビニからデカデカと立てられていた看板に目が行った。
「あ、もうおでんが入ってるんだな」
「おでん?稟さま。おでん…て何ですか?」
俺の言葉に訝しげに首を傾げるネリネの態度に驚く。
「え?ネリネ、おでん知らないのか?」
「あ、はい。一度も食した事はないです」
「そっか。てっきり魔王の伯父さんあたりが作ってそうなんだけどな…そうだな。おでんは日本の伝統料理で寒くなると無性に食べたくなる料理の一つだな」
「寒くなると…ですか?」
「そうだな。特に大根や卵が美味しくてな……冬と言えば、鍋とおでんだよ」
あ、いかん。思いだすと余計に食べたくなる。
まだ食卓に出すには早い時期だろうからな…今度楓に頼んで作ってもらおうか。
そう思いながら、ネリネの方を見るとおでんが想像出来ないのか、頭に?マークが浮かび難しそうな顔をしていた。
よし、これは日本の文化をお姫様に知ってもらう良い機会でもあるかもな。
「ネリネ。食べてみるか」
「…え?」
「だからおでん。俺も久しぶりに食べたくなってきたしな」

渋るネリネを半分強引に連れてお店の中に入ると、カウンターの前で煮込んでいるおでんの匂いが鼻に着いた。
「これがおでんだ」
「これが……」
初めてみるおでんを珍しい物を見る様な瞳で見つめていた。
「こんなにも種類があるんですね」
「ああ、メニューは…ほら。カウンターの壁に貼ってあるパネルに出てる物の分だけあるぞ」
ずらっと見ても毎年変わらないオーソドックスな品ぞろえだけど、おでんにとってはどれも必要な物ばかりだ。
昔はもっと種類は少なかったが今では、30種類ぐらい出ていた。
「で、何を食べる」
「え?私は……うーん、こんなにあると迷ってしまいます」
沢山ある種類に目移りして何を頼むか、心底悩んでいる様子だった。
好きなだけ悩ましてあげたいが、何分この季節のおでんはかなりの人気商品。
現に俺達の後ろでは待ってる人が数人いた。
「ネリネ。俺が、決めようか?」
「そうですね…はい、稟さまにお願いします。私じゃ何を選んでいいのか分かりませんし、稟さまのお勧めの物でお願いします」
その言葉に頷き俺は、プラスチックの器を取りお玉で具をよそう。
俺が選んだのは、つくね、はんぺん、ガンモ、大根、卵だ。
基本的な家庭でも入ってる奴だが、初めで食べるならこういうポピュラーな奴の方が良いだろう。
「よしこれで良いな。後はこれをレジに持って行ってと」
店員が中身をみてレジに打っていく。
「ありがとうございます。お会計525円になります」
「えっと、財布財布……」
「あ、稟さまお支払いなら私が…」
「良いって、俺が食べたいって言ったんだし俺が払うよ」
「ですが……」
「いいから気にするな。それに、自分の彼女に代金払わすなんて男として恰好悪いしな。何時も世話になりっぱなしだし少しは恰好つけさしてくれ」
うん、何かと親衛隊とかの連中から助けて…っというか蹴散らして貰ってるし勉強も何だかんだ言いながら見てもらってるしな。
少しは男として良い恰好をしておかないと、辛すぎる。
主に俺が。
「稟さま……稟さまは十分恰好良いですよ」
「ん?何か言ったか」
「い、いいえ。何でもありません」
顔を真っ赤にして慌てるネリネ。
なんだ、どうした。何をそんなに焦ってるんだ。
「お待たせしました。こちらが商品になります。大変熱くなっておりますので気をつけてお持ちください」
「ああ、ありがとう。外は寒いからな…ここで食べるか」
「は、はい!」
おでんの袋を持ちテーブルを備え付けてある場所へと向かった。

「美味しそうですね」
「そうだな。ネリネはどれが食べたい?」
「私は何でも良いですよ。稟さまが先に決めて下さい」
屈託ない笑顔で勧めるネリネはやっぱりと言うか何と言うか彼女らしかった。
だけど俺としては初めてというネリネに先に食べて欲しかった。
ふふっ。ならば、こうするまでよ。
「そうか。なら言葉に甘えて………ほらネリネ」
「え、……稟…さま?」
半分に切り箸で摘まんだ大根と俺の顔を交互に見つめる。
「だから、俺が決めたんだよ。ほら、口を開けて」
「で、ですが……」
「良いから」
俺の強引さにネリネは、きょろきょろと視線を忙しなく動かしながら周りを見て誰も見てない事を確認し小さな口を大きく開けた。
「あーん」
「あ、あーん……もぐもぐ」
「どうだ?」
「はぁー…とっても、美味しいです!」
「だろう?大根は特におでんの出汁を吸ってるからな。一番おでんの味が感じやすいんだよ」
ネリネの喜ぶ顔を見ながらも俺は残ったの大根を摘まみ口に運んだ。
うん、やっぱりおでんには大根は必須だな。
この味は止められない。
「あ………」
「ん?どうしたネリネ」
「間接……」
顔…と言うか俺の箸に視線が向かってる気がする。
それに妙に顔が赤い。
間接?………はっ、そう言えばこの箸ネリネの口の中に入ったやつ。
………は、ははは。思いつきで行動してたから意識してなかったけどそう改めて言われるとこっちまで恥ずかしくなる。
「ま、……良いんじゃないか。俺とネリネの仲だし、間接…キスぐらいな」
誤魔化す様に鼻の頭を掻きながら呟いた言葉にネリネは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、そうですね。…それでは、私からもお返しにあーんです。稟さま」
って俺もか?
「稟さま、あーんです」
「い、いや俺は良いって」
「ダメですよ。私からもお返しさせて下さい…ダメですか?」
だから、そこで悲しそうに目を潤ませないでくれ……断れなくなるから。
「……わ、分かったよ」
「それなら、はい。稟さま口を開けて下さい」
「お、おう」
誰も見てない事を祈りつつ先程のネリネと同じ様に口を着ける。
「美味しいですか?」
ネリネの問いに軽く頷いたが正直、恥ずかしくて味が分かりません。
「じゃ、今度は卵で良いですか?」

「んぐっ!?まだ続ける気か」

「…ダメなんですか?」
「い、いや、ダメじゃないけど……こう言うのはせめて二人っきりの時にしてくれ」
自分が先にやっといて何を言ってるのかと思うが自分でやるのとやられるのとでは全然違うのだ。
バカップルじみた行為をした自分に恥ずかしさが出きてしまうが、それでも初めてのおでんをネリネと一緒に仲良く頬張った。
毎年食べ慣れたおでんもネリネと一緒に食べていると何時もより美味しく感じていた。
あくまで小腹程度の量で買ったおでんだ。
二人もいれば数十分後にはあっという間に無くなっていた。
「ふう…もう無くなったな」
「そうですね。とても美味しかったです」
「それは良かった。また食べに来るか?」
「はい、それは是非に……あ、そうです」
手を合わせ長い髪を翻しながらネリネはおでんの方に向かって行った。
俺も黙って後を続いた。
「どうした、もっと食べたいのか?」
「いえ、それはまた今度稟さまと一緒に来た時の楽しみに取っておきます。お父様とお母様へのお土産にと思って。えっと…」
先程俺が選んだ同じものをすくい会計を済ませる。
「魔王の伯父さんにか…コンビ二の物で口に合うかな?」
伯父さんの事ならそれこせ買わなくても自分で作るっとか言いだしそうだしな。
会計が終わってネリネは俺の方に向き直りにっこりとほほ笑んだ。
「大丈夫ですよ。この味ならお父様も納得は行く筈です」
「そうか。ネリネがそう言うなら大丈夫なんだろうな。……じゃ、帰るか」
「はい」
自動ドアを抜け外に出ると外はもう日が沈みかけ薄暗くなっていた。
その性で気温が下がったのかおでんで温まった体も風が辺り冷えてくる。
だけど、今度はお互い何も言う事もなく自然に腕を組み寄り添いながらの其々の家に向かった。
寒いのは苦手だけども彼女と一緒ならば、それも悪くはないと思えた。

~End~



***後書き***
大変久しぶりのSHUFFLE!のSSです。
今回はネリネさん。
俺の一番好きなキャラです。
ちなみにタイトルは“はつこい”ではなく“ういこい”と呼んでください。
初々しい恋人って感じで略して初恋です。
絶対間違って初恋って読むよな。w

今回はおでんネタっす。
もう寒い季節になってきましたからね。
おでんも美味しい季節になります。
私的には冬はおでんと鍋ですね。
もっとも親と同居してるので料理なんて一切出来ませんが。w
個人的はおでんは卵とこんにゃく、大根は外せませんね。
特に大根。
あれが一番美味しく感じて一番好きです。
おでんの出汁が美味しいなら大根のうまさは半端ない。
あー私もおでんを食いたくなってきた。
ちょっくらコンビニ行って買ってきます。ではまた。(^ワ^ゝ)









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