ご主人様である貴明を起こし朝食を作り学校に見送るのが河野家付きのメイドロボであるシルファの一日の最初の仕事だ。
他にも掃除や洗濯などやる事は沢山ある。
この家に住むようになって随分経つシルファにとっては今では随分手慣れたものだ。
最初の頃は酷い物だったが……それも今では懐かしい光景だ。
手際良く洗濯を済ませ一階の掃除をし次に貴明の部屋へと向かった。
何時ものように掃除をしていたシルファだったが、ある物を偶然見つけしまった事から今回の物語は始まる……

「こ、これは……」
掃除機をかけている途中でタンスと壁の僅かな隙間に隠すように差し込まれていた本を見つけてしまった。
シルファの体は動きは驚きと戸惑いで完全に停止して固まってしまっている。
「な、何んれすかこれ?」
本のタイトルには『巨乳メイド大絶賛』と書いてあり表紙も巨乳の女性が厭らしい男に媚びるようなポーズが載ってあった。
恐る恐る本を開いて読んでみると確かに巨乳メイドばかりであわれもない姿ばかりが写っていた。
俗に言うエロ本と言うやつだ。
そう、貴明の部屋でエロ本を見つけてしまった。
シルファにとってこのような出来事は初めての事でどうしたらいいのか上手く思考が回らなかった。
(ご、ご主人様も男なのれすからこれぐらい当然れすよね。むしろ健全の証拠れす……らけろ、こんなエッチならけな本はらめらめれす)
冷静に分析、納得しようとするが体は言う事を効かず本を持つ手の力が思わず強まっていた。
それに伴いシルファの胸の内から沸々と湧いてくる感情があった。
プルプルと体が震え、何処か黒いオーラがシルファ周辺から湧き出ていた。
シルファの機嫌が悪くなる理由としては色々とある。
この本がメイド本である事、そして貴明とのこう言った行為が最近ご無沙汰である事が主な要因だったりする事だ。
自分が居るのに手を出さずあまつさえ本に欲情する…貴明がこの本を読んで喜んでいる所を想像するだけで憤りが湧き上がり思いっきり表情に出ていた。
「こんな物を使うならシルファに言ってくれればいつれもしてあげ……」

「何をするんですか?」

「ぴぎゃ!?ら、られ…って、イルイル!!」
突然聞こえた声に盛大に驚き、慌てて後ろを振り返ると何故かこの家にいる筈のないイルファがそこに立っていた。
「な、なななななんれここに居るれすか!!」
「シルファちゃんの様子を見に来たんですよ。ちゃんと貴明さんに奉仕してますか?」
「い、言われなくてもしてるれすよ。し、シルファは優秀なれいろろぼれすから!」
予想外の来訪者に、動揺したシルファは上手く平常心を保てず微妙に口ごもり落ちつかず思わず手にしていた本を落としてしまった。
「あら、何か落としましたよ」
「え?あ、そ、それはっ!!」
シルファの足元に落ちた本を拾いタイトルを見たイルファは徐にページを開けた。
じーっと数ページ見たイルファはゆっくりと顔を上げ淡々とした口調でシルファの名前を呼んだ。
「シルファちゃん」
「な、なんれすか?」
「これは貴明さんの物ですか?」
「し、知らないれす。本のあいらに挟まってたれすから……」
「そうですか……貴明さんも健全な男の子ですからね。ちょっとマニアックな本ですけどHな本ぐらい持っていても可笑しくないですから」
「そ、そうれすね」
確かめるように告げるイルファの言葉に相槌を打つがシルファの心中は穏やかじゃなった。
むしろ、苛々が積り段々と顔が険しくなってくるのが分かっていた。
「あれ?シルファちゃんもしかして……怒ってませんか?」
「全然、怒ってないれすよ」
感情の高ぶりを悟られない様に必死に笑らうシルファだが、口元が引くつき不気味な笑顔にしか見えないイルファは完全に引いていた。
「全く顔が笑ってないですよ。むしろ怖いです」
「ほ、放っとけれす!」
そっぽを向くシルファにイルファは軽く溜息を吐いた。
「エロ本に嫉妬してるなら素直にそう言えば良いじゃないですか。全く素直じゃないんですから……」
「っ。し、嫉妬なんかしてないもん!」
図星を指されたシルファは反論をし思わず睨み返えすがイルファは全く気にする事無く話を続けた。
「ふ~、それにしてもあのシルファちゃんが嫉妬するなんてね。変われば変わるものですね~」
「ら、らから人の話を聞けれす!それになんれ、そんなに嬉しそうなんれすか!!」
「だって、天の邪鬼の塊だったシルファちゃんがまさかこんな可愛いツンデレキャラになってるなんてお姉ちゃんとしては嬉しい事ですよ」
「つんれれ言うなれす!」
「ま、聞いてください。折角可愛い妹が困ってるんですから、今回は私が一肌脱ぎますよ」
胸を張り自信満々に話すイルファに嫌な予感しかしないシルファは訝しげに眼を細め投げやりに答えた。
「いらないれす。むしろ、とっとと帰れれす」
「もうそんなつれない事言わないでください。大丈夫ですからイルファ姉さんに任せなさい。貴明さんがこんな本何かに興味が向かないぐらいシルファちゃんにメロメロにしてあげますから」
そうは言うものの、無駄にやる気のあるイルファに不安が払拭される事はなく頷く事は出来なかった。
「……なんれイルイルがそんなにやる気満々なんれすか?」
「もちろん楽し…もとい、純粋に大切な妹を心配してるだけですよ」
「なにか楽しいとか聞こえたれすよ」
「気のせいです。そんな疑いの目で見てるから、貴明さんが本なんかに現をぬかすんですよ。良いんですがこのまま行くとミルファちゃんに取られる可能性がありますよ?」
ミルファの名前を言われ思わずピクッと反応をした。
「ろ、ろう言う意味れすか?」
「言葉のままですよ。よく見ると本の女の子達もミルファちゃん並みに胸が大きいみたいですしそうですね……貴明さんは胸の大きな子が好みだと言う情報もありますし、シルファちゃんが駄目ならミルファちゃんに話してみますか。あの子から喜んで聞いてくると思いますからね」
それだけ言ってさっさと部屋を出て行こうとするイルファの前に慌てて踊り出た。
「ま、待つれす!!られもやらないとは言ってないれす。ご主人様のめいろはしるふぁらけれす!ご主人様の世話は全部シルファがしるんれすからミルミルには渡さないれす!!」
シルファの言葉を聞いたイルイルは満足そうにニヤニヤ笑いながら作戦を伝えてくれた。

そして16時過ぎ……そろそろ貴明が学校から帰ってくる時間になろうとしていた。
先程までイルファに言われる通りにし大人しく玄関で待っていたシルファだったが今ではリビングにあるダンボールの中に入ってしまっていた。
何故か見た事もないメイド服を着て。

「う~…」

イルイルの言うとおり持ってきた服に着替えてみたけろ、なんれすかこれ?
何時もの地味なめいろ服じゃなくてもっと、扇情的で卑猥な服。
スカートの丈も前の物より数センチ短いし、ブラウスも胸元を紐で覆い止めるタイプ。
肩はもうむき出しではっきり言ってエロエロな事を想定して作られためいろ服にしか見えなかった。
なんかイルイルに上手く乗せられたらけな気が気がするれす。
これじゃ、シルファの方が欲求不満じゃないれすか……何が何時もと違う膨れ魅力アップ♪ れすか。
たらのこれじゃバカれすよ……はぁー。

深いため息を吐き、馬鹿な事は止めようと思いたち何時もの服に着替えようと立ち上がりゆっくりと段ボールから出る。
しかしその瞬間……

「ただいまー」
「え?ご、ご主人様!?」
「あれ?シルファちゃんリビングに居るの」
「え、あ、き、来ちゃらめれす!!」

制止の声も空しく帰宅した貴明はリビングに入ってきてしまった。
そしてシルファと目が合った貴明は見た事が無い姿のシルファに驚き微妙な顔をしていた。

「えっと………」
「ぴ!?」
気が動転したシルファは思考が回らず声にならない悲鳴を上げてそして……
「み、見るなーーーーーー!」
「ぐはぁ!?」
突きだされた拳が顔面に勢いよくのめり込み貴明は大きな音を立てて後のめりに倒れた。
「って、しまったれす!つい……ご、ご主人様、らいじょうぶれすか!!」
しかし、貴明は完全に気絶していおり返事はない。
「え、えっと……と、取りあえず、部屋に運ばないと」


それから約数十分後……自室のベットで目覚めた貴明は未だ痛む顔を水で冷やしたタオルを当てていた。
「痛っ……」
「ご主人様、らいじょうぶれすか」
「うん、少し痛む程度だし大丈夫だよ」
「ご、ごめんなさいれす……」
シルファは申し訳なさそうに項垂れていた。
「別に気にはしないくて良いって。所でさ…何でそんな恰好してるの?」
貴明に言われ恐る恐る一冊の本を見せた。
「その、掃除の時に偶然これを見つけて………」
「あ、それは……しまった、見つかっちゃったか」
見覚えのある素振りをし困ったような顔をする貴明にシルファの心はチクリと痛んだ。

やっぱり、これはご主人様の物なんれすね。
シルファみたいならめらめなめいろなんかいらないって事なんれすか……?
全然素直じゃないし、ご主人様に汚させちゃうしそんならめらめなシルファより本の方が嬉しいんれすか?
シルファが居るのにこんなのに手を上げるなんて……浮気れすよ。

「えっと。ごめん…それ、俺のじゃなくて雄二のなんだよ」
「え?」
「覚えてないかな。学校に行った時シルファちゃんが蛮族とか言って怖がってた奴。俺の友達なんだけどそいつが昔、強引に置いて行ったものなんだよ」
「そう…なんれすか?」
「うん。だから気にしないで…と言うのは難しいけど、兎に角それは俺のじゃないからさ」
「良かったれす……」
その言葉に安心してホッとし胸をなで下ろすと、ぽんと頭に大きな手の感触が伝わってきた。
「ごめんね。なんか変な誤解させっちゃったみたいで、雄二の奴にとっとと返しておけばよかったね」
「別に…そんな事無いれすよ。ご主人様の物じゃないならそれれ良いれす」
「そうなの?」
「はいれす。らってこんな本持ってるなんて………」
「え?」
「な、なんれもないれすよ」
つい本音を言ってしまいそうになるが、本に嫉妬してましたなんて情けなくて言えなくて慌てて誤魔化した。
「それなら良いんだけどさ。でも、その…俺は……」
「はい」
だけど、貴明は言葉を濁しながら顔を真っ赤に染め照れ臭そうに頬を掻いていた。
まるでシルファに何か大事な事を伝えようとしてるかのように。
「えっと、ごほん……この際だから言っておくけど俺は、シルファちゃんのメイドしか興味が無いしこれからもずっとシルファちゃんが一番好きだから」
「え…?」
「だから、安心して」
まるでシルファの抱いていた不安を払拭するかのような気遣いの言葉に向けられる笑顔に思わず胸がドキリと高鳴った。
「そ、そんな事聞いてないれすから、一々口に言わなくて良いれすよ」
シルファはまともに視線を合わす事もれきなくて大きな声を上げそっぽを向く事で誤魔化すしか出来なかった。
(全くご主人様は恥ずかしげもなく歯の浮いた台詞をろうろうと言うんれすから…ずるいれすよ)
だけど、そんなシルファの強がりも貴明にはお見通しなのかろこかニヤニヤしていた。
「っ!?……し、シルファはご飯の準備がありまるからもう行くれすよ。無事ならとっとと着替えて降りてくるれすよ」
「うん、分かったよ」
最後まで笑顔の貴明に落ちつかなくて誤魔化すように荒い足取りのまま部屋の扉に向かい出ていく。
勢いよく開けた扉をそのままの勢いで閉めた。
シルファの顔は真っ赤に染まっており、高鳴る胸に手を添えた。

恥ずかしくて全然答える事が出来なかったけど、貴明の言葉は本当に嬉しかった。
自分の事を大切に思っていてくれるその事が一心に伝わり本当に彼の事が好きなんだと痛感していた。
出会った時からそうだった。
だから、たとえ誰であっても負けたくない。
それが本であっても……とりあえず、貴明の部屋に隠されているエロ本は全て処分しようとシルファは心に決めたのだった。

~End~










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