※この話は、雪風と湯煙の告白の(一応)続編の話です(笑)※

一年に一回訪れる、ハルケギニアでの特別な日。
その日は“始祖の日”と呼ばれ、ハルケギニア中で始祖ブリメルを称え各国で祭や特別な催しが行われている日だ。
ここ、トリステイン魔法学院もその影響で休校となっている。
生徒たちは思い思いに出かける者が多く何時もは人が多い学院内も朝早くから人が少なく黙さんとしていた。
その中で、不機嫌な顔をしながら学院の廊下を荒い足取りで歩く一人の女性が居た。

「全く…折角ご主人様のこの私が、たまには犬にご褒美を上げよう思って態々探してあげてるのに……一体何処に行ったのかしら!」
ぶつぶつと文句を垂れる女性、ルイズはここ最近居なくなる自分の使い魔に怒りを爆発させていた。もっとも今の怒りはちょっと別のものが混じっている。
それは…
(もう!本当に何処へ行ったのよ!!今日は始祖の日で、トリスタニアで大きな祭があるから、この私が誘ってあげようと思ったのに肝心な時に居ないんだから!!)
と言う、ただ単に祭に誘えない事に対して苛々してただけなのである。

それから約一時間近く散々校舎を探し、シエスタにも聞いたが行方は分からなかった。
もっともシエスタもサイトを探していた一人らしく、むしろ自分も聞きたいと言われたぐらいだった。
(本当に何処へ行ったのかしら…も、もう良いわよあんな犬!!一人で行くもん!)
そう思いながらも何処か悲しげに表情をする姿はまるで恋する乙女の様な可愛らしい姿だった。
全く相変わらず素直じゃない。
強引に気持ちを切り替えて一人で出かけようと思うが、ふとルイズの脳裏にある噂が過り足が止まる。

“サイトってどうやらあのタバサと密会してるらしいぜ”

まさか、あの子と…?
ルイズも最初その噂を聞いた時は「そんな馬鹿な…」と、半信半疑だった。浮いた話も出ない愛想も愛嬌もないタバサが色恋沙汰になるなんて信じられない。だけど、確かにここ最近タバサの表情が明るくなって妙に可愛く見れる時がある。
それにサイトにしても態度が可笑しい事がある。
朝の起床が妙に早い事や授業中でも黙って他の使い魔の居る中庭に行っている事など今までとは何か変だ。
前まではあんな色物達と一緒は嫌だと言って無理に授業に付いてきてたのに…明らかに今までとは行動が違っていた。
それに決定的なのは、何故かサイトの傍にタバサの姿を確認するのが多い事だ。
気にし過ぎかもしれないけど、数日前のたまには自分の世界の風呂に入りたいと言って帰りが遅くなったあの日から妙に可笑しい気がする。
事実を知りたくてサイトに聞いてものらりくらりとかわされるだけだし…絶対何かあったに決まっている。
ルイズの勘がそう告げていた。
(べ、別にあの犬が誰と一緒に居ても良いじゃない。所詮使い魔なんだから!!でも…何でこんなに気になるのよ……あー苛々する!!!!)
不安が積って憤りが湧きたててきたルイズがふと外を見ると見慣れた存在の巨大な青龍が暇そうに横になっているのが確認できた。
(あれは…シルフィード?タバサも学院内に居ないみたいだしなんで…………はっ!?まさか、やっぱりあの犬!!)
予感が、確信に変わりルイズはシルフィードの居る中庭まで全速力で走った。

そして中庭。
「ぶー、暇なの…お姉さまも、サイトも酷いのね。シルフィだけ置いて、祭に行っちゃうなんて……当分は口も聞いてやらないのねー!」
置いてかれたシルフィードは不貞腐れてぶつくさと文句を言いながら溜息を吐いていた。
いじけたシルフィードが、二人に対してどう仕返しをしようか考えを巡らせていたけど、その考えはかなり幼稚じみていた。
だが。

「はぁはぁ。へぇー…それは良い事を聞いたわね」

「ぴぁ!?」
突然聞こえた声に思わず素っ頓狂な声を発した。恐る恐る声のした方を見るとそこには、荒い息を吐きながら怒りで目を吊り上げる恐ろしい笑顔を浮かべるルイズが立っていたのだった。
後日、この時のルイズの様はさながら地獄の悪鬼の様だったをシルフィードは語る。
「ね、シルフィード」
「は、はい!」
「貴方…サイトが何処へ行ってるか知ってる…わよね」
「それは…」
知ってはいるが二人に一応口止めされている。故にシルフィードは良い辛そうに言葉を濁した。しかし…
「言わないと、虚無を使うわよ………幸い、今日は休日で学院内も余り人が居ないでしょうから、ばれる事もないでしょうし…ね?」
(ひっ、この女本気なのね!?こ、ここここのままだと殺されるのね~~~~!!!)
杖を持ちぺチペチと手に当てて明らかな殺気を放つルイズがとてつもなく怖く、迫力に負けてシルフィードは、何処へ出かけたのかを素直に教えた。
その内容を聞いたルイズの怒りのボルテージが目に見えて上がって顔が更にきつくなった。その眼光があまりに怖くてシルフィードには震える以外どうする事も出来なかった。
「成程ね…シルフィード」
「は、はいなのね!」
「私をトリスタニアに連れて行きなさい!」
冷たい口調で告げるルイズの言葉に機械人形の様にコクコクと頷き従う以外の選択を選びようがなかった。

そしてその頃…学院でそんな事が起きてるとは思いもよらない俺は後ろにシャルロットを乗せて、トリスタニアに向けて馬を駆けていた。
「しっかり捕まってろよ。シャルロット」
「うん…大丈夫」
シャルロットは俺の背中から腕を回し精一杯の力で落ちないように捕まる。背中に感じるシャルロットの温もりと風を切る馬の感触が妙に心地良かった。
「でも、ハルケギニアでもこんな特別な日ってあるんだな」
「うん。始祖の日は、始祖ブリメルが誕生した特別な日だから、国が上げて毎年称えるの。最も虚無の力を異端でいるエルフだけは、例外だけど」
「そうか…でも祭なんて俺ワクワクするよ!」
当たり前だが俺は、戦なんかより祭の方が断然好きだ。
美味しい物と、楽しい行事、行きかう人の波と楽しそうに笑う声。祭独特の、活気の満ちた雰囲気が嫌いな人なんてまず居ないだろう。
「私も楽しみ…何だか“デート”ってドキドキする」
「うっ。そう言えば今日はそうだったな」
そう今日は、以前一緒にお風呂に入った時の約束のデートでもあるのだ。
タバサに言われて再認識した俺は妙に恥ずかしくなり高鳴る胸を抑えながら、トリスタニアにへと向かった。

そして、トリスタニアに着いた俺達は人気のない所に、馬を止めて手ごろな木に手綱を巻きつけた。そして、街道に戻ってくるとそこには色々な露店が開いており、どれも活気が溢れていた。
見える風景は違えどその楽しげな雰囲気や歓声は自分の国の祭を思わせ懐かしさで思わず笑みが浮かぶ。流石に太鼓の音とかは無いけどな。
「サイト、嬉しそう」
「ああ、やっぱりこの雰囲気は良いなって思ってな。行こうぜ」
俺は手をシャルロットに差し出し、手を握って露店が並ぶ街道を進んで行った。

「本当、色々な店が並んでるな」
「うん。この日には地方からも首都に出向いて店を出す所とかもあるから。特にトリステインは、態々国から迎えを起こして連れてくるし」
「そうなのか?」
「うん。どうしても来れない人とかもいるから。そうした方が、民の皆も喜ぶだろうって王女の判断」
確かに、祭と言っても事情や場所によっては来れない人も少なくないだろう。
皆が喜ぶと理由が何ともアンリエッタ姫らしい考えだな。
「それなら、楽しまないと損だな…シャルロットは、何処へ行く?」
「私は…あそこが良い」
シャルロットの刺した先は、良い匂いが漂う串焼き屋だった。
特別に腹は減っていないがこう良い匂いだと嫌でも食欲はそそる。
元気な声で客を呼び込むおっちゃんの声に惹かれるように俺たちは露店に近寄り注文をしようとしたのだが…品物が書いてある札の字が読めない俺はどれがなんの肉かさっぱり分からなかった。
「えっと…」
「どうしたの?」
「いや、字が読めないから何の肉か分からなくて」
「…そうなの?」
あれ?ちょっと意外な顔をされてる。
「ほら、俺って別の世界から来たからな。こっちの字は独特だし、どうも覚えずらくてな」
「そう……だったら、今度私が教えてあげる」
「文字をか?」
俺の問いにコクッと小さく頷く。
少し考えて俺は、串焼きから視線をシャルロットに移して微笑む。
「なら、お願いしようかな。字を覚えた方が色々得になるし」
「うん。任して」
そんな俺達を見ていた店のおっちゃんが、話しけてきた。
「お、兄ちゃん何にするのか決めたか?」
「あ、はい。えっととりあえず、これとこれください」
字が分からない俺は見た目が美味しそうな物を数点適当に注文した。
「あいよ。ちょいと待ってな。それにしても…兄ちゃん随分可愛い子を連れるな。兄ちゃんのこれか」
串焼きを袋に詰めながら小指を立てて表現するおっちゃんの意味が伝わった俺は照れ臭そうに頭を掻きながらも小さく頷いた。
そんな初な反応をする俺におっちゃんは軽快に笑っていた。
だけど、おっちゃんのジェスチャーの意味が分からないシャルロットは不思議な顔をしながら俺の服の袖を引っ張ってきた。
「サイト、今のはどういう意味?」
「えっとだな……ごにょごにょ」
面と向かって教えるのが恥ずかしい俺は、シャルロットの耳に小声で囁いた。そして、先程のジェスチャーの意味が分かったシャルロットも、俺と同じく頬を染めたのだった。
「待たせたな兄ちゃん」
「あ、ありがとう…あれ?ちょっと多い様な」
「おう、それは俺からの二人へのプレゼントだぜ。仲良く食べな!」
ニヒルに笑うおっちゃんに、お礼を言いながら俺たちは露店から離れ道を歩きながら買った串焼きを頬張る。
「お、結構うまいなこれ。なんか鳥肉っぽい味だけど中々…ってどうしたんだシャルロット食わないのか?」
先程から手に持った串焼きを食べずに黙っているシャルロットに、俺は気になって声をかけた。
「うん…その、私達って周りには恋人同士に見えてるのかなって」
そう告げるシャルロットの顔が照れで赤く染め上げていた。
多分さっきのおっちゃんとの会話の事でそう思ったのだろう。
意識し始めると俺の方も妙に照れが湧いてきて誤魔化すように鼻の頭を掻く。
「ま、見えてるんじゃないか…実際そうだし」
「うん…」
俺の言葉に嬉しそうに頷くシャルロットは手の串焼きを静かに頬張った。

そのまま俺たちは、色々な露店を回った。
サンドイッチの店や、揚げパンの店や、フルーツの店って、なんか食い倒れツアーみたいな感じだな。

夕陽も沈みかけて、そろそろ祭も佳境に入ると言う頃。
少し食い過ぎた俺は胃もたれを起こし人気のない一角に来て小休憩をしていた。
「うぷっ…食い過ぎた…」
備え付けのベンチに横たわり休む俺の傍らに座ってシャルロットは心配そうに見ていた。
「大丈夫…サイト?」
「ああ、何とかな。それはそうと、シャルロットは何ともないんだな」
「うん」
俺と同じぐらい食ったのに全然平気かよ。あんな小さな体でどんだけ入るんだって…シャルロットの胃袋は宇宙か?
「それにしてもさ、シャルロットがこんなにも大食いとは思わなかったぜ」
思わず苦笑する俺に、シャルロットは少しだけ気まずそうに視線を外す。
「…そう」
「ん?どうした」
「…サイトは」
「あ?」
「サイトは…こんな子は嫌い?」
何処か戸惑った様な瞳で見つめるシャルロットにむしろ俺は笑って答えた。
「んな事はねーよ。これぐらいで嫌いになるかって。むしろ、好きだぜ」
「好き…」
「それに、前に言ってじゃないか本当の自分を見て欲しいって。俺に素の自分を見せてくれるのは素直に嬉しいぜ」
俺の素直な言葉に、シャルロットは頬を染めて俯く。
木端恥ずかしい台詞を吐いた俺の方も、ちょっと気恥ずかしさで間が持たなくなり勢いよく立ちあがった。そして数歩進み顔だけシャルロットに向けて手を差し出した。
「そろそろ、行こうぜ。祭はまだまだこれからだしな」
「うん…行こう」

それからの俺たちはゆったりと露店を見て歩いた。
今度は店屋物ではなく、他の雑貨物を見て回った。
カップや、置物、色々と置いてあり俺としては初めてみる物もあり、見ているだけでかなり楽しめた。
その中で一番俺が気になったは、宝石店だった。
「へぇー綺麗なもんだな。シャルロットもアクセサリーには興味あるのか?」
「ん。今は別に装飾品は気にしてない」
「なぬ、じゃ何のために来たんだ?」
頭を傾げる俺に、シャルロットは手に持った青色の宝石を持って教えてくれた。
「これは、魔法の媒体用の宝石だからそれを、見に来た。今日は祭で色々と揃ってるから。それにこの宝石は装飾品としては使えない」
「そうなのか?結構綺麗だと思うけどな」
「ううん。所々で傷が出来てたり、くすんだりしてるし」
何?あー、確かに良く見るとくすみがあったり所々傷もある、形もそのまま取った様な歪な感じだしな。
「でも、勿体ないな」
「勿体ない?」
「ああ。シャルロットなら、こういうアクセサリーも結構似合うと思うぞ」
「…そんな事無い」
俺の言葉にちょっと困ったのか複雑な顔をする。
「いやいや、絶対に合うと思うぞ。それに今日の服装だって、マントをしてないだけで着てるのは学生服だろう?もう少しおめかししても良いんじゃないか?」
例えば、フリルのついたワンピースとか。
シャルロットは肌が綺麗だからな、以外に露出の高い物も良いかもしれない。
それでも、やっぱり清純さは外せないな。
お、いかん想像してきたら溜まらなく可愛く思えてきたぜ!
「…サイト?」
「はっ!?」
いつの間にか妄想してにやけていた俺を訝しげな眼で見つめるシャルロットの声に意識を現実に戻した。
「あ、ごめん。ちょっと私服姿のシャルロットを想像したら、思わず…ごめん」
「…そんなに見たいの?」
「そ、そりゃーな。シャルロットの服装は普段学生服姿しか見ないし、たまには違う格好も見てみたいさ」
俺がそう答えるとシャルロットは顎に手を当てて、少し考える仕草をしそして。
「…だったら、着替える」
「なぬ?」
「手伝って」
「お、おい。ちょっと待て、シャルロット!!」
そのまま俺の手を強引に引いて、数キロ先の衣服屋入った。
「私は、普段あまり服なんて買わないから何が良いか分からない。だから貴方が好きなの選んで」
「お、俺がか?」
俺の問いにコクッと小さく頷いた。
おいおい、マジかよ。俺だって女性物の服なんて選んだ事無いぞ。
だけど、そんな俺を期待した目で見つめるシャルロットに断り切れず覚悟を決めて選び始めた。

まずは、オーソドックスなシンプルなワンピースから。

「どう?」
「うん、可愛いぞ」

次は、ドレスなんかも。
「ん」
「うぉ!?人形みたいで、似合ってるぜ!」
い、いかん段々乗り気になってきた!
俺が頼めば嫌がる事無く素直に着替えるシャルロットが可愛すぎて俺は、メイド服や学生服。はたまた体操服や水着を着せて楽しんでいた。ってここ、普通の衣服屋じゃないのか?何でこんなもんがあるんだ?だが、乗りに乗った俺はそんな疑問を感じる事無くまるでシャルロットを着せ替え人形の様に着替えさせ衣服店の半分近くを網羅しようとしていた。
もう俺は止まらないZE!!
「次はこのバニー服を…」

「あ、あんたは何やってんのよ!!」

ゴス!!

しかし、俺の暴走(?)は突然聞こえた怒声と頭に来た衝撃のお陰で止まり俺の意識は一瞬飛んだのだった。
い、今の声は…まさか、ルイ…ぐふっ。


時間も経ち空も暗み始める。
そろそろ祭も終わりを迎え始め、街道には祭のフィナーレを告げるようにパレードが始まっていた。
その綺麗さに誰しも思わず目を奪われていた。
そう、俺たち以外はな。

あれから店を出て、人気のない脇道に移動した俺たち。そして、俺は仁王立ちをするルイズの前に睨まれながら黙って正座をしていた。
「これはどういう事か説明してくれるわよね、サイト」
「えっとだな…これは、その…」
大事になるのを避けて、シャルロットいや、今はルイズが居るからタバサと呼ぼう。タバサとの関係を秘密にしていたのにまさか、このタイミングでバレルてるとは…、学院に流れる噂の存在は言っていたから何時かはと思っていたけど。この様子だとかなりご立腹の様子だ。
顔を上げるとルイズの後ろの脇道の入り口辺りに人間の姿をしたシルフィードが気まずそうにこっちを見ていた。
「そのだな…」
「何?ハッキリ言いなさいよ!」
怖!?そんな風に睨んでたら何も言えませんよ!!
口ごもる俺に、段々苛立ちを積もらせて視線がきつくなってくるルイズに対してタバサは冷静に声をかけた。
「…ヴァリエール」
「何よ、タバサ!私はサイトに話があるの!!」
凄い怒気で睨むルイズにタバサは臆する事無く言葉を続ける。
「…何で、サイトにそこまで拘るの?たかが使い魔に」
そう話すタバサの口調は、デートが邪魔された事への不満か言葉に何処か棘があった。
もっとも、怒り心頭なルイズには全然伝わって無かったが。
「何ですって…?使い魔の行動を知るのはご主人様として当然の事なだけよ!あんたは黙ってなさいよ!!」
その乱暴な言い方に、今度はタバサの米神がヒクついた。つーか切れた。
「……確かにサイトはヴァリエールの使い魔だけど、サイトは人。プライベートの行動まで介入するのはやり過ぎ、八つ当たりなら余所でやって」
明らかな非難な目を向けるタバサにルイズは、更に怒りを露わにした顔してタバサを睨む。
「…それって、遠まわしに私の事を邪魔って言いたいの?」
「そう聞こえたなら否定はしない」
二人の間に目に見えない火花が散り空間には亀裂が入った様な気がした。
これってかなりヤバくない?
「あの二人とも…」
嫌な予感がする俺は何とか仲介しようと割って入ろうとするが、二人の迫力に負けて呆気なく沈黙。
だって二人とも目がコワインダモン。
「タバサ…そう言う貴方だって、勝手に人の使い魔を連れまわすのはやり過ぎじゃないの?」
「そんな事はない。サイトは私の、大切な人。私達の愛引きにいちいちヴァリエールに断りを入れる必要性はない」
「あい…びき?」
その言葉に一瞬呆気にとられるルイズ。
「ち、ちょっと待ってね…あ、あああ愛引きって事は、貴方はサイトと付き合って…るの?」
眉間に手を添えて戸惑いながら聞くルイズに肯定するようにタバサは頷いた。
更に俺の方にも視線を向けてきたので俺も静かに頷いた。
「……」

ちょっと待ってね。
タバサはサイトと付き合ってるのよね。
だから今日、一緒に祭に来ていた。
OK、それは良いわ。
なら、あの噂は本当だったって事じゃない。
恋人同士なら一緒に居るのは当たり前じゃない。
ほら、謎は全て解けたわ。うんうん。
やったね、ひいおじいちゃん♪
…………って、良い訳ないわよ!!!!!!!!

「な、ななななんなのよ、それ!貴族と平民が付き合うなんてあっていいと思ってるの!?」
何かが頭の中で爆発したのか急に大声を上げるルイズに、タバサは様子を崩す事無く淡々と話した。
「それは、関係ない。私が誰と添い遂げようとヴァリエールには関係ないし、これは私の絶対な意志。他人にとやかと言われる筋合いはない」
「な、何ですって!?だだだだだだだからって、貴族と平民なんかが一緒に…」
「…そうやって何時も貴方は良い訳をする」
「え…」
タバサの言葉に呆気に取られ話すのを止めるルイズを見ながらタバサは俺に近寄ってきて屈んだ。
そして、俺の頬に唇を重ねる。
「た、タバサ?」
驚いた俺は名前を呼ぶがタバサは頬をほんのりと赤く染めて微笑んでいた。
突飛な行動に驚きが隠せないルイズは口を陸に上がった魚の様にパクパクと動かしていた。
そんなルイズを改めて見つめ、タバサはハッキリと告げた。
「ヴァリエール…いえ、ルイズ。貴方なら私の気持ちも分かる筈」
「な、何がよ?」
「…言わないと分からない?」
「そ、それは……」
有無を言わさないタバサの雰囲気に思う所があるのか、ルイズは反論できずに口を噤んだ。
その顔は複雑な表情をしながらも頬を染めて俺への視線を逸らしていた。
俺だけは意味が分からず、首を傾げるだけだった。

「貴方がどういうつもりかは私ははっきりとは聞かない。でもこれだけは覚えておいて、誰であってもサイトは渡さない。サイトは私の勇者、大切な人。私は全てを賭けてでも、サイトと一緒に居る」
ハッキリとした意志で告げるタバサにルイズは先程の勢いが完全に無くなり俯いて沈黙してしまった。
「…じゃ、私たちはもう帰るから。こんなつまらない理由で邪魔するなら次は容赦しないから覚えておいて」
タバサは、もう言う事はもうないと俺の手を握ってそのままルイズの脇を抜けて街道に戻る。
いきなりな展開に呆然とする俺には俯くルイズに何も言葉をかける事が出来なかった。
街道に出る際にルイズを連れてきたシルフィードと眼があった。シルフィードは、勝手にルイズを連れてきた事をタバサに怒られると思っていたのか涙目でこちらを見つめきたが、タバサは「ルイズをお願い」と言うだけでその場を離れた。
タバサは俺の手を握ったまま強引に、街道を走るパレードを見つめる列を避けて出口に向かって進んで行く。
そして、俺たちの馬を止めてある所まで来るとタバサは、俺から手を離した。
そのまま、お互い口を開かず黙ったままだ。
遠くからパレードの歓声が聞こえてくる。

「タバサ…その、さっきのどういう意味なんだ?」
さっきの会話が気になり俺は少し戸惑いながらも口を開いた。
さっきの話をを聞く限りルイズも俺の事を…。
「言葉の通り…だったらどうすの?」
「……」
「ヴァリエールはずっと前からサイトの事を………彼女が自分の素直な気持ちを告げて来たら貴方はどうするの?」
「それは……」
タバサの言葉に俺は、返事が出来なかった。
俺の気持ちは既に決まってるけど、ルイズはある意味特別な存在だ。
だから、俺自身ルイズに対しての感情は何なのか説明出来ない。
「…」
黙る俺にタバサは、責めようとも聞こうともしなかった。
ただ、体が微かに震えていた。
振り返ったタバサは少し悲しそうな眼をして俺の瞳を見つめてくる。
俺の胸の中がチクリと痛んだ。
パレードの歓声を遠くから耳にしながら俺たちは暫く見つめ合う。
そして、タバサが徐に口を開いた…
「サイト……これだけ、教えて。私の事は好きなの?」
「ああ、好きだ。俺はタバサ…シャルロットの事を一番大切に思ってる」
この事に関しては俺は、自信を持って言えた。
だけど、結局現実を後回しにしてるだけだ。
俺って卑怯だよな…
落ち込む俺に、タバサは俺の頬を優しく撫でる。
「ありがとう、サイト…今はそれだけ十分だから」
「ごめん、タバサ。何時かちゃんとした答えを出すから」
俺の言葉を信じるように、タバサは頷きただ優しく微笑んでくれた。

数日後……
始祖の日からはルイズは二人に対してなにも無かったの様に接していた。
サイトと居る時も、何時もの様に接しタバサと一緒に居ても特に何も反応をしてこなかった。
シエスタと話をしていても、ちらりと横目で見るだけで何時もの様に怒りのお仕置きをしてこなかった。
その事にシエスタは不思議な顔をしていた。
そしてある日夕食も終わり、夜空の浮かぶ二つの月が美しく輝くそんな時刻。
ルイズは、サイトに内緒で一人で中庭に来るようと呼ばれていた。
タバサは黙って従い今、二人は人気の無い中庭に佇んでいた。
ここに来てから既に一時間近く経っており二人はそれでも口を開かず静かに風のそよぐ音だけが流れていた。
もう暫く経ち、ゆっくりとルイズの口が開く。
「…あれから、私も考えてみたわ」
その言葉にタバサは反応しなかった。
ただ、ルイズを見つめているだけだ。
「タバサに言われて、色々と考えて私の気持ちに向き合ってみた。サイトが私にとって何なのかを……だけど、私はタバサと違って貴族の誇りが先に出てしまうから、自分の気持ちに認められなくて分からなかった。今でも分からない」
「それなら…もう私の邪魔をしないでくれる。迷惑」
タバサの言葉にルイズは首を縦に振らなかった。
「それは出来ない。確かに私には、タバサの様な覚悟も、度胸も無い。全てを捨ててまで手に入れるなんて気持ちにはなれない。でも…」
今度はルイズの方がタバサの顔から視線を逸らさず今の精一杯の気持ちを告げる。
「私にとってサイトは、譲れない人だけははっきり感じてる。今は分からなくても何時かはきっと自分の気持ちが分かるから。それまでは絶対に渡せない」
その言葉に一瞬驚くが直ぐにタバサは元に表情に戻りルイズを責めるように視線を送る。
「そんな中途半端な気持ちで、私に勝てると思ってるの?」
あくまであやふやな意見をするルイズを認めないタバサは更にキツイ視線を送った。しかし、ルイズも自らの長いピンクの髪を手で払いその視線を笑って交わした。
「ふふっ、中途半端じゃないわ。私は侯爵家の三女、欲張りなのよ。絶対サイトを私に振り向かせてみるわ!!」
ルイズもまたあの祭の日のタバサ同様に絶対な自信を持って告げた。
しかし、その言葉には明らかにサイトに対してタバサ同様に特別な感情を持っている事を口にしてるのが本人は気づいてないのだろうか。
全く言って何処まで行っても素直じゃないルイズの性格らしい。
「ヴァリエール…貴方」
「タバサ、名前で呼んでくれて良いのよ。私たちはこれからライバルなんだからね!」
「そう…分かった。ルイズ、私も負けないから」
二人は、誓うように堅く手を握りあう。

どうやら問題はサイトの預かり知らぬ所でとりあえずは完結したようだった。
もっともこの瞬間、明日からサイトの身にまた新たな修羅場を迎える事が決定になったが、それはまぁー主人公の特権と言う事で締めても構わない事だろう。

~終わり~



***後書き***

湯煙の告白の後の話です。
元々あれも短編だけで続編を書くつもりは全く無かったのですが、ちょっと思いついたので書きました。
タバサだけと言うよりは、ルイズとツーワンの話になってます。
原作の展開は余り考えてないのでぶっちゃけ作者の妄想爆走してる話しです。
主にタバサの可愛さだけに、にやけてくれれば良いなっと思ってます。
最後もちょこっとシエスタとかも出そうかと思ったけど、文だけで実質話には全く参加してません。
この次もこの続きを書くかは知らないけど、このままシエスタ、アンリエッタも参加してハーレム状態に行っても良いのかなっと思ったり思わなかったり。
ん?キュルケは出さないかって、ごめん俺あいつあんまり好きじゃないだー。(;´∀`)
ま、あくまで予想だから書くかは不明です。

一つだけ言わせて、タバサってシャルロットって呼ぶよりタバサの名前の方が可愛くて良いなっと思うのは俺だけ?






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