夕陽が照らすヴェストリの広場の一角で、俺は久々に自作風呂に入ろうと準備を進めてみた。
「よし、薪はこれぐらいで良いか。後は水だよな…はぁーこれが一番大変だぜ」
薪と、釜の用意はそれ程難しくないが特に水を用意するのが難儀なのだ。
何しろここハルケギニアにはホースが無い。他にも色々と足りない物はあるが自分の元居た世界であった日用品が無いとゆうのは何かと不便に感じる事が多い。
この前の時も、水汲み場から一体何十往復したんだが…ま、苦労した分風呂は気持ちは良かったけどさ。
「はぁー、俺も魔法使えたらなー…そうしたら、水を出すのも火を出すのも楽なんだけど。よし」
薪も良し、釜の準備も良し後は水を用意するだけだな。そう思うと急に日が当らなくなり俺の周りだけ暗くなった。
後ろを振り返るとそこには青い巨大の龍が俺を珍しそうな目で見ていた。
「きゅいきゅい、サイト何してるの?」
人前で話事を禁止されているからか、囁くような声で話をかけてきた。
タバサに見つかって怒られても知らんぞ。
「シルフィードか。これはお風呂を沸かす準備をしてるんだよ」
「お風呂…お風呂なら学園内にあるのね」
「確かにな。でも、あれは蒸し風呂みたいでどうにも肌に合わないんだよ。日本人はやっぱり熱々な沸かし風呂じゃないとな。それに、結構気持ちいいんだぜ、これ」
胸を張って言う俺にシルフィード不思議そうに首を傾げていた。
「そうなの?んー…シルフィには良く分からないのね」
「……さいですか」
ま、龍にはこの気持ちは分からないよな。
理解されないのにちょっとだけ悲しく感じながらも、俺は水を汲みに行く為に桶を持って立ちあがった。
「何処行くのね、サイト」
「ん?水を汲みに行くんだよ。このままじゃ入れないからな」
未だ空の釜を指さして、そう告げる。
「そんな小さい桶で足りるの?これごと持っていけば一回で済むのね」
シルフィードも釜を指さしてさも当然な風に進めるがそれに対して俺は苦笑を浮かべる事しか出来なかった。
「おいおい、無茶言うなよ。俺は人間だぞ、そんなのに水入れた状態で持って歩けるかっての」
「そうなのね?」
いや、真顔で聞き返さないでください。そんなの持ったら潰れますから。つーか持てませんから。龍の体格と一緒にしてほしくないっす。
未だ苦笑を浮かべるする俺に、シルフィードは少し考えるように唸ってから誇らしげに胸を張り再び声をかけてきた。
「うん…しょうがない。シルフィがサイトの手伝いしてあげるのね」
「は、手伝い?」
戸惑う俺の返事を聞く前にシルフィードは、口で服を摘まみ俺を釜の中に放り込んだ。
「お、おい。シルフィード!」
「しっかり捕まってる。喋ると危ないのね」
そのまま、シルフィードは釜を両手に持ち空高く飛び上がった。
飛び上がる衝撃で俺は釜の中で頭を少し打つ。
釜の中に居る俺には下の風景は見えないが今は相当高い所にいるのは確かだろう。
「痛っ…おい、待てってシルフィード!一体何処へ行く気だ!!」
痛む頭を撫でながら怒鳴り声で聞く俺にシルフィードは全く悪びれずに答えてきた。
「湖なのね~。そこなら一回で入れられるのね。きゅいきゅい」
「いや、だからってな。そうならそうと一言言ってから行動してくれ。いきなり飛ばれるとびっくりするっての」
戸惑う態度をする俺に、シルフィードは不快に感じたと思ったのか悲しそうに瞳を曇らせこっちを見つめてきた。
「もしかして、迷惑だったの?……うー、しょうがないのね。サイトが嫌なら学園に戻る…のね」
うっ…そんな顔で見られるとまるで俺が悪い事をしてるみたいじゃないか。俺が怒ってると勘違いしたシルフィードはそのまま踵を返そうと旋回しようするのを慌てて止めた。
「わーわー戻らんでいい!別に怒ってないって!!正直水を汲みに行くのは億劫だったし、シルフィードが手伝ってくれるなら凄い助かるから!」
「そうなのね?なら、素直に甘えると良いのね♪」
無邪気に嬉しそうな声を上げるシルフィードにやっぱり俺は苦笑するしかなかった。
全く、子供みたいな気まぐれな奴。

そうして、湖に到着した俺たちは水を釜一杯に汲み終え、今度はシルフィードの背中に乗って学園の方に向かっていた。
その途中、ある事を思い出した俺はシルフィードに聞いた。
「そう言えばさ、シルフィード。手伝って貰って今更だけど、タバサに何も言わずに勝手に出てきたけど良かったのか?」
俺がそう聞くとシルフィードはびくっと体を反応し少しだけ拗ねた声で答えた。
「ぶー、べ、別に良いの…お姉さまは何時も、本ばかり読んでいてつまらないのね」
「あー、確かにタバサ。本好きだもんなー」
「そうなの。本を読んでる時に話しかけると凄く怒られるの。でも暇なのは嫌なのね」
「タバサにそう言えば良いんじゃないのか?」
「言ったのね。だけど、『忙しい…』とか『わがまま言わないで』とか言ってはぐらかされるのね。それに、あんまりしつこいとご飯抜かれるのね……きゅいきゅい、それだけは嫌なのね~」
何と言うか、シルフィードも主人には苦労してるんだな。
何だが他人ごとに思えない気がする。
俺は、慰めるようにシルフィードの背中を撫でた。
「ま、なんだ…それならさ、タバサが付き合ってくれない時は俺に会いに来いよ。俺だったら、話し相手ぐらいならしてやれるし暇つぶしぐらいは付き合えるぜ」
「…本当なの?」
「ああ、今日のお礼だ。どうせ、俺も普段は暇だしな」
ルイズに知られると色々と言われそうだが、別に良いっか。こんなにも喜んでるし。
その証拠にシルフィードはさっきまで沈んでいた声とは裏腹に嬉しそうに声を上げて大きく首を振っていた。
「きゅいきゅい♪ありがとうなのね♪」
「おいおい、危ないってシルフィード!!それにそんなに暴れると折角汲んだ水が零れるぞ!!」
俺の抗議に、シルフィードは手荷物の釜の存在を思い出したのか大人しくなった。
「あ、ごめんなの。でもサイトの気持は嬉しかったのね。やっぱり……サイトは優しいのね。シルフィ、サイトの事大好きなのね」
「え…?」
シルフィードの言葉に思わず真っ赤になる俺は言葉を詰った。
「な、何言ってんだよ。シルフィード、そんなに簡単に好きって言うなよ」
「何でなのね?」
「いや何でって言われても困るけど……好きって意味知ってるのか?」
俺がそう聞くとシルフィードは首を傾げていた。
やっぱり、意味分かってないじゃないか。
「?サイトの言ってる意味は分からないけど、お姉さまもサイトの事は大好きなの。だからシルフィも、サイトの事は同じぐらい大好きなのね♪それじゃ駄目なのね?」
「いや、ダメって事はないけどさ・・・あれ?」
ん?……今、シルフィードさりげなくとんでもない事言ってなかったか?タバサが俺の事を好きとかどうとか…マジでか?
「どうしたの、サイト?」
「い、いや。何でもないぞ」
「そうなの?あ、もう着くの。落ちないようにしっかり捕まっておくのね」
「あ、ああ」
まさか…な。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

そして俺達が学園に戻ってくると空はすっかり暗み始めていた。
シルフィードに手伝って貰ったおかげで日が暮れる前には何とか準備を完了する事が出来た。
「よし、後は火を焚いて沸かすだけだ」
今から焚いても時間はかかるだろうし、腹も減ったから先に飯でも食うかな。
「今日は、ありがとうな。シルフィード、助かったよ」
シルフィードに振り返りお礼を言うと、嬉しそうに声を上げて俺に顔を摺り寄せてきた。
シルフィードの頭を優しく撫でてあげると気持ちよさそうに声を上げる。
「きゅいきゅい♪別に良いの、シルフィがしたいからしただけなのね。良かったらまた手伝って上げても良いのね」
「良いのか?」
「シルフィは、構わないのね」
「そっか…じゃ、その時はまた頼むぜ。シルフィード」
そのまま暫く撫でてあげると、急にピクッと反応をしてシルフィードは首を上げた。
「どうしたんだ?」
「お姉さまが呼んでる。シルフィ、もう行くのね」
「ああ、分かった。また機会があったら頼むぜ」
「きゅいきゅい、分かってるのね。サイトもさっきの約束忘れちゃ嫌なのね」
「おう、何時でも会いに来いよ」
「うん。それじゃ、またなのね」
シルフィードは翼を大きく広げそのまま空高く飛び上がりタバサの元へと向かって行った。
さてと…俺も飯を食ってから風呂を沸かすとしますかね。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ヴェストリの広場とは反対側の広場でタバサを見つけたシルフィードは翼を大きく羽ばたかせながら降り立った。
「お待たせたのね、お姉さま」
「…遅い。さっきから呼んでた。何処へ行ってたの」
「きゅいきゅい、ごめんなのね。ちょっとサイトと出かけてたのね」
「……!」
その言葉に微かにタバサはピクッと反応をし体を震わした。
が、直ぐに元に表情に戻る。
「………そう」
「あれ?お姉さま、もしかしてシルフィとサイトが何をしてたか気になってるのね?」
しかし、長年一緒にいるシルフィードにはタバサの変化に気づき聞いてきた。その言葉に先程よりも、大きく動揺をしてタバサは反応をしていた。
「……そんな事は…ない」
顔は何時ものポーカーフェイスで取り繕ってるが図星を突かれたタバサは、視線はキョロキョロとせわしなく動き落ち着きが無くなってるのは一目瞭然だった。
「きゅいきゅい♪照れてるお姉さま可愛いのね~~」
タバサの反応に嬉しそうに声を上げるシルフィードに、段々タバサの顔も険しくなってゆきそして、不機嫌な声色を隠す事無くはっきりとシルフィードに言い放つ。
「…シルフィ。貴方の今日の晩ご飯は抜き」

「な、何でなのね!!」

その言葉に今度はシルフィードが慌てふためく。
そんなシルフィードを、何処か恨みたらしい目を向けながら話す。
「……勝手に居なくなった罰」
(絶対嘘なのね~~~~~!!)
明らかに先程の仕返しなのが分かっていたがシルフィードは、自分のご飯がかかってる為に口にする事も出来ずに大人しく主人に謝る事にした。
シルフィードにとってご飯は死活問題なのだ。
「ご、ごめんなさい。もう言わないのね。だから許して、お姉さま~~!」
巨体な龍が、自分の数倍は小さい小柄な少女に泣きつく異様な光景をさらけ出していた。あまりに必死なシルフィードにタバサは小さくため息を吐く。
「…分かった。今日だけは許してあげる」
「あ、ありがとうなのね。お姉さま…」
ほっと安堵するシルフィードに、少しだけ間をあけてからタバサはもう一度口を開く。
「それで…何処へ行ってたの」
(あ、やっぱり気にしてたのね)
とは思っても今度は茶化さずにシルフィードは素直に答えた。
今度からかったら間違いなく飯抜きになるからだ。
「湖に行ってたのね」
「湖?」
首を傾げるタバサにシルフィードは、顔には出さずに内心可笑しそうに笑いながら言葉を付け加えた。
「何をしてたかは、後からヴェストリ広場へ行ってみれば分かるのね」
「後から?」
「そうなのね。今は行っても多分居ないのね」
「……そう、分かった」
思わせぶりな言葉に少しの間思案する素振りを見せるが特にタバサはそれ以上聞き返さず、その場を離れた。
「お姉さま、ご飯宜しくなのね~~~♪」
シルフィードの声を後ろで聞き流しながら、タバサは自分の行動にちょっとだけ驚いていた。
今までの自分では想像も出来ない反応。
そして、自分の中にある彼への思いに、気持ちに。
(シルフィに嫉妬するなんて…私、どうしたの?)
呆れたように小さくため息を吐くタバサの顔は赤く、口元には笑みが浮かんでいた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ふうー…我ながら良い湯加減だぜ」
あれから数刻程が経ち食事を終えた俺は、お風呂を沸かして焚き上がる薪の音を聞きながら熱くなった湯船に全身を委ねていた。
やっぱ、日本男子はこれだよな。
こっちの風呂も悪くは無いけど、どうも慣れないんだよなー。熱々の湯船に全身を浸かる、気持ちが良いぜ。
月を眺めながら絶妙な湯加減にうっとりしてると、ふと視線の先の暗闇からこちらに近づく足音が徐々に聞こえてきた。
「誰か居るのか?」
「…私」
「あ?なんだ、タバサか」
暗がりでよく見えなかったが近づくにつれて相手の顔が見えてきた。
タバサは夜風に髪を揺らしながら俺の前で止まる。
「何してるの?」
「ああ、お風呂に入ってるんだよ」
「お風呂なら、学園内にもある」
「それりゃーそうだけどな」
さっきもシルフィードも同じ会話したな。
「俺はこっちの、風呂の方が好きだから。俺の故郷の風呂なんだぜ」
「そう」
「ああ」
「…」
「…?」
何故か無言で見つめあう俺達。
何だタバサの奴、今度はじーっと見てるぞ…俺に何か用なのか?それとも俺なんかしたか?
「どうしたんだ、タバサ。何か俺に用があるのか?」
「……」
俺がそう聞くと何処か何時ものタバサらしくなくそわそわとして落ち着きが無いように見える。
何か言いたい様な視線を向けていて心なしか顔も赤い。
もしかして…?
「タバサも入りたいのか」
俺の問いにコクッと小さく頷いた。
そうだ、確かタバサは俺の故郷の事に興味があったんだよな。
「そっか…なら、一緒に入るか。なんてな、俺が出るからタバサが入って………」
「分かった」
って、あれ?またこの展開?
俺が冗談ぽく言ったにも関わらずタバサはコクッと頷いてイソイソと服を脱ぎ始めた。
え?ちょっとマジッすか!!
「た、タバサさん?何をしてるんですか!」
「何って…服を脱いでる」
「それは、見れば分かりますが…何故に?」
「貴方が一緒に入っても良いって言ったから」
うほぉ!?マジかよ、さっきの言葉マジで受けとっちまった。
いや…普通に考えてあれは怒るか突っ込む所だろう。
ルイズ相手ならば確実に魔法が飛んでくる。
シエスタもそうだったけど、何で恥ずかしげもなく入ろうとするのかな……
「あの…タバサ。俺も一応男だからその一緒に入るとなると色々不味いかもしれないだけど。それでも良いのか?」
少しづつ、衣服を脱いでゆくタバサの柔肌が見えてドキドキしながらも俺は一応最後のラインを防ぐために忠告をした。
しかし、タバサは…
「不味いって……何が?」
「あぅ…それは……だな。その……」
くっ。そんな無垢な目で見つめられると、何も言えないじゃないか。
邪な考えを描いている自分が恥ずかしいだろう。
流石にそれ以上は言えず言い淀んでいると、タバサがまるで俺の考えが分かってるかのように頬を赤く染めながらも真っ直ぐに見つめながらはっきりと口にした。
「それに……」
「あ?」
「貴方が何をするにしても……貴方が望むなら私は受け入れるだけ。だから大丈夫」
いや、大丈夫って。そういう問題じゃないだろう。俺は頭を抱えて項垂れた。
あーもー!なんだかどうでも良くなってきた!!!
「準備できた」
「あ、ああ」
声に顔を上げると一糸纏わぬ姿のタバサに、俺の理性は急速に悲鳴を上げていた。
いや、待て。裸……ですと。
「た、タバサ。何で裸?」
「風呂に入るから当たり前」
「そうじゃなくて!タオルぐらい巻いてくれ!!!」
「持ってない」
淡々と答えるタバサに俺はくらっと眩暈を感じた。
あれか、俺の反応が可笑しいのか?それとも、こっちでは男女一緒に入るのは普通なのか?それとも、貴族だから…か?

ちゃぷ…

激しく動揺する俺を尻目に無言で湯船の中に入ってくるタバサ。
至近距離で見えるタバサの裸体に、俺は慌てて後ろを向いた。
後ろにタバサの気配を感じながら俺の心臓ははち切れないばかりに高鳴っていた。
このままじゃ、間が持たない…何か話さないと。
「あのさ…」
「…サイト」
「はい!!」
逆にタバサの方から声をかけられて俺は素っ頓狂な声を上げた。
「こっちを…向いて。じゃないと…ちょっと寂しい」
「た、タバサ…だがな」
「さっきも言ったけど、サイトなら私は何をされても構わない。サイトが望むならなんでもしてあげる」
頬を染めながらそう話すタバサは決して冗談で言ってる雰囲気じゃ無く本心でそう思ってる様に真摯な瞳で俺を見つめていた。
その言葉に俺の理性をまるでハンマーで叩いたかのように粉々に砕いた様な気がした。
俺も覚悟を決めてゆっくり振り返る。
しかし、ああは言ったが実際に視線を合わせるとタバサも恥ずかしかったのか先程よりも頬を赤く染め上げていた。
「……あまり見ないで」
耐えきれなく視線をそっと外し胸元を腕で覆い隠す愛らしい仕草を見せられ、我慢出来るほど俺は紳士でも男食でもなかった。
「タバサ」
少しづつ近づきタバサの顔に触れるとピクッと反応をする。
「抱きしめて良いか」
俺の問いに小さく頷くタバサの頬を優しく撫でてゆっくりと胸の中に抱き締めた。
お湯の温かさとは別の温もりが俺の肌に感じる。
それはとても心地よくて、とても温かかった。
小柄なタバサを包み込むように抱きしめその肩に顔を埋めるとほんのりと女の子特有の甘い香りがした。
「タバサって良い香りだよな」
「そ、そう…自分では良く分からない」
「ああ。凄く落ち着くよ」
「私も…貴方の温もりには安心する」
俺の背中に腕を伸ばし、タバサもギュッと抱きしめてきた。
「タバサ…あのさ、さっきの言葉。そのままの意味で捉えても良いんだよな。俺の事が…」
「うん。構わない…私は、サイトの事を誰よりも大切に思ってる。私は貴方の事が………好き」
「タバサ…」
「サイト…」
高鳴る気持ちを伝えるように俺たちはお互いの名前を呼びあい見つめあう。
そして、緊張に耐えれなくなった俺たちは小さく笑った。
「ぷっ。な、なんだかこういうって照れるな」
「ふふ、私も経験が無いからちょっと恥ずかしい……でも貴方と触れあえる気持ちが通じ合えるのは素直に嬉しい」
「タバサ…俺もだよ」
タバサを腕に抱きながら、頬を撫でると気持ちよさそうに摺り寄せてくる。
まるで、猫みたいなタバサに思わず笑みが零れる。
「サイト」
「何だ、タバサ」
その呼び方に、ちょっと複雑な顔をしてタバサはもう一度口を開いた。
「サイト…二人っきりの時は、シャルロットって呼んで」
シャルロット…確かタバサの本名だよな。仮名ではなく本名で呼んでほしいと言う事か?
「貴方だけには、本当の私を見ていて欲しいから……駄目?」
不安に瞳が揺れるタバサ…いやシャルロットの頬にキスをして俺は笑って答えた。
「駄目じゃないよ。シャルロット」
「あ…」
今まで見た事が無いぐらいシャルロットは嬉しそうな顔をしていた。
「もう一度…呼んで」
「何だシャルロット」
「もう一度…」
「シャルロット」
「もう一回」
「ああ、好きだよ。シャルロット」
「うん……私もサイトの事が大好き」
俺に名前を呼ばれる度に嬉しそうに微笑むシャルロットを見てると、俺の中から愛おしさが溢れて来て止まらない。
「サイト…私の勇者様。これからもずっと一緒……」
「ああ、ずっと一緒だ。シャルロット」
そのまま吸い寄せられるように俺たちは唇を重ねた。
ルイズとの契約の時とは違い俺の高鳴る鼓動は目の前の少女を愛している事を証明しているようだった。そして、これからもずっと彼女の笑顔を俺が守りぬこうと自惚れながらも心に固く誓った。



その後……
暫くして湯船から出て着替えを終えると、妙に恥ずかしくなってしまいまともに見れないでいた。
冷静に考えれば、相当大胆な事をしていたに違いない。
それでも決して居心地が悪い訳ではなく、タバサを意識出来るこの気まずさは今までにない感覚で逆に心地が良かった。
俺達は多少ぎくしゃくしながらも自然の流れで手を繋ぎ決して離さないように強く手を握り合う。
「サイト」
「何だ、シャルロット」
「私は、今までこんな経験ないから何をしたらいいか分からないけど…恋人同士って何をすれば良い?」
「そうだな…手を繋いで歩いたり、一緒のベットに寝たり、デートへ行ったりかな」
「デート…って何?」
聞きなれないシャルロットは言葉に首を傾げた。
「あ、デートって言うのは俺の世界の言葉で…何て言うのかな。好きな人と一緒に出かけたり遊びに行ったりする事を言うんだ」
「そう……ならサイト。今度私と一緒に…」

「あ、サイトとお姉さまなのね。きゅいきゅい♪」

何者かに声をかけられたシャルロットは言葉半ばで止まり、彼女が握る手とは別の腕に柔らかい感触がした。
一瞬残念そうな顔をするシャルロットに不憫に思いつつ、俺達は声のした方を見るとそこには人間の姿をしたシルフィードが腕に抱きついていたのが分かった。
「シルフィードか。どうしたんだ?」
「お姉さまが帰ってくるのが遅かったから見に来たのね。お姉さまばかりサイトと仲良くしてるのは酷いのね。シルフィも仲間に入れてほしいのね」
シルフィードは組んでる腕の力を強めると腕に感じる胸の感触もさらに強まる。
柔らかい感触に思わず口元が緩んでくるのを感じるとシャルロットの掴んでる手の力が段々と強まって行くのを感じた。つーか、痛いですシャルロットさん。
「しゃ、あ。タバサ…ど、どうしたんだ?」
本名で呼ぶ事は二人っきりの時という話だったので、前の呼び方に戻し声をかけた。しかし見上げたタバサの顔は何処か、泣いてる様な怒ってる様なそんな複雑な顔をして俺を見つめてきた。
と言うか睨まれてるのかこれは。
「……サイトは私の物。他の子にそんな顔したら駄目」
「あの……タバサさん?」
「絶対駄目」
断固として言葉を告げながら顔を赤く染める。
タバサには珍しいお怒りモードだ。
俗に言う嫉妬ってやつか?
その証拠にシルフィードと同じようにタバサも腕を組んできて自分の体を必死に押し当ててくる。シルフィードと比べると申し訳ない程度しか無い柔らかさ……それでも、好きな女に尽くされ思われている事を感じ嬉しくない訳が無い。
「分かったよ、タバサ。俺はお前の物だよ」
「うん」
見た事が無いぐらい嬉しそうに微笑むタバサの笑顔に俺の視線は釘ずけだった。
むしろ可愛過ぎてこのまま持ち帰りした気分です。

「きゅいきゅい♪お姉さま、いつの間にかサイトとラブラブなの~。良かったのねー」

いつの間にか互いの世界に入り見つめ合っている俺達に気づいたシルフィードは呑気で嬉しそうな声を上げていたのだった。


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