「全くなんで俺がこんな事までしないといけないんだか・・・」
愚痴りながらも俺は一人でトリステイン王国の首都トリスタニアのを訪れていた。
何で態々こんな所に一人でいるなんて理由は至ってシンプル。
俺のご主人さまのルイズの命令で頼んだものを取りに行く為だ。
なんでこんなパシリ見たいな真似をしなきゃいけないのかと、疑問なのだが今夜の夕食を人質に取られしまっては従うしか手は無かった。
ま、どの道ルイズは学園の補習があり行けなくて、今頃勉学に勤しんでいる事だろう。
それはどうしても今日中に欲しいらしくて俺に取りに行って欲しいと頼んできた。というか行けと言われた。
全く何時も人を犬犬犬と言いってこき使いやがって。
鞭ばかりじゃ無くてたまには飴も欲しいぜ。
ぶつぶつと文句を言っていると俺の背中からカチカチと音を鳴らしながら声が聞こえてきた。
俺の愛剣デリフリンガーが話しかけてきたのだ。

『はは、全く良い使いっぱしりだな。相棒』
「うっせーぞ、デルフ」
『しっかし、律儀に来てる相棒も人は良いよな。やっぱ嬢ちゃんの事が好きだからか』
「はぁ?んな訳ないだろう。ただの義理だよ義理、行かねーと色々と五月蠅いだけだっつーの」
そうだよ、俺がルイズの事を好きなんてありえないっつーの。
あーくそ、でもなんでこんな無性にムカつくんだろうな・・・・・・おっと、ここか。
文句を垂れながらも目的の場所に着き俺は中に入った。

そして数分後・・・・
「なんじゃこりゃ?」
店頭で注文の品を受け取り目的の物を入れた袋に持った俺は難色をしめしていた。
変な色をした液体や、干からびたような物体、個汚い石っころ・・・・分らねー。こんなのがルイズは欲しかったのか?
「な、デルフこれって何か分るか?」
不可思議な物体が入った袋を持ち上げてデルフに聞いてみた。
数千年生きていたのは伊達ではなく、色々と知識が豊富だからな。
『ん?何だ相棒はそれの使い道が分らねーのか?』
「あったり前だろう俺はただの人間だって。で、分るのか」
『それはな魔法薬を作る材料だよ。大よそその材料からして・・・いややっぱ止めとく。そっちの方が面白そうだからな』
「な、何だよデルフ。そう言われると余計気になるぞ」
『ま、追々分るさ・・・っと相棒、前だ!ぶつかるぞ!!』
「え?」

ドン!
「きゃあ!」
デルフとの会話に集中していた為、気づくのが遅れて通行人とぶつかってしまった。
可愛らしい悲鳴を上げ相手は倒れてしまった。
幸い俺の方は大した事も無かったが相手の方はどこか怪我をしてしまったかもしれない。
「す、済みません。よそ見してて怪我とかないですか」
「あ、はい。大丈夫です。私も考え事をしていたので・・・・」
黒い全身フードを被り見るからに怪しい格好の割に可愛い声をする人だな・・・・そう思いながらも俺は手を差し出して倒れている女性の手を掴み起こす。
その時フードが揺れて相手の顔が見えて良く知る人物に思わず俺はびっくりした。
「ひ、姫様!?」
「え?サイト・・・さん?」
「なんで姫様がこんな所に?」
「私はちょっと私用があって・・・・・サイトさんこそどうしたのです?」
「俺はちょっとルイズの頼み物があってですね」
「そ、そうなんですか。お一人でですか?」
「あ、はい。ルイズは用事があって来れないらしくて・・・」
うわ・・・まさか姫様だとは思ってなかった俺は微妙に緊張をしていた。
思えば姫さんと二人っきりなるのってあまりないからな。
どう言葉をかければ良いのか分らず俺は恥ずかしそうに頭を掻く。
すると、姫様の方から恐る恐る話をかけてきた。
「あの・・・・サイトさん。この後時間ありますか?」
「え?時間ですか」
「一緒に行って欲しい所があるのです」
そうだな・・・ルイズにはできる限り早く帰って来いって言われてるけど折角ここまで遠出してこのままあいつの言う通りに直で帰るのは少し癪に障る。
それに姫様と二人きりなんて滅多にない事だし、姫様からの折角の誘いだからな・・・よし。
「ええ、大丈夫ですよ。用事は済みましたし何処へでも付き合いますよ」
俺がそう答えると姫様は嬉しそうに俺の手を掴んできた。
「それなら良かったわ。良かったらこちらまでご一緒しませんか?」
握られた姫様の柔らかい手にドキドキしながら、姫様はフードのポケットから一枚の紙を出してきた。
俺はそれを受け取りじーっと見る。どうやら何かの店のチラシのようだけど・・・字が読めない。
「ごめん。俺、まだ俺この世界の字が読めなくてなんて書いてあるか教えてもらえませんか」
「あ、そうでしたか。すみません気がつかなくて・・・・これはですね、クレーシュって言う物らしいのですが甘くて美味しいと今王宮のメイド達の間でも密かに人気な食べ物なんですよ。私もこちらを見せて頂いた時とっても美味しそうで一度食べてみたいくて・・・・・」
おいおい、なんか姫様の目うっとりしてないか。
「それで一人で来たんですか?」
「え、ええ。ですけど一人で街を歩く事がないので何所が何処だか分らなくて迷ってしまい・・・情けないです」
思わず聞き返すと落ち込んだ様子を見せてきた。
何か普段は凛とした姿しか見てないから分らなかったけ普通の女の子らしい仕草に自然と笑みが浮かんできた。
「分りました。ここに一緒に行きましょうか」
「本当ですか?」
「はい、地図も載ってますし大丈夫ですよ。後は俺に任せてください」


そうして地図を頼りに探す事約10分・・・目的の店が見えてきた。
既にそこには数人の列が出来ておりここまで甘い匂いが香ってくる。
「きっと、あれですよ。姫様」
「あ、本当ですね。甘くて良い香り・・・・・」
甘い匂いにうっとりする姫様。
あらあら、また陶酔してる。
こんな事考えるは失礼だろうけど、姫様も女の子なんだと思う。
「それじゃ、俺が並びますから姫様はあそこのベンチに待っててください」
一人で並ぼうと列に加わろうと足を踏み出すけど、服の袖を握られていて足を止める。
「姫様?」
「それではあまりに私が薄情ではないですか。誘ったのは私ですし私も並びます」
「でも、結構人が多いですよ。時間がかかると思いますけど」
「それでもです。それともサイトさんは私と並ぶのはお嫌ですか?」
うっ・・・そう言われると弱い・・・・
「分りました。なら二人で並びましょうか」
「はい」

そうして並んでる列に加わり待つ事約30分。
結構な時間待たされたが、姫様との初めての二人っきりの会話に花が咲き気にする事は無かった。
俺達は念願のクレーシュと言うものを、手に入れて近くに備え付けてあったベンチに並んで座った。
甘い香りと、この独特の黄色の三角の生地は・・・・まるで俺の世界のクレープみたいな作りな代物で少し懐かしく感じた。
「かぶ・・・・」
ふん、微妙に味が違うけどやっぱりクレープだよな。
中にクリームじゃなくて果汁が入ってるから甘味が足りないと思ったけど全然うまい。
確かに女の子なら好きそうな代物だ。
クレーシュを頬張りながら俺はちらりと視線を隣に動かし姫様の方を見ると美味しそうにクレーシュを食べていた。
「はむ・・・美味しいです」
やっぱり姫様って・・・・可愛いよな。
お淑やかで慎ましくて優しい。
それに胸も大きいし・・・・ルイズとは大違いだよ。
「はむ・・・・?どうしたんですかサイトさん私の顔をじっと見て」
「へっ?あ、いや、すいません。何か甘いもの食べてる姫様が何か・・・・・可愛くてつい見惚れました」
俺の言葉にお姫様は一気に顔が真っ赤になり恥ずかしそうに横を向いてしまった。
「え・・・・・そ、そんな、可愛いなんてお世辞言わないでください」
「い、いえ。本当可愛いですよ、お姫様は冗談抜きで。俺も貴族だったら絶対姫様にアプローチしますよ、なんてははは」
半分俺は照れ隠しに冗談気味に言った筈だった。
だから、姫様も笑って済ます物かと思っていたけど俺の予想に反して姫様は裾をそっと摘みながら潤んだ瞳で俺の顔を見つめてきた。
「それは本当・・・ですか?」
潤んだ瞳に奥に何所か期待した意志を感じる。
うっ・・・やべぇすっげー可愛い。この反応は予想外だ。
じ、冗談のつもりだったんだけどな、姫様本気にしちまったのかな。参ったな・・・・
でも、この様子姫様は満更じゃないのか?それって俺の事を、まさかな・・・・・
「サイトさん」
「は、はい!?」
色々な考えが巡り緊張していた俺は声をかけられただけで大げさなぐらい反応をする。
姫様はそんな俺の反応も気にしてない様子で何所か緊張した面持ちで聞いてきた。
「サイトさんは・・・今、好きな方はいらっしゃるのですか?」
「へ、俺ですか?・・・別にいないですけど」
「そうですか・・・・・私はてっきりルイズの事を思ってるんじゃないかって思ってたんですけど」
え、え?俺がルイズをありえない。それはありえませんって。
でもなんでそんな事聞くんだ姫様は。まさか本当に俺の事を・・・・・・
そう心の中で思案している内に、姫様の体は徐々に俺の方に近寄ってきて手を重ねてきた。
「それなら私もチャンスがありますよね。サイトさん・・・・私は・・・・・・・ずっと前から貴方の事を・・・・・・・・・・・」
「姫様・・・・」
ゆっくりと姫様の顔が近づく。
まるで子守唄のような心地よい姫様の言葉に魅了される俺は、逃げる事も止める事も出来ずに固まっていた。
そして、段々と近づく姫様の唇に俺も無意識に目を閉じる。
周りの喧騒も、先ほどの迷いも消えていきそして・・・・
ちゅっ
柔らかい感触が唇に伝わり、俺達は暫くそのままでいた。
それが数秒なのか数分なのか分らないぐらい長いようで短い感覚だった。
そしてどちらともなくゆっくり離れた。
俺達は恥ずかしくて互いの顔が見れないでいた。
きっと二人とも真っ赤かだろう。
俺、姫様とキスしたんだよな・・・・
「サイトさん・・・」
「は、はい」
「こんな事をした私をはしたない女だなんて思わないでくださいね・・・・私も、サイトさんを思う気持ちは誰にも負けないつもりなんです」
「姫様。そんな事思いませんよ。でも・・・本当に俺なんかが良いんですか。姫様ならもっといい人が沢山居ると思いますよ」
「いいえ、サイトさんは十分素敵な男性ですよ。何物にも捉われず自分の信じた道に進むそして優しく皆を包む。そんな勇敢で優しいサイトさんの事を私はお慕いしております…サイトさんは私の事はお嫌いですか?」
「そんな事はないよ。姫様の事は、俺も好きですよ」
俺は姫様の思いに答えるようにギュッとその華奢な体を腕の中に抱きしめる。
クレーシュよりも甘く優しい香りが俺の鼻腔に香ってきた。
「ありがとう姫様。俺、すっごい嬉しい」
「それじゃ・・・・」
「そのまた姫様に会いにここに来ても良いですか?」
俺の言葉に嬉しそうに瞳に涙を漏らす。
「はい、待ってますから。ずっとずっと待ってますから何時でも会いに来てくださいね」
「ええ、必ず。今度は姫様に会いに伺います」

そうしてずいぶん時間が経ってから俺は、トリステイン魔法学院に戻ってきていた。
結構遅くなったけど絶対ルイズの奴怒ってるだろうな・・・・・
何時もなら気が重くなる所だが今日の俺はそんなものすら気にならないぐらい浮かれていた。
まさか姫様が俺の事を好きだったなんて・・・・・ありえないけど、嬉し過ぎるって!
『ずいぶん嬉しそうだな相棒』
「それりゃーそうだろ。姫様と親密な関係になれたんだからな、これを喜ばずにどうするんだ」
そう思うとまた顔が自然に緩んでしまう。
俺は今、幸せのまっただ中に居るぜ!
これからは毎日姫様に会いに・・・・・そう思うとやっとルイズにこき使われるのや犬扱いも何でもなくなるってもんだ。
『現金な奴だな・・・』
惚気ている俺に呆れ気味なデルフの声が聞こたけどそれも気にしない。
ルイズの部屋に戻ると・・・・

「この犬!!一体いつまでかかってるのよ!!!!」

「ぐふっ!?」

やはり俺の帰りの遅さに豪を煮やしたルイズの怒りに任せた靴が投げ込まれ顔面に深く食い込みくぐもった声を上げた。
そう、こんなのあってももう気にしないぜ・・・・・・ガクッ。


「全くお使いもまともに出来ないなんて・・・・・・って何よ。にやけたまま気絶してるじゃない。気持ち悪いわね・・・・ねぇ、馬鹿剣何があったのよ」
『ん?まぁ色々だな。それはそうとその薬品聞くと良いな』
「っ!?な、何での事よ!!」
自分の胸を恥ずかしそうに押さえながら、顔を真っ赤にしてルイズはデルフを睨んだのだった。

~End~












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